■ ルーティングプロトコル
さて、ここまでで、OSPF、EIGRP、BGP4、IS-ISとルーティングプロトコルを説明してきたわけだ。
ここからは、個別のルーティングプロトコルの話ではなく、全体としての話をしよう。
全体として? どんな話ですか?
うむ。今回からは再配布の話をする。
さいはいふ? りでぃすとりびゅーしょん?
distributionは「配布・配置」。その「re-」だから、「再配布」、だな。
再配布って何を配布するんですか?
その説明の前に、ルーティングプロトコルについていくつか説明しよう。
RIP、IGRP、OSPF、EIGRP、IS-ISなどのプロトコルは、ルーティング情報を交換するために存在するな。
あらら。またすいぶん基礎的な話に戻ってますね。
そういえば、BGP4がないですけど?
あぁ、今回の話はIGPでの話だからな。
さて、ルーティングプロトコルによるアドバタイズだが、これらは同一のルーティングプロトコルを実施するルータでなければ解釈できない。
……。
はい?
つまり、こういうことだ。
[FigureRT30-01:異なるソースによるネットワーク情報の伝達]
ルータAが知る情報はルータBに伝わるか?
同じルーティングプロトコル同士でないと駄目……かな?
うむ。異なるルーティングプロトコルでは情報は伝わらない。ルーティングテーブルの作成方法、メトリック、さらには送るアドバタイズの中身、すべて異なる。
プロトコルが異なるってのは、言葉が違って意思疎通ができないのと同じですからね。
そういうことだ。もう1つ例を出そう。
[FigureRT30-02:異なるソースによるネットワーク情報の伝達2]
中央のルータAは、RIPとOSPFの両方を使用している。BからRIPで192.168.1.0/24を、CからOSPFで172.16.1.0/24を取得した。さて、ルータCから192.168.1.0/24まで到達できるか?
Aは両方知ってるんですよね。大丈夫なような気がしますけど?
Aは確かに知っている。だが、ルータCには192.168.1.0/24のパスが存在しない。
何故なら、その情報はRIPで伝送されたものだからだ。OSPFのみのルータCには192.168.1.0/24の情報は届かない。
は〜、やっぱり駄目なわけですか。
そういうことだ。
このような場合、中央のルータが他のルーティングプロトコル用に情報を変換してやらなければならない。
さっきの例で言えば、ルータCが192.168.1.0/24を知るためには、ルータAがRIPの情報をOSPFの情報に変換して、伝えるってことですか?
そうだ。このような変換による情報の伝達を再配布という。
つまり、RIPで伝わって来た情報をさらにOSPFにも配布する、ということだな。
ははぁ。だから再配布というんですか。
■ ASと境界ルータ
再配布の説明には、ASを使う。
AS? 自律システム?
EGPsで接続されるネットワークですか? でも再配送ってIGPの話じゃなかったんですか?
あ〜、そっちのASではない。OSPFでも説明したが、同一のルーティングプロトコルを使用しているネットワークという意味のASだ。
あぁ、そっちのASですか。
ということは、EGPsが接続するASの中に、ASが複数あることもあるんですね。なんかややこしいですけど。
EGPsが接続するASで1つしかルーティングプロトコルが使われていなければ1つになるが、複数使われている場合、その数だけASが分かれることになる。
ややこしいですね。
そうだな。用語を分けてくれると嬉しいのだがな。
さて、ネット君。OSPFの場合だが、このASを繋ぐルータが存在したな。
ASBRですか?
うむ。ASBRのようなASを繋ぐルータを境界ルータと呼ぶ。
ばうんだりーるーた。ASBRの後ろの「BR」と同じ言葉ですね。
ASBRは「自律システム境界ルータ」のことだからな。同じ言葉だ。
この境界ルータ、先ほどの図の場合、中央のルータAが境界ルータになる。
[FigureRT30-03:境界ルータ]
この境界ルータが再配布の主役となる。
境界ルータは2つ以上のルーティングプロトコルを使用していることが条件だ。
上の図のルータAの場合、RIPもOSPFも両方使用してないと駄目ってことですね。
そして、この境界ルータに再配布の設定を行うことによって、異なるルーティングプロトコル同士で接続が可能になるわけだ。
[FigureRT30-04:再配布]
ルータAがプロトコルの変換をしてくれるようなものなんですね。
■ 管理距離
さて、複数のルーティングプロトコルを使っている境界ルータで、もっとも困ることは何だ?
困ること?
どのネットワークがどのルーティングプロトコルかわからなくなってしまうとか?
いやいやいや。そんなネット君じゃあるまいし。
こういう例をだそう。
[FigureRT30-05:メトリックの混乱]
同じネットワークの情報を違うルーティングプロトコルによって伝えられる可能性もあるわけだ。
さぁ、ネット君。ルータB経由とルータC経由、どっちがベストパスだ?
うぇ?
RIPはホップ数、OSPFは帯域幅…、比較なんてできないですよ。
そう、異なる評価基準を持つメトリックで、ベストパスをどのように判断するか。つまり、メトリックが問題点なわけだ。
宛先まで「2時間」の交通手段と、宛先まで「100Km」の交通手段を比較するようなものですよね。
また、それは微妙な例えだな。
ともかく、何か統一的な基準が必要だ。これを管理距離と言う。
あどみにすとれーてぃぶでぃすたんす?
うむ、ルーティングプロトコルに設定された値で、小さい値を持つルーティングプロトコルからの情報をベストパスとする。Ciscoルータの場合、こう決まっている。
ルーティングプロトコル | 管理距離 |
---|---|
直接接続 | 0 |
スタティック | 1 |
EIGRP集約ルート | 5 |
EBGP | 20 |
EIGRP | 90 |
IGRP | 100 |
OSPF | 110 |
IS-IS | 115 |
RIP | 120 |
EGP | 140 |
外部EIGRP | 170 |
IBGP | 200 |
未知のルート | 255 |
[TableRT30-01:管理距離]
は〜。
基本的には、まず直接とスタティック。次がCiscoのプロトコル。そしてリンクステート型、最後がディスタンスベクタ型だ。Ciscoが考えるルートの信頼性の順番だ。
Cisco独自のEIGRPとIGRPが優先ってのがCiscoらしいですよね。
そうだな。
覚えておくべき順番はIGPだ。EIGRP、IGRP、OSPF、IS-IS、RIPの順、ってことだな。
なるほど。
さっきの例で言えば、RIPが120で、OSPFが110ですから、OSPFのルートをベストパスとするってことですね。
[FigureRT30-06:管理距離によるベストパス決定]
そういうことだ。この管理距離は直接接続以外の値は変更可能だ。このネットワークはRIPを優先したい、というい時はそのルートの管理距離をOSPF以下に手動設定してしまえばいい。
例えば、さっきの例だと、RIPによる経路を110以下の、105とかに設定してしまう、と。
そうだ。こんな事も起き得るのでな。
[FigureRT30-07:管理距離によるベストパス決定の混乱]
あらら〜。変な感じですね。
確かに、帯域幅によってはA経由の方が早い場合もあるが、そうでない場合の方が多いだろう。
こういう時は、192.168.1.0/24の管理距離をOSPFの110より小さくしてやることによってB経由に変更するわけだ。
なるほど。
■ 再配布の動作
さて、基本的な再配布の動作について説明しよう。
簡単に言えば、一方から入手したパスを他のルーティングプロトコルでアドバタイズするわけだな。さっき使った図をもう一度載せよう。
[FigureRT30-04:再配布]
さて、この再配布の際の問題もやはりメトリックだ。
[FigureRT30-08:メトリックの問題]
この例でいえば、RIPで伝えられたメトリックはそのままではOSPFに使えない。
そりゃそうですよね。
ここで変換が必要だ。つまり、メトリックの基準値を設定しておく必要があるわけだ。この値をシードメトリックという。
しーど? 種?
そう、そのシードだ。再配布される際に設定しておく。
[FigureRT30-09:シードメトリック]
「メトリック30として配布」と設定しておいたから、OSPFでメトリック30としてアドバタイズするんですね。
うむ。この例ではすべてのRIPによるルートを30として設定してしまっているが、ネットワークごとに設定も可能だ。
ははぁ。
うむ。
今回はこれぐらいにしておこう。次回も再配布の話をする。
了解です。
30分間ネットワーキングでした〜♪
- 再配布
-
[Redistribution]
- 境界ルータ
- [Boundary Router]
- 管理距離
-
[Administrative Distance]
管理ディスタンス、アドミニストレーティブディスタンスとも呼ぶ。
AD距離、単にADと略す。
- シードメトリック
-
[Seed Metric]
もしくはデフォルトメトリックという。
- ハイパーネット君の今日のポイント
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- あるルーティングプロトコルからの情報を他のルーティングプロトコルで流すことを再配布という。
- 再配布は複数のルーティングプロトコルを実行している境界ルータが行う。
- 複数のルーティングプロトコルから同一のネットワークの情報を得た場合は、そのプロトコルの管理距離によってベストパスを選択する。
- 再配布の際に、メトリックを決める値をシードメトリックという。