オラの地元のバスだっちゃ
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しかし、今回はちょっと違います。
蔵王山麓にある峩々温泉で使用されていたボンネットバスを、海和隆樹さんが引き取り、町工場の手により新品同様に生まれ変わるまでの物語です。
峩々温泉の蔵王銀嶺号とは
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撮影:菅原義人様(川崎町 2005.4.23)
峩々(がが)温泉は、蔵王国定公園の宮城県側の中腹にある1軒宿の湯治場です。
青根温泉からの山道を1日1往復走っていた宮城交通の路線バスが、1979年に廃止されたため、峩々温泉は陸の孤島になってしまいました。そこで、10km程離れた遠刈田(とおがった)温泉から宿までの送迎用に、4輪駆動のボンネットバスを購入したということです。
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撮影:菅原義人様(川崎町 2005.4.23)
バスがやってきたのは1982年のこと。古川営林署で廃車になった4輪駆動のボンネットバスに、正面のウィンチなども取り付け、雪深い山道を走れる万全の仕様に改装してのデビューでした。
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これは、蔵王銀嶺号のデビュー当初の記念乗車券。今回、バスの車内から発見されたとのこと。無料送迎バスですので、バスに乗った宿泊客に記念に配布したのだと思います。
写真は、雪深い峩々温泉から走り出すボンネットバスの姿です。
朱色系のカラーデザインですが、これは、古川営林署から引き取って、宮城いすゞ仙台本社工場で最初の整備を終え、元のカラーに一部補色をしてデビューした1982年3月の姿だと思われます。
この後、横浜の京急車両に運ばれ、本格的な修繕を受けることになります。
(注1)
30年後の現状
そんな蔵王銀嶺号ですが、さすがに寄る年波には勝てず、2015年を最後に運転されることがなくなり、ガレージの屋根の下で静かな余生を送るという状態になっていました。
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撮影:海和隆樹様(川崎町 2017.11.19)
いかついPTOウィンチです。
これは古川営林署時代にはついていませんでしたが、峩々温泉用に整備する際、雪道を走ることを考慮し、TSDより大きいSKW車用の新品を取り付けたとのことです。
(注1)
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撮影:海和隆樹様(川崎町 2017.11.19)
車内には、ハイバックのリクライニングシートが取り付けられています。
これは1982年に京急車両で整備した際、急勾配でも安定した姿勢で乗車できるよう、わざわざ換装されたものだそうです。
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撮影:海和隆樹様(川崎町 2017.11.19)
後ろ姿は、1970年式だけに、角張ったスタイル。ボンネットバスにしては近代的な外観です。
幕板にスピーカーがついています。何のためについているのかは分かりません。営林署時代のものでしょうか。
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撮影:海和隆樹様(川崎町 2017.11.19)
リアに取り付けられた説明看板。
「蔵王ぎんれい号
全輪駆動いすゞ
ボンネットバスです」
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撮影:海和隆樹様(川崎町 2017.11.19)
海和さんが引き取ることに
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撮影:海和隆樹様(川崎町 2017.12.22)
車体に腐食はあるものの、エンジンの調子は悪くなく、もう一度このバスを再生したい。
海和さんは、このバスを引き取り、自ら復活させる決意をしました。
住み慣れた峩々温泉から、旅立って行く「蔵王銀嶺号」です。
地元で修復に入る
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画像:デンソーサービス宮城Webサイト
さて、引き取ったバスをどこで修理しようか。海和さんは思案します。
とりあえず、近場の修理工場を探して電話を掛けます。
電話口の女性に、
「リベット打ちの車両を修理できますか?」と聞いたら、
「できます」と即答だったので、海和さんは迷わずこの店に決めました。
→デンソーサービス宮城の公式Webサイト
リアパネルの補修
修繕前
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.5.21)
修繕後
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.6.3)
永年の雪道での使用に耐えてきたため、車体外板は腐食によりかなりダメージを受けていました。
そこで、特に腰板部分については、ほとんどの部分を剥離し、新しいアルミ板を貼るという作業をします。新たに切り出すアルミ板は、元の鉄板と同じサイズに合わせ、リベットを打つ位置も原形に忠実にするというこだわりようです。
(2018.5.26)
(2018.5.26)
(2018.5.26)
後部の床板の張り出し部分には、同じサイズの床板を貼り足します。腐食防止のコールタールを塗ると、継ぎ足したようには見えません。
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.5.23)
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撮影:海和隆樹様(2018.6.2)
外板を剥いだ部分からは、ボディの骨組みが見えてきます。ここには、塩害ガードという黒い塗料が塗られます。通常の錆止め塗料よりも効果があるそうです。
側面パネルの補修
修繕前
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.5.21)
修繕後
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.6.17)
ドア側側面の補修の様子です。
フェンダ部分の骨組みなどは、今後の腐食防止も考えて、補強されています。新たに貼られたアルミ板は、車外マイク部分の円形や、バッテリーケースの枠などをきちんとカットしています。
(2018.6.15)
(2018.6.16)
(2018.6.16)
フェンダの補修
修繕前
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.5.23)
修繕後
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.6.21)
外板も骨組みも腐食でぐずぐずになったフェンダの内側。
このあたりは、内側から丁寧に補修されます。
(2018.6.7)
(2018.6.8)
(2018.6.8)
バッジ類の補修
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.6.11)
ボンネット脇やリアについていたいすゞのバッジも、綺麗にしてもらいました。
非常口周辺の補修
修繕前
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.5.23)
修繕後
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.6.1)
右側面後部にある非常口です。非常口は普段は使われない扉ですが、やはりすき間がある部分なので、腐食が進んでいます。
そこで、非常口の枠材について、新たにアルミ材を打ち出します。もちろん、元々の形状と寸分違わぬ形状に成型します。
これを非常口の部分に取り付けると、あとは扉を付けるだけになります。
(2018.6.1)
(2018.6.1)
(2018.6.1)
非常口の補修
修繕前
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.6.11)
修繕後
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.6.12)
非常口の扉そのものも、特に下部が腐食しています。これも思い切って下の方をすべて張り替えます。裏側の骨組みは木材から切り出します。
(2018.6.11)
(2018.6.12)
(2018.6.12)
給油口周辺の補修
修繕前
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.6.26)
修繕後
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.7.5)
ボンネットと前ドアとの間に、給油口の蓋を含む側板があります。シャーシ部品に当たるボンネットにつなぐ部分でもあり、微妙な曲線を描いています。この板も思い切って作り直します。
内側の床面からの張り出しはやはり木材。
もちろん、リベットの位置は原形と同じ位置です。
(2018.6.26)
(2018.6.26)
(2018.6.27)
側面点検蓋の復旧
修繕前
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.6.22)
修繕後
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.6.22)
せっかくきれいに貼り直した側板に、何か絵が描かれています。どうするのかと思ったら、ここは点検蓋の位置でした。最初から四角く開けておくのではなく、貼ってから切り取るという手法を取ります。
元の寸法に合わせて枠材を切り出した後、蓋を作成します。きっちりと完成です。
(2018.6.22)
(2018.6.22)
(2018.6.22)
ドアステップの補修
修繕前
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.6.26)
修繕後
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.7.5)
ドアステップは、この状態。床より低いところにあるので、腐食するのは当然ですが、これでは、バスに乗ることができません。
特に下の段は、新たに作り直します。滑り止めを付けたアルミ板を貼ったら、新車同然に見えました。
(2018.6.26)
(2018.6.27)
(2018.6.29)
前輪フェンダの補修
修繕前
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.6.26)
修繕後
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.7.13)
ボンネット脇にある前輪のフェンダには、バックミラーなど様々なものが取り付けられていたせいもあり、やはり錆錆になっています。その部分をカットして、穴を開けたアルミ板を溶接します。複雑な形状のフェンダだけあって、0から作り直すより、修繕という方法が選択されました。
(2018.7.5)
(2018.7.6)
(2018.7.9)
(2018.7.6)
(2018.7.9)
(2018.7.9)
前輪泥除けの補修
修繕前
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.6.26)
修繕後
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.7.13)
フェンダの後ろにつく泥除けも、落ちそうでした。ここも新品に交換します。
ヒーターの補修
修繕前
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.6.18)
修繕後
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.7.28)
車体下に収納されていた灯油ヒーターは、さすがに永年の使用でくたびれていて、今後のドライブには耐えられそうにありません。
そこで、このヒーターは中古品を購入し、元の位置に取り付けました。
(2018.7.28)
(2018.7.28)
(2018.7.28)
客室内の補修
修繕前
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撮影:デンソーサービス宮城様(2018.10.15)
修繕後
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撮影:デンソーサービス宮城様(2019.6.3)
客室内は、座席をすべて撤去した上で、損傷部分も取り除き、木材やアルミ板で補修します。
床板は腐食防止のコールタールを塗り、壁面は綺麗に塗装します。タイヤハウスは、やはり塩害ガードで黒く塗りつぶします。
(2018.10.15)
(2018.10.19)
(2018.11.2)
運転席の補修
修繕前
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撮影:海和隆樹様(2017.11.19)
修繕後
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撮影:デンソーサービス宮城様(2019.6.1)
運転席の補修前と後。この部分は、一旦全部取り外した後、使えるものは塗装し直して再度取り付けます。パネル部分の緑色は、原形よりも濃い目の渋い緑色に変えました。それ以外の部分は、客室内に合わせてクリーム色に塗り分けます。昭和40年代風だった運転席周りが、昭和50年代風に近代化されました。
(2018.10.24)
(2018.10.25)
(2018.10.30)
栗原電鉄カラーに塗り替える
栗原電鉄のカラーに決める
バスの修繕が進むのと並行して、海和さんは、このバスの外装デザインに思いを巡らせます。
「やはり地元のバスのカラーにしたい」
ボンネットバスが普通に走っていた時代の、栗原電鉄のカラー写真がないだろうか。
そういう時代のカラー写真というのは、そうはありません。しかし、2005年に発刊された満田新一郎さんの写真集「昭和30年代バス黄金時代」という本に、綺麗なカラー写真を発見します。
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栗原電鉄というのは、宮城県北の東北本線石越駅から西へ、金成町、栗駒町などを経て細倉鉱山の入口に向かう私鉄でした。かつては東北一のモダンな電車が走る私鉄でしたが、鉱石輸送のトラックシフト、鉱山の不振による人口減少により経営は悪化し、1987年の細倉鉱山の閉山後、1995年に第三セクターのくりはら田園鉄道に経営を移管しました。しかしこれも長くは続かず、2007年には路線廃止となりました。
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撮影:旧若柳駅(2019.9.15)
栗原電鉄のバス経営は古くから行われており、上の書籍の写真は、昭和30年代のもの。
その後、1964年に陸前乗合自動車と合併し、「宮城中央交通」と名前を変えます。間もなく鉄道事業は分離の上再び栗原電鉄となり、バス部門は「宮城中央バス」と社名変更しています。結局1970年に宮城県内の民間バス会社3社は合併の上、「宮城交通」になり、現在に至るわけです。
写真のバスは元宮城中央バスのカラーです。恐らく栗原電鉄の緑色のカラーは、この茶色のカラーに代わって姿を消したのだと思います。
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撮影:板橋不二男様(1977.5.7)
栗原電鉄及びくりはら田園鉄道の遺産は、旧若柳駅跡にある「くりでんミュージアム」が引き継いでいます。
海和さんは、くりでんミュージアムに連絡を取り、栗原電鉄カラーを使うことの許可を得ます。
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撮影:くりでんミュージアム(2019.9.15)
塗装開始
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画像:ワンナップ・クオリティWebサイト
外装は、デンソーサービス宮城からの紹介で、姉妹会社のワンナップ・クオリティが担当します。
板金、塗装をメインに、特殊車や大型車の様々な加工を手掛ける会社です。
→ワンナップ・クオリティの公式Webサイト
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撮影:ワンナップクオリティ様(2018.8.28)
外板の補修が終わり、下地の状態のボンネットバスです。
ここから、実物を見たことのない栗原電鉄カラーへの塗装を開始します。
塗装前
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撮影:ワンナップクオリティ様(2018.8.31)
錆止め塗装後
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撮影:ワンナップクオリティ様(2018.8.31)
まずは、塗装をしない部分に新聞紙で目張りをするマスキングを行います。境目には、黄色いマスキングテープをしっかり貼り、塗料の侵入を防ぎます。
アルミ材地色だったボンネットに、シルバーの錆止め塗料を吹き付けます。
塗装前
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撮影:ワンナップクオリティ様(2018.8.28)
錆止め塗装後
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撮影:ワンナップクオリティ様(2018.9.14)
屋根の状態も見ておきましょう。
ザラザラで一部が腐食していた屋根上も、若干の補修と錆止め塗料で綺麗になりました。ベンチレーターは一旦取り外して、修繕後に取り付けます。
錆止め塗装後
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撮影:ワンナップクオリティ様(2018.9.21)
塗り分けマスキング開始
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撮影:ワンナップクオリティ様
下地が仕上がったら、いよいよ外装カラーの塗装に入ります。マスキングも新聞紙から、何やら本格的な材料に変わりました。
窓下の白いラインを入れる部分にマスキングテープが貼られ、腰板の複雑なラインは下絵の状態です。
ここから塗料の吹付です。
ベースカラーの山吹色を吹いた後、濃緑色を吹き付けて、大まかなイメージが確認できました。
窓下のマスキングを剥がすと、下地が顔を出します。この部分を残して再度マスキングし、赤い塗料と白い塗料を吹き付けます。雨樋部分にも赤い塗料を吹き付けていますが、ここにも細い赤いラインがあるのです。
マスキングをはがすと、もうほぼ完成に近づいた栗原電鉄カラーが現われました。
合計4色の塗料を使い、その数だけマスキングを行い、複雑なバスボディのカラーが作られていくのです。
栗原電鉄カラー完成
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撮影:ワンナップクオリティ様
工場の敷地内に置かれたほぼ完成品。窓ガラスはすべて外された状態で、作り掛けのプラモデルのような感じです。
両側から、トラックたちも不思議そうに見つめています。
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撮影:ワンナップクオリティ様
最後に、並行して補修が進められていたボンネットやドアなどの別パーツを取り付けての塗装です。
今まで塗装を終えた部分を完全にマスキングし、ラインにずれが生じないように、同じ4色を順番に吹いてゆきます。
実物の姿を見ると、この辺の緻密な作業の結果に感嘆せずにはいられません。
さらに、くりでんミュージアムから、バスの側面についていたウサギのマークについても、実際のデザインを教わることができました。
上記の本の写真では、白色の部分が剥げていたりして、ウサギなのかプードルなのかよく分からなかったのです。
ウサギのマーク
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撮影:ワンナップクオリティ様
こうして、元峩々温泉のボンネットバスは、見事にかつての栗原電鉄のカラーデザインを再現することに成功しました。
栗電カラー完成
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撮影:ワンナップクオリティ様(2019.7.4)
車内設備の仕上げに入る
座席の流用と新造
修繕前
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撮影:海和隆樹様(2017.11.19)
修繕後
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撮影:海和隆樹様(2019.8.25)
峩々温泉時代は、湯治客を山道を使って運ぶため、観光バス風のリクライニングシートを装備していました。
海和さんは、「ボンネットバスの時代に合う座席にしたい」という思いから、座席をすべて交換します。やはり背摺りの低いビニルシートに、内側に向いたロングシートを組み合わせた配置がお望みだったようです。
「学生時代さ通学で乗った覚えがあるんだよね」
実はこの座席、2008年に青森県田子町のニンニク畑でサルベージしたボンネットバスの座席を、ほぼそのまま流用しました。
田子町のボンネットバス車内
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撮影:終点横川目様(青森県 2008.7.13)
(2019.6.3)
(2018.6.4)
(2018.7.1)
なんだか余計なものも付けたくなっちゃった
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撮影:海和隆樹様(2019.6.29)
運転席の後ろには、テレビをつけることにしました。
もちろん、ボンネットバス全盛期には、バスにこんなものはついていません。
「バスに乗るとき、テレビがあったら楽しいじゃねえすか?」
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撮影:海和隆樹様(2019.6.19)
運転席の横につけたガイド席です。
キャンピングカーから流用したという花柄のデザインが泣かせます。これも、質素な他の座席のデザインとは全く合っていませんが、なぜか海和さんは無頓着です。
ここに綺麗なバスガイドさんを乗せてバスを運転する夢でも見ているのかも知れません。
完成!
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撮影:海和隆樹様(2019.6.19)
ほぼ完成した栗原電鉄のボンネットバスと、海和さんの愛車であるピンク色のスバル360との並びです。
この後、仮ナンバーを付けて白石まで車検を受けに行く途中、不具合があり、3時間ほど足止めを食いました。エロ本の自販機の駐車場にこのバスが停まっていたという目撃談が複数あります。どこかに不具合があったということにしておきましょう。
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撮影:海和隆樹様(2019.8.25)
完成したボンネットバスを、車検場に持ち込み、無事に登録完了です。
1078という番号に意味はありません。
「希望ナンバーつげるなんて、余裕ながったス」
大崎タイムスからの取材も受けた
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撮影:海和隆樹様(2019.8.25)
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画像:都南村民様提供
完成したボンネットバスは、地元メディアからの取材も受けます。
写真は、大崎タイムスからの取材を受けた時のもの。
記事は、9月12日の「県北NEWS」欄に掲載されました。9月15日に開催される「みんなでしあわせになるまつり」でこのバスがデビューすることと合わせて、写真入りでの掲載です。
このほか、地元FM放送からも取材を受けたそうです。
デビューイベントは「みんしあ」
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撮影:ぽんたか様(栗原市 2019.9.15)
ボンネットバスは、9月15日に栗原市で開催される恒例の「みんなでしあわせになるまつり」でお披露目されることになりました。
みちのく風土館から会場周辺を周回する試乗コースです。
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撮影:栗原市(2019.9.15)
このカラーのバスがこの地を走っていた頃、まだこんなアスファルトの舗装とか、信号機とか、四角い建物の商店とかはなかったかも知れません。でも、栗駒駅からほど近いこの場所を、ボンネットバスが走っていた可能性はあるんでしょう。
今、半世紀の時を経て、栗原電鉄カラーのボンネットバスが蘇りました。
このボンネットバスのプレート類です。
このバスは、1970(昭和45)年に製造されたいすゞのTSD40という型式のバスです。この時代、すでに通常の路線バスに使われるボンネットバスの製造はほとんどなく、全輪駆動のトラックシャーシを改造した、このようなボンネットバスが特種用途に作られるだけになっていました。
このバスも、営林署用に作られたもので、林道などを走るためにこのシャーシが選択されたのだと思います。10年ほど使われて廃車になりましたが、雪道を走る必要のある峩々温泉に使うため、バス愛好家の手により第二の人生が与えられます。
さらに40年近く経った2019年、第三の人生が吹き込まれることになったのです。
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撮影:栗原市(2019.9.15)
栗駒駅跡地方面に走り去るボンネットバス。
蘇らせたいという男がいて、蘇らせることができる職人がいて、その気にさせる友人がいて、それを盛り立てるファンがいて、そして今も走り続ける車がいる。
さあ、次は何を甦られてくれるのか。そんな雑音をものともせず、海和さんは、しばらくはこのバスを満喫する気のようです。
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