ニンニク畑のボンネットバス
青森県田子町。田子と書いて「たっこ」と読むこの町は、ニンニク生産量日本一なのだそうです。そんなニンニク畑の奥にそっと置かれていたボンネットバスが今回の引き上げ対象です。
なお、今回のサルベージには、「オールドタイマー」誌も取材に訪れたそうです。
(画像は終点横川目さん、海和隆樹さん撮影)
ニンニク畑のボンネットバス
撮影:海和隆樹様(田子町 2007.11.10)
海和さんから新たな日産ボンネットバスの廃車体発見の報が入ったのは、2007年秋でした。しかし、元営林署の所有で、縦目で、北村製作所製ボディでと言うような話のメールを読んでいるうち、私はすっかり興味を失ってしまい、写真を送ってもらったことだけでなく、そんな廃車体の存在すら忘却の彼方に追いやってしまいました。
なのでこの春、「そろそろ青森の日産を引き上げようと思います」と言う海和さんに「そんなバスの話、俺教えてもらってないけど」とあっさりと断言したのでした。
あまりにもいろんなボンネットバスの廃車体引き上げを見せてもらっているうちに、並大抵なものでは脳に刺激を受けなくなっていたのです。
草いきれの中で
撮影:終点横川目様(田子町 2008.7.13)
引き上げの日は、日差しも緑もまぶしすぎる夏の真っ最中でした。
バスをすぐ近くから眺めてみます。上の写真とは逆の側から見てみます。お尻の丸いスタイルは、やっぱりボンネットバスに似合います。小ぢんまりとまとまっていて、なんだか段々とこの車が好きになってくるような気がします。
撮影:終点横川目様(田子町 2008.7.13)
物置となっていた車内
車内はニンニク畑の物置となっており、肥料袋などが散乱していました。しかし、車両そのものは驚くほどきれいです。窓ガラスも割れているところはなく、天井などの塗料もしっかりしています。これまでの廃車体と比べるとレストアの手間はかなり少なくなりそうです。
運転台付近
ボンネットバスの運転台と言うのは時代的にはシンプルなのが基本ですが、この車両には左側にクラリオン製のラジオがついています。やはり路線バスではないからでしょう。
ハンドルの中央部には日産の「N」の文字です。
撮影:終点横川目様(田子町 2008.7.13)
早くも吊り上げ開始
前置き話はともかくとして、いつものようにボンネットバスを引っ張り出して、トラックに載せてという作業が始まります。
今日もやってきたのはいすゞボンネットトラックTWです。畑の土が軟らかいので、スタック予防に全輪にチェーンを巻いて万全の体制で現れました。後輪がダブルタイヤの2軸なので、チェーンの数がたくさん必要です。
ボンネットバスを後ろから吊り上げているのはユニック・・・ではなくて南星製だそうです。ユニックと言うのは普通名詞ではなくて会社の名前のようです。
前輪が回らない
撮影:終点横川目様(田子町 2008.7.13)
前輪が固着しており回らないため、曲がった状態のまま引きます。車体がブレないように寄り添いながら引きます。
で、ようやくこのボンネットバスのフロント部分をお見せすることが出来ましたが、特徴ある縦目ライトが印象的なボンネットです。同時期の他メーカーに比べるとちょっとハイカラなこのスタイルは、1959年から採用された日産車の特徴です。
撮影:終点横川目様(田子町 2008.7.13)
「順調に進んでます!」
ここでこのバスのオーナーさん、つまりニンニク畑のオーナーさんが顔を出しました。(右の方)
「作業は順調に進んでます」とサルベージ隊2人が話しているところです。
トラックにハプニング発生
撮影:海和隆樹様(田子町 2008.7.13)
撮影:終点横川目様(田子町 2008.7.13)
ここでハプニング発生です。いすゞトラックTWのエンジンがストップしてしまったのです。どうやら燃料系のトラブルのようで、ボンネットを開けてエアー抜きや点検をしてみましたが一向に直りません。
前日に燃料のストレーナーを交換整備したとのことで、万全を期したはずが裏目に出てしまったようです。古い車にはよくあることです。
しかしこの2枚の写真、21世紀の日本で展開されている光景とは到底思えません。
ブルドーザー登場
撮影:終点横川目様(田子町 2008.7.13)
結局直らないいすゞトラックの代役として登場したのがこのブルドーザー。
これを借りてきたのはなんとボンネットバスのオーナーさん。登場したときの恰好からしてサルベージ隊の一員と間違えましたが、やることも只者ではありません。おまけに自分でブルを運転しています。
一気に引っ張り出しました
撮影:終点横川目様(田子町 2008.7.13)
このブルドーザーは、木出し用のウインチ付。そして引っ張られているのは元三戸営林署のボンネットバス。撮影者いわく「林業作業の一コマのよう」。
結局このオーナーさん、自分でブルを運転し、ボンネットバスを一気に引っ張り出してしまいました。
撮影:終点横川目様(田子町 2008.7.13)
積み込みの前にタイヤに空気
トラックに積み込む前にタイヤに空気を入れ、バスを動きやすくしておきます。そういえばさっきは曲がっていた前輪もちゃんとまっすぐになっています。もっとも依然として回ることはないようです。
積み込み
撮影:終点横川目様(田子町 2008.7.13)
トラックへの積み込みが始まります。彼らにとっては手馴れた作業かもしれませんが、最も危険が伴う作業だけに慎重に進められます。前輪が回らない分、ウィンチの牽引力が威力を発揮します。
積み込みに先立ち、フロントガラスのひび割れはガムテープで養生され、そのほか外れそうな部品は予め取り外されています。
記念撮影
撮影:終点横川目様(田子町 2008.7.13)
作業の山場を終えて一同記念撮影です。サルベージのメンバーに加えて、所有者の方や「オールドタイマー」誌の取材の方も参加し、大所帯になりました。
なお、このボンネットバス、どことなくカラーデザインが青森市交通部に似ています。地元のバス会社とよく似たカラーのバスを導入すると言うことがかつてはあったということでしょうか。
撮影:終点横川目様(田子町 2008.7.13)
出発
住み慣れた場所から運び出されていきます。
このバスの年式は1965年で、最後の車検シールが1973年2月とのことです。恐らく現役8年のあと35年間、このニンニク畑の隅で暮らしたのだと思います。
プレートとか
ボンネットバスに残っていたプレート類です。
左はボンネットの脇にある「日産ディーゼル」の文字。中央は「UD」マーク。いずれもこの車両に用いられているエンジンに由来します。そして右はボディメーカーの北村製作所のプレートです。
この車両は1965年式の日産U690。日産自動車製のバスですが、日産ディーゼルのUDエンジンを積んでいます。縦のライト配置はこの翌年からモデルチェンジして横4灯になります。ボディの北村製作所も翌年から後ろ面が角型になりますので、この外観としては末期の車両ということになります。
東北自動車道激走
撮影:海和隆樹様(2008.7.13)
伴走車からみたボンネットバスを運ぶトラック。
後ろからボンネットバスの姿を捉え、追い越し車線から迫っていく様子です。
撮影:海和隆樹様(宮城県 2008.7.13)
保存場所に到着
高速道路を通って宮城県のバス保存場所にやってくる頃には、もう日が暮れかけていました。
トラックの荷台から慎重に降ろした先には、この場所での先輩達が控えていました。そしてこのバスが置かれたのは、数日前に立てられたバス保存用のビニルハウスです。
これからよろしく・・・
撮影:海和隆樹様(宮城県 2008.7.13)
ビニルハウスには、今回の日産U690と5月に引き上げたいすゞBX553の2台が並べられました。
オールド・タイマーに掲載されました
この日のサルベージを取材していただいた「オールド・タイマー」誌には、10月発行の12月号(通巻103号)にルポルタージュが掲載されました。
合計4ページにわたる記事には豊富な写真も掲載されています。ぜひご覧ください。