#DOWN
異変 ―闇に堕ちる〈星〉―(11)
「あたし、レイフォードでもレベル二〇あるよ。もう少しの間、よろしくぅ」
一人一人と握手しながら、赤毛の少女は明るく笑う。
それを見て、手に残る温もりを確かめながら、少年はにやけた笑いを浮かべていた。
レイフォード・ワールドは、典型的な剣と魔法のファンタジー世界を元にしたワールドである。剣士や魔術師、その上位のクラスの技能を有効活用し、仲間を見つけてパーティーを組みながら冒険をするのが基本的な遊び方だ。
「よし……この感触、いつも通りだな」
剣士の上位クラスの一つ〈ソードマスター〉が扱える細長い剣を鞘から抜き、握り心地を確かめながら、クレオはほっと息を吐いた。
周囲には、緑の木々が生い茂っている。その光景の中に、白い軽鎧を身に着けた少年の姿だけがあった。
剣を一振りして鞘に戻すと、彼は気配に気づき、茂みを振り返る。
赤毛の少女――ルチルは、相変わらず、身軽そうで露出度の多い服をまとっていた。周囲の緑に合わせた色のスカーフを頭や腰に巻きつけ、太腿のベルトには、美しい宝石で飾られたナイフが鞘ごと固定されている。
盗賊の上位クラス、〈シーフマスター〉が持つ七つ道具をアクセサリーなどの形で身につけた少女は、見せびらかすようにクルリと一回転すると、得意げに少年に向けて顔を突き出す。
「どう? 似合う?」
「あ、ああ、うん」
思わず身を引き、頬を軽く染め、少年はうなずく。
その答に満足したように、ルチルは軽いステップで一旦茂みの陰に戻り、今度は、慎重な動きで姿を現わした。
彼女に押されて、金髪の少女を乗せた車椅子が、少年の前に進み出る。
「へえ……」
感嘆が、クレオの口をついて出る。
ブロンドの少女は、防御や治療系の魔法の使い手、僧侶のクラスを選んだらしい。白い法衣をまとい紋章が刺繍された帽子を被った姿は、シンプルだが、少女の愛らしさと純粋な雰囲気を引き立てる。
彼女、ステラは銀の錫杖を両手に握り、膝の上に置くと、嬉しそうにほほ笑んだ。
「でも、何レベルかな?」
見とれているクレオの脇をつつき、ルチルが少し意地悪に横からのぞきこむ。
ステラが、軽くうなずいた。すると、目の前に半透明な青の正方形が現われ、ステラのデータが表示される。
その画面をのぞきこみ、二人はのけぞった。
「レ……レベル三〇? あたしたちより高いじゃない!」
「ほ、ほんとだ……」
茫然とデータを確認するが、何度確かめても、ステラのレベルの値は間違いなく、三〇と表示されていた。
「凄い……あれ? でも、これ……」
不意に声の調子を変えたクレオが指をさすのにつられて、ルチルもじっとのぞきこむ。
「参加回数一回目……? 今回が初めてってこと?」
データには、参加回数やクラスチェンジ回数、ゲームオーバー数なども表示されている。それらの数字が、どれも最小を示している。
一つの世界にずっと没頭するプレイヤーもいるが、ステラの場合、プレイ時間も、クレオらが今回ここへ来てからの経過時間しか表示されていない。
「それでレベル三〇……? どうやって?」
ルチルが首をひねって見下ろすと、曇りのない目が彼女を見上げてきた。その澄んだ瞳からは、データを改ざんする凄腕クラッカーである可能性などは想像もつかない。
「セルサスの異状のせいかもね」
淡々とした少女の声が木々の間から響く。
声の主を求めて振り返った三人の少年少女は、ようやく現われた最後の仲間の姿に、目を見開く。
「ウィッチの装備って、こういうのしかないみたい……」
わずかに頬を染めて木の陰から歩み出たリルは、魔術師の上位クラスのひとつ、ウィッチの装備をまとっていた。丈の短いスカートにカラフルなジャケット、杖というより短めのステッキというその出で立ちは、魔女というより、魔法少女といった雰囲気だ。
どうやら彼女は、今まで、ウィッチ用の装備から別の格好を模索していたらしい。
「かっわいー! リルちゃん、似合うじゃん!」
「ほんと、似合ってるよ」
嬉々として言うルチルと、ぼうっと見とれながら言うクレオ。ステラも、リルの姿自体は見えないものの、楽しげに小さく手を叩く。
当の本人は木の横で恥ずかしげにうつむいていたものの、やがて決心したように、三人の前に歩み寄る。
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