19.車窓から

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 オーストリアの建国記念日の朝――といっても街に出るまで休日だとは気がつかなかった。
 朝食はパンにハム、数種類のジャムとよくわからないコンビーフのようなもの。いつもの丸いパンがいけるので、バターたっぷりでいただく。見た目白っぽくてなんだか限りなく怪しいコンビーフだったが、これが意外といけた。
 さて、こちらのドアは、左奥に開くドアは、カギを左回しにすると開くらしい。それに気づかずがちゃがちゃやっていたら、中の相部屋の人がもう起き出していて、カギをあけてくれた。「暗いとよくわからないからね」とフォローしてくれたが、外は既に十分明るかったりする……本当にすまん、相部屋の人。

 荷物をまとめてチェックアウトを済ませた私は、ザルツブルク行きのインターシティに乗るべく、グラーツ中央駅へと向かった。本当は「カール・ベーム号」といういたくかっこいい名前の列車に乗ろうと思ったのだが、時間の関係で果たせなかった。
 さて、前日ユースで書いた親と友人への手紙を出そうと思ったら、郵便局は暗いまま。他にも何人か人が来ていて、まだ開いてないだけか、と思ったら、どうやら祝日ということで休みらしい。日本への手紙の出し方もガイドブックに書いてあったが、よくわからない。郵便局でやってもらったほうがよさそうである。

 10時23分、グラーツを出発。うまいこと人のいないコンパートメントを確保、窓側に座ってぼーっと外を眺める。ザルツブルク到着は午後2時53分。4時間半の長い旅路である。といっても、もともとこの日は山がちなオーストリアをほぼ縦断する、この4時間半の車窓を楽しむ計画である。
 列車が街を離れると、ひたすら牧草地が広がる。といってもえんえんとだだっ広くはなく、森や山があって、日本の車窓風景――特に長野や山梨に似ているような気がする。水量のある川も流れているし、海がないことを除けば、日本とオーストリアはよく似た国かもしれない。
 牧草地は、本当に線路のきわまで迫っていて、当然のことながら柵はしてある。その柵のところで、線路にはみ出て生えているような牧草を、牛がおいしそうに食べていた。ヘタすると列車が鼻先をひいてしまいそうなのに、全く度胸が据わっている。広い牧草地の別の所に草はたくさん生えているのに――動物はそういう変な場所のエサを食べたがるようだ。うちの猫も浴室の床にたまった水を、喜んで飲んでいたりする。
 猫といえば、うちにいるデブ猫のような動物が、牧草地を猛スピードで駆け抜けていくのが見えた。あの大きさからするとかなり巨大な猫なのだが、はたして本当に猫だったんだろうか??

 さて、オーストリア国鉄の車両は、日本のように新型車両が至る所に配置されている、というわけではなく、かなり年季の入った客車も、機関車に引っ張られて線路を駆け抜ける。日本と違って客車にモーターを積んでいないし、騒音問題もさほどナーバスになる必要がないから、古い車体でも現役で使えるのかも知れない。こうして物を大切に使う姿勢は評価すべきだが、どこからともなくすきま風が入り込んでくるのはどうにかして欲しかった。寒くてしかたない。
 トイレに立った時、壁にはってある注意書きを読んでみたら、
「駅に停車中はトイレを使わないで下さい」
と書いてある。なんでそんなことを、と思って、水を流すためのペダルを踏んだら、トイレの底がパカッと開いて線路が見えた。この形式、最後に見たのは何年前だろう――幼稚園の頃に一度見たか見ないか、ぐらいである。あるいは人づてに聞いただけで実際は見ていないかも知れない。とにかく大変旧式のトイレだ。確かに駅で用を足されたらたまったものではないだろう。

 こちらの鉄道は日本のように、立体交差とポイントを駆使して、駅に侵入した列車が進行方向を変えることなくどの方向にも進める、という風には出来ていないようだった。分岐点のブルック/ムーアの駅でも、一旦ウィーン方面(東方面)に向かって駅に入り、出発するときは進行方向が変わって西に向かって出ていくのだ。
 こんなようなことがあちこちであるので、しょっちゅう進行方向が変わる。日本でのスイッチバックというと、よほど路線設定にムリをした臨時列車か、急な坂を上りきるためや、坂の途中に駅を作るためにあるぐらいのもので、少なくともインターシティレベルの特急列車がスイッチバックするのはあまりないだろう。
 駅のホームは概して日本のものより低く出来ている代わり、列車にはステップがついていてそこから乗り込むようになっている。だいたいの駅ではしっかりしたホームがあって、日本と大して変わりがなかった。
 Leisenという小さな駅で、何本か線路が走っている一番はじっこにしっかりしたホームがあるのに、何故か列車は何にもなさそうな所に停まった。もしや、と思って見てみると、線路と線路の間に申し訳程度に作られたアスファルトが!あの『世界の車窓から』で出てくるような眺めである。ヨーロッパの列車に乗っていることが、改めて強く感じられた。

 かくして、長いと思っていた4時間半は、あっという間に過ぎた。

(01/1/30)
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