舞い散るそれは百合の花
―It which dances and breaks up is the flower of a
lily―
第一草「SAKURAドロップス」
第十四幕〜Reminiscences〜
「どのくらい迷ったかわからない。方位磁石も使えないし似たような景色が続くそこで方向感覚もいつしか狂っていたわ。予定時刻に担当部署に就けなければ大失態になる。それは家族の顔に泥を塗る事になる。あせっていたのね。アタシたちの後ろから、恐ろしいモンスターが迫っていた事に気がつかなかった。背中の方から突然聞こえた叫び声で慌てて振り返ったそこにいたのは『アルギオペ』。凶暴で巨大な芋虫型のモンスターよ。そいつは醜いその口でアタシの部下を次々と食い殺していったわ」 どんな時でも凛々しかった夜魅。でも今、リリーの瞳には強く抱きしめたら壊れてしまいそうなガラス細工のように、自分の胸の中で泣く夜魅が儚く映る。リリーは緑の黒髪をそっと優しく撫でながら、無理して微笑みを見せるけれども、瞳が涙でキラキラと輝いていた。 『ふさわしくないと思うならならふさわしくなれるように考えなさい』。以前夜魅がリリーに言った言葉。自分がふさわしいかそうではないか、その答えはまだはっきりとはしない。けれど今自分が夜魅の心の支えになっている事を実感し、それがリリーには嬉しかった。 「ごめん。みっともないとこ、見せちゃったね」 「それでね。その件は初めての『迷いの森』だったし、結局不幸な事故で片付けられてアタシは不問になったの。それでもアタシの心は晴れるわけなかった。みんなが亡くなったのはアタシの判断ミス。自分が許せなくって自分の殻に閉じこもっちゃったの。その悲劇から半年の間の記憶はほとんどないわ。覚えているのはみんなの魂を慰める為に剣士の職を辞して聖職者、アコライトになった事くらい。でも、アコライトになってもどうしたらみんなの魂を救えるのか分からなくって・・・」 もしかして、とリリーは思う。あの時あの茂みの中で夜魅が言おうとしていた言葉。『お願い・・・』と言って飲み込んだ言葉。きっとあの時夜魅はその先にある惨状を想像して、それを見て過去の悲劇と重ね合わせて自分が再び自分の殻に閉じこもってしまうかもしれないという予感がしたから不安になって、リリーに助けを求めようとしていたのかもしれない。でも、それを言うには今の話を全部でないにしろ、少なからず事情を話さなければならない。それに、自分の心の問題でもある。だから、『もし、アタシに何かあったら助けて欲しい』と、言いたくても言えなかったのかもしれない。 (わたし、ちゃんと夜魅さまのお側にいました。どんなに胸が痛くてもお側にいました。例え離れ離れになっても探し出してこうしてお側にいます。ですから安心してください。夜魅さま) 「以上。夜魅さまの知られざる半生でした。めでたしめでたし」
2003年8月14日 公開 協力
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■素材提供■
Base story:gravity & gungHo