第二章




「目を閉じてごらん。闇の中に一本のロウソクを想像して、その火をじっと見つめて。」
占い師に言われた僕は想像した。勉強がだめでも運動がだめでも、人間1つはとりえがあるもので、僕は想像だろう。
だからそんなのお安い御用だった。でも、、、
「ロウソクの火の中に何が見える?ぼんやりとでもいいし、見えなくてもいいよ。」
赤い火の中、
「何も見えません。ぼんやりとも。」
僕は少し悲しい気分でいた。想像なんだから何か見える気でいたし、想像した火の中に想像する、なんてとても簡単なように 聞こえたのに・・・。
「いいよ、大丈夫。そんな哀しそうな顔しないで。たいていの人は見えないから。」
「・・・僕は”たいていの人”になりたくない。僕は唯一の僕なんだ。」
「そうだよね、ごめん。じゃぁ、たいていの人は見えなくても、もし君に見えたなら何が見えたと思う?」
「・・・。」
「どうしたの?」
「分からない。何も浮かばないんだ。想像したいものも見たいものも、全然。まったく。」
「どうしてだろうね?君は嫌な想像とかがあたった事があったのかい?」
「ねぇ、あなたは本当に占い師?」
「え・・・えぇ、そうよ。」
「ならいいんだけど。嫌な想像があたった事ない事もないよ。」
「つまりはあるんだね?」
「うん、でも思い出したくないからない事にしてる。それで・・・僕の占いは?この道に行って吉と出てる?凶と出てる?」
「君には言いにくい事だけど。両方出てる。」
「両方か、やっぱり占いなんてインチキなもんだよね。」
「インチキじゃない。でもそう思うなら始めから自分の力でがんばって。」
「なんか親みたい。さようなら。」
「・・・さようなら。」

静かな空気が流れた後、また静かに占い師が口をあけた。
「お母さん。これでよかったのでしょうか?」
「はい、ありがとうございました。あの子が何考えているか時々わからないんです。今日も何かは分からないけど、 悪い想像を無かった事にしてるって、1つわかっただけでもよかったです。こんな事を精神科の先生に相談してる私がちょっと鬱ですよね。 ハハッ情けない。」
僕は何をかんがえているかわからないようなひねくれた奴じゃない。自分で言うのもなんだけど、世間一般には良い子のほうだと思う。 母さんだって鬱じゃないよ。僕を叱るし、ご飯だってちゃんと作ってくれるし、近所付き合いも悪い方じゃないと思う。 自分で自分は軽い鬱なんだって思い込んでるんだよ。その方が楽だから。最近何も面白いことが無くて、親とあまり口をきいてかなったら、l このありさまだ。この子はおかしい、なんて。一体、僕の何を見てるんだろう。




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《つづく》