2.ハラスメント・いじめ
報告者：高山、西
課題図書
�‘眛Ｄ�雄『いじめの構造』（講談社現代新書、2009）
��安冨歩、本條晴一郎『ハラスメントは連鎖するー「しつけ」「教育」という呪縛』(光文社新書、2007)
�Ｋ�田正義『DV(ドメスティック・バイオレンス)―殴らずにはいられない男たち』(光文社新書、2001)
�ざ盪匆躾叩慍�れる男たち』（岩波新書新赤版、2006）
�シ�谷早智子『家庭モラル・ハラスメント』（講談社＋α、2008）
課題図書の紹介
�‘眛Ｄ�雄『いじめの構造』（講談社現代新書、2009） 序：★★ 破：★★★ 急：★★★
本書では、「学校のいじめについて、分析を行い、『なぜいじめが起こるのか』について、いじめの構造とシステムを見出そうとする試み」（p.3）がなされている。
このようなテーマのもとで、いじめをするものが何を得ようとしているのか、またいじめを傍観するものがなぜそのような行動をとってしまうのか、そしていじめられているものがどうしてそこから抜け出せないのかなどについて、実例を交えながら、説得力のある分析を行っている。また、それらの人々によって作られる学校の構造を「群生秩序」と名付け、システムの面での分析にも力を入れている。
構成としては、1章から３章で、いじめを引き起こす感情や心の動きを詳しく説明し、４章でそれらの感情が絡みあうことによって生まれる、学校という空間の特殊性を分析している。そのうえで、５章では学級を基礎とする学校制度がいじめを引き起こしている可能性を示唆し、６章でこれまで挙げてきた問題点に対する著者なりの解決策について述べている。そして、最後の７章においては、このようなメカニズムの発生が学校に限られたものではなく、５章で述べられるような特徴を持つ中間集団では容易に起こりうることを示し、議論の拡張を行っている。
全体としては、「群生秩序」のほかにも「全能筋書」や「祝祭と属領」など巧みな名付けを用いて、いじめの起きる理由が分かりやすく説明されており、非常に興味深い。また、７章のこれまでの議論をほかの集団にも拡張させようとする視点には鋭いものがある。しかし、それだけに、提言される解決策が、これまでの議論に比べても説得力にかけており、机上の空論にすぎないように思われるのが残念である。（西）
学校という「聖域」でいじめはなぜ起きてしまうのか。しばしば語られる「有識者」の発言を一部援用しながら、学校の特殊性を踏まえつつ、いじめそのものの構造分析を行なうというのが本書のメインテーマである。曰く、学校という閉鎖空間における「群集」が特殊な（一般的な市民秩序では理解できない）秩序を生み出すこと（群生秩序）を背景としつつ、その内面化と暴力行為による全能感に「支配」されていくことでいじめがおこるようである。これを基本としつつ、各個人の利害関係が関わる。
また、本書では現状分析に留まらず、いじめ問題の根幹には学校制度が関わっているとして、中長期的なプランも含めた学校制度改革の必要性についても言及し、私案も示している。すなわち、教育バウチャー制の導入である。そして、これらの観念が通底する社会構造について顕在化させることの重要性も説いている。
いじめに関する事例が随所に登場していて、興味深いのと同時に理解を役立てている。一般的ないじめの構造の基本概観を示した後、利害関係というようなある種人間的な要素の考慮も必要であることを示すなど、丁寧に議論を進めているような印象を受ける。また、一見するとフーコーや構造主義的な叙述も垣間見える。
しかし、第6章以降はやや結論を急ぎすぎた感が否めない。著者自身も、長期的な計画と短期的な計画を分けて多少現実味を持たせて言及していることを考慮しても、そう言えよう。加えて第7章の内容とそれ以前の内容との関連性が見出しづらいので、こちらももう少し詳細な検討が必要だ。（高山）
��安冨歩、本條晴一郎『ハラスメントは連鎖するー「しつけ」「教育」という呪縛』(光文社新書、2007) 序：★★ 破：★★★ 急：★★
「ハラスメント」が連鎖することについて、伝播性やハラスメントの構造に触れながら論じている。「ハラスメント」とは「人格に対する攻撃」と「その攻撃に気がついてはいけないという命令」だと定義した上で、心理学的な見地からの比較的丁寧な検討を行ないながら、「しつけ」や「教育」はもちろんのこと、安易なレッテル張りなどの何気ないコミュニケーションの中でハラスメントが生じることもあることも指摘している。この流れの中で、ハラスメントが新たなハラスメントを引き起こしうるとしている。
ハラスメントとはそもそも何か、というところから論じ始めて、ハラスメントが生じるメカニズムを論理的に示しているのは非常に興味深い。アイヒマン実験やフロイト、ガンジーや『論語』など様々な分野から多様な例示がされるのも面白い。ただ、比較的緻密な分析に比して、その解決策がやや抽象的な「べき論」に終始していることには、やや物足りなさを感じてしまう。（高山）
�Ｋ�田正義『DV(ドメスティック・バイオレンス)―殴らずにはいられない男たち』(光文社新書、2001) 序：★★★ 破：★★ 急：★★
フリージャーナリストの著者がDVに直面している夫婦を取材し、その例を紹介する形式で本文を構成している。被害者側の主張のみならず、加害者側の主張にも比較的丁寧な検討を行うことで、DVを立体的に捉えることを試みている。その上で、DV防止法による刑事罰化には一定の評価をしつつも、結局のところ当人の「内面」の問題に帰着するので、そこのケア・支援が求められるとした。
たしかに様々な事例が出てきて興味深いとも言えなくもないが、前掲の2冊がいじめ・ハラスメントの問題の原因を理論的に検討していたのに比して、本書はDVの事例紹介に留まっているという印象は禁じえない。また、本書で挙げられた事例を上記の2冊で論ぜられた理論に基づいて考えて直してみることで、上の2冊の理論に対する理解が深まるような気もする。（高山）
�ざ盪匆躾叩慍�れる男たち』（岩波新書新赤版、2006） 序：★★ 破：★ 急：★★
副題が「セクハラはなぜ繰り返されるのか」となっている通り、本書はセクハラ問題を、著者が東京都の相談窓口で体験した実例をもとに考えていく作品である。セクハラ問題を女性問題ではなく、男性問題として捉えなおすという視点は、この問題の本質をついたものであろう。また、実例の解説に紙面が多く割かれているため、セクハラ加害者の相手の行動に対する解釈の異常さが浮き彫りとなり、加害者にセクハラを行っている自覚があまりにもないことに驚かされる。
一方で、相談窓口での対応の場面からは、対応者の加害者に対するイメージが交渉に影響することや、相談者との意思疎通が不十分なまま交渉が進行してしまう可能性があることなども読み取れ、リアルである反面、現状のシステムの危険さも同時に感じられる。（西）
�シ�谷早智子『家庭モラル・ハラスメント』（講談社＋α、2008） 序：★★★ 破：★★ 急：★★★
著者の結婚生活、そして離婚体験をもとに描かれる家庭モラルハラスメントの体験談が本書である。精神医学や心理学の専門家が書いている作品ではないため、理論的な面での不十分さは否めないものの、実体験が赤裸々に描かれており、非常にわかりやすく、読み物としてもおもろしい作品となっている。軽い文体で書かれているが、虐待の連鎖の問題や被害者をフォローする体制の不十分さなど、取り上げられているテーマ自体は非常に重く、この問題の根深さや解決の難しさを痛感することになる。
一方、このようなケースでは、加害者は精神障害を発症していることも多いため、同時に理論面も見ておくことが求められるだろう。どのようなものがあるかについては、岡田尊司『子どもの「心の病」を知る』（PHP新書、2005）など参照。（西）
コメント��
�△�ハラスメント問題全般をテーマにしているのに対して、それ以外の作品では、�，い犬瓠↓�ＤＶ、�ぅ札�ハラ、�ゲ板軻發離皀薀襯魯薀好瓮鵐箸班舛�れるテーマが限定されている。また、�，鉢い砲�いては学校と職場という場所の特殊性がハラスメントを起こしている可能性に特に注目している。一方で、���イ篭Δ鵬板軻發量簑蠅任呂△襪�、いずれも家庭という環境がもたらす効果に対する分析的な説明はほとんどない。ただし、テーマの違う��〜�イ砲�いて、一貫して、女性が我慢すべきという旧来の価値観が、これらの問題の原因の一端を担っていることが示唆されているのには注意すべきである。
作品の主眼は、学者の書いた�´△任蓮▲魯薀好瓮鵐箸竜�きる構造や加害者・被害者全般の心理状況の分析に置かれているが、��〜�イ任漏謄院璽垢任粒禿�事者の心情や環境の説明に置かれている。さらに、�い任浪坦下圓琉枉鐇�が強調され、理解不能な存在のように描かれているのに対し、���イ砲�いては加害者にも葛藤や複雑な事情があることが書かれており、この書きぶりの違いからはコメント�兇濃愿Δ垢襪茲Δ別簑蠅�読み取れる。とりわけ、中立の立場からの作品である���い任海譴曚匹泙任飽磴Δ里楼�象的である。
解決策の提示は�´↓イ埜�られるが、�´△把鷂世気譴襪發里呂い困譴眄眛昔呂坊腓韻襪噺世錣兇襪鯑世此△泙性イ亮詑慮海諒�が、被害者にとって役立つと思われる。
�´△亡悗靴討詫�論と具体例がバランスよく説明されているため、予備知識がなくとも、ある程度の理解や満足感が得られる反面、��〜�イ砲�いては、心理学や精神医学などの予備知識がないとハラスメントのケースを知るだけとなる可能性が高いので、事前に知識を得てから読む方がより多くの知見を得られるであろう。
コメント��
ハラスメントやいじめは、実定法から見れば、刑法上の構成要件に該当しうるし、民法の不法行為にも該当しうるであろう。また、��でも書かれたDV防止法や男女雇用機会均等法のセクハラ防止規定に加え、いわゆる福岡セクハラ事件などの判例等、法による処罰や抑止は広く行なわれている。しかし、見過ごしてはならない問題が二点ある。
一点目は上記のような司法上の問題になるのは限定的だということである。なぜなら、��曰く「ハラッシー」(ハラスメントを受ける人)はハラスメントの結果、「思考停止」に陥り、��や�イ里茲Δ法崋�分が悪かった」「こんなことはどの家庭でも同じ」など罪悪感を持つようになってしまい、訴えるという発想に至らないからだ。また、「ハラッサー」(ハラスメントする人)も�い婆世蕕�だが、無自覚なことが多い。さらに、訴訟への動きも、�，任粒惺擦痢崟三莢宗廚筺◆崟ご屬量棔廚砲茲辰謄廛譽奪轡磧爾�かかり、容易には進めがたい。いわゆる「隣人訴訟」はその好例だろう。これらのような意味で司法解決には「限界」がある。
二点目は法に基づく運営における課題である。ふだん法学を学習する際に目を向けるのは、法曹、学者、当事者の三者と言ってよい。しかし、法に基づきシステムを運営するとき、�イ領ズ�調停での調停委員や�い療堝刺楔�の労働相談窓口など、それ以外の主体が関わることは想像以上に多い。ここに問題点が内包されているのではないか。もし仮に、彼ら彼女らが専門的な知識(法的な知識も含む)をさほど持たず、自らの価値観や固定観念に基づき、「公平」な判断を下すならば、これはまさにセカンドハラスメントであり、�△任呂覆い�ハラスメントが連鎖してしまう。被害者を深く傷つけた挙句、司法解決を阻害しているのであれば、問題である。様々なアクターが持つ影響力についても検討が求められよう。
ディスカッションの概要
共通本に関しては大きく分けて、二つの議題が話された。一つ目は、学校の問題にとどまらず、中間集団全体を唯一テーマとしている７章の読み方についてであった。ここでは、この部分が全体から浮いているとして不要と考える意見や、この部分があるからこそ大人の読者もこの本で取り上げられている構造を身近なものとして感じられるのだとする意見など多様な意見が飛び交った。二つ目はこの本を自らの学校生活と比較して読んだ際、どのように感じたかという問題であった。ここでも、まさに自らの学校生活そのままだと感じたものもいれば、自分の学校生活の説明としては違和感を抱いたものもおり、様々であった。この結果、発表者が当初持っていた、公立か私立かや共学か否かなどである程度類型化出来るのではないかという考えは、学校内での先生の影響力の大小や寮生活かどうかなどその他の環境への考慮に欠けており、甘いものだったと判明した。
後半では、法・法学と関連させてこの問題について語り合った。まず、ハラスメントを受けた結果、法的な手段に訴えるという発想に至らない被害者や、当該行為がハラスメントだという認識がない加害者が多い中での法律の意義を考えた。これに対しては、概念の提示をすることによって、被害者自らが被害者なのだと気付くようにすることが大切なのではないかという意見が出た。続いて、法自体がハラスメントになりうるのではないかという点を検討した。確かに、法も一定の価値観や評価を他者に押しつけるものと見ることができる。そこを端緒に、なぜそれが法の場合は認められているのかや、認められていることすら間違いなのではないかというような、法の根源を問うような議論に発展した。
このほかにも、ハラスメントといじめの違いなど多様な議論が交わされ、白熱していた。