6.宗教
報告者：太田、野島
課題図書
�）楝捨親鵝愨真清気醗貎清機戞粉簀反圭顱�2005）
��井上章一『キリスト教と日本人』（講談社現代新書、2001）
��なだいなだ『神、この人間的なもの』（岩波新書、2002）
�じ淕擺嫁掘慙’ 戞粉簀反圭顱�1994）
�ス�藤庸子『宗教vs.国家』（講談社現代新書、2007）
課題図書の紹介
�）楝捨親鵝愨真清気醗貎清機戞 ―�：★★★ 破：★★★ 急：★★
シュメール人から古代末期に至る宗教社会について，人類史という観点から考察した書。宗教・信仰生活における人々の心性に関心を持つ筆者は、神学上の議論に対しては謙抑的である（pp.42など）。タイトルの多神教から一神教への流れは本書を通底しているが、それは同時に古代史における宗教という力の要素の大きさ（pp.72など）を明らかにする作業であり、一神教という現象の特殊性を明らかにする作業でもあった。各章で引用される神話は人々の生き方の根底にかかわっているとされ、神々も民族に固有のものではなく、習合され、取捨選択を受ける存在であることが実証的に明らかにされていく。だが、それ故にこそ、唯一神信仰者の集団の形成に対して謎が湧き上ってくる。それは従来の文献史学や社会心理学の観点だけでは説明が不十分な「なにか」（pp.169）を語る必要を筆者は感じる。結論的には筆者は<二分心>という仮説を用いて説明を試みる（pp.174）。現代における科学的思考を古代の神話的思考と対置する筆者と、現代人の視点に立って神話の主張を荒唐無稽なものとした東浩紀との対比や、心性を総合的に理解しようとする筆者とテクストを構造分析する小森陽一との対比は興味深い。様々な方法を用いて宗教に関わる人間について語る方法は見事と言うべきだろう。（太田）
本書は、副題として示されている「古代地中海世界の宗教ドラマ」を追う中で、多神教が広がっていた世界に一神教が勃興してくる過程を考察したものである。6つの章ではそれぞれ、エジプト、ギリシアなど特定の地域に焦点が当てられる。そして、全体としては古代メソポタミアにおける信仰のおこりから、キリスト教など一神教が誕生し広がるまでの神々のありようを概観している。
著者は、一神教が生じた背景として、1）アルファベットの普及によって自ら思考・分析することが可能となったこと、2）社会的な危機・抑圧の中で、神の声が呼びかけてくるのを穏やかに待てなくなったこと、の2つを挙げている。このような背景のもとで、道徳に寄り添って生きることを望んだ人々は、道徳を支える存在として超越的・普遍的な唯一神を求めたのだ、というのが本書における1つの議論である。
アルファベットの成立といった文字の統一化と各地で見られた神々の習合を結びつける見方はなかなか興味深い。
ただ、ここで論じられているのは、多神教世界に一神教が生じてきた課程だけではない。本書は、古代地中海世界における人々の生活と神々のあり方について幅広く触れており、古代地中海世界の宗教史に関する概説書としても楽しめる1冊である。（野島）
��井上章一『キリスト教と日本人』 序：★ 破：★★ 急：★
我が国におけるキリスト教の受容について、研究者に見捨てられがちであった俗説の数々を引きながら説明した本である。地名などを基にした密教と景教（ネストリウス派キリスト教）の関連性の示唆や、キリシタンに対する謀叛者や妖術師としてのイメージなど、まさに「珍説奇説」の数々が紹介されている。
本書では、これらの俗説の元となった蘭学者や研究者の主張にも触れられているが、いずれも十分な論拠のあるものではない。ある種の思想史としてはおもしろいものの、結局のところ「珍説奇説」の紹介に留まっている。著者のキリスト教観や、キリスト教波及の実態に関する記述があまり見られないのが少し物足りなく感じられた。（野島）
��なだいなだ『神、この人間的なもの』 序：★ 破：★★★ 急：★★
精神科医が狂気との関係という観点から宗教を考察した書。二人の精神科医の対話形式を採る。最初に神への信仰の性質を明らかにし、精神科医やイデオロギーとの類似性を指摘する。次に宗教の機能の観点から、不安への治療としての側面を明らかにする。その上で個人だけでなく時代が狂うという観点に話を広げ、狂気と正気の規定は時代によって異なることを明らかにする。そこで現代における狂気の治療に話を戻し、治療という観点が持つ迫害性を明らかにする。このような考察を基に、精神科医に習慣という分別を超えるように提言して終わる。精神医療の営みを相対化しながら、非常に読みやすい文体で書いた筆者の筆力は見事である。（太田）
�じ淕擺嫁掘慙’ 戞 ―�：★★★ 破：★★ 急：★★
作家が蓮如の持つ「ふしぎな魅力」を追求してその人生の軌跡を具体的に記述した書。親鸞との対比によって記述される。出生にまつわる二つの業によって導かれる蓮如の情緒的、感傷的、非合理的な部分を人間というものが罪深い存在だと身を以て表しているとして肯定的に評価する。蓮如の平凡な言葉による行動的な布教は一方で親鸞の同朋精神を押し広めるが、他方でそれを徹底して女人成仏という大胆な価値転換を導く。だがその結果、連帯を志向する民衆が講の門徒として組織化され、旧来の宗教教団への脅威となると同時に、蓮如自身もそのエネルギーに翻弄され、俗化する。聖と俗の絡み合った人間としての蓮如を理解しようとする筆者の手法は鮮やかである。（太田）
�ス�藤庸子『宗教vs.国家』 序：★★ 破：★ 急：★★★
フランスにおいて、ムスリム学生のスカーフ禁止に関する議論が紛糾したことは記憶に新しい。本書では、「政教分離」にいたるまでの、フランス革命から第三共和政期にわたる共和主義者−カトリック教会間の争いの歴史が綴られていく。
冒頭に引用された、「西洋の『人権』という観念から言いますと、人権というのはまさにキリスト教と政教分離の大闘争をやって闘い取ったものだという認識です。」という文章には、日本とフランスにおける「人権」観の差異が如実に表れている。
教育において修道院勢力が排除されるに至る過程を見ていくと、闘争の末に教室の十字架が外された歴史と現代のスカーフ問題に通底するものが感じられて興味深い。（野島）
コメント��
5冊の関連を考えると、宗教の教義を論ずるものではなく、そこに関わる人間について論じたという点で共通している。5冊を様々な方法で以下分類する。通史的な方法論について言及する�´�と各時代での状況を論ずる�↓きァ３鞠阿�時代と共に変化することを前提に当時の人の心情に迫った�´きイ噺什澆了訶世�ら過去の事象を評価した�↓�。教典化以前の宗教について考察する�´�と教典化後の宗教の変遷について考察する�↓きァＡ斡畭紊砲弔い届世犬伸´↓い閥畭絨聞澆砲弔い届世犬伸��イ覆匹諒�類が考えられる。5冊それぞれについて著者の専門とする分野は異なるが、共通して宗教と人間の関わりについて論じている点は興味深い。ただ、現代日本や教義について論じたものがないので、そこは補充する必要があるだろう。
今回は各回で出てきた論点との関わりも強い。言語学は神話的論理についても言及している。ハラスメントにおいて論じられた上下関係の流動性は�，抜慙⊃爾ぁＢ真清飢爾任藁�動的であった上下関係が、一神教になると固定化する。他者において論じられた他律は�◆⊇乎墜發任瞭渦衆砧呂廊�に対応する。キャラクター小説に言及した東の神話論は�，般声�的に衝突する。文学作品を論じた小森の提示した性道徳やジェンダーの問題は宗教との関わりが深く、�´きイ婆声�的に論じられている。
コメント��
法と宗教の関係の歴史は法の歴史と密接不可分な関係にある。それは�，能ゞ気寮�質により秩序の維持の方法が異なるということからも明らかである。司法権が主権国家により独占されている現代日本と多元的秩序を特性とする法体系（イスラーム法等）の対比もこれを示唆すると考えられる。
また、イスラーム法と西洋法の主要な違いの一つとされる政教分離については�イ�主題的に論じるが、共に政教分離国である日仏の対比は興味深い。国家からの自由と国家による自由の対比であるが、�イ量簑蠶鶺�である宗教的標章法第1条「公立学校、コレージュおよびリセにおいて、生徒がこれ見よがしとなるように自己の宗教への所属を表明する標章を着用することは、禁止される。校則は、懲戒手続の開始の前に生徒との対話が行われることを明らかにする」という条文は日本国憲法下ではどうなるか。これと対比する形で、破壊的宗教団体の犯罪やカルト集団の跋扈も挙げられる。それぞれのカテゴリーに何が該当するかは自明ではないが、��の宗教の機能分析によれば、宗教集団に属することで信者は安堵感をもたらされる。その行き過ぎが社会に悪影響を及ぼすこともあるが、むやみに抑圧することは信教の自由との兼ね合いから難しい。また、宗教団体から個人の良心を擁護するという観点もありえて、問題の根深さを表している。なお、仏ではセクト規制法（アブー・ピカール法）が制定されている。
�，砲茲襪醗貎清気凌世録瓦瞭發砲泙覇�り込むとされ、道徳律を形成するとされる。これを法の問題に引きつけると、動機に対する内面的な強制である徳と行為に対する外面的な強制である法というカント『人倫の形而上学』などに代表される法と道徳という一大論点に関わってくる。民訴196、197条に典型的に見られるように「信仰の核心部分と密接に関連する真しなもの」（神戸高専事件）などを事実認定する裁判所は内心に介入していると解され、法が本当に外面的かは論点になりうる。また、宗教的思考や儀式は現代日本においても、人々に内面化されていると考えられ、それが法に影響を及ぼしているかもしれない。例えば昔話に現れる神道的な思考と法の関係である。
ディスカッションの概要
前半の議論においては、発表者の提示した書籍の分類に関する質問がはじめに寄せられた。近代／前近代の区分については、おおむねルネッサンス期（西欧）、明治維新期（日本）とした上で、近代における変化として、人文主義の勃興や精神医学の成立、政治のあり方の変化といった見方を提示した。
続いて、なだいなだ『神、この……』における「狂気」について議論が交わされた。ここでは、ヤスパースによる「了解」の可否を基準とした「狂気」の判定も紹介され、いったい誰が「了解」の可否を判断するのか、治療者の判断は客観的と言えるのか、といった疑問も表明された。
これらのほか、前半の議論では、コメントに関連して「課題本の歴史学と従来の歴史学の方法論上の差異」や「課題本における教義の扱い方」に関する質問があった。
後半の議論においては、宗教の性質に関する議論が行われた。はじめに、宗教の性質として、事実・世界の説明、規範・善悪の説明という2つが提示され、どちらが先に成立したかという質問が出された。
この質問に関しては明確な結論が得られなかったが、この2つの性質を法学における価値判断・事実判断とそれぞれ関連づける視点も提示された。宗教は事実の説明と価値判断の両方を持つが、神話には価値判断があまり表れない。一方で、法律においては、成立の段階ですでに事実認定がなされており、もっぱら価値判断が行われる、といった意見が交わされた。