古今東西、いろいろな作品に音楽が登場する。中には、きっちりみっちり音楽を描写してくれている作品もある。
しかし、中には「ちゃんと取材したのか、ゴラア」と書籍を投げつけたくなるような作品もあることも、事実である。
水田恐竜『まりんスクランブル』には、「ベートーベンの第9」が描写されている。そのシーンが、「実際に取材したと思しいが、不正確である」と、
すでに私は、本サイトのどこかで既述した。
また、たとえ描写してあったとしても、さそうあきら『マエストロ』の指揮者「天道徹三郎」の口癖のように、「まるで血の通わぬ陰茎のような音楽」と
酷評されても致し方ないクソでタコで救いようのない描写に堕している作品(一例:『のだ*カンタービレ』)があるのも事実である。
さて、まず、書籍の方、すなわち水無月すう『そらのおとしもの』第五巻を検証してみよう。
その中で、「私立の学校」が「ドヴォルザーク交響曲第9番『新世界より』」を「演奏する」ことになっている。……少し待って欲しい。
もしも、その曲が「ドヴォルジャーク交響曲第9番ホ短調作品95『新世界から(アウス・デア・ノイエン・ヴェルト、ズ・ノヴェホ・スヴェタ)』」ならば、そのオーケストラ編成は、下記のとおりになるはずである。
- 第1楽章……
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン2、バストロンボーン1、ティンパニ(ラ・ミ・シの三つ)、第一バイオリン、第二バイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス
- 第2楽章……
フルート2、オーボエ2(困ったことに、こっそり「コルノ・イングレーゼ(イングリッシュ・ホルン)」と書いてある。ということは、オーボエ奏者は(一人で良い←「ソロと指定」)オーボエとイングリッシュホルンを持ち変えねばならない)、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン2、バストロンボーン1、ティンパニ(レ♭・ラ♭の二つ←普通は第1楽章で使った物を楽章の合間に音程を変更する)、第一バイオリン、第二バイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス
- 第3楽章……
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット1、ティンパニ(ミ・シの2つ)、トライアングル、第一バイオリン、第二バイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス
- 第4楽章……
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン2、バストロンボーン1、ティンパニ(ミ・シの2つ、ところが困ったことに、「一人で途中でシンバルに持ちかえ」などと書いてある。わざわざ持ちかえたりせず、シンバル奏者を用意することがある←ちょっとしか出ないので、ほぼ全曲をずぅぅぅぅっと待ちぼうけすることになる)、第一バイオリン、第二バイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス
……結構、問題のある編成であることが解ったであろうか? まず、シンバルは第4楽章に一瞬(といって良いぐらい短期間)しか登場しない。また、トライアングルは第3楽章しか出ない(まあ、そういった曲は、山ほどある)。
さて。問題は、原作版の『そらおと』である。
- ページには、ティンパニが6個見える。中学生程度だと、曲の合間に音程を変える事は、難しい。したがって、予め全楽章分の音を揃えるというのは解る。……しかし、「新世界」に必要なのは、「ラ・ミ・シ・レ♭・ラ♭」の5個で足りるはず。……残りの一つは何か? ……意外と、破れた時の予備かもしれない。
- ページ内の別のコマでは、女子がフルートと思しき楽器とピッコロと思しき楽器を演奏している(隣でトロンボーンを演奏しているが、上述のとおり、これは正しい)。……ピッコロ? どこ? 実は、フルートという楽器は、ヘタクソが鳴らすとヘタクソな弦楽器のように聞こえる。おそらく、コンマス? がアレンジをして、高音部はピッコロに、委ねたのであろう(ここでも水無月すう氏の画力については、あえて言及しない)。
- その他、多数の「用途不明の楽器」が見られる。
- タムタム(銅鑼)。チャイコフスキーの悲愴などでこっそり使われるが、新世界に見当たらない。
- 正体不明のキーボード
- マリンバと思しき楽器
- ビブラフォンと思しき楽器
- サキソフォンと思しき楽器(トロンボーンを私が見間違えたのかもしれない、がここでもあえて水無月すう氏の、後略)
- 大太鼓・小太鼓
- ハープ(第2楽章、通称「遠き山に日は落ちて」にでもアレンジして使うのか?)
「そらおと」を執筆時、「新大陸」という曲を水無月氏は探したのだろう。しかし、なかった。そこで、「新世界」を持ってきたと考えられる。
一方、アニメーション(DVD第10話)のほうの「そらおと」であるが……。
こちらは、なかなか凝っている。一応、「新世界」第4楽章が少しだけ、鳴る。しかし……うーーーん。
まず、動きを立体モデルにしたためか、それとも制作者側に「空飛ぶパンツ」ほどの「こだわり」がなかったのか、編成がきわめてチャチである(もっとも、中学生によるオーケストラといえば、それだけでもマシと言えるが)。オーディオコメンタリーではスタッフ+声優が「すごい」と感嘆していたが、はっきり言って前述「天道」氏ではないが、「血の通わぬ陰茎のような音楽」である。まず、ボウイングが手ぬるい。指揮者は音に合わせて動いているだけ(まあ、コンマスの方が偉そうなので、指揮者は形だけなのかもしれないが)。せめて、『ブラブラバンバン』の「名門校」顧問の先生ぐらいの指揮はできないか?
それから、確か第一主題の終わりでウヤムヤにした(後続のイカロスの歌のほうがメインだから致し方ないが)せいかもしれないが、画面と金管の動きが合わない。「本物のオケのビデオを参考にした」と言っていた割には、「迫力」が全然伝わらない(多分、こういった時に参考にすべきなのは、カラヤンがプロデュースしたビデオだろう。カラヤンは下手なカメラワークされると【怒る】。そして、あろうことか、ベルリンフィルを自分でカメラワークを指示してビデオ録画したりした。のみならず、オペラを指揮する際は、舞台演出にまで細かく指示をした)。……せめて、総譜を見てから、コマ割りして欲しかったものである。
なお、本当に余談であるが、第一主題の提示で、弦楽5部は全員、トレモロ奏法になっているはずである。すなわち、弦楽器は全員、弓が激しく動いているはずである。
……とまあ、いろいろ重箱の隅をつついてみたが、この程度のズレは、どのような作品にもある(さすがに映画『砂の器』にはなかったが)。
もっとヒドイ例もある。
大昔のタツノコプロが出した『新造人間キャシャーン』である。
その中のエピソードに、盲目の少女がチャイコフスキーのピアノ協奏曲第一番を弾く、というシーンがあった。ところが……3拍子の出だしに、なぜか指揮者は4拍子(?)。もちろん、弾いているキーは、全然めちゃくちゃ。「そんな細部は、どうでも良い」というメッセージが充分に伝わるシーンであった。
ところが、「そらおと」の場合、「こだわった割には、ぜんぜん伝わらない」という仕掛けが山ほど見られる。リアルなコーラ瓶・リアルな旗・リアルな「お好み焼き」……。
まあ……とりあえず、今はΔも気になるけれども、Ζが気になって気になって仕方ないのですが(何だそりゃw)。
とりあえず泥酔状態で独り言を垂れ流して・・・
以上(爆)。