30 Minutes NetWorking
No.RT27

30Minutes NetWorking

BSCI

第27回Integrated IS-IS(5) 隣接関係とデータベース

■ ナローメトリック

スーパーインター博士

そういえば、ルーティングの話をしているが、メトリックの話はしていなかったな。

ハイパーネット助手

そういえばそうですね。

スーパーインター博士

うむ。IS-ISを前身としたOSPFのメトリックはなんだったかね?

ハイパーネット助手

OSPFのメトリックは…………帯域幅、でしたよね。

スーパーインター博士

そうだ。帯域幅をもとに計算されるコストだったな。EIGRPも帯域幅と遅延などをK値で計算した値が使われる。

ハイパーネット助手

でした。じゃあやっぱりIS-ISも帯域幅?

スーパーインター博士

いや、手動で決定されたコストを使う。

ハイパーネット助手

手動で決定されたコスト?

スーパーインター博士

デフォルト値は10の値を持つ。これをISを出て行くインタフェースに設定する。

ナローメトリック

[FigureRT27-01:ナローメトリック]

ハイパーネット助手

うぅ?
出て行くときに追加?

スーパーインター博士

そうだ。これをナローメトリックという。6ビットの値で0〜63までだ。
この送信元から宛先までのナローメトリックが最小のものがベストパスだ。

[FigureRT27-02:ナローメトリックの算出]

ハイパーネット助手

なんか、ホップ数みたいですね。

スーパーインター博士

これはデフォルトの値だからな。まぁ、似てると言えば似てるな。

ハイパーネット助手

外向きのインタフェースを通過するたびに10プラスじゃ、ルータを通過したら1を足すホップ数っぽいですよ。

スーパーインター博士

それは手動で変更すればいいだけの話だ。
ただし、IS-ISは古いプロトコルなので、実は時代においついていってない。まずは6ビット、63までしか値がないことだ。

ハイパーネット助手

63までしか値がないと欠点なんですか?

スーパーインター博士

昔ならともかく、現在のように使用される帯域幅に差がありすぎる場合、0〜63までの幅では少なすぎる。

ハイパーネット助手

ん〜。そういえばそうかも。
14.4Kbpsと10Gbpsとかだったら天と地の差ですものね。

スーパーインター博士

それと、最大値が1023(10ビット)までしか計算できないところだ。
ルーティングプロトコルには、他にもメトリックの最大値が決まってるものがあったよな?

ハイパーネット助手

RIPですね。最大ホップ数が15の。

スーパーインター博士

そう、すでにレガシプロトコルの仲間入りを果たしているRIPだ。つまりIS-ISのナローメトリックもRIPのホップと同様、制限がかかってしまっているということだ。

ハイパーネット助手

ははぁ。それがIS-ISのナローメトリックの欠点ですか。

スーパーインター博士

うむ。だが、CiscoIOSでは24ビットまで(0〜16,777,215)までのメトリックと、32ビットの最大値(約43億)を使えるワイドメトリックが使用可能だ。

ハイパーネット助手

そりゃまた思い切った幅の広げ方ですね。

スーパーインター博士

ただし、同じメトリックを使用しないとSPFツリーは計算できない
こっちのISはナロー、こっちはワイドというわけにはいかない。

ハイパーネット助手

SPFツリーが計算できないってことは、ルーティングテーブルがおかしくなる?

スーパーインター博士

そういうことだな。

ハイパーネット助手

ははぁ。使うのなら同じメトリックってことですね。

■ Hello

スーパーインター博士

さてさて、前回の復習だ。
IS-ISで使用するリンクステート情報のPDUには以下のものがあったな。

LSPリンクステートパケットリンクステート情報の配布Level1 LSP
Level2 LSP
Hello PDUハローPDU隣接関係の確立と維持ESH
ISH
Level1 LAN IIH
Level2 LAN IIH
PtoP IIH
PSNPパーシャルシーケンスPDUリンクステート情報の要求・確認応答Level1 PSNP
Level2 PSNP
CSNPコンプリートシーケンスPDUリンクステート情報データベースの配布Level1 CSNP
Level2 CSNP

[TableRT26-01:PDU]

ハイパーネット助手

です。なんか一杯ありますよね。

スーパーインター博士

まぁ、実質はLSP、Hello、PSNPとCSNPの4つだな。
それがそれぞれLevel1用と2用に分かれているだけの話だ。

ハイパーネット助手

でで、Helloが赤いのは何か意味があるんですか?

スーパーインター博士

うむ。まず隣接関係の説明をしようと思ってな。

ハイパーネット助手

あじぇいせんし。隣接のルータと「こんにちはパケット」でお友達になるんですね。

スーパーインター博士

君も好きだな、それが。
まぁ、ともかくHelloを交換して、「お友達でいましょう」と…。

ハイパーネット助手

はぅ!!

スーパーインター博士

ん?どうした?

ハイパーネット助手

いいいいえ、なんでもないです。

スーパーインター博士

? そうか? では続きだ。
で、Helloの交換で「お友達でいましょう」と…。

ハイパーネット助手

ぐぅ!!

スーパーインター博士

…………!!
ネット君、お友達でいましょう。」

ハイパーネット助手

ぐぁっ!!

スーパーインター博士

ふむ。ネット君、Helloの交換は本当に「お友達」になるためにある。
ていのいい断り文句ではないのでな。そんなに過剰反応しなくてもいい。

ハイパーネット助手

うぅぅぅ。

スーパーインター博士

まぁ、こうやってネット君の古傷をえぐるのも楽しいが、話が進まん。
Helloは大きくわけて3種類、ESH、ISH、IIHがある。ESHとISHはでてきたな。

ハイパーネット助手

ESHはESからISへのHello、ISHはISからESへのHelloでしたね。ES-ISで使われる。

スーパーインター博士

うむ。一方、IS-ISで使用されるのがIIHだ。

ハイパーネット助手

あいえすあいえすはろー。
IS-ISのHelloでIIHですか。

スーパーインター博士

そうだ。基本的にはOSPFと変わらない。IIHを交換し、その後LSPで情報交換して、隣接関係だ。

ハイパーネット助手

ふむふむ。OSPFと変わらない。

スーパーインター博士

違うのは、レベルが異なるルータは隣接関係にならないことだな。
そのためにレベル別のHello PDUがある

ハイパーネット助手

「レベル1とレベル2では異なるアドバタイズを行う」っていってましたっけ。

スーパーインター博士

そうだ。隣接関係にならなければアドバタイズは行われないからな。
ポイントをもう1つ。異なるエリアのレベル1ルータ同士も隣接関係にならない

ハイパーネット助手

んん?
異なるエリアのレベル1ルータ同士? そんなことありえるんですか?
違うエリアにいたら、エリア2ルータでしか接続されていないんじゃないですか?

スーパーインター博士

エリア1-2ルータの存在があるからな。そういう可能性もある。

エリア別の隣接関係

[FigureRT27-03:エリア別の隣接関係]

スーパーインター博士

上の例でいえば、エリア2のレベル1-2ルータとエリア1のレベル1ルータは同じマルチアクセスネットワーク上にある。
さらにエリア1のレベル1-2ルータも同じネットワーク上だ。エリア1のレベル1-2と、エリア1のレベル1が隣接関係を結んだように、エリア2のレベル1-2とエリア1のレベル1が結んでもおかしくはあるまい?

ハイパーネット助手

おかしくないといえば、おかしくないですけど。

スーパーインター博士

うむ。でも結ばない。
エリアが違うからな。あくまでもレベル1の隣接関係は同じエリアの中だけだ。

ハイパーネット助手

ははぁ。
そういえば、PtoP IIHはどうなるんです? これはレベル1用とレベル2用にわかれてないんですか?

スーパーインター博士

あぁ、WAN用のHello PDUのPtoP IIHはレベル1・2共通だ。
ただし、ルータとエリアを見てレベル1隣接かレベル2隣接かを判断する。

ハイパーネット助手

ふむふむ。なかなか便利ですね。

スーパーインター博士

そうだな。
隣接関係についてまとめると、こうなる。

エリアルータHello結果
同じエリアレベル1レベル1L1 HelloL1隣接
レベル1レベル1-2L1 HelloL1隣接
レベル2レベル2L2 HelloL2隣接
レベル1-2レベル2L2 HelloL2隣接
レベル1-2レベル1-2L1 HelloL1隣接
L2 HelloL2隣接
違うエリアレベル1レベル1------
レベル1レベル2------
レベル1レベル1-2------
レベル2レベル2L2 HelloL2隣接
レベル1-2レベル2L2 HelloL2隣接
レベル1-2レベル1-2L2 HelloL2隣接

[TableRT27-01:レベルごとの隣接関係]

ハイパーネット助手

異なるエリアはL2隣接しかない、と。
…? 同じエリアのL1-2同士は、L1とL2の2つとも隣接関係を結ぶんですね。

スーパーインター博士

そうだ。

■ バックボーン

スーパーインター博士

レベル2隣接には注意点がある。
レベル2ルーティングとはなんだった?

ハイパーネット助手

なんだったって。え〜っと、異なるエリアを結ぶルーティングですよね。

スーパーインター博士

それはなんだ? OSPFで言うところの?

ハイパーネット助手

OSPFで言うところの? …… バックボーン

スーパーインター博士

気づくのが遅い。そんなんだからお友達を脱却できないんだぞ。

ハイパーネット助手

うぅぅ。それは言わない約束でしょう、おっかさん

スーパーインター博士

誰がおっかさんか
ともかく、L2隣接はバックボーンを形成する隣接関係だな。

ハイパーネット助手

あ、はい。

スーパーインター博士

この隣接関係はすべてのエリアが連続していなければならない

ハイパーネット助手

すべてのエリアが連続? どういう風に?

スーパーインター博士

例えば。

バックボーンの連続性・駄目な例

[FigureRT27-04:バックボーンの連続性・駄目な例]

スーパーインター博士

どっかおかしいところがあるか?

ハイパーネット助手

え?
L1とL1-2はL1隣接。違うエリアのL1-2とL1-2はL2隣接。別におかしいところはないですよ?

スーパーインター博士

うむ、だがこれでは駄目なのだ。
L2隣接が連続していない。正しいのはこう。

バックボーンの連続性・正しい例

[FigureRT27-05:バックボーンの連続性・正しい例]

スーパーインター博士

すべてのエリアを繋げるようにL2の隣接関係が連続していなければならない。
でなければ、左のエリアの情報が、右のエリアに送られないだろ?

ハイパーネット助手

確かにそう言われればそうかも。

スーパーインター博士

バックボーンパスが出来上がってる、そういうことだ。
中央のL1-2ルータはそのために存在する。

ハイパーネット助手

他のエリアと接続していないのに、中央のL1-2は連続性を保つためL1-2でなければならない、そういうことですね。

■ データベース同期

スーパーインター博士

OSPFやIS-ISが持つトポロジカルデータベースとは、つまるところLSPの集合体なわけだな。

ハイパーネット助手

ルータがアドバタイズするリンク情報の集まり、ですよね。

スーパーインター博士

そう。このリンク情報をもとに、SPFツリーを作成するわけだ。

ハイパーネット助手

はい。

スーパーインター博士

ルータは、Helloによる隣接関係の確立後、LSPを交換する。
ここらへんはOSPFと同じだ。

ハイパーネット助手

ふむふむ。IS-ISとOSPF、違いはあるんですか?

スーパーインター博士

似てると言えば似てるし、違うといえば違う。
OSPFは、リンクに何か発生した場合、ネットワークの消失か追加だが、これが発生した場合DRにLSUを送り…。

ハイパーネット助手

それをDRがフラッディングする、でしたよね。

スーパーインター博士

そうだ。だが、IS-ISのDISとOSPFのDRでは動作が違う。
IS-ISでは消失か追加を検知したルータはエリア内の全隣接ルータに対しLSPをフラッディングする

ハイパーネット助手

エリア内の全隣接ルータに? DISがあるのにですか?

スーパーインター博士

そう。この場合DISの存在はまったく影響しない。IS-ISではエリア内の全ルータと隣接関係を結んでいるからな。

ハイパーネット助手

じゃあ、DISはなんのためにあるんですか?

スーパーインター博士

それは、データベースの同期のためだ。

ハイパーネット助手

データベースの同期のため?

スーパーインター博士

フラッディングによる新たなトポロジの通知を行うが、何らかの理由でLSPが届かなかった時。
LSPが生存時間切れで消失した時などなどデータベースの同期が必要になる場合がある。

ハイパーネット助手

そういえば、OSPFでも30分間隔でデータベースの同期をとりましたっけ。

スーパーインター博士

IS-ISではDISを使い、頻繁にデータベースの同期を行う。
その時使うのがPSNPCSNPだ。

ハイパーネット助手

HELLOとLSP以外のリンクステートPDUですね。

スーパーインター博士

この2つを合わせて、SNPというが、これはLSP記述子を持つPDUだ。

ハイパーネット助手

えるえすぴー記述子?

スーパーインター博士

リンク情報の概要とでもいえばいいかな。
要はLSPのように完全なリンク情報ではなく、その情報がある、という目次というか簡単な中身というか、そういうものだ。

ハイパーネット助手

LSPよりもサイズが小さい?

スーパーインター博士

そう、そういうことだな。
これを使ってDISは同期を行う。

[FigureRT27-06:データベース同期]

ハイパーネット助手

ははぁ。
現在の状態を知らせるCSNPに、要求と確認応答のPSNPですか。

スーパーインター博士

そういうことだ。
OSPFとだいぶ違うだろう?

ハイパーネット助手

フラッディングだけでなく、CSNPでさらにコンバージェンスを確保してるわけですね。

スーパーインター博士

そういうことだ。

ハイパーネット助手

ん〜っと、博士。
DISがないポイントツーポイントの場合はどうなるんです?

スーパーインター博士

ポイントツーポイントリンクの場合は、普通にLSPを送るだけだな。

[FigureRT27-07:ポイントツーポイントリンクのデータベース同期]

ハイパーネット助手

ごく普通ですね。

スーパーインター博士

ごく普通だろう。
さて、今回はこれぐらいにしておこう。

ハイパーネット助手

了解です。

スーパーインター博士

次回は、"Integrated" の説明だ。

ハイパーネット助手

そういえば、「統合 IS-IS」といっても、IPの話がちらりともでてきませんでしたね。

スーパーインター博士

うむ。「統合」する前に本来のIS-ISを知っておかないとな。

ハイパーネット助手

なるほど。

スーパーインター博士

ではまた次回。

ハイパーネット助手

はい。
30分間ネットワーキングでした〜♪

ナローメトリック
[narrow metric]
ISを出て行くインタフェース
outgoing(外向き)インタフェースといいます。
ワイドメトリック
[wide metric]
どうでもいいけど、ナローの反対ならブロードでもいいような気がするが。
IIH
[IS-IS Hello]
LSP
OSPFの場合はLSA。
SNP
[Sequence Number PDU]
ハイパーネット助手ハイパーネット君の今日のポイント
  • IS-ISはナローメトリックを使う。
    • LSPが出て行く際にコストを追加する
  • 同じレベルのルータ間でHelloを交換して隣接関係になる。
  • レベル1は同じエリアのルータ間でしか隣接関係にならない。
    • レベル1-2同士は、L1隣接とL2隣接の双方を結ぶ。
    • DISとは関係なく、LAN内すべてのルータは隣接関係を結ぶ。
  • レベル2隣接関係はすべてのエリアを横断するように連続していなければならない。
  • データベースの同期にはCSNPとPSNPを使う。
    • DISのデータベースの内容を10秒毎にCSNPで配布する。
    • データベースの情報が異なれば、PSNPで要求する。

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管理人:aji-ssz(at)selene.is.dream.jp