24.2DM硬貨

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 プーリーンの駅に戻ると、私は郵便局の側の電話ボックスに向かった。次の街ミュンヘンのユースホステルに、ベッドが空いているかどうかを問い合わせるためである。
 しかしその公衆電話ではコインが使えない。どうやら隣も同じタイプのようだった。ガイドブックには、郵便局でテレホンカードが買える、とあったので、今後のことも考えて買っておくことにした。
 郵便局の受付にいたのは、気のよさそうなオバサンだったが、英語が通じない。そこでドイツ語で言ってみると、今度はうまくいった。12DMのカードを購入。数字に関しては英語よりもドイツ語の方が聞きとりやすい――15と50のような数字の差は、英語よりもはっきりしている。
 改めてミュンヘンに電話を入れてみると、あっさりとベッドが確保できた。

 プーリーンからはIRに乗り込み、ミュンヘンを目指す。面倒なコンパートメントは避け、日本の特急と同じ座席をしている、一番後ろの車両に乗り込む。この車両は後ろ半分が自転車専用になっていて、自転車置き場のような設備と、その隣に椅子が備え付けられている。自転車乗りには大変便利なこの設備、日本の車両にもあれば、と思ってしまう。
 ミュンヘンに着くまでの間、私は外の景色を眺めたり、『海外ぶっこ』のためのメモをとったりして過ごしていたのだが、その車両に大変背の高い人が入ってきた。私が驚いたのは、その人の格好である。
 おかっぱのような髪型で、肌はずいぶんと白く、念入りに整えているようだった。モデルのような化粧をし、フェイクファーのコートを羽織り、ズボンは目が痛くなりそうな蛍光ピンク。背の高さを意識した、女性モデルを意識したファッションだった。しかし――その人は日本人の目から見て、紛れもなく、ドイツ人男性なのである!!
 もしドイツ人の男性が見たなら、かなりキレイ目のゲイに見えただろう。しかし私には残念ながら彼が男性だということははっきりとわかる。彼と比べると、テレビで見かける日本のニューハーフがどれだけきれいでかわいいか、と思ってしまうほどである。同性愛や女装趣味にどうこう言うつもりはないが、正直言ってかなりのインパクトがあった……。

 ミュンヘンのユースホステルの周辺では、毎度のことだが道に迷う。今回手に入ったシティマップが見づらく、住所だけでユースを見つけようとしたせいである。ここでも現地の人2人の手をわずらわせ、ようやく見つけだした。
 ユースの受付にいたのは、若いお兄さん――18歳前後と言うところか。チェックインを済ませ、代金を払おうとした。しかしなるべくお釣りは出したくない、とお兄さんがいうので、財布の中の小銭をじゃらっと出し、お兄さんに手伝ってもらってひっかき集めた。2DMという単位が混乱の元を生む。
 教えられた部屋に入ると、2人の現地の若者がドイツ語で話をしていた。こんにちは、と言うと快く返事をしてくれた。空いているベッドを尋ね、そのあと部屋の奥の椅子に腰掛けて休んでいたら、一人が話しかけてきた。よく聞いてみると、ドイツ語である…。しばらくどうしようか、とまごついていると、
「英語話せます?」
と言ういつもの言葉が。はい、と答えると相手もほっとした様子だった。それからしばらく、お互いの身の上について話をした。日本語のガイドブックを机の上に置いて少し部屋を離れたら、戻ってきた時にはなんだか面白そうに手に取っていたので、読める?と尋ねると、いいや、と返ってきた。日本語の文字の羅列は、西洋の人にとってはきっと面白いんだろう。
 ユースホステルの設備は、さらにレベルダウンした。部屋は多少広くなった物の、カギつきのロッカーというものがなく、クローゼットも全員用のが一つあるだけである。ロッカーは彼らに占領されていたが、使おうとしたら、翌朝出ることになるのですぐに片づけてくれる、と申し出てくれた。私も翌朝出るクチなのだが、いちいち言うのが大変なので彼らの好意にすがってしまった。

 この日の晩飯は下の食堂で安く済ませることにした。例のお兄さんに
「ここで食事取れますか?」と尋ねると、
「食事、要るんですか?」と聞かれたので、はい、と答えた。
 さて、私はすでに50DM高額紙幣しか持っていない状況である。ここで8DMを払うことになったのだが、それを知っているお兄さんは頭を抱えていた。そこでチェックインしようとしていた人に話していたが、その人たちにもお釣りはない、と言う。
 そこで意を決したお兄さん、ついに巨大な2DM硬貨の束を取り出し、じゃらじゃらとお釣りを出し始めた。「恨まないで下さいよ。」と言われつつ、私は大量の2DM硬貨を手に入れたのだった。
 この2DMという硬貨、私にとっては貴重なコインロッカー要員である。ウィーンでも硬貨がないがために銀行の窓口に行ったほどで、これが苦労せずに手に入ったのは大変うれしかった。そこで素直に
「2DMは必要なんですよ〜。」と言うと、
「そうでしょうね。コインロッカー、電話、他いろいろ……」
と肩をすくめられてしまった。皮肉だと思われてしまったのだろうか?
 食事はそれほど豪華ではなかったが、おいしかった。魚のフライを1枚にするか2枚にするか、と尋ねられ、2枚にしたのはちょっと失敗だった――1枚の量がすごくて、なんとか頑張って食べきったのである。
 部屋に戻ると、例の2人組はいない。しばらく部屋でじっとしていたら、2人が帰ってきた。これから食事に出る、という2人に、もう下で食べてきてしまった、と伝えたら残念そうな顔をしていた。もしかすると食事に誘おうとしてくれていたんだろうか?だとすると大変気のいい少年たちである。もしかするとおいしい現地の食事が食べられたかも知れないのに。大変もったいないことをした。

(01/4/10)
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