よみかた 四



    一 富士山

 どこから 見ても、いつ 見ても、
 富士の お山は 美しい。

 白い あふぎを さかさまに、
 かけた 下から 雲が わき、
 
 すそ 引く はての 松原に、
 太平洋の 波が 立つ。

 やさしいやうで ををしくて、
 たふとい お山、神の 山。

 日本一の この 山を、
 みやこの 人が あふぎ 見る。 



長崎市内から田舎に疎開していた私達の家に、地元の子、M子ちゃんがよく遊びに来てくれた。田舎での生活や地域の情報について詳しいので、二人の叔母達も何かと助けられていたようである。ある日、学校ごっこをして遊んだ。学校ごっこは子供達のありふれた遊びだった。いつも国語の教科書で遊んだ。従妹は低学年、M子ちゃんは6年生、私は5年生だった。

その日はこの「富士山」を選んだ。先生役の私が最後の2行に触れ、「『みやこの人があおぎ見る』って書いてありますが、みやこってどこのことですか?わかる人、手を上げて」というと M子ちゃんが勢いよく手をあげた。指名すると「ハイ。長崎の人です。」とはっきり答えた。
隣の部屋にいた叔母に聞こえたらしく笑い声が漏れた。そういえばこの辺りの人たちは私達長崎の人間を「都の人」と呼んでいた。初めて聞いたときはびっくりして可笑しかったが、いつのまにかそういう呼ばれ方に慣れてしまっていた。

次に小さな従妹が「ハイ!ハイ!ハイ!」と手を上げた。彼女を指すと「京都のことです。」と答えた。彼女は前年私達の京都の家にしばらく遊びに来たことがある。「はい、そ〜で〜す。」と言ってふと「あれ?」と思った。京都から富士山は見えないから、この「みやこ」は東京のことなんだと思ったのである。