想いの果て
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冬休みが終わり、3学期が始まると同時に、部活も再開された。


「最近は手塚先輩がよく来てくれるんすよ」
数日後、部活に顔を出した菊丸は、桃城から部活の様子を聞いた。
「本当に?」
「昨日も来たんすよ」
もしかしたら今日も来るかもしれない。
桃城としては部活に対する気合が高まる為に、良い事だと手放しで喜んでいる。
「で、おチビは?」
手塚よりも気になるのはリョーマの様子。
あれから電話もしていない。
もちろん会う事もしていない。
これは自分なりに納得しての行動だ。
「越前っすか?あぁ、来ましたよ」
言われて振り向くと、以前のように生き生きとした眩しい姿で登場した。

「…菊丸先輩」
「おチビ…」
2人の間に緊迫した空気が流れる…のかと思ったが。
「先輩、ありがとう」
リョーマはにっこりと微笑みながら菊丸に抱き付いた。
この行動は、本来なら菊丸がリョーマに行う日常茶飯事だったはずだ。

「わ、わ、おチビ〜」
まさか抱き付いてくるなんて想像していなかったから、驚いてしまった。
「…先輩のおかげで元に戻れました」
抱きついたまま耳元でそう呟いた。
「おチビ?」
「もう大丈夫だから…だから、ありがとう」
手を離し正面に立つ。
あの蒼ざめた表情ではない。
こんな表現は変かもしれないけど綺麗になった。
そう、とてもキラキラと輝いているのだ。
「ね、握手してくれる?」
「いいよん」
ほんの少しの間だったけど、とても楽しかった。
哀しくて辛い時を、一緒に過ごしてくれた大切な相手に対して感謝の意を込めて手を握る。
「あのさ、携帯のメモリーは消去しなくてもいいよな?」
「いいっスよ」

これからは先輩と後輩の関係と良い友人の関係で過ごしていければそれでいい。
リョーマの事は本当に好きでいるが、哀しい顔を見る事が無くなるのなら手塚に全てを任すつもりでいる。
後は手塚がリョーマと本気で向き合うのかを確かめるだけだが、そんな事をわざわざしなくても、リョーマの顔を見れば、全てがわかった。

「手塚先輩!」
「ちーす、手塚先輩」
手を握っていると、手塚がコートに現れた。
手塚を呼ぶ部員の声に反応したのか、途端にリョーマの表情が緩む。
「おチビ、ちょっと」
「…何?」
「あのな……」
こそこそと耳打ちすると、菊丸はそそくさとその場を離れた。
「もう、先輩ったら」
「越前」
「何スか?」
「…菊丸と何を話していたんだ?」
名前を呼ばれて手塚の傍に行けば、やはりと言うか、思ったとおりの質問をされた。
ジロリと菊丸を睨み付け、自分の恋人に手を出すな、と牽制している。
「…国光に飽きたら、俺の所においでってさ」
こっそり菊丸に言われた内容を教えてみる。
「菊丸のヤツ…」
聞いた途端、眉を寄せてチッと舌打ちをする。
そんな似合わない姿に笑いが込み上げる。
「大丈夫だよ。飽きたりしないから」
くすくす笑うと、持っていたラケットを抱える。
「今日も練習見てくれるんでしょ?」
「あぁ、手加減はしない」
プレイ中は決して恋人の関係を出さない。
「もちろんっスよ」
元に戻った関係は、菊丸以外は誰も知らない。
その前に、2人が恋人関係だと知っている者はいないのだが。



想いの果てに見えるものは、何だったのだろう。

願うのは相手の幸福ばかり。

しかし自分の想いを偽って、ただ闇雲に互いを傷付け合っていただけだったのに。

想いの果てに見えるものは、更なる深い想い。

願うのなら、相手と自分の幸福の事。

想いの果てに見えるものは、長く続く想いの道。


それは永遠と続く長い道のり。





最後がすっごく短い!
これで想いの果ては終了です。お付き合いありがとうございました。

えっと、感想がありましたら是非ともお願いします!反応が薄いので…寂しい。