魔法使いの王子様


第8話 最終試験開始






「全員集まったか?」
「みんな、そこにいるじゃん…」
「…言ってみただけだ」


王の間に集まったのは、八賢者達とリョーマ。

「さてと、明日からリョーマの最終試験をするからな」
一列に並んだ八賢者に向けて、王らしくピシッと言う。
あまり王様らしくない風貌と性格だからなのか、リョーマにはヤル気が無いようにしか見えない。

「で、何するの?」
最終試験なんて言われても、リョーマには内容がわからなかった。
最終と言うくらいなのだから、かなり過酷なものになるのだけは何となく予感している。

「ホレ。まずそれを受け取れ」
「…何これ?杖?」
ぽいっとリョーマに投げられたそれは、魔法使いが良く使用する杖。
「…穴が開いてるけど…」
その杖にはところどころに5センチほどの穴が八つ。
変な場所にポカリと空いていて、何だか不恰好な杖だ。
「それが最終試験だ」
「これが?」
いまいち状況を飲み込めていないリョーマは、変な顔で杖を眺める。

「いいか、最終試験ってヤツは、この8人に認められる事だ。それは戦いだろうが、話し合いだろうが何でも構わなねぇ。認められたら、そいつらがその穴にはめ込む宝玉をお前に渡す。順番はどうでもいいが、最後は手塚だ。それだけは決まってるからな」
「…ふーん」

南次郎の説明で、試験の内容とこの杖の用途はわかった。
「いいか、期限は明日から1ヶ月だ」
期限の中で全てが揃わなかったら、1人前の魔法使いだと認められない。
学校で学び直し、ちまちまと幻獣退治をし、再び最終試験を受けろと言われるまで半人前で過ごすのだ。

「そんなの直ぐに認めさせてやるから」
ブンとその杖を振り、8人に向ける。
「俺は絶対に魔法使いになるんだから!」
リョーマは全員に決意表明をした。
「おチビとか〜。何しよう…」
これまで何人か最終試験をしてきたが、誰も最後の手塚まで辿り着かなかった。
難しい試験では無いが、それぞれから与えられた試練を期限内に終えられない。
未熟ゆえに難解に感じる試練が多く、途中で「自分では駄目だ」と諦める者もいるくらいだ。

「英二、遊びじゃないよ」
「わかってるって、そんなの」
菊丸はニヤニヤと笑いながら、イロイロと考える。
それを横目で叱咤するのは不二の役目だった。

「それじゃ、明日から頼むわ」

明日から始まる最終試験。

リョーマは全てに認められるのか?


簡単そうで一筋縄ではいかないこの8人を相手に、リョーマはどうクリアしていくのか?



――― 1人目

「大石先輩いいですか?」
王宮の中でリョーマは大石をつ捕まえた。

「俺からでいいのか?」
「はい」

リョーマが初めに選んだのは、大石だった。
大石はこの八賢者をまとめる役目を持っている。
手塚とは違う意味で、出来る男なのだ。
「そうか。俺は戦いでは決めないからな」
「はい」
「じゃ、これを」
大石はリョーマに1冊の厚い本を渡した。
「これは?」
「これが試験だ」
中を開くと何も書かれていない。
全てが真っ白である。

でも、じんわりと何かを感じる。
「それは魔法が掛かっていて内容が読めないようにしてあるんだ。越前、その魔法が解けるか?」
大石から渡された本の魔法は、どんな魔法が掛けられているのか?
片手をほんの上に置き、まずはどんな魔法なのかを確かめる。
「あれ?…もしかして」
リョーマは呪文を唱えて本を空に浮かべる。
集中力を高める為に目を閉じて、その魔力を確かめる。
空っぽにした頭の中に文字の羅列が流れ込んで来る。
「わかりました!」
「本当に?」
「はい」
リョーマは手を組んで、何かの呪文を唱える。
「解除せよ!」
リョーマの掛け声が掛かると、本はクルクル回り、大石の手の中にポトンと落ちてきた。
「その本に書かれているのは、『魔法の基礎』ですね」
中を見なくても判ったのか、リョーマは大石にその内容を告げた。
「…当たりだ。結構強い魔法を掛けたのにな。流石だな…」
その本には、魔法の基礎が書かれている。
常に“基本を忘れるな”との事なのだろう。
大石の真面目さが大いに発揮された試験だった。

「ほら、越前。これを…」
リョーマの手の中に大石は宝玉をそっと置いた。
「白色の宝玉…」

大石から手渡されたのは真っ白な宝玉。

それを杖にはめ込むと、キラリと輝いた。


1人目は至極簡単に終わった。




魔法使いの王子様 第8話です。
最終試練の1人目は大石から。
…本当に簡単に終わりました。