胸部X線検査は、ルーチンに行う検査です。そのためにも常識程度は知っておかねばならない所見があります。
胸部X線写真上には、肺高血圧症の存在を示す所見があります。
右肺動脈(1)下行枝径を計測し、15mm以下は正常。これを超えるものは肺高血圧症である。同じレベルにみえる肋骨の幅と比べる方法もある。
呼吸不全に関する研究班では18mm以上を拡大と定義しています。
これは、心拡大の存在を示す所見(3)と共に、常識程度に知っておかねばならない所見であり、知らなければ正しい診断はできません。
外来の施行日 | 1998年12月15日(循環器内科初診日) | 1999年4月20日 |
1998年12月15日(循環器内科初診日)の胸部X線写真は、証拠保全時に受領し忘れ、後刻気づき依頼したので、原寸大の写真を取得することになりました。このことによって、2002年10月25日に重大な所見があることが分かりました。(詳しいことは私の陳述書を参照してください)。
肺動脈は太く、右肺動脈下行枝径を計測すると20mmでした。肺高血圧症を疑って精査をする必要がありましたが、全く行われませんでした。カルテには、胸部X線写真の所見として、心胸郭比の記載があるのみで、右肺動脈下行枝径の記載はないのです。
私たちが提出したA4縮尺コピー
2004年5月に裁判所に証拠として提出するために、A4縮尺コピーを作成しました。縮尺コピーの下にスケールを入れました。赤い線で計測位置を示しました。
計測方法は、右肺動脈本幹より下方に十分屈曲した後の最大径を計測、上記の本の記載通りです。担当医師も尋問で「そのように計測していると思います。この定義に関しては、私存じませんでした。」と言っていました。
右肺動脈下行枝径が20mmというのは、私たちが赤い線で示した位置になります。
順天堂が提出したプリントアウト
裁判で、私たちから指摘を受け、右肺動脈下行枝を計測し、16mmと主張しました。随分下方の細い所を計測しています。私たちとは、計測位置が違います。
尋問での担当医師の供述(担当医師の本人調書より。担当医師の供述は色を変えます。)
【分析】
裁判では、私たちの主張(私の陳述書参照)は退けられましたが、医学的には間違っているとは思いませんでしたので、呼吸不全に関する研究班の事務局に右肺動脈下行枝径の計測位置について尋ねました。その際に送付したのは、胸部X線写真のA4縮尺コピーです。但しこのホームページにアップした写真のように赤色で計測位置を示していません。
計測位置は上記の本(肺血栓塞栓症の臨床)のとおりであること、右肺動脈下行枝径は約20ミリであると回答でした。私たちの主張が医学的に正しいことを確認することが出来ました。
担当医師の主張は16ミリで、随分下方の細い所を計測しています。これは間違いであることを確認することが出来ました。
1. 1998年12月15日(循環器内科初診日)の胸部X線写真の右肺動脈下行枝径は、20mm。
2. 計測方法は、右肺動脈本幹より下方に十分屈曲した後の最大径を計測1)。
1)国枝武義,由谷親夫:肺血栓塞栓症の臨床.東京,1999,医学書院.p.55
カルテ(karute_990420.pdf へのリンク)に記載されている所見は
胸部X線写真上の所見は、心胸郭比だけですが、担当医師は母死去後の私宛書簡に、「4月のレントゲン写真では、右の第2弓の突出が軽度ながら存在していましたが、心陰影の目立った拡大を欠き、心臓超音波検査まで考えなかったと記憶しています。」と書いています。「軽度」の是非はともかく、「右の第2弓の突出」は右心房の拡大によるものです。
肺高血圧症疾患においては、右心房の拡大は三尖弁逆流(TR)の進行によって生じます。
三尖弁逆流(TR)は肺動脈収縮期圧30mmHg程度と早期からみられる右心不全、肺高血圧の所見です。
三尖弁逆流(TR)によって、心尖部に収縮期雑音を聴取するようになります。
下肢浮腫は右心不全の症状です。
以上から、「右の第2弓の突出」はカルテに記載されている所見と関係していることがわかります。
肺高血圧症を見つけ出すには、正しい計測位置で右肺動脈下行枝径を測ることが必要です。このことでリスクのある治療を回避できます。