おまけ




おまけ ─甘え上手?後日談─ Written by G7 雲一つない秋晴れのある日。 午後のお茶会では、花組のメンバー達が優雅にお茶を楽しんでいる。 普段であれば、大神を中心に話に華が咲いているが、その大神が海軍本部に泊り込みで 出向している為、女性だけのお茶会になっていた。 「マーリアっ!」 元気な声と共に、アイリスがマリアの腕に絡み付く。 「アイリス、お茶が零れてしまうでしょう」 ゆっくりとティーカップを机に置きながら、アイリスを窘める。 しかし、窘める声には柔らかさが含まれており、刺を感じさせない。 「ごめんね、マリア…」 甘えた声をだして、上目使いでマリアを見上げるアイリス。 幾分身長も伸び、大人びてきた彼女だったが、そんな表情をするとまだまだ幼く見えて しまう。 「今度から気を付けなさい。でも、いきなりどうしたの?」 「あのね、今度の十五夜のお月見で食べるお団子を一緒に作って欲しいなぁって…」 しばらく、頭の中のカレンダーを捲っているような表情で、マリアは考えを巡らす。 「そうね、一緒に作りましょうか」 「わーい!マリア大好き」 そう言って、抱き締めているマリアの腕に頬擦りをするアイリス。 そんな様子を微笑ましく見守る他のメンバー達。 「最近、大人になったとおもったら、マリアの前じゃあ甘えん坊だなぁ、アイリス?」 カンナがからかうような口調でアイリスに声をかける。 「いいもーん!アイリス、マリアにいーっぱい甘えるんだもん♪」 マリアにしがみ付きながら、カンナに向かって小さく舌を出す。 その仕種にサロンが笑いに包まれる。 輪の中で自らも僅かながらも笑顔を見せるレニ。 ただ、その表情に隠された感情に気付く者はいなかった……。 ◆ 『羨ましい・・・』 確かに、隊長と結婚してからマリアは変わった…。 いや、変わったのではなく、本来の自分を素直に出すようになったということだろうか。 何気ない瞬間に見せる表情、思わず見惚れてしまうやわらかい笑顔…。 その笑顔をもっと僕にも向けて欲しい。 隊長を始め、帝劇の皆との生活で僕自身も確かに変わりつつあると思う。 でもまだ足りない。 僕だって、アイリスのようにマリアに甘えてみたい…。 もっと自分の気持ちを相手に伝える術を知りたい…。 人と接する事で得られる喜びを知ってしまった今、昔のように自分の殻に閉じこもる事 に耐えられなくなっている。 現状を分析してみても、『上手に甘える』方法は浮かんでこない…。 『どうしたら…?』 周囲の楽しそうな会話にも乗る事が出来ずに、僕はただ悩むだけしか出来なかった…。 ◆ 小さなノックの音に、大神が帰ってきたのかとドアを開けると、そこには自分の枕を抱 き締めたパジャマ姿のレニが立っていた。 「レニ…、こんな時間にどうしたの?」 自分の問い掛けにも下を向いたまま答えようとしないレニ…。 マリアはレニの肩にそっと手を乗せて、部屋に招き入れた。 とりあえず、彼女をベットの縁に腰掛けさせ、何か温かい飲み物でも用意しようとした 所で、自分の夜着の裾を引っ張られる。 「……」 レニは何も言わないまま、マリアの夜着を握り締めているだけだった。 諦めたように、マリアもベットに腰掛ける。 「どうしたのレニ…」 優しく問い掛けながら、マリアはレニを引き寄せる。 慣性に従い、マリアの胸に頭を預ける格好で抱き締められるレニ。 「……!」 突然のマリアの行動に、驚いたようにレニが顔を上げる。 そして何か言おうと口を開こうとするが、マリアは抱き締める腕に力を込めて、何も言 わせない。 幾許かの静寂…。 その間も、マリアは優しく銀色の髪を手櫛で梳いている。 「んっ…」 レニも気持ち良さそうに声を上げるが、何も言わずにただマリアに体を預けている。 「どう、少しは落着いたかしら?」 「うん…」 レニが顔を上げると、そこには柔らかな微笑を浮かべるマリアの顔があった。 そう、あの憧れていた表情が、今自分に向けられていた…。 「甘え上手になりたかった…」 「甘え上手?」 「そう、僕もアイリスみたいに、マリアや皆に甘えてみたかった…。でもどうしたら良い のか判らなくて…」 マリアは再び下を向いてしまいそうなレニの顔を両手で優しく包み、自分の方に向かせ る。 「それで、自分一人で悩んでしまったのね…」 マリアの言葉に素直に頷くレニ。 「甘えるのに方法なんてものはないのよ、ただ自分の正直な気持ちを行動にすれば良い の」 「でも…、相手に迷惑だったり、嫌われたりしないの…?」 「大丈夫、レニがそうしたいって思っているのであれば、相手もきっと貴女の事を受け止 めてくれるわ」 「じゃあ、僕もマリアに甘えても良いんだね」 レニは再びマリアの胸に顔を埋める。 始めは緊張して力が入っていたが、だんだんと力が抜けてマリアに身を任せるようにな った。 「ふふっ…、みんな甘えん坊ね…」 廻した手で、優しくレニの背中を撫でながら呟くマリア。 「みんな?」 何気ないレニの一言で、マリアの手が一瞬止まってしまう。 レニが不思議そうに顔を上げる。 マリアは取り繕うように、言葉を濁す。 「ほらっ…、アイリスとか…」 「アイリスとか?」 「アイリスと…」 「アイリスと?」 「……アイリスよ……」 「……」 先程までの余裕は微塵も無い表情のマリアは、見上げるレニの視線を直視できない。 「隊長も…?」 レニの一言に、普段見られない程に体を震わせ、動揺するマリア。 「Richtig…あ た り」 答えを見つけ出し、満足そうに独逸語で一人呟くレニ。 「それはね、レニ…、違わないけれど、違うのよ・・・」 必死に取り繕うマリアだったが、完全な否定が出来ない為に分が悪かった…。 ◆ 翌朝の食堂、朝一番で帰ってきた大神も囲んでの朝食となった。 黙々と食事を摂りながらも、大神を見つめるレニ。 「どうしたんだ、レニ?」 彼女の視線に気がついた大神が声をかける。 「……」 しかしレニは黙ったまま、視線を送るだけだった。 「そうだなぁ、久し振りに地下のプールで訓練でもしようか?今日は海軍直伝の古式泳法 でも…」 「古式泳法よりも、上手な甘え方を教えて欲しい…」 「……!」 レニの言葉に、飲みかけたコーヒーで咽てしまうマリア。 大神も笑ってはいるが、その表情は引き攣りぎみだ…。 他のメンバー達は訳が分からずに、不思議そうな顔をしている。 レニの表情は真剣そのもので、冗談を言っているそれではない。 複雑な表情のまま、顔を見合わせる大神とマリア…。 大神が本当に彼女に『上手な甘え方』を教えたかどうか、定かではない…。 ただ、その後の帝国劇場では、マリアに甘えるレニの姿が見られるようになったという。 ─本当にお終いです─ 良く考えたら、お月見って9月だったような・・・。 まぁ、10月の十五夜って事で・・・(笑)




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