11.動物
報告者：張堂、�盆�
課題図書
�‐�山慶太『犬と人の文学誌』（中公新書 1996）2009
�∋各瞿筺悒劵箸呂覆璽撻奪箸鮨�べないか』（文春新書 439）2005
�Ｃ咯綵唹譟愼以�裁判―西欧中世・正義のコスモス』（講談社現代新書1019）1990
�ぬ釼訓箙圈悒優海畔襪蕕擦弌戞塀険兌區圭�0246H）2004
�ゾ�菅正夫『〈旭山動物園〉革命―夢を実現した復活プロジェクト』（角川ONEテーマ新書A-46）2006
課題図書の紹介
�‐�山慶太『犬と人の文学誌』（中公新書 1996）2009 序：★ 破：★★ 急：★
犬好きで文学にも造詣の深い理学博士が、幅広いジャンルの文学作品において描かれる犬の姿を通じて、犬と人の絆や犬を介した人間模様を語る、というユニークな本。
基本的な流れとしては、各作品の粗筋をある程度紹介し、適宜引用を交えつつ、そこでの犬や登場人物の描かれ方に関して著者が考察を加える、といった形で文が進んでいく。題材に用いられる作品のストーリーについては、なるべく犬を語るのに必要な限りで説明されており、読者にネタバレをしないようそれなりの配慮がなされている。全体を通して犬に対する好意的な評価が多く、著者の愛犬家ぶりが大いに伝わってくるが、犬を飼ったことがなかったり、犬に対してさほど思い入れの無い読者にとっては、少し共感を得難いのではと感じられる部分もある。（張堂）
本書は、「犬と人のいる文学誌」と題されているが、なぜ、「犬と人」なのか。自らも「犬の魔力に取り憑かれた」著者は、人類と長く付き合い、いまや人間の生活と密接な関わりを持っている犬を語ることは、彼らと共に暮らす人間を語ることにつながるとしている。こうした考えから、著者は、さまざまなジャンルの文学作品に描かれた人間の姿を、犬に着目して読み解いている。
1章から3章までは、文豪たちの愛犬家ぶりや、犬と人との絆が描かれた作品が紹介され、生涯にわたって人の心を捉えつづける犬の姿と犬に深い愛情を注ぐ人間の両者のかかわりあいについて考察している。4章では犬の祖先とされる狼について論じ、その英知を強調している。5章では、犬が人と人をつなぎ、作品中繰り広げられる人間模様を描くために効果的な役割を果たしていることを明らかにしている。6章ではファンタジーに登場するさまざまな個性を持った犬を紹介し、7章では日本犬に焦点を当てている。
著者の犬への愛情が前面に押し出されているので、本書における考察に疑問を覚える読者も多いだろう。しかし、犬を通して人間の姿を見つめ直すという本書の試みは、斬新で興味深い。また、それぞれの文学作品に読者が関心を持つようなかたちで作品を取り上げている。本書に登場する犬や人間の姿に、犬好きの読者は少なからず共感を覚え、紹介されている作品を手に取るのではないか。（柳澤）
�∋各瞿筺悒劵箸呂覆璽撻奪箸鮨�べないか』（文春新書 439）2005 序：★★★ 破：★★★ 急：★★
常識的にはまず考えられないペット食だが、なぜそれが禁忌とされているのか……「文化記号論ないし象徴人類学的」アプローチによってその謎を解き明かそうとするもの。
まず序章において「あるものへの食欲と愛欲は一見矛盾する概念のようだが、対象との一体化を求めるという点で両者は同根である」との仮定から始まり、ペット食として犬肉食（�犠蓮法�猫肉食（�蕎蓮砲了�例を、ペット愛として獣姦・異類婚（�珪蓮砲了�例を、古今東西の様々な記録から紹介する。事例はやや冗長で、過激な内容のものも多いが、時代や地域による慣習や文化の多様性が実に興味深かった。
�絃楼聞澆任狼掴世魄貳眠修靴董▲織屐爾旅渋い簗魍笋砲弔い届世犬蕕譴襦Ｃ�者曰く、人類は混沌（カオス）を自己/他者、人/野鳥獣といった範疇区分（コト分け）することによって文化秩序（コスモス）を形成し、その秩序の混乱を防ぐため、どちらの範疇にも明確に収まらない微妙な境界（リーメン）上の存在（先の例で言えば近親、ペット）を、触れてはならない禁忌（タブー）とするのだという。その一般理論が妥当することを身近な例をとって示し、ついには性文化タブーである近親相姦と食文化タブーであるペット食とを統一的に把握し、前者を遺伝的な根拠のみから、後者を功利主義的な根拠のみから説明することはできないとする説は、自らの規範意識に新たな視座を与えてくれる。�詐呂任慮渋緘稟修麓禊該�拠薄弱な印象が残るものの、“いけないこと”として無批判に受容してしまいがちなタブーを疑い、自文化中心主義的な固定観念を改めさせてくれる一冊。（張堂）
�Ｃ咯綵唹譟愼以�裁判―西欧中世・正義のコスモス』（講談社現代新書1019）1990 序：★★ 破：★★ 急：★★★
殺人を犯したブタが世俗裁判所で裁判にかけられ、有罪判決を言い渡されて処刑される。中世ヨーロッパではこうした動物裁判が広く行われていた。著者は、ヨーロッパ中世・近世という特定の社会における人間と自然との関係に着目し、現代人の感覚からはまったく奇妙な珍現象に思われる動物裁判の歴史的意義を明らかにしようとしている。
第一部では、罪を犯した動物たちが、いつどこで、どのように裁かれ、どのような刑に服したのかについて様々なケースが紹介されている。続く第二部で、著者は、人間と自然、文化と自然との関係全体の考察を経て、「動物裁判とは、自然界にたいする独善的な人間中心主義の風靡した時代（一三世紀から一七世紀）の産物であった」と結論付けている。
紹介されているケースは、どれも非常に興味深い。一方で、動物裁判について、法的側面からの考察に物足りなさを感じた。（柳澤）
�ぬ釼訓箙圈悒優海畔襪蕕擦弌戞塀険兌區圭�0246H）2004 序：★★ 破：★★ 急：★
猫は自立心が強く、飼い主に従順な犬とは異なり飼い主の思い通りにならない。また、猫は本来外で暮らす動物である。しかし、現代の日本では猫の室内飼いが奨励され、猫は本来の習性を抑える暮らしを強いられている。
本書では、獣医である著者が、猫も人も暮らしやすい環境を作るために、猫の性格や習性を尊重した上手な猫との付き合い方を提案している。
猫の飼育に関する規制の具体例や、自治体の野良猫対策の現状について触れられており、人間の秩序の中で生きる猫の姿を知ることができる。（柳澤）
�ゾ�菅正夫『〈旭山動物園〉革命―夢を実現した復活プロジェクト』（角川ONEテーマ新書A-46）2006 序：★★ 破：★★★ 急：★
日本最北に位置する旭山動物園。予算不足による閉園の危機から、一時的にではあれ上野動物園の入園者数を上回り「日本一の動物園」と呼ばれるまでに復活した、その舞台裏を園長自らが書き綴ったもの。
動物園が果たすべき社会的役割や学術的知識に裏打ちされた飼育・展示方法の重要性、さらには組織マネージメントから、人はなぜ動物園に行くのかといった哲学的な問いにまで話が進むが、どれも実体験を交えて平易かつ面白く書かれている。動物に対して真摯に向き合い、かつての失敗談や不祥事まで包み隠さず紹介するその姿勢は、単純に入園者数増を目標にするのではなく、「理想の動物園」を追求し続け、不断の試行錯誤と努力を積み重ねている結果として現在があるのだと納得させられる。（張堂）
コメント��
5冊は全て動物に関連するものではあるが、そのアプローチの仕方は共通点もあれば相違点もある。�，筬い魯撻奪箸梁緝蹴覆任△觚い版�に焦点を置き、人とともに生きるパートナー的存在として動物を捉えている。�イ任眛以�を家族同様に想う気持ちが伝わってくるし、動物を人間本位の単なる愛玩や保護の対象とするのではなく、「動物のための動物園」を目指すという動物本位で物事を考える必要性が訴えられている。�△任録�と愛の対象、��では裁判の被告として動物が取り上げられているが、他の3冊に比べより抽象的・客観的に動物を分析しており、歴史的に人間が動物をどのように捉えてきたかが論じられている。
�い禄丹紂↓イ脇以�園の園長というどちらも職業柄動物との接触が多い立場から書かれたものであり、この2冊は自己の体験に基づくプラクティカルな話題が多い。対して�△亙顕住乏惻圈↓�は西洋史学者という立場から書かれたものであり、この2冊は理論的・学術的色彩がより強いものとなっている。�，皚↓Ｆ瑛由惻圓�書いたものではあるが、飼い主という�きヅ�な視点も含まれており、両タイプの中間あるいは独特なものとして位置づけられる。
これまで扱ってきたテーマとの関連では、「認知」、「宗教」、「他者」などと通じるところが多いだろうか。また「言語学」の共通本では動物のコミュニケーションを手掛かりにして、人間の言語の性質を明らかにするなど、人間を考える上で他の動物との比較は不可欠ともいえる。5冊には上述のような異同はあれど、どれも人間と動物との関係性や共生のあり方を探るという点では通底しており、それに関して議論を続けていくことが今後の課題でもある。
コメント��
�，如峺い了僂鯆未掘⊃祐屬鮓�詰め直してみた」とあるように、我々も動物を通して「ひと」を見詰め直してみたい。特に人と動物との法的な関係性について検討を加え、今後の立法・制度論などにも触れることはできないだろうか。
・ヒトと人間と人と
「ひと」とはどのような存在なのか考える際、生物学的な「ヒト」としての側面、人文・社会科学的な「人間」としての側面、さらには法的主体たる「人」としての側面など、多方面からの考察が可能であるが、「ひと」を「ひと」たらしめる要素とは一体何なのか。動物との比較からそれを導くことができないだろうか。
・「人/物」二元論の限界
前回、人と物の厳格な区別が近代法の大きな特徴であるという先生のコメントがあったが、「人/物」二元論の分類を行うとき、動物は単なる物ではなくかといって人でもない�△任いΔ箸海蹐痢峩�界的存在」として位置づけられないか。その中でもペットはより人に近い存在であり、現代は動物の人カテゴリーへの侵入が一層進んでいるといえる。一方で動物とは対照的に人の臓器は物カテゴリーへの接近を強めている。そのような「人/物」分類にすんなり収まりきらない存在をどのように扱っていけばよいのか、「人/物」とは別に新たなカテゴリーを設ける必要があるのではないか。
1990年ドイツ民法典（BGB）に新設された§90aでは「動物は物ではない。動物は特別の法律によって保護される。動物については、物についての規定を、他に規定がないかぎり準用する。」と規定され、フランス刑法典でも動物虐待罪が「財産に対する罪」から「その他の罪」として人の臓器や胚に関する罪と同一のカテゴリーに入れられたことは参考になる。
・動物の法的地位
動物を人や物とは異なる特別な存在として認めた場合、その法的地位はどのようになるだろうか。日本では1995年の「奄美自然の権利訴訟」（アマミノクロウサギ訴訟）による問題提起が有名であるが、動物に権利や法人格といったものは認められるだろうか。理論上それが可能であると仮定しても実際にはどのような困難があるか。
ディスカッションの概要
まず『動物裁判』について、動物を裁判の客体として人間と同列に扱うことがなぜ成り立ったのか、そこから発展して動物に人間と同様の法的地位を認めることの可否、要否を中心に議論が進んだ。制限行為能力者のように一部の権利のみを認めることは可能なのではないかといった意見や動物の中でもペット、家畜、野生動物などのようにカテゴリーを分けて異なった扱いをすればよいといった意見が出た。その一方で、動物はやはり物であって、人に近づけた扱いをすることには違和感や抵抗感を覚える者もおり、『動物裁判』が行われていた中世への回帰になってしまうのではないかという指摘や、動物の法的地位を高めることも結局は人間中心主義の発想であり、真に動物のためになされるものと言えるのかという指摘もなされた。
また、人と物の二元論という現行法の分類は必然なのか、両者の中間的存在として動物を位置づけることはできないかという論点では、動物との対比で人間の臓器の法的性質についても話が及んだ。人と物を分ける基準は何なのか、そもそも人とはどのように定義できる存在なのかという哲学的な難題をも含むため、明確な答えが出ることはなかったものの、今後も議論を継続していくべき不可避かつ永遠の命題といえよう。
コミュニケーションとの関連では、動物に法的主体性を認める際に果たして動物の意思を確認する手段はあるのかということが問題となりうる。植物状態の人間は意思を確認できないが動物との比較ではどのように考えられるのか、さらに人間と動物だけでなく同じ人間同士でもコミュニケーションが常に成り立つと言えるのか、という先生のコメントも重要である。
人と物、人と動物といった分類の境界線は、脳死患者の例のように医療や科学の発達といった時々の社会条件の変動に伴い移りゆくものであるし、同種の文明を共有するかどうかという個人単位でみても変わりうるものである。そのような変動する規範や意識に対して固定的な制度でどう対応していくかという側面からも考えさせられる有意義な議論であった。