18.オーストリアの若者

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 ひととおり市街を見て回った私は、一旦ユースホステルに戻ることにした。しかし肝心の出口がわからず、また1ブロックをぐるりと回るはめになった。ようやくたどり着いたホステルでは、予約をしてあると言うとあっさり通じた。無事部屋に入り荷物を置いて一息つくと、前にかったプディングなるものを食べてみることにした。
 しかし……なんて甘い。甘党の私でもこの甘さには耐えられない。親の敵を討つどころの話ではないぐらいに甘い。それに一緒に入っている雑穀のようなツブツブは一体何なんだ?こいつのおかげで舌にもたつく。しかもプディングの下に敷いてあるソースの味もよくわからん!5分の1も食べないうちに気持ち悪くなって、捨ててしまった。なんか味覚が違いすぎる……。

 気を取り直して、私はグラーツ最後の目的地、「エッゲンベルク城」へと向かうことにした。
 この日、西日はすさまじく暑かった。こちらの小春日和、というやつなんだろうが、今までが東京と比べて寒かっただけに驚く。Tシャツに長袖シャツでも十分なくらいだった。道ばたで洗車している現地の人など、シャツ1枚になっていたほどである。
 再度駅前まで出た私は、目的の市電を見つけ、乗り込んだ。行き先に「エッゲンベルク」と書いてあるから最後まで行けばいいだろう、と思って、そのまま終点まで行ってしまった。
 しかし、周りを見てもそのような建物はない。たのみのガイドブックもパンフレットも、エッゲンベルク城周辺の地図は載せていない。一体どうしたんだろう、と記事をよく読んでみると、最寄りの市電の駅は「Schloss Eggenberg」――まさにそのまんま「エッゲンベルク城」という駅があったのだ。よく見てみると確かに、グラーツ中央駅からここまでのちょうど真ん中当たりに、そのような駅名がある。これには脱力してしまった。
 折り返しの市電に乗ってたどり着いた「エッゲンベルク城」からは、すぐに城に着いた。庭園に入るのに2シリング必要なので、それを払う。
 しかしこの時、城の閉館時間は15分前と迫っていた。受付の人に言ってみても、もう遅い、との返事。やむなく引き返した。もし、最初からわかっていれば、たっぷり30分は前にたどり着いていたのだ。全く、もっとしっかりガイドブックを読んでいれば良かったのに――ウィーンではもうちょっと落ち着いて見て回っていたはずだ。移動コースまで前日にしっかりチェックしていたのだ。旅の疲れが出たのだろうか。もうくたくたである。
 せめてもの救いだったのは、時間的にちょうどいい頃合いで、夕日が庭園と城をオレンジ色に染めていたこと。飼われているクジャクが、人を恐れぬ様子でのほほんと歩いている庭園を、閉館時間までゆっくり見て回れたのはよかった。
 グラーツの観光は今ひとつに終わったが、しかたがない。それなりに楽しくもあった。

 この日の夕食は、下の食堂が普通のレストラン形式だった。どうもシュタイアマルク州(グラーツを州都とする州で、ブルック/ムーアも含まれる)のユースはそういうものらしい。なんかめんどくさそうだったので外に食べに出ることにした。
 私が向かったのは、英語の通じるマクドナルドである――大変情けない気もするが、オーストリアのマクドナルドに入る、というのもなかなか面白い経験である。
 日本では駅前からなにからどこでも見つかるマクドナルドだが、こちらではそうはいかない。グラーツのマクドナルドのありかを知ったのも、街をふらついているときに広告を見たからである。バスと市電のターミナル、ヤコミニ広場にあるらしい。どうやらユースのすぐ近くからバスも走っているようだが、それもよくわからなかったので、ゆっくり歩いていくことにした。
 意外と広いヤコミニ広場の片隅に、本当に見慣れたマクドナルドがあった。店内の様子も日本のマクドナルドと全く一緒、メニューがちょっと違うだけである――てりやきマックがないのは当然である。
 注文して、ポテトや飲み物のサイズの大小を聞かれたときには驚いた――日本でやるときには「LLセットで」といちいち言わなければならない。私はもちろん普通サイズを頼んだが、それでも日本のMサイズより少し大きかった。
 さて、オーストリアのマクドナルドの一番大きな違いは、ポテトのうまさである。ハンバーガー自体は日本のマックと比べて特にうまいわけではないが、ポテトは本当においしい。明らかにイモの味が違うのだ。こんなにうまいイモならいくら食べてもいい。
 おいしくハンバーガーを食べ、いざ帰ろうと階段を下りたとき、上から「Sir!」と声が聞こえる。何かと思って立ち止まると、隣の席にいた若者が、私のペンケースが落ちた、と届けてきてくれたのだ。もちろん彼が盗んで中の金目の物を引っこ抜いた、というわけではない。ポケットに強引にねじ込んでいた奴が純粋に落ちたのだ。私はドイツ語で礼を言い、その場を後にした。グラーツの街は、いい人がたくさんいるようだ。
 帰りはバスを使うことにした。ヤコミニ広場にはサッカーファンやサラリーマンをはじめ、いろんな人たちが集まっていた。こんなにいろんな人たちが集まっているのを見るのは初めての経験である。
 今まで見るもの聞くものが目新しく、なんだか別世界に来たような気がしていた。しかしヨーロッパの街も普通の人が住んでいて、普通の生活を営んでいる。日本人よりずっとかっこよくスーツを着こなしていても、その人はサラリーマンで、普通に会社に勤めているのだ。そう思うと、なんだか街が身近なものに思えた。

 2日前の件で懲りた私は、ユースホステルの予約をしておくことに決めた。タバコ屋でテレホンカードを購入し、ユースホステル1階の公衆電話からかける。
 しかし、これが宿の予約初挑戦である。電話番号を押し終わり、どきどきしながら待っていると、相手が出た!ドイツ語でぺらぺらと何かをしゃべる。緊張が走った。そこで「Hello!」と言ってみると、向こうも英語で応じてくれた。あとは会話集とNOVAのレッスンの実践である!つっかえながらも言った英語は無事相手に通じ、なんとかベッドを確保することが出来た。無事予約が取れ、受話器を置いたときの達成感は何とも言えなかった。宿の予約ぐらい出来るじゃないか。私の英語能力も捨てたモンじゃない。あんまり喜びすぎて、ユースホステルがたくさん載ったガイドブックを公衆電話に置き忘れてしまい、慌てて取りに戻ったほどだった。

 この夜も私は書き物にいそしんでいたのだが、水が飲みたくなって、例のブルック/ムーアで手に入れた水を飲んでみることにした。その時ふと、日本から「いざという時のために」と持ってきた緑茶スティックがあるのを思い出した。水に溶かすと緑茶になる、大変便利なアイテムである。
 洗面所のコップを取り、お茶を溶かして飲む……これが予想以上にうまい。日頃緑茶など飲まないくせに、やっぱり日本人は緑茶だねェなどとうそぶいてみるが、どうも緑茶だからうまいというものでもないらしい。それもスティック緑茶であるから、そんなに感動的にうまくなるとも思えない。やはり水が違うのだろうか。緑茶がうまいと感じるとなれば軟水かもしれないが、ヨーロッパで軟水が出るだろうか?それとも硬水でもうまいものはうまいのか。いずれにしても、これがユースホステルの洗面所から出た水とは思えない。

 この夜、ユースの門限になっても、相部屋の人は戻ってこなかった。やった一人だ、と浮かれて寝ていたら、真夜中になって人の物音に目が覚めた。どうやら帰ってきたらしい。門限を過ぎて入るには300シリングでカギを借りなければいけないのだが、1泊の料金よりも高いのだ。そんなことをしてる人が、本当にいるとは。
 そういえば枕元の電気つけっぱなしだったな、と思って消したら部屋が真っ暗――しまったぁあの人何も見えなくなっちまう!慌ててつけなおしたら、気にしないでくれ、と言ってその男は自分のベッドの電気をつけた。やれやれ、と思ったのもつかの間、私はそのまま眠りについてしまったのだった。すまない、相部屋の人……。

(01/1/29)
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