判 決 文

第3 争点に対する判断

  1. 診療に関する事実経過
  2. 本件に関する医学的知見
  3. 肺高血圧とこれに伴う右心不全を発見できなかった過失(争点(1))
  4. β遮断薬を投与した過失(争点(2))
  5. 説明義務違反、転院勧告義務違反(争点(3))

第3 争点に対する判断

 1 診療に関する事実経過

 争いのない事実と証拠(甲A13,乙A1〜4,5の1・2,6の1・2,7、8の1〜6,9,原告岡田啓子本人,被告S本人)よれば,以下の事実が認められる。

争いがあるのに「争いのない事実」と裁判官は事実誤認。
「診療に関する事実経過」はS医師の陳述書(乙A4)の丸写しです。原告側の証拠(甲A13)と比べて検討するのは七面倒臭いのでしょうか?カルテ(乙A1〜3)も見ていません。具体的にその箇所を指摘します。
S医師の陳述書(乙A4)には、S医師の診断や判断も含まれており、私たちが書面で医学的に誤りだと主張してきたのです。S医師の診断や判断が医学的に正しいことを裏付ける証拠は何もないのです。
裁判官の仕事振りは杜撰、怠慢に尽きます。

(1)  循環器内科の初診から入院まで
 岡田悦子は,被告病院の脳神経外科で脊髄腫瘍の摘出手術を受けた後,平成10年6月30日に退院し,以後,脳神経外科の外来診療とリハビリのため定期的に通院していた。
 平成10年12月15日,悦子は,脳神経外科からの紹介により循環器内科を受診して,被告Sの診察を受けた。悦子の主訴は,動悸と頻脈であった。悦子は脳神経外科で検査をした心電図と胸部X線写真を持参した。悦子の体重は50キロ,血圧は160/80,脈拍数は112であった。
 被告Sは,心電図上,洞性頻脈,II,III,aVF誘導に小さなq波を認めたが,有意な所見ではないと判断した。また,胸部X線写真では,心胸郭比が58.7%であったが,心陰影の形態,肺血管影,肺野などから明らかな異常所見はないと判断した。聴診上,心雑音やラ音は認められなかった。
 被告Sは,動悸と頻脈の原因は,脳神経外科で高血圧に対して処方されているカルシウム拮抗薬のエマベリンLにあるのではないかと判断し,降圧薬をβ遮断薬のアーチストに変更して3週間分を処方し,経過をみることにした
 12月26日午後,悦子は,下肢の脱力感が強くなったことを訴えて,被告病院の救急外来を受診した。脳神経外科で脊髄腫瘍が悪化していないかを検査するために行われた脊髄MRI検査では,以前と異なるところはなく有意な所見はなかった。
 その後,循環器内科の当直医であるT医師が,悦子を診察した。悦子の主訴は,1〜2か月前から動悸を自覚するようになり,呼吸困難もやや感じており,降圧薬がアーチストに変更されてからやや自覚症状が改善したようにも思えるが,あまり変わらないというものであった。脈拍数は100,血圧は152/82であった。胸部の聴診では心雑音もラ音もなかったが,下肢には浮腫が認められた。
 T医師は,心電図検査により,洞性頻脈,II,III,aVF誘導に小さなq波,III,aVF誘導に陰性T波を認めたが,簡易的に行った心エコー検査では,あまり描出は良くなかったが,明らかな異常は認められなかった。また,血液検査の結果,GOTが82,GPTが89と,軽度の上昇が見られた。
 T医師は,GOT,GPTの上昇はアーチストによる薬剤性の肝機能障害の可能性があると考え,降圧薬を同じβ遮断薬のテノーミンに変更した。動悸や息切れなどの症状に関しては,抗不安薬のホリゾンを処方した。
 平成11年1月5日,悦子は,被告Sの診察を受け,降圧薬をβ遮断薬に変更した後,動悸は多少軽快していると述べた。血圧は146/90,脈拍数は80であった。前日に脳神経外科受診の際に行った血液検査の結果は,GOTが53,GPTが107であり,改善傾向は見られたが,なお薬剤に肝機能障害が否定できなかったので,被告Sは,テノーミン,ホリゾンの服用を中止し,降圧薬は以前に処方されているエマベリンLを服用するように指示した。
 1月19日の診察では,悦子は,エマベリンLを服用するようになってから,脈拍は高めで経過していると述べた。脈拍数は120であった。被告Sは,エマベリンLが頻脈の原因と考え,降圧薬を再びテノーミンに変更した。
母が、「エマベリンLを服用するようになってから,脈拍は高めで経過している」と言うことはありません。S医師が言ったことです。裁判官はカルテ(乙A1)を見ていませんね。
 1月26日,脳神経外科を受診した悦子は,降圧薬をテノーミンに変更した後,下肢の脱力が悪化し,しびれ感や吐き気があって,薬に慣れるまで体がもたないと訴えた。
 脳神経外科からの診察依頼により,被告Sが悦子を診察し,悦子は,全身倦怠感があり,手足のしびれが強くなっていると訴えた。胸部に心雑音はなく,ラ音は聴取されなかった。被告Sは,悦子にβ遮断薬の副作用が現れていると判断し降圧薬をカルシウム拮抗薬で脈拍低下作用を併せもつヘルベッサーRに変更した。
脳神経外科からの診察の依頼なんてとんでもない。薬の変更の依頼が事実です。カルテにもちゃんと依頼の手紙があるのに、裁判官はカルテ(乙A1)を見ていませんね。
 2月16日の診察では,悦子は,吐き気は多少改善したが,手足のしびれは変わらないと述べた。脈拍数は108と頻脈傾向であったが,胸部の聴診で心雑音,ラ音はなかった。血液検査の結果,GOTが27,GPTが26と肝機能は正常であったので,被告Sは,このまま投薬を継続して経過を見ることにした。
 3月16日の診察で,悦子は,最近下肢がむくんできたと訴えた。脛骨前浮腫が認められ,脈拍数は108であった。血液検査の結果は,GOTが34,GPTが38で,肝機能は悪化していなかった。被告Sは,下肢の浮腫は年齢的なものと,日常生活活動の低下によるものと考え,利尿薬のラシックスを追加処方した。
 4月20日の診察で,悦子は,下肢のむくみが強くなり,歩行することが少なくなったと述べた。脛骨前浮腫が認められ,脈拍数は112であった。胸部の聴診では,心尖部収縮期雑音が聴取された。胸部X線写真では心胸郭比が60%であったが,12月15日の胸部X線写真と比較して明らかな変化はないと判断された。被告Sは,下肢の浮腫は下肢の静脈還流不全によるものであると考え,ラシックスを処方した。
 5月18日の診察では,悦子の下肢の浮腫に変化はなく,脈拍数は100であった。体重は50キロで,初診時と変化はなかった。被告Sは,浮腫が改善しないため,甲状腺機能低下症の鑑別診断のため血液検査を行ったが,甲状腺機能低下症は否定された。
 6月15日の診察でも,悦子の血圧は130/80,脈拍数は104,体重は49キロで,下肢の浮腫の程度も含めて変化はなかった。
  6月29日,脳神経外科を受診した際に,悦子は,下肢だけでなく顔面にも浮腫が目立っているとの指摘を受けて,循環器内科の受診を指示された。
 脳神経外科からの診察依頼を受けて,被告Sが診察をしたところ,悦子の脛骨前浮腫が悪化していた。被告Sは,浮腫と心臓との関係を鑑別する必要があると判断して,心エコー検査と心電図検査を行った。心エコー検査の結果,右心系の拡大と肺高血圧が認められ,左心系から右心系への明らかな血流のシャント(短絡)などの心疾患は認められなかったので,肺血管の異状による疾患が疑われた。
 被告Sは,肺高血圧症の疑いと診断して,肺血流シンチグラム検査を7月2日に予約し,その後に必要があれば,CT検査や血管造影検査を行うこととした。
「肺高血圧症の疑いと診断して」は事実誤認です。S医師も陳述書(乙A4)に「肺高血圧症の診断は、平成11年6月29日に行ったドップラー法を併用した心エコー検査によるものです。」と書いています。裁判官は書面をちゃんと見ていませんね。 
 7月2日,肺血流シンチグラム検査が行われた。その結果,右中肺野に集積が不均一の部分がみえ,左側でもやや集積が不均一になっている部分が認められた。
 7月6日,被告Sは,悦子に対し,肺血流シンチグラム検査結果を説明した。検査の結果では,右中肺野に一部血流の欠損像が見られたが,先天性疾患は否定的であり,肺高血圧症をきたすほどの肺塞栓症の所見も認められなかった。被告Sは,悦子の肺高血圧は原因不明の原発性肺高血圧症である可能性が高いと判断し,入院精査により確定診断するという方針を立てて,まず,7月14日経食道エコー検査を予約した。浮腫に対しては,利尿薬のラシックスとアルダクトンAを処方して経過を見ることにした。
 7月14日,経食道エコー検査が行われ,検査の結果,右心拡大が認められた。また,冠動脈から右心房に向かう軽度のシャント血流が認められたが,これは右心室の拡大を説明できるほどのものではなかった。7月29日から1〜2週間程度,検査のために入院する計画が立てられ,7月30日の胸部CT検査,8月2日の心臓MRI検査,8月3日の心臓カテーテル検査の予約がされた。
 
(2)  入院してからの事実経過
 7月29日の循環器内科への入院時,悦子は血圧が126/76,脈拍数が86,体重が56キロで,下肢の浮腫は著明であった。
 胸部X線写真では,心胸郭比が63.8%で右心不全の悪化がみられ,肺動脈はやや増強していた。心電図では,不完全右脚ブロック,V1,V2誘導に異常q波などが認められた。8月3日に予約された心臓カテーテル検査は,延期とされた。
 7月30日,胸部CT検査が行われた。検査の結果,両側に中等量の胸水が認められ,また,右肺動脈主幹部から上葉枝に陰影欠損が認められて肺血栓塞栓症を疑う所見があったが,造影剤で描出できる範囲の肺動脈内に血栓塞栓は認められなかった。
 血液検査の結果は,GOTが71,GPTが64で軽度の肝機能の低下が認められた。浮腫に対しては,ラシックスの静脈内投与が開始された。悦子は呼吸苦を訴え,動脈血の血液ガス分析で低酸素血症が認められたため,酸素投与が開始された。
 7月31日夜にも悦子は呼吸困難を訴え,8月1日にも血圧低下傾向が見られて呼吸苦があったため,外来時から継続していたヘルベッサーRの投与が中止された。
 8月2日,心臓MRI検査が行われた。右室,右房の著変な拡大が認められたが,そのほかに明らかな異常所見は認められなかった。
 8月3日,悦子は呼吸器内科の診察を受けた。呼吸器内科の医師は,多発性肺血栓塞栓症の疑いと診断した。8月4日から,悦子は呼吸器内科と兼科入院となった。
 8月6日,経静脈的肺動脈造影検査が行われた。両肺野ともに,血栓を示唆する陰影欠損は認められなかった。
 8月7日,心臓カテーテル検査が行われた。右心収縮期圧は68mmHg,肺動脈楔入圧は平均14mmHgで,肺動脈は高度上昇しており,原発性肺高血圧症が疑われた。そして,プロスタグランジンI2製剤であるドルナーの経口投与が開始された。
 ドルナーの投与が開始された後も,悦子の肺動脈圧は低下せず,8月17日にはNOガス吸入が行われたが,肺動脈圧の低下は認められなかった。 
 8月19日からは胸水が増加し,抗生物質の投与が開始された。その後も胸水は増加し,血圧は低下し,経口摂取量が減少するなど,悦子の病状は次第に悪化した。
 8月31日午前8時35分,悦子は呼名に対し開眼せず,対光反射も消失し,午前8時40分には呼吸が停止して,心マッサージが開始された。午前8時50分には気管内挿管が行われ,強心薬が投与されたが反応なく,午前10時21分死亡が確認された。
同日午後2時55分から行われた病理解剖の結果,悦子の死因は慢性肺動脈血栓塞栓症と肺炎に伴う呼吸不全であり,肺高血圧症の原因は慢性肺血栓塞栓症と考えられるとの診断がされた。

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