Perfect

〜第6話 初めての夜〜



「国光さえ良かったら、リョーマ君と一緒に暮らしなさいな」

それは、リョーマとの楽しい夕食の時間だった。
リョーマが大好きな焼き魚と、栄養配分を考えて温野菜のサラダや豆類を使った煮物だった。
「はい?」
「あら、聞こえなかったのかしら?国光さえ良かったらリョーマ君と一緒にあのマンションで暮らしたらどうかしら?」
「…一体、どこからそんな話しが?」
にこやかに話す母親に、手塚は間抜けな返答しか出来なかった。
出会ってから広いマンションに一人で暮らすリョーマが可哀想だからと、手塚の母である彩菜は毎日の夕食にリョーマを連れてくるように息子に言いつけていた。
言われたとおり部活が終わる頃を見計らって中等部へ迎えに行き、こうして家に連れてくるが、リョーマは食事が済めば必ずマンションに帰って行く。
丁度、リョーマのマンションと手塚の自宅とは学校を挟んで反対側になる為、毎日リョーマを送って行かざるを得ない状態になっている。
別に手塚にとってリョーマの送り迎えなど面倒でも何でも無いのだが、彩菜はどうにか出来ないかと、真剣に悩んでいた。
「リョーマ君には了承を貰っているから、後は国光の返答だけなのよ」
茶碗に盛られた白米を口に入れるリョーマを見て、ニッコリと微笑む。
何やら2人で隠し事をしているらしく、事の真相を確かめる為に、持っていた箸と茶碗をテーブルに置いて、詳しく話しを聞く体勢にした。
「…母さん、何時の間に俺に内緒でリョーマとそんな話をしたのですか?」
隣で美味しそうに食事を摂るリョーマは、さっきから黙ったままだ。
「そうね…確か3日前からかしら?」
顎に右手の人差し指を当てて、彩菜はこの話をした初めの日を思い出していた。

切っ掛けはリョーマの一言だった。

「あーあ、マンションに帰ってもつまんないな」
「どうしてなの?」
食事が済んでリビングで寛ぐリョーマにお茶を差し出す彩菜は、その呟きを聞き逃さなかった。
「だって、国光いないし…」
「国光がいないと寂しいの?」
寂しそうな表情を浮かべているリョーマに、彩菜はつい聞いてしまう。
バツが悪そうに俯くと、小さく「うん」と答えた。
(あぁ、リョーマ君って本当に可愛いわ)
ここにいない自分の息子がこんな姿を目の当たりにしたら、どんな行動を取るのかが即座に目に浮かぶ。
さっさと一緒になってしまえば、こんな寂しい思いをさせなくて済むのに、どうしてまだ高校生と中学生なのだろう。

考えた末にひらめいたアイデアが、先程の『一緒に暮らしなさいな』だった。

「俺は国光と一緒にいたいよ」
満足して箸を置いたリョーマが真剣な眼差しで訴える。
あの広いマンションで1人きり。
手塚と会う前まではそれほど気にしていなかったが、こうして出会ってしまってからは、あのマンションに1人でいると無性に空しくなる。
だから彩菜のアイデアには1つ返事で了解した。
「…本当にいいんですか?」
未成年の自分達が2人きりで暮らしていいのか?
戸惑いを隠しきれずに母親に尋ねれば、彩菜は何も言わずに首を縦に振るだけだった。
このアイデアを出したのは、彩菜自身なのだから否定するはずが無い。
「次の休みに準備をしましょう」
とんとん拍子に話しは進み、手塚はリョーマと一緒に暮らす事になった。


「後は何がいるの?」
「そうだな…」
土曜日は午前中の部活しかなく、2人は手塚が暮らす為にベッドや机などの生活家具を購入し、マンションへ運んでもらい、まずは着替えや本などを片付けた。
「料理はしているのか?」
「簡単なものは作るから、鍋とかフライパンはひと通り揃ってるよ」
1人暮らしとなると料理は面倒になるものだが、リョーマは手塚と出会う前までは朝食も夕食も自分で作っていた。
もちろん休みの日でも。
学校がある日は食堂で済ませる為に、弁当は持参しなかった。
「これでもしっかり使っているんだよ」
システムキッチンはガスでは無くて、安全な電気コンロ。
突然の停電でもこのマンションには自家発電の設備が整っているので、停電の心配は無い。

七面鳥が丸々焼けるほどの大きなオーブンに、備え付けの食器洗浄器、そしてかなり大型の冷蔵庫。
「…何を入れているんだ?」
1人暮らしの冷蔵庫の中身をイメージした事は無い。
ついつい気になってしまう。
「いろんなもの」
「見ても良いか?」
「いいよ、これから国光も使うんだから」
これから一緒に暮らすのだから、遠慮する必要は無い。
とりあえず冷蔵庫の中身を確認してみる。
「…整理されているな」
開けばコマーシャルみたいに色々な食材が並んでいた。
冷蔵室も冷凍室も手の付け所が全く無いほど、整理整頓がなされていた。
「まぁね、これで信じてもらえた?一応は向こうでも作っていたから任せてよね。でも掃除だって洗濯だって何でも出来るよ」
まるで、完璧な主婦のようだ。
「そうか、楽しみだな」
これからが楽しみだと、冷蔵庫の扉を閉めた。
それからも色々な場所を探索していた。
荷物を持ってここに来て、リョーマから「この部屋を使って」と案内された部屋は10畳の部屋で、リョーマが使っている部屋の隣。
ベッドは手塚のサイズからセミダブルを購入した。
リョーマの部屋にあるベッドはダブルサイズ。
これならどちらの部屋で一緒に寝ても構わない。
『一緒に寝る』
普通に考えれば、ただ一緒に同じベッドで『眠る』だけの行為かもしれないが、2人にはもっと違った意味合いを含んでいる言葉だ。
まだ今はキスだけの関係だけど、少し進んでみようと考えるのは、手塚もリョーマも同じ意見だった

だから2人は先に進む事を決めた。


「夕食は何食べたい?」
空が赤みを増した頃、漸く片付けが終わった。
必要以上に掻いた汗を流す為に、2人は先に軽くシャワーを浴びた。
汗や埃など汚れを全て落としてから手塚はソファーに座り、リョーマはフロアーにぺったり座り込み、手塚の膝に頭を乗せて寛いでいた。
「夕食か…」
今日は午前中に部活、午後からは片付けや買い物をしていた為、食事は簡単なものだった。
昼食は出来合い物のお弁当とペットボトルのお茶。
「まだ、時間もあるしさ」
冷蔵庫の中には数々の食材があるし、夕食くらいは豪華なものにしたい。
それにちょっとは出来るところを見せようと、リョーマは何時に無く張り切っていた。
「…俺はお前が欲しい…」
膝から顔を上げて覗き込んでいるリョーマが何とも愛しく思い、隠していた己の欲望をつい口に出していた。
「えっ?それって…もしかして」
「あっ、いや、その…」
うっかり口に出してしまった言葉を、どうにかして誤魔化そうとするが、リョーマは夕日を写したように顔を真っ赤にしていた。
「…リョーマ?」
「俺は別にいいんだよ…」
俯きながら話す声は少し震えていた。
「…何をするのか、わかっているのか?」
「わかってる。セックスしたいんでしょ?」
「セッ…」
あまりにも具体的な発言に、手塚も顔を赤らめる。
経験は無いが、聞いた事はある。
性に対して興味を抱く年頃。
クラスメイトが教室内で話していたのを耳にした。
無論、話しに加わりはしないが、後々必要になるのだからと自分に言い聞かせてこっそり聞いていた。
異性の性行為。
同性の性行為。
最終的な目的はどちらも同じなのに、様々な方法があるのだと、勉強になった。
「俺はね、国光の心も欲しいし、身体も欲しいんだよ?これって我が儘なのかな?」
もう一度膝の上に頭を乗せると、優しく撫でられた。
その手の温かさにうっとりと目を細める。
何度されても嬉しい。
「何を言っているんだ。俺の心は10年前にお前に持って行かれたままだぞ」
頭を撫でながら、艶のある黒髪を指で梳く。
少し悪戯心で首筋に指を這わせば、擽ったそうに首を竦めた。
「…んっ、くすぐったいよ」
「リョーマ」
「…何?」
くすくす笑うと、真剣な口調で名前を呼ぶから、リョーマは笑うのを止めた。
「俺達は同じ場所で同じ時間を過ごす事になった」
「そうだね、夢みたいだ」
こうして体温を感じる距離にいられるなんて、本当に夢の様だ。
「こうして一緒にいられる時間が増えた」
「うん、嬉しい」
今までは部活が終わってからと、休日だけしか一緒にいられなかった。
「しかし、俺の欲望は膨らむばかりだ」
もっと一緒にいたい。
今よりもっと近付きたい。
その方法はもうこれしかない。
「…それってダメなの?」
「…まだ早いと思っていたが、どうやら俺は自己制御が出来そうも無い。リョーマ…お前が欲しい」
「俺も国光が欲しいよ…」
座っていた身体を起こし両腕を差し出せば、迷う事無くしっかりと掴まれて、広い胸に抱かれた。

場所をリビングからリョーマの部屋に移し、2人は抱き合いながらベッドに沈んだ。
ダブルベッドは2人の重みでギシリと鳴った。
「…何か緊張するね」
「そうだな…」
緊張を解す様に、手塚はリョーマの頭を数回撫でると口付けた。
触れ合う唇がとても熱くて、何度も触れてみる。
唇がこれほど熱いのなら、身体はどうだろう?
手塚は戸惑いつつも服の裾から手を差し入れて、素肌に触れてみた。
「…あっ…」
脇腹辺りに自分のではない体温を感じ、リョーマは小さく声を上げる。
「リョーマ…」
ピクリと小さく反応しただけで、嫌がる素振りを見せないので、手塚は大胆にも服を捲くった。
「…やっ、くにみつ…」
反射的にその手を掴んでしまう。
「やはり、嫌か?」
「ち、違うよ。ちょっと恥ずかしくって…」
ごめん、と小さく呟いて手を離した。
違うと言いながらも、こんな経験は生まれてこの方初めてなので、リョーマはドキドキしてしまう。
「まだ続けても…良いのか?」
「…うん」
コクリと頷いた額にやんわりと口付ける。
驚かせないように愛撫をしながら、手塚はリョーマの着衣を脱がしていった。
「まだ恥ずかしいか?」
最後に下着を取り去ると、リョーマの裸体は手塚の瞳に映された。
全体的に子供の域から抜け出ていない身体。
しかし服を脱がした瞬間に、誘う様に甘く心まで奪われそうな香りが漂ってきた。
「恥ずかしいけど、見てるのが国光だから、いい」
言葉にも誘われる。
手塚は息を吐いて、唐突にベッドから下りた。
「…どうしたの?」
突然離れた身体に不安になり、リョーマは恐る恐る身体を起こしたが、手塚が服を脱ぎ始めた途端に顔を真っ赤に染めて再びベッドに沈んだ。
リョーマが見たのは、丁度下着を脱ぐ瞬間だった。
(見ちゃった…)
全ての部位にしっかり付いた筋肉。
なのに筋肉質には全く見えない。
初めて見た恋人の裸に、鼓動が跳ね上がる。
「どうした、リョーマ?」
ギシリと音を立ててベッドに乗り上げる。
真っ赤になって目を閉じていたリョーマは、そろりと瞼を開いた。
「国光って…」
上半身はじっくり眺め、下半身はチラリと見る。
「俺が何だ?」
「……ハダカもカッコイイね」
照れているのを隠す様に、リョーマは手塚の首に腕をまわせば、手塚のリョーマの背に手をまわす。
遮るものが無くなった2人は、初めて感じたお互いの温もりだけでかなり満足していた。
「…ん…はぅ…」
手塚はリョーマに触れ、リョーマは手塚に触れていた。
「…くっ…」
どこをどうすれば気持ち良いのかなんて、初心者の2人にはまだ知らない行為。
しかし好きな相手に自分の一番敏感な場所を触れられていれば、次第に高まっていく。
互いの先端からは先走りの透明な液が溢れ出し、互いの手をしとどに濡らす。
「…あぁ…くに、みつ…」
「…っ…リョーマ…」
お互いの声に煽られて、2人とも絶頂が近くなり、手に力を込めれば温かい体液が同時に互いの手をしっとりと濡らした。
「…リョーマ」
「…国光」
自慰の経験はあっても他人の手でなんて初めてだった。
少しだけ気恥ずかしいのか、2人とも向き合っていても視線は俯いていた。
「嫌だったか?」
「国光は?」
チラと視線を上げれば、手塚は優しい表情をしていた。
「俺は良かった」
「俺も良かったよ」
「…これ以上は無理か?」
「……ムリじゃない…」
リョーマの応えに、手塚はリョーマの体液で濡れた指を伸ばした。
途端に窄んでしまった最奥の蕾。
いきなり指を挿入するなんて無理で、手塚は周囲からゆっくり慣れし、時間を掛けてそこが綻ぶのを待つ。
「…ああっ、くにみつ…」
身体のあちこちが熱くて堪らない。
どうしたらこの熱が冷めてくれるのかが分からない。
「どうした…」
閉じていた白く細い両脚に手を掛けて開き、その中に身体を入れて、リョーマの下肢を舌で舐っていた手塚は、愛撫を止めないでリョーマの呼び掛けに応じた。
「や、熱いよ…」
「もっと、熱くしてやる」
手塚の愛撫にリョーマの体温が上昇し、熱が身体の中に溜まる。
「…ん、ふ…」
「リョーマ…」
どこを舐めても甘くて堪らない。
砂糖なんかよりも、もっと甘い。
一度達して萎えていたそこは兆しを見せ、与えられる快感に素直に勃ち上がったそれを、己の口腔に招き入れ、初めて味を知った。
…夢中になる。
内股の柔らかいところに吸い付けば、真っ赤な華が咲き乱れた。
何度も何度も吸い付いては、見事な華を咲かせていた。
「…あ、熱い…」
手塚の口腔が、触れる舌が、熱い。
自分の手も身体も何もかもが熱い。
病気の時に熱が出たのとは違う感覚。
「大丈夫だ」
再び最奥に指を這わして、周囲をなぞった後にそっと埋めてみる。
「…んっ…」
締め付けないようにリョーマは意識を下肢に集中する。
少し柔らかくなったそこは、手塚の指をゆっくりと飲み込んで行く。
「温かい…」
内壁を指の腹で擦るように刺激を与える。
「…や、あっ、ああっ」
ゆっくり慣らしてくれたおかげで、痛みは無いが、やはり異物感だけは否めない。
「痛むのか?」
「…ち、ちがッ…やぁ…」
指は知らない間に3本にまで増やされた。
その指に内部を縦横無尽に動き回られて、リョーマは声を上げていた。
(……身体の奥が…)
浅いところの動きはリョーマの思考を狂わせる。
無意識に腰を揺らして手塚の指を奥まで誘う。
「どうした?」
「…何か、ムズムズする…」
痒みにも似た、変な感覚が身体の内部から感じる。
「やはり痛いのか?」
「ううん、痛く…ない」
手塚からの愛撫に不快感は無かった。
それよりも、もっと欲しいと思ってしまう。
「…リョーマ…そろそろいいか?」
リョーマの痴態を眺めていただけで、手塚の下半身は期待に膨らんでいた。
充分なほどの硬さを取り戻し、くっきりと筋まで浮かべて天を貫かんばかりだ。
「…うん、えと、優しくしてね?」
2人共が初めてのセックス。
勢いのままだと、傷付くのはリョーマの方だ。
「あぁ…わかっている」
チュッと頬にキスを落とし、指を引き抜くと、リョーマの脚を肩に掛けて腰を引き寄せる。
自身の先端を持ち入口に宛がうと、挿入を開始した。
「…ん」
出来るだけ痛みを感じさせないように、手塚を受け入れる後孔を、長い時間を掛けて綻ばしたおかげで、リョーマは内部に入ってくる手塚を拒まなかった。
先端の一番太い部分を一気に挿入すれば、リョーマは喉を仰け反らせる。
「あああっ」
内臓を押し上げるような圧迫感に、リョーマは大きく声を上げた。
「…大丈夫か?」
途中まで挿れた状態で手塚は一旦動きを止めた。
荒い息を繰り返しながら、手塚を受け入れているリョーマを見て、居た堪れなくなってしまった。
「…ふ……だって初めて、なんだもん…でも、絶対に止めないでよ…」
腰を引きそうになる手塚の腕にしがみ付く。
これで止めてしまったら、次が“初めて”になる。
しかし毎回これを繰り返してしまったら、何時まで経っても初めてのままだ。
「わかった」
リョーマの気持ちを受け止めた手塚は再び自身の挿入を開始し、全てをリョーマの内部に納めた。
「…はぁ、お前の中はとても熱い…」
内壁は手塚に絡みつくように包んでいる。
(…お腹の中に国光のが…熱い…何かドクドクしてる…)
自分とは違う鼓動を体内から感じ、手を腹の上にかざしてみる。
「…動くぞ」
言うと、ゆっくりと律動を始めた。
「…うっ」
「……イタっ…」
きつい締め付けによって思うように動けないが、何度か繰り返していると、手塚から零れる体液とリョーマの腸液によって強い摩擦感が少しずつ和らいでいった。
初めて知った眩暈がするほどの熱さ。
気を緩めれば直ぐに達してしまいそうになる。
「…あっ、んっ…」
手塚が動く度にリョーマはとめどなく声を上げる。
歯を食いしばって耐えるよりも、動きに任せて声を出していた方が楽な感じがして、リョーマは手塚に艶やかな声を聞かせていた。
「…あっ、あああ、ん、やっ…」
それが更に手塚を煽る事になるなんて、リョーマは知らなかった。
ズルズルと体内に抽挿される灼熱の塊に、リョーマは翻弄される。
「リョーマ…っ」
「…っ、くに…みつ…」
限界が近いのか、手塚の動きが速まっていた。
単純な動きから、時々円を描くように腰を動かして、お互いの快感を引き出す。
「…あっ、や、そこ…」
ある一点を突くと、リョーマは背中を撓らせて、強い刺激から逃げようとする。
「ここか…」
「あっ、いやっ…ああっ…」
少し違う感触のする箇所を、何度も突けばリョーマは頭を振って耐えようとする。
手塚とリョーマを繋いでいる蕾は、お互いの体液に濡れて、いやらしい粘着音を響かせる。
「…はっ、リョーマっ」
「ああっ…ダメっ、も…イクっ…」
更に律動の動きを速め、手塚はリョーマの内部から一気に自身を引き抜くと、はちきれんばかりに膨らんだ先端からは白濁した液が勢いよく飛び出し、リョーマの腹や胸をべっとりと濡らした。
その何とも言い難い感触にリョーマも達していた。
リョーマの身体の上で2人の体液が混ざり合う。
「…や、熱い…」
「…はぁ、大丈夫か?リョーマ」
汗ばんだリョーマの額に張り付いた髪を払い、そこに口付ける。
「…ん、大丈夫みたい」
荒い息を懸命に静めて、にこ、と笑みを浮かべてリョーマは応える。
全く痛くなかったと言えば嘘になるが、痛みを忘れるほどの快楽の波に堕ちていけたのは真実だ。
「そうか…良かった」
言いながらも、手塚の指はリョーマの後ろにまわる。
「え?」
いきなり感じた指にリョーマは一瞬だけ緊張する。
「…少し熱を帯びているが、痛くはないか?」
傷付けていないかを、指でなぞるように確かめてみる。
血は出ていないが、体温よりもかなり熱くて、少し腫れているような感触がした。
「…よく…わからない…」
快感を引き出そうとする動きとは違うが、リョーマは次第に昂ぶる熱を抑えようと必死だった。
「風呂に入るか?」
「…うん」
リョーマの様子に気付いた手塚だったが、これ以上はリョーマの身体に負担を掛けるので、何とか自分の理性と闘っていた。
「連れて行ってくれる?」
「もちろんだ」
申し出通りにリョーマを抱えると、風呂場へ向かった。

裸のままでバスルームへ向かい、湯船に湯が溜まるまでの間は身体を洗い合う。
「少し付け過ぎたか?」
愛しい相手の身体に咲き乱れる赤い華を、満足そうにしてなぞる指。
「いーよ、別に」
服で隠れる場所にしか手塚は跡を残さなかった。
あんなに理性を無くして抱き合っていても、相手を思いやる気持ちだけは無くしていなかった。
そんな些細な心遣いに、リョーマは幸せな気持ちになってしまう。

「重くない?」
湯船の中でちゃぷんと手で湯を弾いているリョーマの身体の下に、手塚の身体がある。
「軽すぎるな」
湯の中では浮力が生じる為、体重なんてそれほど関係ないが、湯の中でなくてもリョーマの身体は手塚が軽々に抱えられるほどに軽い。
「これで、俺は国光のものになったんだね」
「そして俺はリョーマ、お前のものだ」
手塚の上で体制を入れ替えて、ぎゅっとしがみ付けば手塚の腕はリョーマの腰にまわる。
出会ってから数ヶ月。
別れてから10数年。
そして再び出会って数ヶ月。
いつもいつも想っていた。
こんな関係になれる事を。
「俺は国光とずっと一緒にいたいよ…」
「俺もリョーマと同じ時間を過ごしたい」
まるで永遠を誓うかのような台詞を2人は紡ぐ。
「じゃ、約束ね」
「あぁ、約束しよう」

リョーマが差し出した小指に、手塚も小指を絡めて笑いあった。




2人の初H話です。
恥ずかしいったらありゃしない(赤面)。