「だー、騙されたのかよ」
南次郎は全員の魔法を解くと、「リョーマにしてやられた」と嘆いていた。
リョーマの変化魔法は、手塚以外は気が付かなかった。
それほど高度なものになっていた。
「でも…菜々子さんって、変化の魔法を使えるんですか?」
この手塚と対等にやり合うなんて、かなりの魔力が無ければ出来ない。
「いえ、私は移動系の魔法しか使えません。これも全てリョーマさんのお力ですのよ」
不二の問い掛けに対し、菜々子はにこりと笑い、全てはリョーマの魔法だと教えた。
「自分の力を他人に…」
自らの力をそっくり他人に移してしまう。
変化の魔法の中でも、この方法はかなりの魔力を消耗する魔法なのだ。
魔法を習い始めて数ヶ月のリョーマは見事にやってのけた。
それだけでも、リョーマの力に驚かされる。
「でも、どうしてここに?」
「リョーマさんが、私と手塚さんがお付き合いをしていたのを確認しに来たんですよ」
付き合うと言っても、ほんの数ヶ月だけ。
自分は地球に行くのを心に決めていたから。
でも本当は、好きで付き合っていたのではない。
手塚が夢で見る人物にどことなく似ているから、ただそれだけの理由で少しの間、一緒にいただけだ。
「だから変な誤解を与えないように、お2人に説明をしに来たんですのよ」
手塚の心はリョーマに、リョーマの心は手塚に。
自分は手塚にもリョーマにも幸せになって欲しい。
だから自分の事で2人が心を乱して欲しくない。
「でも…これで越前の杖に宝玉が揃ったな…」
リョーマは手塚から最後の宝玉を渡された。
「リョーマ、これを…」
「金色の宝玉…何だか国光らしい色だね」
それはこれまで手に入れたどの宝玉よりも、キラキラと眩しく光っていた。
「最後の宝玉…これで終りなんだ」
残り一つとなった穴に、手塚から渡された宝玉をはめ込んだ。
途端に杖は光を放ち、王座の間を包んだ。
「うわっ、眩しい」
「な、何が起きてるの?」
全てを無に返すように白く光り、周囲が見えない。
「大丈夫だ。みんな落ち着け」
数秒後には光は落ち着き、今はリョーマの手の中だけでキラキラと輝いている。
「…これが本当の杖の姿?」
不恰好だと思っていた杖は、すらりと長い杖に変わり、上部には眩く光る水晶が輝いていた。
「これでリョーマを魔法使いと認める!」
南次郎は大きく叫び、リョーマが最終試験に合格したのを告げた。
「…また…お会いしましょう…何時の日か…」
「うん。ありがとう、菜々子姉…」
菜々子は再び地球に戻る為に、魔法陣を書き込んでいる。
魔法陣を作るのが得意な菜々子は、本来必要とする媒介を使用しない。
「…さようなら、リョーマさん。さぁ、私の居場所へ…」
呪文を唱え、懐かしいこの地を後にする。
久しぶりに出会ったほんの少しだけ付き合っていた相手は、あの頃と比べようも無いほど大人になっていた。
年齢ではなく、その想いが。
そして魔法陣共々、この世界から消えた。
「リョーマ」
菜々子を見送った後、自分の部屋に戻ろうとしたリョーマを引き止めたのは手塚だった。
「国光…」
「…菜々子さんから話を聞いたのか?」
「…うん。全部ね。でも、俺が思ってたのと全然違ってたけどね」
照れ笑いを浮かべながら、リョーマは菜々子から聞いた話を手塚に話す。
「そうか…全部聞いたのか」
手塚と菜々子の付き合いは、付き合いと言えるほどの関係では無かった。
感情は本来与える者の為に、菜々子には欠片すら与えていない。
菜々子も手塚とは友人のように付き合っていただけ。
本当は違う人を自分に重ねているのだと知っていたから。
「俺、乾先輩にあんなの見せられて…」
今の状況も考えずに、気持ちだけで動いてしまっていた。
「リョーマ…俺もお前に言わなかったのがいけないな」
「…もう隠し事は無い?」
「何も無い…」
「それなら、いい…」
リョーマは手塚の首に手をまわし、きゅっと抱き付き、そのまま呪文を唱える。
「リョーマ?」
リョーマが唱えたのは瞬間移動の魔法。
移動したその場所は、リョーマの部屋の中だった。
「国光…覚えてる?」
リョーマはまだ手塚に抱き付いたままだった。
「魔法使いって認められたら、俺を貰ってくれるって」
「もちろん、覚えているさ」
「だから今夜……」
その言葉に手塚からの返事は無かったが、代わりにきつく抱き締められた。
「カルピンも精霊達も、今夜は絶対に部屋に入らないでよね」
今夜は大切な日となるのだから、誰にも邪魔されたくない。
だから全員を部屋から追い出した。
精霊達は問題ないが、カルピンは不服そうに鳴いていた。
「えっと…まだ時間じゃないよね…」
先に風呂に入って身を清めよう。
続きの部屋の風呂に入り、いろいろと考えた。
「何か…ヤバイかも…」
緊張してきた。
何をするのかなんて、わかってる。
…痛いのかな?
…気持ちよくなれるのかな?
「あー、バカバカ」
頭からお湯をかぶり、さっさと身体と髪を洗った。
バスローブを身に纏い、ソファーに横になる。
長めにお湯に浸かっていた為に、少しのぼせてしまったようだ。
「…熱い…バカみたい、俺…」
1人浮かれまくっている自分にちょっと反省した。
「…リョーマ」
トントンとノックする音と手塚の声。
「…あっ、どうぞ」
くるりと指をまわし、ドアを開ける。
ドアの外に立っている手塚の姿は、白いシャツと黒いパンツ姿だった。
両極端なその色合いは、手塚の端麗さを際立たせているようで、リョーマはうっすらと顔を赤くした。
中に入ると即座にドアが閉められた、
「国光…」
「リョーマ、気分でも悪いのか?」
「あ、違うよ、ちょっとのぼせて…」
「そうか…」
手塚はリョーマの傍に近付き、ソファーまでくると、その場に膝を付いた。
「緊張しているのか…?」
「…わ、悪い?」
「悪くないさ、俺もそうだからな…」
リョーマの手を取ると、自分の胸へと当てる。
「…ドキドキしてる…」
かなり早い鼓動が手に伝わる。
「そうだ。俺も緊張している」
リョーマの膝裏と背に腕を差し入れ、抱え上げる。
見事な天蓋付きのベッドにその身体を優しく横たえると、自分もベッドに乗る。
「リョーマ…」
「…国光」
名前を呼び合い、二人は口付けを交わす。
まずは啄ばむようにして、その唇の柔らかさを存分に味わう。
次に深く重ね、その口腔に舌を這わす。
綺麗に並んだ歯列を舌でなぞり、吐息までも奪うようにして荒々しいものに変えていく。
「……ん……は…」
舌を絡めると、くちゅりと音がした。
息苦しさを感じるほどの口付けは、これまでに無いほどお互いを感じ合う。
でもこれからが本番なのだ。
「…あっ、ちょっと…」
塚は口付けの合間に、リョーマのバスローブに手を掛ける。
それ以外を身に纏っていないリョーマの裸体は、直ぐに手塚の目前に暴かれる。
「…華奢だな…」
汚れを知らないその身体は、美しいと絶賛されるのに値されるシロモノだ。
今まで背中しか見た事が無かったこの身体を、正面から隅々まで見られるこの喜びを、どう表現して良いのかわからない。
「あんまり、見ないでよ…」
上から下までを凝視されている。
その事に気付くと、恥ずかしそうに身を捩る。
「いいだろう?…俺しか見ていないのだから」
手塚も自分の着衣を全て脱ぎ捨て、リョーマにその身体を見せた。
「…あっ、わ…」
リョーマとしては、初めて見る手塚の身体に赤面してしまう。
綺麗に筋肉が付いた身体には全くの無駄が無い。
『この身体に抱かれるんだ…』
「リョーマ?どうした」
自分を見つめる瞳が揺らいでいる。
「…俺、初めてだから…」
どうしていいのかわからない。
不安な瞳は、この行為を止めようとするのではなく、ただ戸惑うだけだ。
「…大丈夫だ。俺に身を委ねていろ…」
「…うん…」
その後の手塚はリョーマに快楽を教えた。
一つに繋がる瞬間も、リョーマは痛みを訴えなかった。
ふわふわした気持ち…。
すごく心地よい…。
「……ん…」
「リョーマ…目が覚めたのか?」
「…え…俺?…」
今の自分の状態を把握しきれておらず、リョーマは素っ頓狂な声を出していた。
そして、自分の身体が手塚に抱き締められているのにようやく気が付いた。
「…辛かったか?」
その一言で自分が気を失い、そのまま寝てしまっていたのを知った。
「…ううん、大丈夫……ねぇ、国光はどうだった?」
「俺か?…良かったに決まっているだろう…」
初めての身体に無体はいけないと、手塚は自制し一度だけで終わらせた。
それでもリョーマの身体は、自由が利かなくなっていた。
その証拠に、最後を迎えてすぐに気を失っていた。
「…俺もね…凄く良かったよ…」
耳元で囁かれるリョーマの声に、再び熱が集まりそうになったが、ここは懸命に抑えた。
「これで、もう国光のものだね。俺」
「あぁ…そして俺はお前のものだ…リョーマ」
ゆっくりと抱き合う二人を隔てるものはもう何も無い。
一人前の魔法使いになったリョーマ。
この先に何が訪れようとしても、この愛する人がいる限りその瞳を曇らすことは無いだろう。
魔法使いになったリョーマには、光ある未来しか見えなかった。
リョーマの力は手塚と互角か、それ以上。
入学から卒業までの日数は誰よりも短かった。
城の中で学校では習えない事を学び、リョーマは魔法使いへの道を歩んでいた。
「国光、ほら見て…」
「召還魔法か、さすがだな」
光が差し込む室内でリョーマは手塚に魔法を見せる。
「でも、戻し方がいまいちわかんないんだ…」
召還したのは光の妖精。
パタパタと楽しそうに室内を飛んでいる。
力があっても正しい使い方を知らなければ意味が無い。
「リョーマ、この場合はこうするんだ」
「……そっか、うーん、難しいな」
「大丈夫だ、リョーマならすぐに覚えられる」
数日後には王である南次郎から、リョーマを正式な王子として城下の者へ通達がされた。
魔法学校の生徒達は、王子が学んでいた事を初めて知り、かなりの衝撃が走っていた。
だからと言ってリョーマが王子としての教育を受けたりはしない。
自分の身分に関係なく、進んで八賢者と共に幻獣退治に出掛けたり、魔法学校へも顔を出していた。
ここは、そういう場所なのだから。
リョーマは王様になる為に、魔法を学んではいない。
たった1人に為だけに、リョーマは自分の能力を磨くだけだった。
そしてこれからもリョーマの物語は進んでいく。
…To be continue?
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