富士の裾野の長いバス(前編)
それはサルベージ隊の「広報担当」である伏見正浩さんへの1本の電話から始まりました。「あなたに見せたいものがある・・・」
話によると、富士山のふもとの湖の近くに黎明期の高速バスを保管しているとのこと。色々なバスの廃車体を目にしてくると、こういう話を単なる都市伝説としてスルーすることができなくなってきます。本当にあるのかもしれない。あってもおかしくない。ある可能性もある。あるんだろうな。
今回は、放置されて錆が進んだ廃車体ではなく、長年車庫の中で大事にされてきた長いバスのサルベージ日記です。
富士山が見えてきた!
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
ゴールデンウィークの真最中の5月2日、サルベージを生業とする人々が東北地方からはるばる山梨県に向けて車を走らせていました。東北自動車道、圏央道、中央道と経由し、中央道富士五湖線に入るとやがて真っ白に雪化粧したままの富士山が見えてきました。
この山のふもとに、長い間格納されていた貴重なバスがある・・・。富士山が近づいてくるにつれ、そんな貴重なバスを引き上げる使命感に、今回のチームリーダー伏見さんは武者震いしました。
富士吉田インターを降りて
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
富士吉田ICで高速道路を降り、一般道を目的地に向かいます。
雲ひとつない青空と真っ白な富士山。サルベージ日和です。
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
本日のトレーラー
本日のサルベージを担当するのは、このトレーラーです。これまで幾度となく発掘してきたのは小さなボンネットバスが中心ですが、どうやら今回は、このような大きなトレーラーを必要とする仕事になるようです。
枝切り作業
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
何か派手なサルベージが始まるのかと思いきや、最初の作業は奥に見える小さなガレージに向かう通路の両側に張り出した枝を、手作業で切り落とすという地味な作業でした。
それにしても、なんだか小さなガレージです。ここにそんな大きなバスが収納されているのでしょうか。
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
車庫の中には
バスが大切にしまわれている車庫のシャッターが開けられました。車庫の中には、1台のバスが後ろ向きに停車しています。
見たことのあるスタイルの後姿ではあります。三菱製の観光バスのようですし、色はケイエム観光に似ています。なるほど周囲の壮大な自然のせいで小さな構造物に見えたガレージですが、観光バス1台がゆったりと収納できる大きさがあったようです。
これからこのバスを引き出し、トレーラーに乗せるという大作業が始まります。
車庫に接近
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
大型のトレーラーは90度の角度をつけて後ろからガレージへと接近します。なるほど、こういうことをするために枝切りが必要だったのです。
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
バスを引っ張ってみる
本格的な引き出し作業は午後1番から予定されているのですが、到着したメンバーが何もせずに待っていられるわけがありません。チルホールという引っ張る工具でバスを引っ張ってみました。この工具は16tまで引っ張れるのですが、バスはびくともしません。
どうやら、バスのブレーキが解除されないようです。ずっと格納されていたため、エアがなくなった時の非常ブレーキが利いたままになっていたのです。
ブレーキは解除できない
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
そこでエンジンをかけるため、エアをトレーラーのヘッドから取り、バスに入れてみました。エアを入れることに成功はしたのですが、ブレーキは解除されません。
伏見さん自身がバスの下に潜り込み、ブレーキ解除を試みましたが、ピンが外れず、解除できません。
疲れた・・・
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
ラフタークレーン到着
そうこうしているうちに、ラフタークレーンが到着しました。これで作業が本格化します。よかった・・・。
何せ力持ちなので、下の写真のようにぐいぐいと大型バスを引っ張り出してしまいました。
ラフター大活躍
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
タイヤを引きずった後が
強引に引っ張りましたが、バスのブレーキは解除されていないままなので、地面にくっきりとタイヤを引きずった跡がつきました。
高速バスの全容
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
こうして、ようやくこのバスが姿を現し、全容を日の下にさらしました。
長いボディ、大きな固定ガラス窓、このバスの正体はいったい何なのでしょうか。オーナーによると、元は東名急行バスであるとこと。東名急行バスは早くに解散しましたが、その中から1両がこのオーナーの元に引き取られ、1994(平成6)年まで送迎バスとして使用されたそうです。
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
大パワーと軽合金ボディ
V型12気筒の350PSのエンジンは強力で、社員旅行に使用する際にも威力を発揮したようです。さらに、見た目には分かりませんが、ボディに軽合金を用いているとのことです。
譲り受けた当時は現在とは違う厳しい時代。大型バスを自家用登録するにも関門が多く、社員名簿を提出して申請する必要があったそうです。
吊り上げ準備
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
ホイールにワイヤーをかけて天秤で持ち上げる作業に入ります。しかし、50cmくらい持ち上がった瞬間、フロントの天秤が真っ二つに割れてしまいました。作業やり直しです。
吊り上げて載せる
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
トレーラーに積み込む方法は、ラフターで吊り上げて載せるという豪快な手法です。天秤が割れた後は、ボディを傷つけないようにワイヤーで吊り上げる方法に変更しました。トレーラーに載せるためには1.5m吊り上げなければなりません。それでも何とか成功しました。
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
お疲れ様でした
積み込みが終わり、恒例の記念撮影です。
どんなに苦労しても、作業が終わった後の充実感はひとしおです。
なお、今回もベテランの海和さんは予定が会わずに不参加となりました。中央でご機嫌の「広報担当」伏見さんが中心になって作業を進めました。
最後の仕上げ
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
最後の仕上げは、高速道路を通って帰るため、高さを4.1mに抑えること。少しはみ出していた換気扇カバーをはずすため、屋根に上ります。
富士山を見ながらの食事は格別
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
撮影:澤田募様(山梨県 2009.5.2)
帰り道の途中で、富士山の見えるコンビニに立ち寄り、昼食兼夕食をとりました。大作業を終えてから、富士山を見ながらの食事は格別だったそうです。
(右写真の富士山は往路に撮影したもので、イメージです)
>>(後編)に続く