以下は、2004年6月4日に提出した原告岡田啓子の陳述書である。固有名詞は必要に応じてイニシャルとした。
1. 平成14年10月25日、肺高血圧症の専門家を(以下「先生」といいます。)を訪ねた時、亡母の初診時の平成10年12月15日の胸部X線写真に肺高血圧症の存在を示す所見があったことを、私と父は知りました。
平成10年12月15日の胸部X線写真は証拠保全時に受領し忘れ、後から再依頼したので原寸大のままです。その写真を見せました。
先生は、「肺動脈が太いですね」と言い、次いで定規で右肺動脈下行枝径を計測しました。20mmと言いました。
私は先生の御意見を診療経過表及び準備書面に書きました。
2. これに対して、被告らは被告準備書面で、平成10年12月15日の胸部X線写真の右肺動脈下行枝径は16mmと主張しました。
その後、被告らは胸部X線写真(乙A5〜7)を証拠として提出し、更にプリントアウトし、右肺動脈下行枝径の計測位置を矢印で示しました(乙A10)。
プリントアウトした写真(乙A10)は、右肺動脈の部分が黒くて、計測位置がよく分かりません。
3. 私が既に提出した医学文献(甲B6)に、右肺動脈下行枝径の計測の方法についての記述(甲B6・p.55)があります。
この医学文献(甲B6)は、国立循環器病センターの医師の執筆によるもので、以下の通りです。
「胸部X線所見の検討項目と計測の方法」
右肺動脈下行枝径:右肺動脈本幹より下方に十分屈曲した後の最大径を計測(甲B6・p.55)。
乙A10号証の内、平成10年12月15日のプリントアウトした写真だけは、熟読するとどうにか分かるように思われますが、これを見ると、随分下方の細い所に矢印がついています。
したがって、被告らの計測位置は誤りであり、16mmも誤りです。
そこで私たちはもっとよく分かるように、被告らが提出した胸部X線写真(乙A5の1)を原本とし、鮮明な縮尺コピーを作成しました。これが甲A15号証で、その中に計測の利便を考えて物差しをのせ、また私たちの主張する20mmの計測位置を示してあるので、乙A10号証と比較してみれば、その違いがよく分かるはずであると思います。
4. 亡母と私は、外来通院中、S医師から胸部X線写真について全く説明を受けていません。
カルテには、心胸郭比については記載がありますが、右肺動脈下行枝径については一切記載がありません。
S医師は陳述書(乙A4)に「肺動脈が特に太いということはありません」とだけ書いています。これが、平成10年12月15日におけるS医師の判断であるかどうかは、現時点では確かめようがありません。また、肺動脈が太ければ肺高血圧症の存在を示すという認識を、当時S医師が持っていたかどうかも現時点では確かめようがありません。
但し、S医師の陳述書(乙A4)の「肺動脈が特に太いということはありません」という判断は誤りです。
胸部X線写真上の肺動脈は太いのです。
5. 私は、肺高血圧症について、随分勉強しました。肺高血圧症の診断に必要とする、胸部X線写真での肺動脈拡大所見も心電図での右心負荷所見も難しい所見とは思いません。素人にも十分理解出来ると思います。
しかし、S医師は肺高血圧症の診断が全く出来ませんでした。
診断が全く出来なかったことを、肺高血圧症の診断は困難だと言って逃げるのは、医師の責任放棄であると思います。
以上
平成16年6月1日
住所 省 略
岡 田 啓 子