■ 階層ルーティング
さて、ネット君。話はちょっと戻る。
IS-ISの階層ルーティングの話だ。
はい。レベル0とか、レベル1とか、レベル2とかのルーティングですね。
うむ。それぞれのルータはレベル1、レベル2、レベル1-2という役割がある。
これはそのままそのルータが持つトポロジデータベースを示す。
え〜っと。
例えばレベル1ルータは、レベル1のトポロジデータベースを持つってことですか?
そうだ。レベル1データベースは、そのエリアとエリアの出口を定義する。
つまり、レベル1ルータはそのエリア内のトポロジと他エリアへの出口を知っているということだな。
じゃあ、レベル2は?
レベル2データベースは、エリア間情報を定義する。
つまりドメインのバックボーンの情報しか持たない、ということだ。
ははぁ。でも博士。それって特に問題なんですか?
うむ、OSPFを考えてみたまえ。OSPFルータは、ABRであれインターナルルータであれ、TSA内のルータ以外は他のエリアの情報も持つ。
あ〜、そうでしたっけ。
TSA内のルータはLSAタイプ3以上が届かないから、他のエリアの情報を持たない。でも、それ以外のエリアのルータは持つ、でしたよね。
そうだ。だが、IS-ISのエリア1ルータはどのエリアに存在していてもそのエリア内の情報しか持たない。これはどういうことだ?
エリア内の情報しか持たない。
つまり、IS-ISのエリアは全部TSAみたいなもの、ってことですか。
そう、その利点は?
TSAのインターナルルータの利点?
えっと、ルーティングテーブルのサイズが小さくてすむでしたっけ?
そういうことだ。レベル1ルータは完全にエリア内のみを把握する。他エリアはその出口となるレベル2、レベル1-2ルータに完全にまかせっきり、ということだな。
ははぁ。
ちなみにレベル1-2ルータはどうなるんですか?
レベル1-2ルータは両方のデータベースをそれぞれ独立してを持つ。
つまりレベル1・レベル2の2つのルータが合わさった形と解釈すればいい。
[FigureRT26-01:レベル1-2ルータの論理的ネットワーク構造]
レベル1とレベル2では異なるアドバタイズを行う。
同じエリア内にあるルータであっても、全く異なる行動をするのだよ。
完全に別物なんですね。
そういうことだ。
ちょっと誤解を招く言い方だが、レベル1ルータはそれぞれのエリアに、レベル2ルータはバックボーンエリアに存在し、各エリア間のアドバタイズは行われない、と考えてもらえばいい。
ははぁ。なんかエリア1-2ルータがABRってのがわかるような。
■ DIS
ネット君。IS-ISのエリア内のレベル1ルーティングだが。
これはOSPFのシングルエリアOSPFと似ている。
似ている。
どこらへんがですか?
シングルエリアOSPFのアドバタイズは、ある一台のルータがフラッディングすることによって行われていたな。このルータは何と言う?
デジグネイテッドルータ。代表ルータ。DRですよね。
うむ。それと同様の役割を持つものが、IS-ISにも存在する。
DISだ。
でじぐねいてっどいんたーめでぃえいとしすてむ?
Intermediate Sysytemは、IS、つまりルータだから。そのままデジグネイテッドルータのことになりませんか?
うむ、そのままDRと同じだな。
役割も基本的には同じ。これは先のデータベース同期のところで話そう。
はい。
DISに選ばれるのは、優先順位が高いルータか、MACアドレスが最大のルータだ。
DRはOSPFプライオリティ、ルータIDで選抜されるが、まぁ、似たようなものだ。
DISはIPアドレス(ルータID)でなく、MACアドレスで選ばれるんですね。
うむ。ただDRと違うのは、adjacencyが異なる。
あじぇいせんし?
隣接関係でしたっけ。
そうだ。OSPFの場合、DR・BDRだけと隣接関係を行う。
[FigureRT06-02:隣接関係・DR]
一方、IS-ISはすべてのLAN内のルータと隣接関係を結ぶ。
[FigureRT26-02:隣接関係・DIS]
DISという代表ルータ、じゃない代表ISがあるのにですか?
そうだ。
ええ〜っと。OSPFのDRは隣接関係を減らす役割がありましたよね?
でもDISだと隣接関係を減らすことができないじゃないですか。
できないな。
だが、これはこれでいいのだ。IS-ISとOSPFのフラッディングの差異がDISとDRの違いを生み出している。
フラッディングの差異?
それはデータベースの同期のときに話す。先だ、先。
その前に違いをもう1つ。IS-ISにはBDRの役割を果たすルータは存在しない。
ばっくあっぷでじぐねいてっどるーた。
DRがダウンしたらその役割を引き継ぐルータですよね。
うむ。OSPFではDR・BDRとのみ隣接関係を結ぶ。
そのためDRがダウンした際は、一時的にルーティングを停止し、BDRがその役割を迅速に引き継ぎ、BDRを再選出する。
でした。
ルーティングの停止というタイムラグを無くすためにBDRがあるんでしたよね。
だが、IS-ISではさきほどのフラッディングの違いの関係から、DISダウン時の一時的なルーティング停止がそれほど長い時間にならない。なんせ元から他のルータとも隣接関係を維持してるからな。
他のルータと隣接しているなら、DRにフラッディングをまかせっきりのOSPFみたいなことにはならないってことですか?
そう思ってもらっていい。
なので、DISダウン時にはDIS以外のルータからDISが再選出される。
ははぁ。なのでBDRがいらない、と。
そういうことだ。
なお、DISの選出はOSPF同様マルチアクセスネットワークの時に行われる。
OSPFもポイントツーポイントの時はDRがなかったでしたっけ。
うむ。
じゃあ、フレームリレーのようなNBMAの時は?
IS-ISではNBMAはない。ポイントツーポイントの集合として設定される。
はぁ。DISありのマルチアクセスネットワークか、DISなしのポイントツーポイントの2択ってことですか。
■ リンクステートパケット
さて、IS-ISのルーティング情報の交換の話を始めるが。
まず、どのような情報がIS間で交換されるか説明しよう。使われるパケットはPDUと呼ばれる。
ぴーでぃーゆー。
IS-ISで使われるPDUはいくつか種類がある。
LSP | リンクステートパケット | リンクステート情報の配布 | Level1 LSP |
---|---|---|---|
Level2 LSP | |||
Hello PDU | ハローPDU | 隣接関係の確立と維持 | ESH |
ISH | |||
Level1 LAN IIH | |||
Level2 LAN IIH | |||
PtoP IIH | |||
PSNP | パーシャルシーケンスPDU | リンクステート情報の要求・確認応答 | Level1 PSNP |
Level2 PSNP | |||
CSNP | コンプリートシーケンスPDU | リンクステート情報データベースの配布 | Level1 CSNP |
Level2 CSNP |
[TableRT26-01:PDU]
う? ううぅ?
LSPとHelloはなんとなくわかりますけど。PSNPとCSNP?
主にDISとのデータベースの同期に使用されるPDUだ。
LSPとどう違うんです?
LSPはリンク情報の通知だな。
あくまでもリンク状態の変更時などに使われるPDUだ。一方、PSNPとCSNPはその後の同期に使用される。
なんか、OSPFと違って変な感じですね。
そう感じるのも無理はないな。
このPDUだが、固定長のヘッダと可変長のTLVから成る。
[FigureRT26-03:PDUの構造]
てぃーえるぶい?
細かく説明すると長いが、大体IS-ISヘッダとTLVには以下の値が入る。
IS-IS Header | TLV |
---|---|
|
|
[TableRT26-02:PDUのヘッダとTLV]
IS-ISヘッダでのポイントはまず、シーケンス番号だ。
シーケンス番号? TCPでもありましたよね。
うむ。IS-ISのシーケンス番号はTCPのものと違い一種のタイムスタンプの役割を持つ。
タイムスタンプ?
それが作られた時間を示すものですよね。
そうだ。シーケンス番号は時間ではないが、より新しいシーケンス番号を持つLSPが有効になる、ということだ。
古いシーケンス番号を持つLSPは情報が古い、ということだな。
ははぁ、それでタイムスタンプ、と。
うむ。実はOSPFでもLSAにシーケンス番号がついているのだよ。
あとは、そうだな。IS-ISのLSPには有効期限が設定されている
LSPに有効期限?
うむ、この有効期限が切れたLSPはデータベースから消去される。
デフォルトでは20分(1,200秒)だな。
消去されたらどうなるんです?
リンクが切れてしまいますよね。
その場合は、データベースの同期が行われ、新たなLSPを要求する。
うぅ〜ん。なんか「データベースの同期」って言葉があちらこちらででてますけど、どんなのなんです?
うむ、ではそれは次回にしよう。
今回はここまで。
あらら。
…。
どうしました、博士。
今回はなんか真面目にやってしまったな、と思ってな。
いやまぁたまにはいいんじゃないですか?
……、しっくりこないな。
はいはい。
30分間ネットワーキングでした〜♪
- DIS
-
[Designated Intermediate System]
代表中継システム。
- PDU
- [Protocol Data Unit]
- PSNP
-
[Partial Sequence Number PDU]
Partialは「部分的な」「不完全な」
- CSNP
- [Complete Sequence Number PDU]
- TLV
- [Type,Length,Value]
- 有効期限
- [Remaining Lifetime]
- ハイパーネット君の今日のポイント
-
- ルータのレベルによって持つデータベースが異なる。
- ルータのレベルによってやりとりする情報が異なる。
- OSPFのDR同様、LANにはDISが必要。
- 優先順位が高い、MACアドレスが大きいルータがDISになる。
- DISとは関係なく、LAN内すべてのルータは隣接関係を結ぶ。
- BDRは存在しない。
- LSP、Hello、PSNP、CSNPの4種類のPDUが存在する。
- 固定長のIS-ISヘッダ、可変長のTLVからPDUはなる。