1. 懺 悔

 我が家では、十数年来の年末行事として、その年の大晦日に家族全貝で「今年の五大ニュースと来年の五大目標」 を設定することにしている。
 毎年きまって来るこの大晦日のお陰で、一年問の反省が生まれ、今年達成できなかった目標は何としても来年中に達成 しようと思いを新たにし、また今年一年間努力してきたことの積み重ねの上に、来年の人生設計や新しい目標の設定も生 まれるというものだ。
 現に、今年の五大ニュースにしても、その三件は前年目標として掲げたものが入っている。
 また都合の良いことに私の場合、心臓の手術が成功して文字どおり「第二の人生」を歩み始めた日が五月二十九日で、 一年の約半分にあたるところから、その日を私の第二の誕生日と定めてみた。そしてその年の中間決算として、あと残り 七ヶ月間の軌道の再確認と修正をすることにしたのだが、考えてみれば、この第二の誕生日が私の「懺悔(ざんげ) の日」にもなっているようだ。
 仏教語の「懺悔」とはいうまでもなく過去の罪を悔い改めてその罪業を仏もしくは第三者に告白して赦しを願うことだが、 その懺悔の中から又新しい目標が生まれることになるのだ。
 「華厳経」によれば、「我昔より造るところの諸々の悪業は皆無始の貧瞋癡(とんじんちん) に由り、身口意より生ずるところなり、 一切我れ今皆懺悔する」とあり、また、法華三部経の一つ「普賢観経(ふげんかんきょう) 」には、「若し懺悔せんと欲せば、端座して実相を 観ぜよ。衆罪は草露の如く、彗日能く消除せん」ともある。
 私の好きな永六輔の味わい深く美しい詩に次のようなものがある。

  「生きているということは
  誰かに借りをつくること
  生きているということは
  その借りを返してゆくこと
  誰かに借りたら誰かに返そう
  誰かにそうしてもらったように
  誰かにそうしてあけよう
  生きているということは
  誰かと手をつなぐこと
  つないだ手のぬくもりを
  忘れないでいること
  めぐり逢い 愛しあい
  やがて別れの日
  その時晦いのないように
  今日を明日を生きよう
  人は一人では生きてゆけない
  誰でも一人では歩いてゆけない」

 と。
 私は一年問使用する手帳の正月の頁に、まずこの詩を書くことにしている。
 そして私達は少なくとも年一、二回、一年間の総決算の意味で、端座して実相を観じ大懺悔をするのも必要なことだと 思っている。
 さて、そのような気持ちでこの一年問を振り返った時、この1997年という年は私の人生のみのうちでも、なかなかに (みの) りの多い年であった。
 今年の元旦、私は四人の孫をつれて日光の二荒山神社の拝殿で、「今年も私がお会いするいろいろな人達に対し、 人間が生きてゆくうえでの基本、即ち『諸悪莫作(しょあくまっさ)衆善奉行(しゅうぜんぶぎょう) 』、悪いことは一つでも少なく、善いことは一つでも多く」 を心掛けようと誓った。
 そして今年の大晦日には、この同じ拝殿で自分なりに最善をつくしましたと胸を張れるようにしたいと思いつつ一年を 過ごしたつもりだ。
 果たしてこの一年、私はこの誓い通りに行動しただろうか。借金を返済しながら、皆と手をつなぎ、その手のぬくもりを 感じつつ暮らすことができただろうか。
 一年間使用した手帳を一頁づつ丹念に読み直しながら、私は馬場馬術競技の審査員のように自分自身を採点してみた。


対人関係
健康関係
彫刻関係(日展入選、等身大に近い馬の銅像七基受注)
家庭関係
馬術競技関係
仕事関係
その他
総合平均








  (参考)
  ◎馬場馬術競技採点の尺度

EXCELLENT10
優秀

VERY GOOD9
極めて良好

GOOD8
良好

FAIRLY GOOD7
良好に近い

SATISFACTORY6
先ず十分と見る

SUFFICIENT5
先ず可と見る

INSUFFICIENT4
可に近い

FAIRLY BAD3
不良に近い

BAD2
不良

VERY BAD1
極めて不良

NOT PERFORMED0
不実施

 来年こそ平均8点〜9点を獲得しようと密かに闘志を燃やしている。

(1997.12)