よみかた 四

    
  一 金の牛

    

 これは 満州の 話 です。
 海の 中に、小さな 島が ありました。その 島に、
一匹の 金の 牛が いました。
 おなかが すいたので 草を たべようと 思って、
あちら こちら 歩きましたが、この 島には、一本の
草も 生えて いません でした。
金の 牛は 小高い 岩の 上に あがって、四方を
見わたしました。海の 向かふに、もう 一つ 島が 
見えました。その 島には、みどりの 草が 一めんに 
生えて いました。
「なんと おいしさうな 草 だらう。一口 たべたい
 なあ。」
と、金の 牛は、ひとりごとを いひました。すると、
ふしぎに 今まで すいて いた おなかが、急に 
いっぱいに なりました。


    
  次の 日も、金の 牛は 岩の上に あがって、みど
りの 島を 眺めました。やはり、おなかが いっぱいに
なって、よい 気持ちに なりました。
 かうして、金の 牛は、おなかが すくと、みどりの
島を 眺めては、おなかを いっぱいに しました。
おかげで、金の 牛は、おなかが すいて 困ると いふ
ことは ありません でした。
 ところで、ある日の こと、金の 牛は、ふと こんな
ことを考へました。
「ここから 見るだけでも、おなかが、いっぱいに なる
 の だから、あの 島の 草を ほんたうに たべた
 ら、どんなに おいしい だらう。」
金の 牛は、もう、じっとして いられなく なりまし
た。
 いきなり 海を めがけて、どぶんと とびこみました。
 金の 牛は、自分の からだが 金で あった ことを、
すっかり 忘れて いたの です。そのまま 海に沈んで
しまひました。


これは私にはとても悲しいお話に思えた。いつも好んで「金の牛」を読んだ。読み終わると涙がいっぱい溜まっていた。何度も読んでいたのでほぼ覚えていたが、冒頭の
「これは、満州の話です。」の一行は全く記憶にない。絶壁の丘に立って牛が一頭、まっすぐ海原の彼方を見つめている挿絵があったような気がする。