2.出国

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 当日は朝6時の起床、7時出発――12時のフライトでこんなに朝早く起きなければ行けないのは、成田空港が遠すぎるせいである。日暮里まで出て、京成に乗り換える。時間の関係で特急が一番早かった。
 受付のデスクには9時半到着の予定だった。しかし実際に着いたのは10時少し前。集合時間と指定されたその時間だった。家を出てからたっぷり3時間はかかったことになる。自宅のあるのが東京の西のはずれとはいえ、あまりに遠すぎる。
 デスクに引換券を提示すると、「しばらくお待ち下さい」と言われて少し待たされる。格安航空券だから問題があるのでは?と思ったが、無事に航空券を手に入れた。シンガポール→ウィーンのチェックインも済ませてあったので、乗り継ぎはすぐにでもできる。――といっても乗り継ぎの時間は6時間もあったのであるが……。
 次に向かったのは、バックパックを預けるデスク。これがまた長蛇の列で、20分待っても順番が来ない。「急いで搭乗手続きをしないと席がなくなる恐れがある」と受付デスクの人に脅されていた。搭乗手続きは11時。このまま乗れなくなったらどうしよう、と不安になったが、荷物の手続き自体はあっというまで、なんとか手続き15分前には出国審査のゲートにたどり着いた。
 この審査の紙がまた書きづらい。日本語で書いてあるし凡例も書いてあるのだが、なにしろ乗り継ぎをするからどう書いたらいいのかわからない。とにかく適当に書いてゲートに並んだら、「線の後ろに下がって待って下さい」と居丈高に言われる。見ると確かに床に「STOP」と書かれた帯がついているのだが、わかりにくいことこの上ない。上に看板を吊して欲しい物である。
 「ブッコ学会」の諸君なら、ここで窓口の職員と一悶着あって欲しいというところだろうが、血気盛んな若い頃ならともかく、さすがに23にもなると落ち着いた物で、所詮官僚の仕事と割り切っておとなしく下がった――こんな事務的な仕事をお互い心地よくやる必要性も、ケンカごしになってやる必要もない。窓口に書類を差し出して手続きが終わって出てくるのを待つだけ。自動販売機と同じ要領である。手続きが行われなかったときだけ文句を言えば(自動販売機なら叩けば)いいのである。学会諸君にとってははなはだ面白くない展開だろうが、大人になってしまったんだからしかたがない。

 あれだけ脅されたにもかかわらず、搭乗開始時間は30分も遅れた。
 時間が近づくと人が搭乗口に集まり始めたので、待合場所に設置されていたベンチから立ち上がり、その人の群に混じって待つことにした。いつしか群は列になったが、私はその列の前の方に含まれることになった。
 搭乗はまずはファーストクラス・ビジネスクラスから行われる。エコノミーはその後で、座席の番号に従って呼ばれる。最初の席は50番台で、一回目のコールで入ることが出来た。入り口には日本人っぽいスチュワーデスがいたのだが、早速英語での(それもナチュラルスピードの)会話が開始された。早速語学技術力が試される。
 出発直前のキャプテンによる機内放送は、やはり国際線らしく英語だった。放送英語のナチュラルスピードというと、TOEICを思い出すが、それより当然聞き取りにくい。その後のスチュワーデスによる放送も英語。機内サービスのおしぼりと一緒になったからますますわからない。幸い日本発の航空機だから日本語での説明があるからいいものの、シンガポール発のことを考えると、不安になる。

 鉛直方向の加速度に弱い私にとって、飛行機の離陸にかかるGはやはり苦手である。爆音と共に加速し、一気に舞い上がる。地面があっという間に遠ざかってゆく。
 離陸から1時間ほどして、紙が配られ始めた。"Singapore?"と尋ねられたので、とりあえず"No."と答えておく。出国審査の紙だろうが、乗り継ぎには必要ないだろう。

 さて、例の最新鋭のモニターは、なかなか面白い。音楽はもちろん、現在位置を知らせる画面、映画も自分の好きなのが見られる。ついこないだ見たばかりの「U571」をやっていたので(もちろん英語、字幕無し)なんとなくそれを見る。ヘッドホン端子は「右」と「左」が別々の穴に差し込まれる方式で、自分の持っているヘッドホンは使えなかった。
 で、早速ゲームをやろうとしたが、ゲームの方にいっこうに切り替わらないどころか、映画も途中で止まってしまったりする。どうやらこのモニターの調子が悪いらしい。この後、お隣のアーリア系の夫婦に頼まれて席を窓側に交換したのだが、そのモニターも調子悪かったから、この3つの席のモニターが全部故障しているようだ。このことはスチュワーデスに言っておいた方がよかったのかもしれないが、英語で説明するのが面倒なのであきらめた。私にはウィーンでの予定を立てたり、ドイツ語を勉強する時間も必要なのだ。せっかくコントローラーが明らかにスーファミの形状してるのに、残念である。

 お隣のアーリア系夫婦は、やはりインドの人だった。茶褐色の肌、黒い髪、そしてブルーの瞳というなんだか不思議な感じの人である。夫の方は日本語が堪能で、お互いこれからどこに行くんだ、と話をした。途中沖縄上空を通過するときは、みんなで窓の外を眺めて「やっぱり珊瑚礁はきれいですねぇ。」と盛り上がった。
 このころ、ちょうど昼御飯。なんか日本人っぽいスチュワーデスと英語で会話しているのがなんとも情けないが、うまく表現できないのはもっと情けない。NOVAの勉強をさぼっていた結果であるからしかたない。少しずつ慣れてきてだんだんと会話ができるようになったものの、まだまだ不安である。
 ゴハンは"Japanese Style"を選択。洋食はいやというほど食えるとわかっているから。
 肉の煮たのと、そば。これがかなりおいしい!機内食はまずいから期待するなと言われていたが、シンガポール航空はそうでもないようだ。

 飛行機というのは揺れるもので、気流の悪いところに来るとガタガタ言い始める。慣れると電車の揺れと似たような物なので平気になるが、最初は嫌なものである。特に高さ方向に揺れられたりすると、ちょっと恐くなる。
 しかし一旦安定すると、それこそびくとも動かなくなるので、そうなると果たして動いているのかどうかもわからなくなってくる。電車のように電柱や町並みと言った目標物もなく、外は雲や島が下の方に見えるだけ。だから画面に「対地速度979キロ」と表示されても、そんなバケモノじみたスピードで飛んでいるとは思えないのである。

 6時間の飛行の後、シンガポール・チャンギ空港に到着。混雑のため到着時刻が10分ほど遅れる。着陸時の下降がまた、何とも言えない。
 機体が巨大だからなのかシンガポール航空のパイロットが優秀なのか、国内線のように「バウンド」することなく、安定して着地。300キロ/時で着陸して、そこから一気にブレーキングをかける。それほどのGを感じさせることもなく、きれいに速度を落とすのは見事である。
 かくして、私はついに海外の地に初めて足を着けることになった――空港から外に出ることはなくても、空港は紛れもなく、外国に建っているのである!!

(00/11/10初出、00/11/22加筆)
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