L アラブ音楽と日本音楽のコンサート |
1月5日(土)19:00 |
会場 アサド図書館ホール(ダマスカス) |
出演 碓井、中村、岩崎、鈴木、奥小路、照井、杉本、 アイマード、サイード、マジド、音楽学校の生徒達 |
動員 400人 |
プログラム 第1部 アラブの音楽 カーヌーンの独奏 合唱とアラブ楽器の合奏 第2部 日本の音楽 武満徹 「リタニ(LITANY)」 伊藤康英「めぐる季節に」より「春の愁い」 日本古謡「さくらさくら」 滝簾太郎「荒城の月」 成田為三「浜辺の歌」 中山博之「VnとPfのためのシリア幻想曲」 宮城道雄「春の海」 |
♪ 両国の友好を願って
2002年1月5日
ダマスカス・アラブと日本音楽のコンサート
地方公演を終えて、ダマスカスに帰還して行ったこのコンサートは、「仁」の凱旋公演でもあ
った。地方での評判を聞きつけて、多くのお客様が押し寄せるということを耳にしていた。最終
公演ということもあり、私は気合を入れて臨んだ。
ところが当日、想像もしないことを知らされた。当日の5時から6時半まで、このホールを他
団体が講演会に使うというのだ。その時間帯は通しのリハーサルの時間。ホールに抗議をするが
キャンセルはできないという。なぜなら、講演会は演奏会より先に予約されていたというからだ
。何が起こるかわからないこの国の話とはいえ、さすがにこれには驚いた。
とりあえず、できるリハーサルはそれまでの時間に済ませることにした。しかしプログラム前
半に出演するシリア人奏者や日本人奏者の一部は5時に会場に来る。連絡はとれない。開場を遅
らせリハーサルは6時半から7時の、開演直前の時間に行うしかない。我々はあせるばかりだっ
た。
5時。リハーサルのために集まった出演者たちは、知らせを聞いて一様に驚いた。しかしこれ
ばかりはどうにもならない。シリア人奏者にも待っていただく。あせっても仕方がない。自分た
ちに残されていたのは、待つことだけであった。
講演会は予想通り6時半には終わらず、6時40分までかかった。講演会から退場されるお客
様と、演奏会に訪れるお客様が入り乱れ、場外は大混乱。出演者たちまでもが対応におおわらわ
である。場内では残りの出演者によるリハーサルが急いで行われる。開場時間を7時5分とし、
ぎりぎりまでリハーサルに充てるつもりだったが、会場のスタッフか誰かが「これ以上VIPの
お客様を待たせるわけにはいかない」として開場してしまい、リハーサル中にも関わらずお客様
がなだれ込んできてしまった。やむを得ずリハーサル終了。ぶっつけ本番で臨まざるを得ない奏
者もいた。
見れば既に会場は満員。立ち見もたくさん出ている(後で聞いたのだが、会場に入りきらなか
ったお客様も30人以上いたという)。開演時間を15分遅らせ、落ち着かない状態で開始せざ
るを得なかった。
しかしそんな状況にもかかわらず、最初に出演したカーヌーン奏者、アイマード氏は非常にす
ばらしい演奏で、満場のお客さんを惹きつけた。彼は地方公演でもアラブ作品、邦人作品、クラ
シックの演奏で八面六臂の大活躍だった。次にアラブ楽器と歌のソロ及び合唱。クルド人歌手マ
ジド氏は美しい歌声でダマスカスの民謡を歌う。その演奏は新聞紙上でも絶賛された。
プログラムの後半は邦人作品。ここではまず日本の各時代に作られた代表的な歌曲を紹介した
。古謡「さくらさくら」、明治時代の作品「荒城の月」「浜辺の歌」そして今を生きる現代作曲
家伊藤康英氏の作品「春の愁い」である。特に「さくらさくら」は尺八、カーヌーン、ピアノな
ど世界各国の楽器による伴奏に、日本人とシリア人による合唱を加え、シリアの方々と一緒にな
って一つのものを作ることに努めた。
器楽曲としては、明治時代に作られた「春の海」と、世界的な作曲家武満徹の「LITANY」を紹
介した。またこの演奏会のために若手作曲家中山博之氏が作曲した委嘱作品「バイオリンとピア
ノのためのシリア幻想曲」を演奏した。これら難しい現代曲がシリアの方々に受け入れられるか
心配だったが、お客様によれば「哲学的だった」「悲しみを表していたように聞こえた」という
意見をいただいたり、「(シリア幻想曲は)シリアへの愛情を表すようだった」と新聞紙上で評
されるなど、音楽を積極的に聴いていただいているようだった。難しいとされる現代作品でも、
質の良いものはお客様に受け入れられるということがわかり、非常に勉強になった。地方公演で
も評判だったカーヌーンと尺八による「春の海」は、日本のお客様からも「カーヌーンはまるで
日本の琴のようだった」と評判だった。音楽を通じてシリアと日本の交流をはかるという意味で
これら多くの試みは良い方向に働いたことと思う。
シリア人合唱団との「さくらさくら」 カーテンコールに答える出演者
初めてとなるシリアでの大規模な演奏旅行。不手際や当日のトラブルもあってお客様や関係者
にご迷惑をおかけしたこともあり、反省点は多い。しかし演奏旅行を通じてシリアの方々と心の
通った交流をすることができたという成果は計り知れない。今回を教訓に、さらにシリアと日本
の市民レベルでの交流を目指し、今後も精力的に活動を続けていきたい。
中村 聡武
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