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「花の心・風の姿」 (第13回原稿 9月7日(火)・産経新聞掲載) 


 はやいもので九月となり季節は秋でございます。つい一週間前にアテネオリンピックが閉会したばかりですが、もう随分前のように感じます。窓を開けますと、さわやかな風がながれ蒸し暑かった八月とは比べられない涼しい夜も目の前です。私は日頃、狂言のセリフを覚えるのは夜遅い目にしています。特段決め事をした訳でもなく、昼夜関係なく時間を見つけて覚えればよいのですが、お昼間だとなぜか頭に入りません。そのため本を開いて覚える時間は自然と夜中になっています。
 さてその狂言のセリフですが、相手役との会話が主体の場合と、もうひとつ全く一人で物語りを語る「語リ」があります。「能」の中でひとつの役として登場する「間狂言」が代表的な語り物です。その間狂言にも立ちシャベリ物やアシライ物といくつか形式がありますが大抵の場合は前場後場の間に登場し、その曲の登場人物についてや神社仏閣の謂われ等を細かく語ります。文量は原稿用紙三、四枚ぐらいでしょうか、これをとにかく暗記します。通常は物語になっており順を追って覚えていきます。しかし、中には単語を羅列したかの様なものもあり苦心するときもありますが、私はできるだけ声に出して耳から覚えるようにしております。そして、実際に舞台上で語るわけですがただ単に文章を読むのではなく、内容を観客に伝えなければなりません。ちょうどアナウンサーが原稿を読む事にもある意味共通する面があると思います。最近、テレビのニュースでは字幕が流れ聞き取ろうとしなくても字幕を読めば済みますが、舞台ではそうはいきません。能一番の持つ雰囲気を壊すことなく物語の起承転結を明確に伝え、観客に情景を想像して戴けるように語らなければなりません。狂言での会話劇とは又違った、間狂言独特の一面を見つけて戴けましたら幸いです。
 寝苦しかった夏の夜からガラリと変わって、さわやかな「秋の夜長」。たくさん覚えられそうですが…、うたた寝の心地良い季節でもあります。 
 【善竹隆平】

* 産経新聞夕刊文化面コラム 平成16年6月8日(火)より毎週火曜日夕刊掲載 全15回(途中翌週延期有)
  善竹隆司さん、隆平さんのご好意により、掲載させていただけることになりました。
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