Perfect

〜第7話 2人の生活〜



「お腹空いたね…」
「そうだな…」

風呂から上がった2人は、リビングのソファーに座って寛いでいた。
食事も取らずに身体を重ね、ついでに風呂に入れば、時間はどんどん過ぎて行く。
「何か作ろうか?」
「大丈夫か?」
「うん、平気だよ」
ソファーから立ち上がり、ちょっと身体の状態を確かめてみると、リョーマはOKサインを出した。
「あと1時間くらい我慢できる?」
簡単で美味しい物を作ろうと考えて、調理時間を計算してみた。
「俺は平気だが?」
「じゃ、美味しい物を作るね」
ちゅっ、と手塚の頬にキスをして、リョーマはエプロンを身に着けてキッチンに入った。

まずは主食の米を洗い、炊飯器に入れる。
続いて大きな寸胴鍋やフライパンを準備し、冷蔵庫から数々の食材を取り出した。
始めに寸胴鍋に水を入れ、その中に野菜や鳥の手羽を入れて強火で煮込む。
煮込んでいる間に、人参や玉ねぎなどをジューサーに入れる。
何が出来上がるのかはこの状態では分からないが、次第に良い香りがしてきて、手塚はキッチンを覗く。
「もしかして、カレーか?」
「そうだよ」
手元のフライパンでは、牛肉とピューレした野菜に軽く火を入れていた。
「あとは、これに…」
ブランデーを取り出してフランベした。
もう1つ鍋を用意すると、その中に具材と野菜と手羽の出汁が出たスープを濾して入れる。
カレー粉やスパイスを入れて、ローリエなどのハーブを加えて蓋をした。
「…これなら大丈夫だな」
手馴れた様子に安心したのか、手塚はテーブルのセッティングをしておいた。
煮込んでいる間に、サラダを作る。
食べ易い大きさにレタスをちぎり、キュウリやトマトをカットし、缶詰のホワイトアスパラを添える。
オリーブオイルにスパイスや調味料を配合して、簡単なドレッシングを作った。
作りながら片付けもしていくので、シンク周りは常にキレイな状態のままだ。
かなり効率良く行動していた。
「さ、出来た。あとはご飯…」
炊飯器の表示を見れば、あと数分で炊き上がる。
皿やスプーンなどは先に用意してもらったので、サラダとドレッシングをテーブルに乗せる。
「国光、もう出来上がるよ」
「分かった」
する事も無かったのでテレビを見ていた手塚は、リョーマの呼び掛けにすぐに反応し、テレビを消した。
手塚がテーブルに着くと同時に、食欲が湧く香りのするカレーがテーブルの上に置かれた。
「本格的だな…」
出来上がったカレーは、家庭のカレーよりも高級感溢れるものだった。
「国光の口に合えばいーんだけど…」
彩菜の作る料理は絶品だ。
そんな料理を食べていた手塚にとって、自分の料理が合うのかどうかは、食べるまでわからない。
…本当に緊張する。
「頂きます」
「どうぞ」
ドキドキしながら、手塚が自分の作ったカレーを口に入れるのをじっと見つめる。
「……美味い、すごく美味い…」
一口食べ終わると、もう一口と口に入れ、手塚は驚いた顔をして感想を伝える。
「本当に?」
「あぁ、これまでに食した事の無い味だ。いや、これが本来のカレーの味なのだろう」
スパイスの効いた少し大人のカレー。
家ではあまりカレーがテーブルに乗る日は来ない。
祖父がいるからか、和食がほとんどになる食卓に少し飽きていたのは確かだった。
「本当に美味い。これは後を引くな…」
食べる度に何かコメントしている。
今まで一緒に食事をしていても、手塚は無表情で黙々と食べていた。
「良かった。気に入ってくれて」
「リョーマも俺なんか見ていないで、早く食べろ」
「うん」
自分もカレーを食べる。
今日のは会心の出来だった。


「明日の朝は鮭を焼くね。あとは大根と里芋の味噌汁と、ホウレン草のおひたしと玉子焼き。ねえ、これだけで足りる?」
後片付けは2人でしていた。
鍋の中のカレーは見事なまでに空っぽになっていた。
あまりにも美味しくて、手塚は自宅ではした事が無いお代わりまでしてリョーマの手料理を満喫していた。
本当に後を引く味で、リョーマが料理上手である事を実感していた。
「俺は十分だ。しかし朝からそれだけ作るのか?」
「そうだけど、別に大した事無いよ。鮭を焼いている間に、味噌汁作って、ホウレン草を茹でるお湯を沸かして、最後に玉子を焼けばいいだけだし」
カレーを作った鍋を洗っているリョーマは、料理は全く問題が無いと言う。
「朝から出来るのか?」
「いつもやってるけど…俺、弁当を持って行くし。あっ、国光のお弁当も作るね」
作らないと自分が困るだけで、これからは1人分が2人分に増えただけ。
1人分だと勿体無いので、残リ物は弁当のおかずとしていた。
「そうか、有り難いな」
手塚はテーブルを拭いた後、食器乾燥機に入れていた食器を取り出し、食器棚にしまった。

後片付けが終ると、2人は歯を磨き、リビングのソファーに仲良く腰掛けた。
「…すっごく幸せ」
大好きな人の為に食事を作って、一緒に食べる。
今日からは食事の後に離れなくてもいい。
「ああ、幸せだな」
リョーマの身体を引き寄せて、手塚はうっとりとリョーマの髪に顔を埋める。
先に風呂に入ったので、シャンプーの香りがしていた。
「今日は一緒に寝ようね」
「今日だけか?」
「これからもずーっとね」
リョーマは手塚にまるで天使のような微笑みを見せた。
これは誰にも見せない手塚だけが見られるリョーマの笑顔。
「ああ、これからはいつも一緒にいよう」
「…俺、早く高等部に進学したいな。そうしたら、もう少し一緒にいられる時間が増えるのに」
一緒にいたくても、今は高等部に通う手塚と中等部に通うリョーマ。
学校にいる間は絶対に離れてしまう。
それがどうにも悔しい。
「俺はいつでもお前だけを想っている」
離れていても心はリョーマだけにしか向いていない。
「俺だって」
リョーマだって心は手塚だけに対して向いている。
お互いに好きだという想いは負けないと自覚している。
「…もう寝るか?」
「ん、今日はどっちの部屋で寝る?」
「…俺の部屋で良いか。お前のベッドだと少し、な」
「何かあるの?…あっ、そっか…」
数時間前に熱烈に愛を確かめ合ったばかり。
そこで寝ようものなら、嫌でも考えてしまうだろう。
「じゃあ、国光の部屋で一緒に寝ようね」
エヘ、とはにかむリョーマが可愛くて、手塚は即行で抱き締めていた。
考えるよりも身体が先に反応する。
「…リョーマ、愛している」
「俺も国光だけが好き」


今日から2人の生活はガラリと変わる。
手塚にとっては自立。
リョーマにとっては1人から2人での生活。
そして2人にとっては、愛する相手との同棲生活の始まり。

何が起きても、2人で力を合わせて乗り越えていくだろう。




2人の同棲生活の始まりです。しかも短い…。
カレーの作り方はこれで合っているのかは、謎。
私は小学生が作るようなカレーしか作れませんので。
しかし、ラブラブっていいなぁ(遠い目)。
ここで終ろうと思いましたが、もう1話続きます…。