絹糸の草履 3
要約  少女小説  絹糸の草履  北川千代著



少女達に慕われていた美しい女の先生が、結婚のため学校を辞めるに当って、少女達に自分の持っているもので何か欲しいものがあったらお別れの記念にあげましょうと約束をする。少女達が望んだものは、先生がいつも肌身離さず大切にしている小さな絹糸の草履であった。困った先生は、これはどんな事があっても手放せないこと、そしてその訳として小さな草履に纏わる物語を話すのであった。


街道で馬車屋をしていた庄作は、流行り始めた自動車に客をとられて商売がはかばかしくないところへ、孝行娘のお文が肋膜炎で病床に臥す身となる。薬代もなく思い悩む庄作は或る日、金持ちの男を乗せ、馬車の椅子の後ろに落ちていた大金の入った財布を出来心で自分のものとしてしまうのだった。老人の眠っているのを見計らって盗んだという罪状の許、刑務所に送られた庄作は、独り病床に伏せ、罪人の娘と嘲られているであろう娘を思うと堪らなくなって何度も脱獄を試みるがその度に罪は重くなっていった。囚人仲間から「そんなに外へ出たかったら糸くずでまじないの小さな草履を作るといい」と言われる。それからは看守の目を盗み、娘に会う日を思い描きながら小さな草履つくりに没頭する。数年後、出所した庄作を待っていたのはお文の死であった。その悲嘆ぶりを見かねた刑務所の所長は彼を自分の家に引き取る。そこにはお文によく似た面影の女学生が居た。彼女は所長の姪で孤児であった。二人は父と娘のように心が通いあった。彼女が東京の女学校に入学する時、停車場に見送りに来た庄作は、お文の話と共に大切にしていた「絹糸の草履」を彼女に手渡した。そして間もなく、それが唯一の庄作の形見となった。