ある季節の終り -3- | |
8月15日、大人達が泣いても私は悲しくなかった。その日の私の気持ちがどういうものであったかについて何一つ覚えていない。「本土決戦はどうなったのだろう?」と何処かで思っていたのかもしれない。とても良く覚えていることは、しばらくして、アメリカ軍が占領してきたら女子は山へ逃げたら良い、とか髪を切って男の扮装をすべきだ、とか叔母と母が聴いてきた噂話をしていたこと、私は横でぼんやりそんな話を聴いていたことである。学校が始まると教科書を墨で塗り潰すことが始まった。「勝つまで皆頑張ろう」と言っていた同じ先生が、戦に負けても同じ教壇にいて全く別なことを話し始めた。私は特別違和感を持ったとは思われない。何も感じていなかった。 後年二十代の私は、「熱烈軍国少女であった私は、それから何か目的を無くしてしまったような気がする、、、あの戦時中のように、一生懸命になったことはその後2度とないのよね、、、」 「たかが十歳の子供にそういう感慨はあり得ないよ。大人になってそう思い込んだってことだろう?死ぬつもりだった、特攻隊員は別だと思うけどさ、、、」。私と同級生の男の子はそんな風なことを言った。 小学校6年の時、私は女子組にいて男の子達のクラスでの活動は知らない。でも横目で見ていた男子生徒の大半は幼くて、体位も女子より劣っていたし、とても子供っぽく見えたものだ。中学になって男女共学になり、クラスの半分は男子だった。「男の子って子供ぽい」、それが私の第一印象だった。(君はさ、敗戦の時何も解からない子供だった、精神年齢の低いね、、、私は違う、早熟な軍国少女だった、あのもの憂い、いくばくかの喪失の季節が君なんかに解かるはずもない)と、私はひそかに思ったが黙っていた。ー次頁へつづくー |
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