(このページは、2002.5 HP開設にあたって書いたものです)

3.エンジンについて

 エンジンに求めるものも、人それぞれでしょう。荒っぽい分類をすれば、モアパワーを求める人と、パワーフィールを追求する人に分けられるかもしれません。私は典型的な後者のタイプです。例えば、レガシーGTBの280馬力は確かに魅力的ですが、私にとってあのエンジンフィールは「嫌い」の部類に入ります。同じスバルでも、インプレッサの方がまだ好みに合っています。私が「いいエンジンだなあ」と思うのはホンダ車に多く、要はターボが嫌いないのかもしれません。二輪車に乗っていたときも2ストは嫌いで、4ストマルチを好んで乗っていました。そういうタイプの車好きは少数派かもしれませんが、でもきっと他にもいらっしゃると思うんです。そんな私にとって、GTIはターボらしくないターボであり、かなりの好感触でした。パワーそのものも殆ど不満はありませんでした。しかし、GTIに乗ってくうちに、盛り上がり感のない淡々とした回り方と、高回転でのふん詰まったような感じを何とかしたいと次第に思い始めました。では、GTI独特の淡々とした回転フィールはどこから来ているのでしょうか。

 通常、ターボ車の欠点というと、真っ先に思い浮かぶのは「レスポンスが悪い」という点です。その原因は「ターボラグ」だと。しかし、これは話を単純化しすぎているように思います。例えば、日常域でのフィールの悪さは、ターボラグよりも圧縮比が低いことが大きな要因です。また、ターボエンジンがNAエンジンにフィールで劣る点は、レスポンスの他にも、リニアリティの問題があります。ターボ車は先天的にリニアリティが良くありません。レスポンスとは、アクセルを踏んでから実際にトルクが出るまでの時間のことですが、ここでリニアリティとは、この回転数でこれだけアクセルを踏めばこれだけのトルクが出るという関係がいつも一定かどうかの意味で使っています。レスポンスとひっくるめてダイレクト感という言い方をする場合もあるようです。ターボ車のレスポンスが悪いのは周知のことですが、実はリニアリティの問題の方が日常的には気になると思います。

 例えば、前出のレガシーGTB(MT)で、ギアをローに入れてクラッチを完全につなぎ、2000回転からアクセルをベタ踏みしたとします。回転が上昇してパワーバンドに入ったとき、280馬力が路面に伝わって猛然とダッシュするかというと、実はそうなりません。エンジンは期待に反して力無くスルスルとレッドゾーンまで吹け切ってしまいます。なぜかというと、まずアクセルをベタ踏みしたときタービンはまだ回っておらず、過給が高まるまでに時間がかかります。つまりターボラグがあるわけです。しかし、タービンの回転が高まって、さあ過給しようとしたときには、エンジンは既にさっきより回転が上がっており、タービンにもっと回って欲しいと思うわけです。タービンの回転が上昇してもエンジンの回転がそれより先に上昇し、タービンに対する要求値がどんどん先に行ってしまうので、いつまで経っても過給が追いつきません。結局、過給圧が十分に高まることは最後までなく、言ってみれば終始ターボラグの中にあるままエンジンがレッドゾーンまで吹け切ってしまうのです。

 多くのターボ車では、ギアがどこに入っているか、上り坂か下り坂か、どの回転数からアクセルを踏み始めたか、といった種々の条件によって、例えば同じ3000回転でアクセル開度が1/2の時のトルクと言っても、その値は一定にならないわけです。一般には、上のギアの方がエンジンの回転上昇が遅くなる分だけトルクが出ます。また、下り坂よりは登り坂の方が力が出ます。ターボラグとかレスポンスという言い方ををすると、アクセルを踏んでから少し待っていれば期待のトルクが出るだろうと思われがちですが、待っても期待値に一致するとは限らないわけです。アクセルを踏むということは加速したいわけで、エンジン回転は必然的に上昇していきますから、ターボ車を運転する場合は、常に期待したのと微妙に異なるトルクが路面に伝わっていることになります。逆に言えば、欲しいだけのトルクを路面に伝えるにはどれだけアクセルを踏めばよいか、の予測が難しいということになり、この辺を気にしだすと居たたまれなくなるわけです。これを称してリニアリティがないというわけです。

 リニアにコントロールできるターボ車の条件としては、タービンの回転を早めにサチュレート(上限まで上昇)させ、過給圧を制限してしまうことです。タービン回転がサチュレートするには、タービン自体がその条件での上限まで回りきるか、ECUが介入してウェイストゲートを開くことです。GTIのエンジンは、ターボの割には比較的レスポンスが良いですが、これは圧縮比が9.5とターボ車にしては高めなことと、タービンが小さくて回転上昇が速いからです。しかし、リニアリティが良いのは、単にタービンが小さいからではなく、早め早めにタービン回転をサチュレートさせているからだと言えます。過給圧がサチュレートすれば、それ以上トルクが盛り上がらないのは自明の理です。このことを考えると、GTIのエンジンが盛り上がりなく淡々と吹け上がって、また高回転で頭打ちになることは、ターボ車らしくない良好なリニアリティと引き替えになっているのだとも言えます。言い方を換えれば、もっと過給してパワーを出せる余裕を切り捨てて、平らにしてしまっているからこそ、ターボらしからぬリニアリティが得られているのではないか、と思われるわけです。

 どなたかのHPで、「SZ−1チューンをしたけれど、ノーマルROMにマフラーとターボパイプだけ変えた時のエンジンフィールは捨てがたい」と書かれており、フムフムと思いました。私はSZ−1にはCOXで試乗しただけなので十分には知りません。しかし、その限られた範囲での印象として、パワーと引き替えにリニアリティが減じているように感じられ、一体どういうことか悩みました。タービンを変更せず、最大過給圧を高くしただけなので、レスポンスは悪化するはずがありません。吸排気系を効率化しているので、ノーマル以上に素早くトルクが立ち上がり、その先に更にエキストラトルクがあるのだから、ノーマルより良くはなっても、悪くなる要素は何もないはずと考えました。しかし、そう考えながらも私が実際に感じたものは、リニアリティが低下している(言い方を換えれば、いかにもターボ車的なフィールになっている)というものでした。その理由をさがせば、最大過給圧を高くとっている分だけ、過給圧がサチュレートするまでの時間が長くなったためだろうと思うわけです。

 誤解なきよう補足しますが、もちろんSZ−1の総合的なフィールは素晴らしいものでした。ただ、最大過給圧を上げれば、その分だけターボ車的な(つまり私の好まない)フィールになる、という当たり前の図式なわけで、タービンが小さいからといって、この図式からは逃れられないのだと思いました。それに、そこまでのパワーは、正直に言って自分の運転技術では使い切れないだろうとも感じました。それで、私は自分の好みを追求することに専念して、ノーマルのリニアリティを保ったまま、あるいはそれ以上のリニアリティを追求しながら、トルクの盛り上がり感と、高回転での吹けを良くしたいと考えました。その目的のためには、ROM交換は適していないように思われ、まずは吸排気系の効率化が手っ取り早いと考えました。部品はできるだけ一つづつ効果を確認しながらつけていくのが楽しみで、マフラー、エアクリーナーエレメント、ターボパイプの補強と作業を進めました。はたして、その方法論が正しいかどうかは不明ですが、今のところは期待に沿った方向性に進化しつつあるように思います。

 こうした感じ方や指向性は、あまり一般的ではないかもしれません。でも、皆が同じ感じ方ではつまらないですし、そういう感想もあるという意味で、あえて率直に記載させていただきました。この先は予算次第でニュースピードのターボインテークを試したり、できればエアクリーナーボックスのロアシェルに加工もしてみたいと思っています。吸排気系でできることを全てやり、最後にROM交換をしようか、どうしようか、というのが現時点での私の方向性です。

(このページに記載の内容は、個人的な所感に過ぎませんので、あらかじめご了承お願いいたします)