■ IS-ISのルーティングテーブル
Integrated IS-ISとは、OSIプロトコル以外に、IPをルーティング対象としたプロトコルだ。
マルチプロトコルルーティングプロトコルっていうんでしたっけ。
EIGRPがそうですよね。
うむ。今回はIntegrated IS-ISを使ったIPルーティングを説明するが。
その前にIS-ISのルーティングプロセスについて説明しておこう。
はぁ、IS-ISのルーティングプロセス。
さて、OSPFのルーティングテーブル作成の手順はこうだったな。
[FigureRT08-01:OSPFルーティングプロセス]
でした。SPFツリーの構築とルーティングテーブルの作成でしたよね。
そう。基本的な動きはIS-ISもOSPFも変わらない。
LSPによりデータベースを更新し、SPFツリーを作成する。
ふむふむ。リンクステートルーティングな感じですね。
どんな感じだ、それは。
違いがあるのは、まずレベル1とレベル2が完全に別のツリーを作成すること。
[FigureRT28-01:SPFツリー]
あ〜。別のデータベースを持つって話なんですから、別のツリーを持つんですね。
うむ。アドバタイズも別、データベースも別、ツリーも別だからルーティングテーブルも別だな。
そしてもう1つのポイントは、PRCだ。
ぴーあるしー? ぱーしゃるるーとかりきゅれーしょん?
IS-ISのLSPにはESの情報も含まれる。これはいいな?
そうみたいですね。OSPFとかだと、ネットワークの情報しかアドバタイズしないのに。
この情報を使って、各ESへの到達性を計算する。これがPRCだ。
?
ルーティングの段階で、各ESへ届くかどうかも計算するってことですか?
そうだなSPFツリーの末端(葉)にESの情報が入るとでも考えればいい。
なんでそんな面倒なことになってるんですかね。
それは次のルーティングプロセスと合わせて話そう。
あ、はい。
ともかく、各ESへのパスを計算し、それをCLNS転送データベースに載せる、これがIS-ISのルーティングテーブル作成だな。
なんか、OSPFと似てるようで、似てないようでややこしいですね。
■ IS-ISのルーティングプロセス
OSPFよりも階層構造がはっきりとしているのが、IS-ISだ。
まず、レベル1。レベル1は自エリア内のISとESを知るが他エリアは全く知らない。
エリア1ルータはOSPFでいうところのTSA内のインターナルルータでしたっけ。
自分のところしか知らないっていう。
そうだ。エリア1は自エリア内はNSAPのシステムIDだけを見てルーティングする。
システムIDだけ?
え〜っと、システムIDってIPアドレスでいうところのホスト部ですよね。ホスト部って階層構造になってないような気が…。
うむ、なってない。
つまりMACアドレスのみでルーティングするようなものだ。
うわ、なんか無茶だ。
NSAPのところで話したとおり、システムIDはエリア内でユニークだからな。
一方で、もし他エリアへのCLNSパケットだった場合。
場合?
もっとも近いL2ルータをデフォルトルートに設定しておき、そこへパケットを送る。
もっとも近い?
最適ではなく?
もっとも近い、だ。
つまり、レベル1ルーティングとはこうなる。
[FigureRT28-02:レベル1ルーティング]
あ〜、なるほど。だからESの情報をSPFツリーに記載する必要があるんですね。
そうだ。
考えかたとしてはOSPFのエリアはサブネットの集合体だが、IS-ISのエリアはサブネット1つ分なのだよ。
だからシステムIDだけでエリア内をルーティングする、と。なるほど。
さて、レベル2ルーティングだが、こちらはエリアIDを見てのルーティングだ。
ということは、ルーティングテーブルはエリアIDのみ?
事実上、そうなる。
レベル2ルーティングは宛先エリアまでバックボーンパスで転送し、あとはレベル1、レベル0におまかせという形だな。
ふむふむ、これは普通のルーティングっぽいですよね。
そうだな。そう言われれば確かに。
さて、このレベル1・レベル2のルーティングプロセスだが、ポイントは先ほどのネット君の科白だ。
「これは普通のルーティングっぽいですよね」?
もっと前。
「ふむふむ」?
面白じゃないか、ネット君。
あぁ、面白い面白い。これで満足か?
う、うぅぅ。
「もっとも近い?最適ではなく?」だ。
つまり、こういうことが起きる。
[FigureRT28-03:アシンメトリックルーティング]
あら〜。最短パスじゃないパスを使っちゃうんですか。
うむ、このようなルーティングをアシンメトリックルーティングという。
必ずしも悪いルーティングではない。
そうなんですか?
例えば、エリア1からエリア2へのパケットが多い場合、ルータB−C間が混むわけだ。
ここに返送パケットまでもルータB-C間を使うとなると、輻輳必至になってしまう。
まぁ、そうなりますね。
で、アシンメトリックルーティングなら、違うパスを使うこともある。
多少は輻輳の軽減に役立つ、となるわけだな。
ははぁ。なるほど。
だが、もちろん最短パスを使った方がいいこともある。
ま、場合によるな。基本的には最短パスがベストだけどな。
べストではないけれども、悪いわけではないこともある、ってことですね。
■ Integrated IS-IS
さて、IS-ISでIPルーティングも可能とするIntegrate IS-ISの話をしよう。
ようやっと登場ですね。
Integrated IS-ISは3種類のルーティングを行うことができる。
- CLNSのみ
- IPとCLNS(Dual IS-IS)
- IPのみ
あ〜、IPのみも可能なんだ。
そうだ。この「IPのみが可能」という点を踏まえて、Integrated IS-ISを説明するが。
Integrated IS-ISのルーティングプロセスはIS-ISと同じだ。
はい。
「はい」?
ここで疑問はわかないのかね?
疑問?
いや、Integrated「IS-IS」って言うんだから、IS-ISと同じってのも別に変じゃない気がしますけど。
ふむ。では聞こう。
IS-ISのルーテッドプロトコルは?
OSIプロトコル。CLNSですよね。
そのアドレスは?
NSAP。なんですか突然?
では、IS-ISのデータベースとSPFツリーの元となる情報のプロトコルは?
元となる情報のプロトコルは?
それもCLNSですよね。
そう、つまりIntegraed IS-ISでもCLNSの情報が元となるのだよ。
そこでさっきのことを聞こう。「IPのみが可能」と言ったな。この場合はどうなる?
「IPのみが可能」の場合。
…IPのみしか使わなくても、CLNSが必要ってことですか?
その通り。隣接関係を結ぶため、データベースの作成、SPFツリーの作成、すべてにおいてIntegrated IS-ISはCLNSを必要とするのだよ。
ははぁ。IS-ISはCNLSによって動くってことですね。
そういうことだ。実際のところをいうと、Integreted IS-ISにおけるIPネットワークのアドバタイズはCLNSのおまけと言ってもいいぐらいだ。
おまけ……。
そんな扱いなんですか?
うむ。Integrated IS-ISではSPFツリーはCLNSを元として作成される。
IPネットワークはESと同じ扱いでSPFツリーの中にある。
ということは、SPFツリーの葉?
そう。CLNSのナローメトリックによりSPFツリーが構成され、ESの到達性を確認する段階のPRCでIPネットワークの計算が行われることとなる。簡略化した例を示そう。
[FigureRT28-04:Integrated IS-IS]
ははぁ。なんか、普通と言えば普通なんですけど。
そうか。
では、レベル2を組み合わせてみよう。
[FigureRT28-05:Integrated IS-IS・複数エリア]
…はい。わかりますけど。
ふむ。わかってもらえたか。
IPのネットワークからSPFツリーを構築するのではなく、CNLSのSPFツリーがあってからIPルーティングという流れだな。
CLNSのSPFツリーがあくまでもメインってことですね。
そうだ。なので逆に言えばIPネットワークの障害の結果、SPFツリーが更新されないこともありうる。
その場合、単純にIPネットワークへの計算(PRC)だけが行われるわけだな。
IPネットワークは「おまけ」に近い立場なんですね。
そういうことだ。
では今回はここまでにしよう。ではまた次回。
はい。
30分間ネットワーキングでした〜♪
- PRC
-
[Partical Route Calculation]
部分的ルート計算
- CLNS転送データベース
- OSIのCLNS用ルーティングテーブルのこと。
- アシンメトリックルーティング
-
[Asymmetric Routing]
非対称ルーティング。
方向によって経路が変わるルーティング。
- ハイパーネット君の今日のポイント
-
- ルータはレベル毎のSPFツリーを持つ。
- 各ESへのパスの計算を行う。これをPRCという。
- レベル1はシステムIDのみを見てルーティングを行う。
- レベル1はもっとも近いエリア1-2ルータをデフォルトルートとする。
- レベル2はエリアIDのみを見てルーティングを行う。
- 場合によってはアシンメトリックルーティングになる。
- Integrated IS-ISはIPのみ、CLNSのみ、両方の3種類可能である。
- IPルーティングでもCLNSは必要である。
- IS-ISのSPFツリーはCLNSを元として作成されるので、IPネットワークの情報はその葉として扱われる。