10 ドレスコード

報告者:川元、和田

課題図書

① 坂東眞理子・女性の品格-装いから生き方まで(PHP新書418)2006
② 中野香織・スーツの神話(文春新書096)2000
③ 萩原伊玖子・エレガンスの磨き方-パリ伯爵家のマナーブックより(小学館101新書029)2009
④ 鈴木由加里・女は見た目が10割-誰のために化粧をするのか(平凡社新書333)2006
⑤ 落合正勝・ダンディズム―靴、鞄、眼鏡、酒…(光文社新書082)2003

課題図書の紹介

① 坂東眞理子・女性の品格 序:★★ 破:★ 急:★★★
内閣府初代男女共同参画局長であった著者が「有能な中間管理職を目指す女性でなく、真のリーダーとなる女性になってほしい」との思いから書いた本。「品格ある生き方とは何か」について、具体的な日常生活での振舞い方と生き方考え方の両面から述べている。
第1章から第7章までの各章では、それぞれ「マナー」「言葉と話し方」「装い」「暮らし」「人間関係」「行動」「生き方」においていかにして品格を高めるかが語られている。「特にこれから仕事をし、社会で生きていく女性たちの参考になれば幸い」とあり、職業を持つ若い女性を念頭において書かれていると考えられる。とはいえ、普遍的な教訓ととれる記述も多く、性別・年代問わず多くの人が参考にできる内容だと感じた。
装いに関しては「人間の内面の品格を判断するのは難しい」「現実は包み紙で中身を判断されることが多く、またどういう包み紙を選ぶかも本人のセンス、才能の一つ」と書かれている。
 本書は2006年の発売以来、300万部以上売れたベストセラーである。通販サイトのレビューを見ると、約180のレビューが書き込まれており、評価が大きく分かれている。品格とは何なのか、考えさせられる本であった。

②中野香織・スーツの神話 序:★ 破:★★ 急:★★
 本書は、チャールズ2世の衣服改革宣言によるスーツの原型の誕生から、現在のビジネス・スーツの直接の先祖であるラウンジ・スーツの原型の誕生まで、男性性を背負ったスーツの進化の歴史を記述したものである。現在のスーツが誕生するまでには、男はいかにあるべきかという理念と、その理念を体現する衣服をめぐって社会背景と絡み合った複雑な対立と駆け引きと妥協の歴史があったという。
服装で自分を体現する、というのは現代に生きる私たちも共感できるのではないか。また、スーツが「制度の暗黙の枠組みをきちんと守れる男であることを表明する、個性を打ち消した装わない服」である、という指摘も興味深い。  

③ 萩原伊玖子・エレガンスの磨き方 序:★★ 破:★★ 急:★★
 1960年代にフランスに留学してダルバス伯爵らから「本物のエレガンス」を学んだ著者がマナーについて語った本。「国や場面によって細かな違いはあっても、その原点は相手への思いやり」だという。フランスでのマナーや見習いたい風習が書かれている一方、日本のよさについても触れられている。
服装に関しては「重要なことは、その人が何を着て何を身に着けているのかではなく、何をしていて、つまりどう生きて、何をなし得て、何を語れるか」であると指摘している。

④鈴木由加里・女は見た目が10割 誰のために化粧をするのか 序:★★ 破:★ 急:★★★
本書では「キレイ・イデオロギー」と女性との関係性について述べられている。女性はいつまでも「キレイ(=若く美しい状態)」であり続けなければならないという価値観に取り込まれているのではないかという疑問の下、女性が美を追求するための手段や化粧品会社の販売促進の例が挙げられている。また女性にとって化粧は「礼儀」、つまり縛りの厳しいものであると考えられてきた社会の中で自分なりの美しさを自由に楽しむことはできないのだろうかと述べられている。「自分のために化粧をしている」と言いつつも社会に認められるために化粧をしている女性が自由に美を追求することは難しいのではないかと思う反面、若さを最も重視する価値観に疑問を持つのには共感できる。

⑤ 落合正勝・ダンディズム 靴、鞄、眼鏡、酒… 序:★★ 破:★ 急:★
ダンディズムとは「洗練された『だてしゃの様式ないしは行動』」であると本書で定義されている。様式は衣服のみならずあらゆる趣味嗜好において首尾一貫していなければ意味がないと筆者は述べている。「お洒落」・「酒と食」・「遊び」の3分野についてダンディズムを身に着ける方法が指南されている。本書で紹介されている、流行には背を向けて(女性の目を気にせず)自分のスタイルを追求する姿は一見偏屈なようにもみえる。しかし、自分を知り自分にふさわしいスタイルを作り上げるのは一朝一夕にできることではなく、集中力を要する作業であると考えられる。

コメントⅠ

①、③、⑤は個人の経験に基づいて書かれた指南書である点で共通している。③は人生を豊かにするためにマナーを伝えるものであり、日本人全体を対象とする。①は働く女性を読者の中心に据えながらも、老若男女問わず当てはまる記述が多い。⑤では著者個人のこだわりが語られ、著者流のダンディズムに憧れる一部の人に向けて書かれているようにもとれる。よって、対象範囲の広さは③>①>⑤であろう。④はキレイを押しつける「キレイ・イデオロギー」について多方面から述べているが、個人の主観による記述が多く、史実や統計に基づく分析は行われていない。②は「スーツ姿はなぜ人に信頼感を与えやすいのか」などについて歴史を根拠に説明した本で、今回の5冊の中では最も学術的な本である。
 また①、④は女性、②、⑤は男性を中心に書かれているが、男性向けの本については、②ではスーツを「個性を打ち消した」服としているのに対し、⑤では「自分だけのスタイルを装う」ことでダンディズムを追求するという一見正反対なことが述べられている。しかし、男性の服装に関して伝統とオリジナリティを重視するという姿勢は両方の本に共通しているといえる。
女性向けの本については、①では「現実は包み紙(=服装)で中身を判断されることが多い」、また④では「化粧は、まずは女性としての礼儀あるいはたしなみとされてきた」と述べられている。女性の服装は他者との関わりの中での機能に重きを置いているといえるだろう。

 

コメントⅡ

どのように装うかは人々の自由である。その一方で、TPOを弁えた装いが求められ、「マナー」として重視されているのも事実であろう。マナーを守らない者に対する直接的、間接的な社会的制裁という点を考慮すると、装いに対するマナーの力は法による強制より大きいかもしれない。ここでマナーと法との境界線のようなものがどこにあるかが問題となる。法として整備すべきものと、マナーとして各人の判断に任せるものがどのような基準によって分類されてきたのか考えることは大変意義深い。
また、夏にスーツで働くなど、必ずしも合理的ではないがマナーだからと多くの人が従っているものもある。行政としては、クールビズの推進など人々の意識に働きかけることで、合理的でない風習や固定観念にとらわれず自由に装えるよう努める必要があるかもしれない。

ディスカッションの概要

装いに関するマナーについて話したのちマナー全般についてその意義を考え、それをもとにマナーと法の関係について議論した。
最初に、身近な服装規定について話した。リクルートスーツを着る理由について、無難・楽だから、という意見のほか、ビジネス社会への適応力を示すためだという意見も出た。就職後の服装に男女で差があることについては、男性が伝統的にスーツを着用してきたのに対し、女性がそれをそのまま受容せず新しい装い方を生み出しているからではないか、という意見が述べられた。
 次に、服装に関連する体験を共有した。女子大で新入生を勧誘するにはお洒落であることが要求された、服とスクールカーストが結びついていた、どんな服で成人式に行ったかSNSで知人に知られるのが心配だった、など様々な話が出た。場にそぐわない服装でマイナスの評価を受けるかどうかは、社会がそれを許容するかどうかによるようである。
 その後、マナー全般について話を広げた。マナーを守るのは一緒にいる人の気分を害さないためであり、それを面倒に感じるのはその形式や意義を理解するのに時間がかかるからではないかという意見が出た。また、複雑なマナーはそれを身につけていない人を排除するための判別式となる、という見方も示された。
 最後に、マナーと法の関わりについて議論した。マナーと法の違いを整理したところ、法は基準が客観的・画一的だがマナーは主観的で曖昧である、という意見が出た。また、法は権利を守るため、マナーは人々が気持ちよく過ごすためにあり、法が規制できない部分をマナーが補っているのではないか、という考えも述べられた。そして、喫煙に対する規制を例に、マナーを守らない人が多いと法で規制されるなど、マナーと法には相互に関係しているのではないか、という見方が示された。それに対し、法規制をするかどうかには国の意図が働き、政府にメリットがないと立法されないのでは、という意見が述べられた。
 マナーと比較して、法には明確性がある、裁定者がいるなどの特徴がある。ただし、成典法・慣習法など法にはいくつかの種類があり、マナーに近い法もある。つまり、マナーと法は連続性のあるものであり、その境界は単純ではないと考えられる。