魔法使いの王子様


第5話 リョーマの能力





それからは、この学校の事や、授業の事の話を聞いた。

クラスは5クラス。1クラスの中には初心者から上級者まで100人ほどいる。
そして、学校内では授業中以外の魔法の使用は禁止。
使用したらその場で退学。
授業中でも講師の判断により、退学に出来る。
厳しくしているのは、魔力の恐ろしさをその身で覚える為にだ。
遊び半分で魔法を使えば、その威力に自分の身体が傷付くのだ。


「いいかい、リョーマ。お前が王子だって事はこの学校では秘密だ。お前は普通の生徒と同じ扱いだからな」
「もちろんだよ」
元々、王子なんで地位に拘りを持っていないリョーマは、普通に扱ってもらった方が気楽だ。
王子と言うだけで誰かれ構ずペコペコしてくるのも悪い気がする。

「よしそれじゃ、手塚。連れて行ってくれ」
「はい。わかりました」
スミレの話が終わると、再び廊下に出る。
出ると同時に、再び扉は壁に変わっていた。
扉があった場所を片手で触ってみても、そこには壁の感触だけしかない。。

「魔法ってスゴイんだね」
「この魔法は、かなりの魔力が必要だからな」

再び案内された場所は、教室だった。
「ここがお前のクラスだ」
「うん。頑張るからね」
「あぁ、期待している」
リョーマは手塚に軽く手を振ると、教室に入っていった。
ガラリと開くと、室内に生徒はちらほら。
作りは、地球で言う大学。
壇上を囲い、段々の机が並んでいる。
どうやら好きな場所に座ればいいらしい。
「どこがいいかな?」
きょろきょろ見ていると、1人の生徒が近付いてきた。
「おはよう…」
自分と同じくらいの女の子だ。
長い髪を2つで束ねている。
「…はよ」
「今日からなの?」
「そうだけど」
「私、竜崎桜乃です。よろしくね…」
「…越前リョーマ。竜崎って、もしかして」
「うん、おばあちゃんなの」
学園長の孫娘だった。
桜乃にこのクラスの事を聞き、自分の座る場所を決めた。
どこでも良かったが、決まっているのなら空いている場所に座らなければならない。
自分はまだ新参者なのだ。

前から2段目、丁度壇上の正面だった。
「中学みたいに寝てたらヤバイよな」
リョーマは、授業中に良く居眠りをしていたが、
ここではそういう訳にはいかないだろう。
身を引き締めなければいけない。

「おい、アレ誰だよ?」
「さぁ、初めて見た」
「綺麗な顔してるね」
教室内に入ってくるクラスメイトは、口々にリョーマを噂していた。
初めての顔なのに視線が外せない。
友人と会話をしながらチラチラと見ていた。


「さぁ、授業を始めるぞ」
ガラリと開いた扉から、手塚が入って来た。
「…手塚さん?」
「このクラスは手塚さんのクラスだぞ、知らないのか?」
隣に座っているかなり人の良さそうな男が、リョーマに話し掛けた。
「…知らないよ…」
でも、嬉しくて仕方ない。
学校でも一緒にいられるなんて思ってなかった。
これなら居眠りなんてしていられない。
「今日から新しい仲間が増えた。まずは自己紹介をしてもらおう。越前」
「あっ、はい。越前リョーマです。よろしく」
手塚に呼ばれ、席から立ち上がると自分の名前を告げる。
「越前だって」
「リョーマ君ね…」
麗しの君の名前を聞くと、クラスメイトのほとんどがリョーマの魅力の虜になる。
「…な〜んか、生意気そう」
「今日からって事は、何にも出来ないんだろう」
一番後ろに座っている、少し意地が悪そうな男達は、ぶつぶつと文句を言っている。
世界が変わってもこういうタイプはどこにもいるもんだなと、
そんな事にいちいち反応していられないリョーマは一瞥して椅子に座った。

「今日は、炎の魔法について、だ」
即座に授業は始まった。
初めて開く教科書には、文字や図が一杯だ。
魔法についての話や、呪文の作り方など。
「それでは第6章を開いてくれ」
ペラペラと教科書を捲る。
ノートに書きながら、いろいろな知識を頭に詰め込む。
思ったよりもすんなり頭に入るし、言っている言葉が理解できる。
質問の答えが直ぐにわかる。
「…ここの授業ってけっこう楽しいかも…」
地球上の勉強の時に感じた事の無い、頭の中に流れ込む知識。不思議な感じだった。

「では、実践に入る」
手塚は全員の視線がしゅうちゅうすると、片手を前に出した。
その掌を見ていると、炎が沸いて出た。

「わ、スゴイ」
「呪文言ってないよね」
「流石だよね〜」
本来なら、魔法は呪文を唱えないと使えない。
しかし手塚は、ただ掌を見ただけだ。
「集中力と自分の魔力を上手く融合させると、このくらいは出来るようになる」
掌を握ると、炎はすっと消えた。
「それでは、3人ずつ前に」
順々に前に出ると、手塚が行ったようにする。
上手く出来ない者。
大きすぎる炎で驚く者。
火花や煙がポンと出るだけの者。
このように様々な状態だった。
このクラスには初級クラスが多くいるので、思い通りに使えない者がほとんどだった。


「では、次」
次はリョーマを含めた3人だった。
「目を閉じて、掌に集中しろ」
手塚に言われるまま、目を閉じる。

集中力…。
地球でのリョーマは、クラブでテニスをしていた。
その時にもコーチからよく言われていた。

――集中しろ。

――精神力を高めろ。

単純に懐かしいと思った。
リョーマがそんな事を考えていると、突然教室内がざわついた。
何だろう?と目を開けると、自分の身体の周りを炎が舞っていた。
まるでリョーマを守るように。


「な…何コレ?」
炎だというのに、熱くない。
手を動かせば、炎も揺らぐ。
「す…すっげー、越前」
「炎のベールみたい…何か綺麗…」
生徒達はリョーマの炎を見て、感激している。
拍手をしたり、手を組んで感動していたりして、それぞれがリョーマを見入っていた。
それに面白くないのが、後ろの面々。
「何だアイツ。目立ちやがって」
「ちょっと、悪戯するか」
ぼそぼそと話した後、一人の男が呪文を唱え始めた。
「おい、それはマズイだろう」
「いいんだよ。…飛べ、ファイアボール!」
この魔法は炎系の初歩的にして、使う者の魔力よっては最大の攻撃魔法になる。
力を間違えて使えば危険な魔法だ。
「キャアァァー」
「誰だ。ファイアボールなんて使う奴は?」
「あ、熱いよ〜」
「手塚先輩、助けて」
男が振った指先から炎の玉が現れ、クラスメイト目掛けて飛んで来た。
「くっ、ウォーターアロー」
手塚はそれらを消し去る為に、水の魔法を唱える。
空中に現れた水の雫は、鋭い矢に変わり、炎の球体に向かって飛んでいく。
しかし、男達の目的はリョーマだった。
「よし、狙い通りになったぜ、くらえ!」
手塚が室内の炎を消す方に意識を向かせた間に、再び魔法を唱えて、リョーマだけに目掛けて飛ばした。
「リョーマ!」
「キャッ」
「危ない、危ないよ〜」
教室内は軽いパニックに陥っていた。
しかしその炎の玉は、リョーマに辿りつく前に全て消えた。
リョーマの周囲を舞っていた炎が、壁になり守っていたのだ。
同じ炎ならば相殺されるのが通常なのだが、リョーマの周囲の炎は勢いを増す。
これはリョーマ側の炎の方が強力である証拠。

「おい…マジかよ」
揺らめくだけの炎は次第に形を変え、見る間に人の型になる。
スラリとした大人の女性のような形を作り出す。
長い髪と、床までのドレス。
全てが赤い炎で作られている。
「我は炎を司る精霊。我が主を傷付けし者…許さぬ」
脳に直接響く声。
だが、凛とした美しい女性の声だった。
精霊と名乗る炎が手を振ると、炎の中kらこれまた真っ赤な炎のドラゴンが現れ、リョーマを狙った者達に飛んで行く。
「うわっ、熱い。止めてくれ」
「何で俺達までっ」
ドラゴンはその者達の身体を締め付ける。
まるで高熱の縄で縛られているかのように苦しそうに呻いている。
「ちょっと、俺は何ともないんだからもう離せよ」
リョーマがその精霊に向けて言うと、精霊はリョーマの前に膝を付き、頭を下げる。
「御心のままに…」
精霊が軽く手を上げると、炎のドラゴンは瞬時に姿を消した。
一旦休憩にして、手塚は教室からリョーマ以外の全員を外へ出した。
この騒動の張本人である、魔法を使用した者達には、手塚が即効退学処分を言い渡した。



「精霊…サラマンデルか…」
「如何にも、我が名はサラマンデル…」
手塚が尋ねると、精霊は即座に答える。
「精霊なんてホントにいるんだ…」
リョーマは漫画の中でなら聞いた事のある名前を持つこの炎を、興味津々で見ている。
見た目も漫画みたいだな…。
ちょいちょいとその身体に触れてみるが、見た目の熱さはまるで感じない。
「俺の魔力にも精霊力が少しあるんだ」
リョーマの興味深げな仕種に、柔らかな笑みをその表情に浮かべ、手塚は話を続ける。
「…精霊力?」
そんな力、聞いた事が無い。
「魔力の中には自然の力を借りる部分があるんだ。魔力は自らが持つ元来の力。精霊力とは…」
「我ら精霊と契約を結び、我らが認めた者にだけに与える力でございます」
その説明は、精霊自らが行った。
「我らはリョーマ様の為だけに存在する精霊。常に我らが御身をお守り申し上げます」
リョーマには、魔力以外にも強い力をその身体に秘めている。他の魔法使いには無い力だ。
一切の契約を必要としない精霊の力。
「ね、我らって事は他にもいるの?」
「はい、そうでございます」

炎を司るは、サラマンデル。
水を司るは、ウンディーネ。
土を司るは、コボルト。
風を司るは、ジルフェ。

これはこの世界に存在する四大精霊だ。
この全てと契約する者は、誰もいない。
国王である南次郎でも、コボルトとだけは契約を結べなかった。
それほどまでに、強大な力を持っている。
「へー、俺にそんな力があるんだ。何か照れるね、自分じゃ全然ワカンナイし」
「我らはいつでも御身と共に…」
そう言うと、精霊はふわりと姿を消した。

「リョーマ、身体は何とも無いか?」
「えっ、うん。ヘーキだよ」
本来精霊の力を借りるのには多大な魔力を必要とする。
魔法を使える者なら力をセーブするが、リョーマはまだ魔法を使えない。
それなら、身体にかかる負担は大きいはず。
「本当になんとも無いのか?」
「うん。別に…」
手を振ったり、身体を捻ったりとしてみても、異常は見当たらない。
それどころか、不思議な力が身体を覆っている。
「そうか、良かった」
何度も確認をし、手塚は漸く納得した。

その後、授業は滞りなく終わり、1日目が終了した。

生徒達の間で、リョーマはかなり有名な存在になった。
同じクラスになれた事を、優越感に感じる者もちらほらと見受けられた。



「リョーマ君」
「不二先輩」
手塚が学園長に退学にした者達の報告に向かった為に、1人で王宮に戻るリョーマ。
そのリョーマに話し掛けるのは、不二だった。
「今日は大変だったみたいだね」
「やっぱり、知ってるんだ」
「当たり前でしょ」
不二も学園で講師をしている。
他のクラスで起きた出来事などは、いち早く伝わる。
しかも、今日の出来事は尋常ではない。
誰もが憧れる、精霊との契約によって使える精霊力を、契約無しで全てを使用できる。
それも、精霊がその姿を現すのだ。
本来は姿など見えない。
この大気中のどこにでも浮遊する力。
魔力だけでは、その力を使用することは不可能。

―――契約。

それが出来る者も数少なく、不二は水の精霊とだけ契約を交わしている。
「君は本当に強い力を持つんだね」
「自分じゃワカンナイけど」
不二が精霊と契約を交わした後は、丸2日身動きが取れなかった。
それほどまでに、魔力を消耗していた。
「そのうちにわかるよ…きっとね」
「そうだといいんだけど


その次の日から、リョーマは魔法について詳しく学ぶようになった。
攻撃魔法に防御魔法。
身体の表面の傷を治す癒しの魔法や、毒や麻痺など内部を癒す魔法。
能力を高める魔法。
能力を下げる魔法。
それから、魔法薬の作り方。
呪文の詠唱。
いろいろと有り過ぎて、自分はダメだと、学園を去る者も現れるほどに、授業の内容は厳しく難しかった。

「リョーマは本当に良く出来るな」
「そう?結構簡単だよ」
今日は風についての魔法を学んでいる。
大気を操る魔法は難しい。
だがリョーマは手塚に言われた通りに、掌の上で小さな雲を作り、雪を降らしている。
クラス中でも、ほんの数人しか出来ない。
しかもその数人は、学園に入って数年経っている魔法に熟年した者達だけだ。
でも雲は出来ても、雪を降らせられない。リョーマだけが、その雲を自由自在に操っている。
「雷も鳴るのかな?雲よ、その音色を聴かせろ」
つんつんと雲を突付くと、ゴロゴロと雷が鳴った。

「…リョーマは、この学園では物足りないな」
学園長であるスミレは、目の前の水晶を覗き込み授業風景を眺めていた。
「もっと上級者コースにするか」


リョーマが学園に入学してから、たった3ヶ月後の事だった。





魔法使いの王子様 第5話です。
主人公なので何でもアリ。
魔法も良くわからず、RPG風にしてみました。