部屋のエアコンの温度を少しだけ高くする。
以前は部屋に無かったこの冷暖房設備。
リョーマと付き合い出してから、この部屋にエアコンが入った。
夏の暑さにリョーマが「耐えられない」と、言い出したので両親に頼み込んで、室内に入れてもらった。
一応、勉強に集中する為と説明したが、実際はリョーマを部屋に連れ込む為の手段なのだ。
それを知ったリョーマは、首まで赤くして手塚の胸を叩いたものだ。
「寒くないか」
「少し…」
誰もいなかった室内は、外の気温と変わらないほど冷え込み、冷たい空気が肌を刺す。
「…先に風呂に入るか?」
言葉に出していなくとも、手塚がこれから行う行動がわかってしまう。
「…ん、いい」
ベッドに腰掛けていたリョーマは、更に恥ずかしそうに下を向いていた。
「…リョーマ」
ギシリと音を立てて、手塚はリョーマの横にゆっくりと腰掛ける。
「…ね、あの本」
「後でな…」
口元に人差し指を当てて、これ以上リョーマが喋らないようにする。
指を外すと唇を重ねる。
久しぶりに感じる柔らかい感触は心地良い。
「やはり、いいな…」
「…何が…?」
触れ合うだけの口付けの合間に、手塚はつい思っていた事を口にしてしまう。
「お前の唇は柔らかくて気持ちがいい…」
「…バカ」
「馬鹿で結構。俺はお前とだけこうしていたい」
言いたい事を言うと、再び塞ぐ。
噛み付くように貪り合い、舌を絡め、息を奪うように口付けに酔いしれている。
「……は…」
リョーマから零れる言葉も吐息も、全て吸い込むようにして、没頭していた。
熱くて激しいキスだった。
「お前を見るのも久しぶりだ…」
手際よくリョーマの服を脱がした後は、自分の服も全て脱ぎ取る。
ベッドに横たえた身体に覆いかぶさり、その上から布団を掛ける。
「まだ、寒いからな」
眉を顰めるリョーマに気付き、その理由を話す。
服を脱がした時に鳥肌が立っているのを見て、手塚はまず抱き締め合う事を選んだ。
抱き締め合う事も、2人には大切なのだ。
強張った関係を修復させる為に、互いの体温を確かめ合う。
「……暖かい…ね」
しがみ付いて来るリョーマが可愛くて、その顔にキスを贈る。
ちゅっと音をさせて、額や瞼や鼻先の至る所に、今まで出来なかった分を全て埋めるように、時間を掛けてキスをする。
「ね、興奮してるの?」
キスされている間、リョーマは足に当たる手塚の堅くなった雄の感触に少しだけ戸惑う。
「当たり前だろ…」
エアコンで温まれた部屋は布団が無くても、大丈夫だと感じ、バサリと布団を剥がす。
「え?やっ」
自分の身体がじっくりと凝視されている。
恥ずかしさに身を捩ってしまう。
「相変わらずお前は華奢だな…壊しそうだ」
「…国光」
両手を差し出して、リョーマは誘う。
『大丈夫、そんな簡単に壊れないよ』と、その眼差しが手塚に訴えている。
いつだって真剣なのだ。
「…リョーマ」
裸のまま強く抱き締め合う2人は、一時も離れまいとしていた。
リョーマの身体に伝う手塚の指や唇は、快感を引き出すのに必死で、まるで初めての時を思い出させた。
「で、あの本はどうして?」
行為が終わる頃、外は随分と暗くなっていた。
長い時間、2人は身体を繋げていたのだ。
裸のまま横になっているリョーマに対し、手塚は下だけを履き、手にはタオルを持っている。
久しぶりの行為に夢中になり過ぎて、リョーマは腰がまるで立たなくなっていた。
手塚の方も何だか身体が重い。
少しの間ベッドの中でリョーマとゆるやかな時間を過ごした後、自分は軽くシャワーを浴び、リョーマの為にタオルを温かいお湯に浸し、汗と体液で濡れたその身体を拭いている。
リョーマは手を上げるのも億劫なのか、されるがままになっている状態。
「あれか、お前が気に入っていたからな」
リョーマはあの本を渡された時、手塚は全ての思い出を捨てようとしていたと勘違いした。
しかし本当は自分の事を忘れないで欲しいとの願いから、その本を渡したのだ。
別れたのだから、そんな事をされれば勘違いするのは当たり前だ。
「何か…」
「馬鹿らしいだろう」
それならば本当の気持ちを話しておけば良かった。
こんな事にはならなかっただろうに。
菊丸にも悪い事をした。
菊丸がリョーマに対してのみ、違う感情で接していたのを感じていた。
不図その時、脳裏に掠めたのはとても醜い考え。
言ってもいいものか、言わない方がいいものか、悩んだ末に全てを暴露する。
「リョーマ、菊丸とは何も無かったのか?」
「何も、って?」
手塚の意図がわからなく、少しだけ考えてみる。
「だから…その…」
珍しく言葉を濁す手塚に、ピンと来た。
「もしかして、エッチしたって事?」
「…まぁ、そうだ。で、どうなんだ」
尋ねながらもリョーマにずいと詰め寄る。
かなり真面目な顔で聞いてくるものだから、悪いとは思うが、つい「ぷっ」と笑ってしまった。
「…いっ……」
しかし笑った衝撃が腰に来てジンと痛みが走り、身体を丸めてしまった。
「おい、大丈夫なのか」
ベッドの中で丸くなり、痛みを耐えた顔をしているので、その腰を大きな手で優しく撫でる。
「…はっ…ふう…大丈夫だよ」
「そうか…」
ホッと安堵の色を浮かべ、リョーマに再び問う。
「…それで」
「何もしてないよ。キス以外は」
しかし裏を返せば、『キス』はしたのだ。
ちりちりと嫉妬の炎が心に灯る。
「菊丸とキスはしたのか?」
「…うん。でも、国光が悪いんだからね」
「そうだな、俺がそうなるようにしたのだから」
本当に何と言う愚かな行為をしてしまったのだろう。
リョーマの為と言いながら、実は自分の為。
しかも仕向けたはずの行為に、苛立っている自分がここにいるのだ。
「でも、もういいよ。国光はこうしてここにいるんだしさ。俺もここにいるんだから」
「リョーマ」
「だからもう二度と…あんな事を言わないで」
胸の中にしこりのように残っている『あの日の言葉』は忘れたくても忘れられない記憶。
「確かに俺は子供だし、国光には似合ってないかもしれないけど」
本当は言われなくても自分で実感していた。
3年生と1年生。
たったの2年の違いが、どうしてこんなに遠いのか。
相手はもうすぐ高校生になろうとするのに、自分はまだ中学生なのだ。
この差は歴然としている。
学校が離れればきっと会う時間も少なくなる。
もしかしたら高校ではもっと魅力的な相手がいるかもしれない。
手塚のように中学の頃からこんなに有名人ならば、近寄ってくる相手は大勢いるだろう。
何においても完璧な人だ。
自分は彼になにが出来るのだろう?
支えられる存在になれるのだろうか?
頼られる唯一人の存在になりたい。
「俺…ずっと好きだから、だから…」
両の手を絡めてぎゅうっと握り締め、祈りを捧げるように呟きを繰り返す。
「もう離さない。絶対にだ」
手塚はその手の上に自分の手を重ねて、決して揺るがない決意を伝える。
「俺はリョーマが好きだ。愛しているんだ」
「国光…」
「もう二度とあんな想いはさせない」
「うん、うん…」
誓うように口付けを交わす。
「今日は泊まっていくか?」
「いいの?」
「動けないだろう」
「……うん」
「ほら、電話をしておけ」
リョーマは手塚から受け取った服のポケットから、携帯を取り出して自宅へ電話を掛ける。
「あ、母さん?俺。今日、手塚先輩の所に泊まるからさ…。うん、わかってるよ…」
電話を終えると電源ボタンを押した。
「これで大丈夫だよ」
「そうか…腹は減ってないか?」
「ん…空いてる」
途端にきゅうと鳴るお腹に、リョーマと手塚は顔を合わせて笑った。
「ならば、直ぐに用意しよう」
動けないリョーマの身体にテキパキと服を着せると、そのまま抱え上げてリビングへ向かう。
部屋で1人きりにする位なら、リビングへ連れて行けばいい。
そこならテレビもあるので暇潰しにはいいだろう。
呼び掛ければ返事も出来るし、何よりも離れたくないのだ。
「……ねぇ、重くない?」
「…軽すぎる」
自分を抱えて階段を下りるのは大変じゃないのかと、恐る恐る聞けば『全く問題無い』との返事と共に、頬に触れるだけの優しい唇の感触。
「雑煮でも食べるか?」
「うん。食べる」
正月ともなれば、おせち料理か雑煮が主流だ。
食べ慣れた日本人はげんなりしてしまいそうだが、和食好きのリョーマとしてはかなり気に入っている。
しかも雑煮は地域によっては、味が違うと聞いていたので、手塚の家の味が楽しめるとウキウキしていた。
「母が汁だけは作っておいてくれたからな」
「へ〜、どんな味?」
「今年は九州風だ」
「美味しい、この味」
一体どんな雑煮なのかと思えば、白味噌仕立ての汁に根菜が沢山入っていて、最後に焼いた餅を入れる。
リョーマの家は汁の中で煮るタイプだった。
「…あちっ…」
「急いで食べなくても、まだあるぞ」
大きな器に餅は2個。
野菜が多いので栄養的にはバッチリだろう。
「うん。でも本当に美味しい」
良く伸びる餅を懸命に食べている姿に、箸を止めて眺めてしまう。
「…たふぇないの?」
餅と格闘しているリョーマは、良からぬ視線を感じ、上目遣いで手塚をチラリと見て、口に餅を入れた状態で訪ねる。
「美味そうに食べるからな。つい、見惚れた」
「……食べにくい…」
結局、リョーマは餅を2個追加した。
最後には「デザートだ」とお汁粉が出て来た。
もちろんこれにも餅が入っていたが、甘い物が好きなリョーマは全く気にせずにおかわりまでした。
「正月番組っていつもこうなの?」
リビングのソファーに寝転がってテレビを見ていたリョーマは、片付けが終わりやってきた手塚に向けて不満な声を上げた。
「…そうだな」
新聞のテレビ欄を見ても特番ばかり。
漫才や長時間のドラマや駅伝などなど、自分が楽しめそうな番組はほとんど無かった。
「つまんない…」
手塚が持ってきたお茶を口に含み、コクリと飲み込んだ後、悪戯心に火が付いたのか、手塚を手招きして呼ぶとソファーに座らせた。
「何だ?」
「だったら、こうしてよ」
「おっ、おい」
座った手塚の腰に腕をまわし、ぎゅっと抱き付いた。
膝枕状態で顔は手塚のお腹の部分。
慌てても時は既に遅く、その姿に何かがムクムクと膨れ上がる。
「…何かおっきくなってるんだけど…」
リョーマは目の前のスウェットの布を押し上げている熱い欲望に気付き、呆れた声を出す。
あれほどあんなにシタのに、まだこの男は足りないと言うのか。
「仕方ないだろ。お前の姿に欲情したのだから。こんな格好で抱き付くお前が悪い」
いかにもリョーマが悪いのだと言っている。
「何で俺が…ふーん…」
それなら、ともっと悪戯心が沸き上がって来た。
「おい、リョーマ」
布越しに撫で上げているのに気付き、慌てて止めようとした。
しかしリョーマはその手を払い、ゆっくりとその形を確かめるように撫でる。
手塚の口から熱い息を吐き出すのを感じ、リョーマはスウェットの中、しかも下着の中にまで手を入れて、直かに触れようとする。
「リョーマ!」
これには我慢できずに声を上げてしまった。
「…ちょっと、腰上げてよ」
もっと気持ち良くしてあげるから。
リョーマの意図を感じ取り、手塚はもう逆らわずに、少しだけ腰を上げる。
するりとスウェットと下着を膝の辺りまで下げると、勢い良く飛び出した手塚の雄に驚く。
「すっごい…おおきい…」
初めてじっくりと見てしまった。
しかもこんな明るい場所で。
ゴクリと大きく喉を鳴らし、リョーマは手を伸ばす。
手塚も次第に大きくなる鼓動を感じながらも、その動きを上から眺める。
「触っても…いい?」
「あぁ…触れてくれ」
期待に震える手塚の雄に手を伸ばせば、それは更に質量を増した。
両手を使いゆっくり下から上へと撫で、先端部分を指でくりくりと擦れば、ぬるりとした透明の液体が溢れる。
「…や、何か、すごく…ん…」
零れ落ちる液体を舌でペロリと舐め、リョーマはそれを躊躇することなく口に含んだ。
「リョーマ……」
暖かく濡れた口腔に、己の性器が包まれている。
初めてのリョーマからの行為に、まるで催促するように手塚は頭を撫でる。
それに気を良くしたリョーマは、舌や指を使い、出来る限りの方法で手塚を追い詰める。
「…もう、離せ…リョーマ」
何かを耐えるような手塚の声に、リョーマは限界が近いのだと感じ取り、その動きを激しくする。
「…リョ……くッ…」
頭を離そうとするが、リョーマは先端部分をちゅうっと吸い上げた。
「…うっ……はっ……リョーマ?」
とうとう手塚はリョーマの口の中で果ててしまった。
荒い息使いでリョーマを覗けば、眉を寄せて両手で口を塞いでいた。
「リョーマ、吐き出せっ」
「…ん〜ん………けほっ…」
手塚が慌ててティッシュを差し出す前に、リョーマはそれをゴクンと飲み込んでしまった。
「そんなモノ飲むな…」
目尻に浮かぶ涙を舌で拭い、悪かったと詫びた。
「…だって、国光だって…でも、ちょっと苦い」
言う通り、自分もリョーマに同じ事を何度もしているので、それっきり黙ってしまう。
口元に付いた白濁を指で取り、ペロリと舐めた。
その誘うような仕種に、更なる欲望が身体中を掛け巡ったが、ここはなんとか自制心を働かせて抑えた。
「ね、感じてくれた?」
「あぁ、すごく良かった」
自分の愛撫に感じてくれたのがよっぽど嬉しかったのか、満面の笑みで抱き付いて来た。
「済まないが、離してくれ」
「何でだよ」
むすっとした表情に変えると文句を言う。
「…また…したくなる」
まだ下肢は外気に晒されたままだ。
「わっ、国光…下…履いてよ」
自分からした事に漸く真っ赤になって、下げた下着をぐいっと上げる。
手塚は笑みを浮かべると、中途半端な状態になっている下着とスウェットをしっかりと履く。
「リョーマ、またしてくれるか?」
「え…うん。いいよ」
「ありがとう」
リョーマの愛撫に感じたのは本当だった。
身体を重ねるようになってから、これが初めての体験だった。
どうやら自分の愛撫を真似ているようで、それが何とも言えない満足感を味わえた。
「国光みたいに上手く出来ないけど…いいの?」
「いや、それでいい」
その方がより深い快感を与えてくれる。
慣れていない舌や指の動きで懸命になって愛撫しているのが、初々しくて愛らしいのだ。
「では、お返しに…」
「ちょっ…ちょっと、俺はいいよ」
素早くその下肢に纏っていた衣類を剥ぎ取ると、まだ萎えている下肢に手を伸ばした。
「もう〜バカ」
あの後、我慢が出来なくなった手塚によって服は全て脱がされ、結局は行為に及んでいた。
食事前の行為で、動くのが億劫になっていたのに、食後の行為で完全に動かなくなってしまった。
どうやら久しぶりのリョーマの媚態に煽られてしまったようだ。
「本当に悪かった」
これはもう謝るしかない。
悪いのは自分なのだから。
今でもこうして抱えて風呂場にいるのだ。
部屋での行為では、しっかりとコンドームを使用していたので後の処理は必要なかった。
しかしリビングの時は持って来るのも面倒で、外に出せばいいと思っていたが、リョーマの中がとても良かったので、そのまま中に出してしまった。
先に自分の出したモノを掻き出す時も、疼く身体を抑えるのに必死だった。
ここで再びしてしまえば、本気の拗ねモードに突入するのは目に見えていたからだ。
良く我慢が出来たものだと、自分を褒めていた。
「……う〜、腰が痛い」
「悪かった」
「身体中が、言うコト利かない…」
「…すまない」
「嫌いになっちゃう」
「リョーマ!」
「…嘘…嫌いになんてなれない」
手塚に抱えられ湯船に入ったリョーマは、背中に当たる手塚の胸に凭れ、自分の前にまわされている腕にしがみ付く。
「本気でイヤだったら、蹴ってでも止めるよ」
本気で嫌がる事などない。
好きだからいいのだ。
望まれるなら命だって進んで差し出そう。
でも本当はずっと一緒にいたいから、それだけは嫌かもしれない。
ちゃぷちゃぷとお湯を指で弾きながら、いろいろと考えてみた。
「俺もお前が望まないのならしない」
「じゃ、さっきのは?」
「…して欲しいのかな…と思ってだな」
「ふーん。ま、はずれてないけど」
1ヶ月間の事を思えば、1日中でも繋がっていたい。
そんな事を言ったら本気にされそうなので、これだけは決して言わないようにしていた。
それから、冬休みの毎日は2人で過ごす事にした。
勉強もテニスも恋愛も、全て2人きりで。
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