10.認知
報告者：工藤、永井
課題図書
�〆０罎爐弔漾悗海箸个隼弭諭戞粉簀反圭饋契嵌�1278）2010
�∪酲槎侏此悗海箸个肇ぅ瓠璽検戞粉簀反圭餡�版331）1986
�Ｅ亙娵邸愬Ъ韻肇僖織鵝戞粉簀反圭餡�版36）1978
�せ庵羶�宏『分類思考の世界』（講談社現代新書2014）2009
�グ太祥完賚此慳簑蟆魴茲凌翰�学』（中公新書757）1985
課題図書の紹介
�〆０罎爐弔漾悗海箸个隼弭諭戞 ―�：★ 破：★★ 急：★★
本書では、言語が思考に与える影響について、ウォーフ仮説の検討を通じて考察している。異なる言語の話者や子供を対象とした多くの観察・実験に言及していて、わかりやすく、「こんな言語も存在するのか！」と驚きながら読むことができた。
ウォーフ仮説の是非についての著者の結論は、本書でも述べられている通り、異なる言語の話者間で「相互に理解不可能なほどの思考の隔たり」が存在するとは考えにくいが、全く同じであるとはいえないかもしれない、といったどっちつかずのものであった。しかし、本書の意義は、子供が言語を学習することで、大きく認識と思考が変容すること、そしてそのことこそがウォーフ仮説の真髄であること、を指摘したところにある。特に第4章 子供の思考はどう発達するか において「同じ」という認識と言語の関係性について論じられているが、若干短絡な議論だと思われる。しかし、「同じ」という認識と言語の関係性の指摘、それを考える上で言語の獲得を考える発想は新鮮に感じた。（工藤）
「異なる言語の使い手は世界の見え方も違うのか」という問いに対し、多数の心理実験を引きながら検証したのが本書である。結論だけを示すと、言語によって世界の切り分け方は異なり（一章）、言語の違いあるいは存在は人間の認識・思考に一定程度の影響を与えている（二章、四章、五章）。しかし、異なる言語間においても一定の普遍性は存在し（三章）、異なる言語の使い手と言ってもおよそ相互理解が不可能なまでに認識が異なるということはない。自らの世界の切り分け方（認識）を自明のものと捉えず、異なる世界の切り分け方（認識）の存在を意識し、そのギャップを埋めることが、異なる二者間のコミュニケーションにおいて肝要なのである（終章）。
挙げられている具体例や実験はそれぞれに面白い。また、あえて白黒はっきりとした結論は出さず、分かることについて分かることだけ書いている筆者の姿勢には好感が持てる。しかし、ところどころに論理的な脆弱性がみられる。たとえば、本書が示す実験から異なる話者間で認識が多少異なってくるのはわかるが、それは言語が違うから認識が違うのか、認識が違うから言語が違うのかは不明である。また、類似性の概念を無批判に用いているのも危険な印象である。（永井）
�∪酲槎侏此悗海箸个肇ぅ瓠璽検戞 ―�：★★★ 破：★★ 急：★
言語も記号の一種であり、その言語が単なるコミュニケーションツールではなく芸術といてあらわれてくる瞬間をパースの記号論に引き直して説明している。
本書は生前の川本の講演録と寄稿論説をその死後にまとめたものであり、いずれも言語学や記号学を専門としない人たちに向けて平易なことばで綴られ、たいへんに読みやすい。しかし、かなり急ぎ足で筆者の関心の中核部を説明しているので、一読しただけでは呑み込めない難しい部分もある。何度か戻りつつ読み返すと、滔々と話しているようでしっかりとした論理的厳密性が伴っていることに驚かされる。永井おすすめの一冊。（永井）
�Ｅ亙娵邸愬Ъ韻肇僖織鵝戞 ―�：★★ 破：★★★ 急：★★
著者は理論物理学、情報科学を専門としており、それらの知見を踏まえて、認識という伝統的な哲学の中心問題の一つを研究している。その成果の一端を垣間見ることができるのが本書だ。
記述は簡潔であるが、数学や論理学、物理学の予備知識がないと全ての議論を理解することは難しいと思われる。しかし本書最大の指摘はわかりやすい。それは類似という概念は、私たち人間の価値体系に基づいている、というものだ。従来の哲学は「認識」と「価値」を独立なものとしてきたが、それは誤りであることを「醜い家鴨の仔の定理」（類似性を共通する述語の数で計るとすれば、すべての二つのものは同じ度合いで類似性を持っている、ということを数学的に示したもの）を用い指摘し、認識論の新たな方向を示した。影響関係はわからないが、『問題解決の心理学』『分類思考の世界』にも共通の認識が見られる。
この指摘を軸に機械と人間の比較を行い、人間特有の理知的活動の特徴をあげる部分もおもしろい。
著者の渡辺慧の学問分野にとらわれない姿勢は、とても尊敬でき、内容はもちろんのこと著者のそんな姿勢を実感できるという点でもお勧めである。絶版が惜しまれる。（工藤）
�せ庵羶�宏『分類思考の世界』 序：★★ 破：★★★ 急：★★
我々の分類思考の発露をエピソード的にたどることによって、種問題の様相を明らかにしている。ダーウィンの進化論以来、各生物は流動的可変的な存在であると分かり、種は存在しないという結論に至るはずである。しかし、我々はプラトンから二千年続く心理的本質主義を脱することはできず、種の存在に対する幻想を捨てきれずにいる。
新書にしては分厚いこの本の半分以上は分類とはあまり関係のない雑談で占められており、雑談内容は特に面白くない。また種問題に関しては、それまでたどってきた道のりや誰が何を言ったか等が羅列されているだけで、筆者の意見は明確には述べられていない。これは筆者が意図してのことではあるが、やはり筆者自身の考えた示されたほうが面白かっただろう。（永井）
�グ太祥完賚此慳簑蟆魴茲凌翰�学』 序：★★★ 破：★ 急：★
私たちは生きていく中で必ず問題に直面し、それを解決しようとする。本書では問題解決という現象は一体何であるのか、心理学の成果も踏まえつつ、明らかにしようとしている。数学者ポリアが書いた『いかにして問題をとくか』に代表される、問題解決の方法を説いた本ではない。
人間は問題解決者として、自分の目的を果たすために、記憶、イメージ、思考、それに直接問題解決にかかわる多くの機能を統合して働かせているのではないか、と著者は考えており、人間の心の活動を「何のため」という軸で一貫した説明を加えようとする著者の基本的なアイディアである。この試みはとても興味深い。
学問的な話を置いておくとしても、本書は、日常の問題解決の場面で役立つヒントを、よりよい問題解決の方法を説く本とは違う観点から与えてくれる。（工藤）
コメント��
「分類すること」は5冊すべてで重要な概念として扱われている。そして認知・認識を考える上で不可欠なものであると考えられる。では「分類する」とはどのような活動を言うのだろうか。その問いを考える上で「同じ」「類似性」といった概念が重要になるが、これも扱われている。
�，任聾生譴�思考（分類すること）にどのような影響を与えるのか、が述べられている。また赤ちゃんの実験で、同じとみなす（類似性の発見）にも言語が役立っていると述べられている。
���い任藁犹�性（�い砲�ける「種」）は分類される側にあるのではなく、分類する側にあると主張されている。そして��では、類似性は人間の価値体系に基づくとしているが、これは�イ砲�ける目的を達成するために多くの機能を結合して働かせる問題解決者としての人間像に親和する。さらに�△任蓮�中心的に論じられているわけではないが、���きイ汎瑛佑旅佑�方が読み取れる。
まとめると何らかの目的・価値を基準に類似性が見出され、分類は行われる、そして言語は直接・間接的に分類に影響を与える、ということになる。
コメント��
�＿燭蕕�の目的・価値を基準に類似性を発見し、分類するという点と、��言語が思考に影響を与えるという点から、法律を考えてみたい。
（�� ‐１）そもそも「法」と分類される対象の類似性は何であろうか。それはどのような基準によって見出された類似性だろうか。
（�� ‐２）実定法を見てみると、基本六法というように、民法、刑法、といった基礎的な分類がなされている。では実際の運用の場面において、この分類ははたして適切であろうか。例えば不法行為と刑法の関係など、具体的な問題点を指摘しつつ、考えたい。また、もし理想的な分類をするとしたならば、どのような基準に分類すべきだろうか、またその結果どうなるだろうか。
（�� ‐３）実定法は問題解決の手段としての役割があり、場面に適した法律・条文を使用することで問題を解決していく。しかし、現実の問題を事前に全て想定するのは不可能である以上、場面に適した法律がない場合は存在し、特に民法では「類推」というテクニックを使用することで問題解決を図るが、「類推」においてどこまでの類似性ならば許されるのだろうか、問題となる。そもそも法的三段論法におけるいわゆる「あてはめ」も、類似性が大きく関係しており、検討すべき問題と思われる。
（�� ‐１）特にある事実を評価する段階で、言語によって全く同じ事実でも違う評価が下される可能性を示しており、考えてみたい。
ディスカッションの概要
前半では、分類と類似性という概念を中心に議論が進められた。分類と類似性はどのような関係に立つのかに関して、分類とは何らかの類似性を重視することそのものであり、皿を分けてから割るのと割れたものを分けるのは、その先後関係が異なるだけで、類似性でもって分類している点では変わらないという意見が出された。一方で、そこには先後関係に留まらない何らかの違いがあるのではないかとの意見も出されたが、何の違いがあるのかは語られなかった。後者の立場に立つと、作為的に分けるということ自体が何らかの意味を持つことになり、区別しただけで差別になるのではという疑問にもつながる。
また、言語も目的も認知に影響を与えるが、それらはどのような関係なのかについても議論がなされた。目的という語の意味が広すぎてやや混乱したが、単に言語、目的の各々が独立に認知に影響するのではなく言語が目的に作用するのではないかという指摘がなされた。
後半においてはまず、法と分類されるものはどのような類似性でもって法とされているのかについて議論が交わされた。この点、法の共通性質は「その通用（＝規範が実現する）力をみんなが信じていること」であるという主張がされた。これは法の必要条件であり十分条件ではない。しかし、単に通用するだけでなく、その受容までもが必要かという問いはなお残った。
さらに、言語が異なると同じ事実に対しても与える評価が変わるのではないかという指摘がなされた。言語体系の違いが裁判のありように影響を与えうるのは確かだが、言語が違う国でも法体系は共通する部分は多いので、言語の違いはあまり影響を与えないのではないかとの反論もなされた。しかし、法体系が共通しているかどうかというのはどの類似点を重視するかにより評価が異なってくる。比較法研究の難しさが垣間見られた。