まきば号 20年後の再会
東北新幹線の開業とともに「まきば号」として小岩井農場への観光輸送に復活を果たした岩手県交通のボンネットバス2両。このうちの1両が、再び奇跡の復活を果たし、遠く四国の地に活躍の場を見出したという話は、しばらく前から耳にしていました。
しかし、遠いところなのでなかなか会いに行く機会に恵まれませんでしたが、今回、小豆島へ行く機会を利用し、次の1日を高知市訪問に当てました。
ボンネットバスは、当初の移籍先の土佐電気鉄道から子会社の「土佐電ドリームサービス」へ再移籍して、週末を中心に運行する観光路線バス「MY遊(まいゆう)バス」に使用されていました。
(撮影はすべて2005年9月4日)
雨の高知駅
この日は朝からあいにくの雨でした。
高知駅は2階建ての特徴のない駅舎ですが、駅前広場の真ん中から路面電車が発着しているところは、ほかの駅とは異なる自己主張をしているように見えました。聞くところによると、JR駅からの接続改善のためにこのような位置に路面電車ホームを付け替えたとのこと。公共交通に対するまじめな取り組みが見て取れます。
「MY遊パス」を購入
バス案内所などに置いてあるパンフレットの表紙(→写真右)は、かっこいいボンネットバスの写真をメインに据えていて、とても魅力的。実際の乗車券である「MY遊パス」(↓写真下)も同じデザインです。
この「MY遊パス」は700円で「MY遊バス」「よさこいぐるりんバス」と路面電車の一部が1日乗り放題。バス案内所だけでなく、JRみどりの窓口や市内ホテルなどあらゆる所で発売していました。
なお、Web上では文字の区別がつきにくいのですが、フリー乗車券は半濁音(丸)の「MY遊パス」、バスそのものは濁音(点々)の「MY遊バス」です。
MY遊バス到着
9時発の第1便を待っていると、やってきたのは土佐電カラーのボンネットバス。私にとって約20年ぶりの再会となる、かつての「まきば号」でした。
のりばにつける前に、いい場所に停車してくれたので、まずは形式写真を押えます。こういうとき、心の中で運転手さんに対して深く感謝をするものです。
のりばに停車
準備を整えると、バスは1番のりばに移動します。懐かしんでいる間もなく、大勢のお客さんが集まり始めました。
結局、発車までに車内は満席。立ち客まで出る盛況ぶりとなりました。
冷房装置のついた車内
土佐電では、このボンネットバスに冷房装置を取り付け、観光客の多い夏季の運行をも可能にしました。車内後方に、薄型の冷房ユニットがありました。
それでも外形にはまったく影響がないのはうれしいです。さらに足回りも改造され、4WDから後輪駆動に変わり、そのせいか非常に軽快な走りを見せてくれました。
五台山公園に上がる
最初のピークは、高知市東側にある五台山。一方通行の急峻な坂道を、フルパワーで上がってゆきます。
牧野植物園のバス停では、お年寄りの皆さんが降りられました。それでも立っていた人が座れただけで、相変わらず満席でした。
五台山を下る
下りもまた急峻。車窓から見える風景から、高低差が分かると思います。
この反対斜面から逆方向は高知市内が一望でき、盛岡で言えばさながら岩山展望台のようなものでしょうか。もしかするとこのバスも、銭掛の山道などを思い出しながら走っているのかもしれません。
桂浜にて
終点の桂浜に着くと、乗っていたお客さんは海岸のほうへ散って行き、ボンネットバスはそこにぽつんと取り残されました。
この日の海は、台風14号の影響か、かなり高い波が押し寄せていました。そんな海を眺めようと思っていたらもう発車時刻。またこのバスで戻ることにします。
シンプルな運転席
帰りの高知駅行きは、さすがに私一人だけ。
じっくりと車内を眺めていると、昔ながらのシンプルな作りに目を奪われます。床から生えたシフトレバーは、昔のバスでは当たり前のツールだったんですが。
バス停では
帰り道も同じように五台山へあがって行きます。
バス停に着くと運転手さんがバスを降りてゆくので何かと思ったら、時刻を確認して、バスが通過したことを示す札をその時刻のところに付け替えています。
乗る予定のバスが行ってしまったのかまだ来ていないのか、そんなことが迷わず分かる手作りのシステムです。
高知港を望む
かつてこのバスにとっては未知のものだったと思われる海。そんな海の風景が車窓から展開します。
高知港には船や石油タンクがひしめき、港らしい風景を作っています。土佐湾の荒々しい波とは対照的に、内湾は静かです。
車窓から・・・その1
はりまや橋のバス乗り場の前を通ると、こんなバスがいました。懐かしいスタイルの三菱車です。ほかにも、日野車などもモノコックボディが普通に走っていました。
こんな環境なら、ボンネットバスもさびしくないですね。
車窓から・・・その2
路面電車が街の主役という高知の町。たぶん、古いものを大切にする心が自然にはぐくまれているのかもしれません。
もっと新しい電車も走っていますが、やはり主役は古い電車のようです。これは車体全体にアンパンマンを描いたイラスト電車。
こんな電車も・・・
高知駅に着き、バスを降りると、こんな電車がやってきました。
モニタ屋根に開放デッキ、その上、女性車掌まで乗っています。話に聞くと新造したボディだそうですが、戦前の雰囲気は満点。ボンネットバスどころの古さではありません。
高知というのは本当に面白い場所です。
MY遊バスのもう1台
共同運行する高知県交通のMY遊バス。こちらは専用カラーに塗られてはいますが、ごく普通の中型バス。ボンネットバスと比べるとあまりにもアンバランス・・・。
ちなみに高知で「県交通」といえば、この高知県交通のことです。
お店の窓にもMY遊バス
そのあと街をぶらぶらしていると、お店の窓にも「MY遊パス」のポスターが貼ってありました。街を上げて、観光振興に努めている様子が見て取れます。
大盛況の「MY遊バス」の混雑ぶりは、こんな皆さんの努力があるからなのでしょう。
おさらい 〜この車両の生い立ち〜
岩手中央バス(1966〜1980)
1966年に岩手中央バスに新車で納入されました。
雫石、網張、上米内、銭掛、玉山線等に使用されましたが、最後は河南中学校のスクールバスとなっていました。(土佐電MY遊バス車内の掲示より)
1976年には岩手県交通の設立により移籍、1980年に廃車となりました。
登録番号:岩2く377
岩手県交通(1982〜1988)
東北新幹線に開業に伴い、1982年に復活。
盛岡駅から小岩井農場に向かう「まきば号」(冬季は網張温泉へ向かう「新雪号」にも使用)に運用されるため、もう1台(岩2く376)とともに新しいカラーに塗り替えられました。
しかし、1988年に2度目の廃車となり、矢巾営業所に留置されます。
登録番号:岩22か1764
土佐電気鉄道(2001〜)
2000年に土佐電気鉄道が買い取り、修復を行い、2001年1月に復活。
五台山竹林寺線、イオン高知線で使用。
2004年に土佐電ドリームサービスに移籍し、「MY遊バス」としての運行を開始し、現在に至っています。
(土佐電MY遊バス車内の掲示より)
登録番号:高知230あ2001