2000Hit 記念 SS




薄い夜着越しに、彼の指が動いているのをはっきりと感じた。 人差し指と中指を使って、トコトコと私の腿で遊んでいる。 私は気にした素振りを見せずに、目の前の台本に集中するのだが…。 ─トコトコトコ、トコッ─ 軽やかなステップを踏みながら、彼の指はダンスを続けている。 彼に気付かれないように、横目で様子を覗う。 ベットの上で両足を伸ばしたまま、上体を起こしている私の横に寝そべっている彼。 何が楽しいのか、呆れるほどに真剣な表情で自分の指先に集中していた。 再び腿の付け根辺りに、彼の指を感じる。 甘い擽ったさに声を上げそうになるが、辛うじて堪える事に成功した。 『ここで声を出してしまったら、私の負け…』 台本に目を移し、意識を逸らそうとするが、字面を眺めているだけで内容は全く頭に入 ってこない…。 2000Hit 記念 SS ─甘え上手─ Written by G7 「もう、昔とは違うのですから、少しは威厳を持った態度で…」 夕食も入浴も済ませ、夜の見回りまでの空いた時間…。 部屋に帰ったなり、後ろから抱き締められたマリアは、溜め息交じりに呟いた。 「どうして?部屋に戻ったら、ただの夫婦なんだし…」 表情は見えないが、その口調からは自分の行為を考え直すニュアンスは含まれていなか った。 彼女自身、こういった雰囲気や行為が嫌いな訳では無い。 ただ、そこへ到達するまでのシュチェーションや、心情的な高まりを必要とするのだ。 大神のように、照明のスイッチを切りかえるように、すぐさま公私を切り替える事が出 来ないマリアだった。 一緒の部屋で生活するようになってから、事ある毎にマリアとのコミュニュケーション をとりたがる大神…。 就寝前などは、それなりに気持ちの準備も整っている為に問題は無い。 しかし、それが朝や昼間、今のような状況でも求めてくるのは考え物である…。 勿論普段の仕事は、そつなくこなしているし、周囲の期待以上の頑張りを見せていた。 帝劇と帝撃、双方にに関わる人間達も大神を信頼し尊敬している。 そんな大神を隊員としては勿論、妻としても誇りに、そして愛おしく思う。 だからこそ……。 「それじゃあ、一つ賭けをしようか?」 一通りマリアの話を聞いていた大神が提案を出す。 「賭け、ですか…?」 「そう、俺もマリアも二人で居る事が嫌な訳じゃないんだろう? 要は『その気』になってしまうのが問題なんだ・・・。 それだったら、今から俺がマリアに甘えるから、マリアが『その気』にならなければ俺 の負け。今後はもう少し自省するよ…」 「私が負けてしまったら…?」 マリアの問いに、大神は悪戯な笑みを浮かべながら口を開く。 「そうなったら、二人の時は思いっきりマリアと仲良くしたい」 「思いっきり…?ひょっとして、今まででも自省していたというのですか?」 「うん!」 含みの無い大神の返事に、毒気を抜かれたように呆けてしまうマリア。 『絶対に負けられない…。思いっきりなんて身体が保たないかもしれない……』 ◆ 「マーリア」 声を押し殺し続けるのも限界に達しかけた時、不意に大神に名前を呼ばれる。 これ以上、台本を読むふりを続けるのが辛くなっていたマリアは、渋々と大神の呼びか けに返答した。 「なんです、一朗さん?」 「呼んでみただけ♪」 自分の顔を満面の笑みで眺めている大神に、言葉を失うマリア。 少年のような無邪気な表情は、本当にただ甘えているだけにしか見えない。 『この笑顔に騙されては駄目…』 大神の笑顔に、蕩けそうになる自分の心を叱咤する。 このまま見詰め合っていると、決心が揺らいでしまいそうになり、慌てて目を逸らす。 ─ふに、ふに─ 台本を置いて、手持ち無沙汰になったマリアの左手を取る大神。 今度は彼女の指を『ふにふに』と遊んでいた。 自分の指と絡めてみたり、指圧のように押したりしている。 『これは大丈夫…』 以外と心地の良い刺激と大神の掌の暖かさが、彼女の緊張を解していく…。 じっくりと刺激を楽しむように、マリアは目を瞑る。 やがて大神の『ふにふに』は彼女を浅い眠りに誘っていくが…。 ─パクッ─ 「キャッ!」 突然、指先にこれまでと違う感触を覚え、思わず声を上げてしまう。 指先を見ると、大神が自分の人差し指を口に含んでいるのだ。 「何をやっているんですか!」 思わず声が大きくなるマリア。 「はめ?」(駄目?) マリアの指を咥えたまま喋る大神。 小首を傾げ彼女を見上げる表情…。 その上目使いの仕種に何も言えなくなってしまうマリア…。 ─ペロッ─ 「ひぃっ!」 自分の指が舐められる感覚に、身震いして背筋が伸びてしまう。 「舐めないでくださいっ!」 強引に自分の指を引き抜き、右手で隠すように胸に引き寄せる。 指先に目をやると、濡れた人差し指だけが照明に反射していた。 一本だけ光る指先が、何故かとても淫靡に感じられてしまう。 指の間から見える大神の無邪気な表情とが、奇妙なコントラストを醸し出してマリアを 困惑させる。 『本当に甘えているだけなの?ひょっとして計算ずくなのでは…』 そういった想像をしてしまう自分を奮い立たせ、もう一度気持ちを落着かせる。 「一朗さん、そんな目で下から見上げるのは止めて下さい。反則です…」 意識的に語気を強めてみるが、出てくる言葉には力が無い。 「じゃあ、この位置だったらOKなわけ?」 勢い良く言葉と共に体を起こす大神。 流れるように抱き寄せられるが、マリアは咄嗟の出来事に反応出来ずにいた。 瞬きの後、再び瞼を開けると目の前に黒い瞳が映る。 互いに鼻の頭が触れそうな距離で、横抱きに寝そべっている二人。 吐息を直接感じる近さに慌てて離れようとするが、しっかりと抱き締められていて抜け 出す事が出来ない。 大神は何も言わずに、ただマリアの翠色の瞳を見詰めているだけだった。 黒い瞳に映る自分の顔…。 徐々に映し出される自分の表情が愁いを帯びていくのが分かる。 それに伴い、心臓の鼓動も早くなって行く…。 大神はそのまま空いている右腕でマリアの胸の真ん中に掌を当てた。 『駄目…、気付かれてしまう…』 必死に押さえようとするが、高鳴る鼓動はそのスピードを上げていくだけ…。 相手の鼓動を確かめるように、マリアは大神の首筋にそっと指を這わす。 ─トク、トク、トク─ 普段と変わらない心音…。 「私の負けですね…」 「負け…?」 「はい…」 「正直、勝ち負けとかは、どうでも良くなっちゃったな…。俺はマリアと一緒に居るだけ で嬉しいし、自省すると言っても、この気持ちは抑えられそうに無いからね…」 胸に当てられた掌から、暖かさが広がる。 別段、特別な事をしている訳では無いが、彼の気持ちが暖かさとなって伝わってくる…。 「私も……」 そう呟きながら、首筋に添えた指を慈しむように動かす。 「それじゃあ、これからは思いっきり甘えちゃおうかな?」 胸から手を放し、代わりに自分の頭を埋める大神。 「早速ですか…?」 大神の行動に呆れたような声のマリアだったが、お返しとばかりに自分からも彼の背中 に手を廻した。 『一朗さんの本気か……、それも悪くないかも……』 期待と不安が心の中で交錯して、ゆっくりと混ざり合っていく感情…。 マリア自身、自分が薄っすらと笑みを浮かべている事に気がつかないまま、抱き締める 腕に力を込めていった……。 ─Fin─ 後書き 2000Hit 記念 SSです。 「甘える」というより、何か「特殊な趣味」(笑)の人っぽい大神くんでした…。 今回はおまけも用意してみました。 よろしければ、クリックしてみてください。




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