判 決 文


3 肺高血圧とこれに伴う右心不全を発見できなかった過失について(争点(1))

(1)  病理解剖の結果,悦子の死因は慢性肺動脈血栓塞栓症と肺炎に伴う呼吸不全であることが判明し,肺高血圧症の原因は慢性肺血栓塞栓症であると考えられた。また入院してからの検査の過程では,原発性肺高血圧症も疑われていた。
 したがって,悦子が循環器内科の外来を受診していた際の診療については,被告病院の医師が慢性肺血栓塞栓症あるいは肺高血圧症を疑って,より精密な検査をすべきであったかが問題となる。
「慢性肺血栓塞栓症を疑って」とは、裁判官が勝手に判決文に書いたことです。私たちも順天堂も主張していません。母の病理解剖結果の「慢性肺動脈血栓塞栓症」は、医師なら誰でも、即ち肺高血圧症の専門家からS医師まで、患者の死亡後の病理解剖所見なのです。それだから、外来受診時から「慢性肺血栓塞栓症を疑って」とは主張していないのです。自分たちで調べもせず、このような判決文を書く裁判官には、困ったものです。
(2)  平成10年12月15日(循環器内科初診日)の診察について
 12月15日の悦子の主訴は動悸と頻脈であった。これは,慢性肺血栓塞栓症の診断基準に挙げられた主要症状及び臨床所見にも,原発性肺高血圧症の診断基準に挙げられた主要症状及び臨床所見にも当てはまらない。
「動悸と頻脈」は、Jの主張。母にずっと付き添っていた私が、母が息切れがすると言ったと書いているのに、裁判官が無視するのはどういうことでしょうか?また「動悸」については、診断基準に挙げられていないだけです。国立循環器病センターの原発性肺高血圧症のホームページ(甲B25)には記載されているのですが。裁判官は、被告に都合の悪い証拠を無視するのでしょうか?
 この日の心電図には,右房負荷の所見である肺性P波(0.25V以上のP波)が認められる(乙A1,乙B4,被告S本人)。
 しかし,慢性肺血栓塞栓症や原発性肺高血圧症の診断基準においては,心電図による検査所見として,右室肥大の所見として現れていることが要求されている。悦子のの心電図では,右室肥大を示す右軸偏位の所見は認められない。
S医師が唯一読めた心電図所見が右軸偏位。Jの代理人、K弁護士に「右心肥大の所見は右軸偏位などであるところ」と連発されたのが、裁判官には効果覿面。裁判官は、調子に乗って「心電図による検査所見として,右室肥大の所見として現れていることが要求されている。」と書く始末。診断基準には、こんなこと書いてありません。裁判官は診断基準(証拠)を見ないで憶測文を書いているのです。
 胸部X線写真では,右肺動脈下行枝の径は16ミリ程度と計測され(乙A5の1,10),慢性肺血栓塞栓症や原発性肺高血圧症の診断基準(最大径18ミリ以上)に該当するような右肺動脈下行枝の拡大は認められない。
 原告らは,右肺動脈下行枝の径は20ミリであると主張し,胸部X線写真上にその計測箇所を表示している(甲A15)。右肺動脈本幹から下方に十分屈曲した後の最大径を計測するものであるが(甲B6),原告らの計測箇所は辺縁が極めて不明確であり,右肺動脈下行枝以外の陰影も含めて計測している疑いがあるから,その計測結果をそのまま採用することはできない。
裁判官は、裏付けのないS医師の供述を採用。
裁判終了後、右肺動脈下行枝について呼吸不全研究班の先生に尋ねました。計測位置については甲B6の記載のとおり。胸部X線写真のA4縮尺コピー(甲A15)については、径は約20ミリで肺高血圧があると思われると回答されました。A4縮尺コピー(甲A15)でさえ、20ミリなのです。
呼吸不全研究班の先生の回答をアップします。
 また,心胸郭比は58.7%であり,心拡大の状態であったが,慢性肺血栓塞栓症や肺高血圧症を疑うことは困難である。
 したがって,12月15日の時点では,動悸と頻脈の主訴があり,心電図に肺性P波が見られ,やや陰影の拡大が認められたが,これらの主訴や所見から,被告Sが肺高血圧症を疑ってさらに精査をすべきであったということはできない。
裁判官の判断は、最初から大きな間違いです。
(3)   平成10年12月26日(救急外来)の診察について
 12月26日の悦子の主訴は,下肢の脱力感が強くなり,1〜2か月前から動悸を自覚するようになって,呼吸困難もやや感じているというものであった。そして,悦子の下肢には浮腫が認められた。
 しかし,慢性肺血栓塞栓症の診断基準においては,主要症状及び臨床所見として,Hugh-JonesII度(同年齢の健常者と同様に歩行できるが,坂階段は健常者並みにできない)以上の労作時呼吸困難又は易疲労感が3か月以上持続することお言う項目を必ず満たす必要があるが,悦子が訴える1〜2か月前から呼吸困難をやや感じるという症状はこれに該当しない。原発性肺高血圧症の診断基準でも,主要症状及び臨床所見として挙げられた項目の中で,悦子の訴えは息切れ,疲れやすい感じには該当しうると考えられるが,そのほかに該当する項目はなく,3つ以上の項目には該当しない。
裁判官の判断については、呼吸不全研究班で問題にしてもらいたいものです。
 12月26日の心電図には肺性P波のほか,V5誘導でS≧7ミリ,R/S≦が認められる(乙A1,被告本人S)。これは右室肥大を示す所見であり(乙B4),慢性肺血栓塞栓症,原発性肺高血圧症のそれぞれの診断基準に挙げられた心電図の検査所見の項目に該当する。
 しかし,この日の心電図でも右軸偏位は認められない。そして,簡易的に行われた心エコー検査の結果では,あまり描出は良くなかったが,右心系についても明らかな異常は認められなかったのであるのるから,この日に右室肥大が生じていたとは認めることはできない。
心電図では、右軸偏位があるかどうかの問題にすり替わってしまった。Jの代理人、K弁護士に簡単に騙される裁判官には困ってしまいます。
私たちが、心エコーの記録は残っていないからT医師の診断が正しいのか確かめようがない。だから、S医師の供述は誤りだと言う常識的な主張を裁判官は無視して、裏付けのないS医師の供述を採用。
 原告らは,12月15日に比べGOTが23から82,GPTが23から89と上昇したことにつき,悦子が急激な右心負荷が生じ,右心不全に基づくうっ血肝が生じていたと主張する。
 しかし,心不全が急性増悪する場合にはトランスアミナーゼ(GOT,GPT)は中等度以上の上昇を示すが(甲B26),GOT82,ではGPT89では中等度以上の上昇とはいえないから,右心不全に基づくうっ血肝があったとはいえない。
裏付けのないS医師の「軽度」を採用。
 したがって,12月26日の時点でも,下肢の脱力感,1〜2か月まえからの動悸と若干の呼吸困難の主訴があり,下肢に浮腫が認められ,心電図に肺性P波やV5誘導での所見が見られ,GOTとGPTの上昇が認められたが,これらの主訴や所見から,高谷医師が肺高血圧症を疑って精査をすべきであったということはできない。
下肢浮腫が右心不全の症状であることは、裁判官が「本件における医学的知見」として採用した証拠((2)-イ、(3)-イ)にちゃんと記載されているのですが、被告に都合の悪い証拠はここでも無視。
(4)  平成11年1月5日の診察について
 この日の診察では,悦子の頻脈は多少軽快しており,証拠上,悦子が肺高血圧症を疑わせるような症状を訴えたとは認められない。
 したがって,被告Sがこの日に肺高血圧症を疑って,心エコーの再検査やその他の検査を実施すべきであったとはいえない。
ただS医師を擁護。臨床医学では通じません。
(5)  平成11年4月20日の診察について
 4月20日の悦子の主訴は,下肢のむくみが強くなって歩行することが少なくなったというものであった。
 下肢の浮腫は3月16日の診察時から認められていたが,そもそも,浮腫の原因としては肺高血圧症以外に様々な疾患が考えられる(甲B5)。悦子の下肢のむくみは,慢性肺血栓塞栓症の診断基準にも,原発性肺高血圧症の診断基準にも該当しない。
私たちが提出した証拠(甲B5)を利用して、S医師を擁護。裁判官は馬鹿の一つ覚えみたいに「診断基準にも該当しない」と連呼。そうすると「本件における医学的知見」として採用した証拠((2)-イ、(3)-イ)は見ていないということですか?
私たちとしては恥ずかしかったのですが、呼吸不全研究班の先生に下肢浮腫はなぜ診断基準に入っていないのですか?と質問しました。簡単に述べますと、下肢浮腫は初期症状というよりも、進行して重症になってから出現してくるからで、決して無関係ではありませんと回答されました。呼吸不全研究班の先生の回答をアップします。
胸部の聴診では,心尖部収縮期雑音が聴取されているが,慢性肺血栓塞栓症や原発性肺高血圧症で認められるのは,右心の三尖弁弁口部の収縮期雑音であって,心尖部収縮期雑音ではない。
難病情報センターへ心尖部収縮期雑音と三尖弁弁口部の収縮期雑音とは違うのですか?と質問。回答は比較的軽症の場合は三尖弁弁口部の収縮期雑音、重症化に伴い右心房の拡大が生じると三尖弁弁口部は心尖部という場所に位置するようになる。心尖部収縮期雑音と三尖弁弁口部の収縮期雑音は同じことになるとのことです。難病情報センターの回答もアップします。
 この日撮影された胸部X線写真では,右肺動脈下行枝の径は17ミリ程度と計測される(乙A6の1,10)。心胸郭比60%で,前回の胸部X線写真に比べ若干心拡大が進んでいる。
 しかし,いずれにしても,12月15日の胸部X線写真と比較して,著明な変化があるものと認めることはできない(乙A4,5の1,6の1)。
裁判官は、裏付けのないJの主張を採用。
 したがって,4月20日の時点においても,下肢の浮腫が増強したという主訴があり,胸部の聴診で心尖部収縮期雑音が聴取され,心胸郭比で60%になっていたが,これらの主訴や所見から,被告Sが肺高血圧症を疑って心エコー検査を行うべきなったということはできない。
呼吸不全研究班の先生や難病情報センターの回答から考えると、4月20日の時点においては、母は、重症の症状が現れるといえます。裁判官の判断は大きな間違いです。
(6)  以上のように,原告らが指摘するそれぞれの診察時点において,被告SやT医師が,悦子について肺高血圧症であることを疑うことは困難であったというべきであるから,肺高血圧症の発見のための精査を行わなかったことについて,過失があったと認めることはできない。
S医師とT医師を擁護。
 その後の平成11年5月18日と6月15日の診察でも,悦子に肺高血圧症を疑わせる症状や所見であったとは認められないから,平成11年6月29日になって被告Sが肺高血圧症を疑うようになったとしても,その診断に遅れがあったということはできない。
S医師は、平成11年5月18日も6月15日も何も検査をしていないのに、裁判官は「悦子に肺高血圧症を疑わせる所見であったとは認められない」とよく言えたものです。書面も証拠も見ずに判決文を書いたということです。
S医師の言ったことを信用すると、判決文に大きな間違いがあるのは当然です。なぜなら、S医師は平成11年6月29日まで母を高血圧症と診断していたのですから。

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