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用語集
用語の意味・使い方は人によって様々で、「コミュニティーの合意」と言えるようなものはなかなかありません。この用語解説は一つの案であるということを念頭に置いてお読み下さい。


Aセクシュアル
性的欲求を持たない人。

DSM−IV
アメリカ精神医学会が定めた精神障害診断基準(第4版)。
精神科、神経科の医師や心理学者などが、クライアントに関する精神病理学的な判断を下すための基準。各国の精神医学や心理学の分野で幅広く受け入れられている。

ICD−10
世界保健機構(WHO)の国際疾病分類10版。
一つの項目として、性同一性障害の分類も設けられている。
ICD−10(またはDSM−IV)では、性同一性障害を広義のTGコミュニティーで使われる、TV/TG/TSという概念で扱っていない事に留意が必要。

MtF/FtM
F=female(女性)、M=male(男性)、female to male(FTM/女性から男性へ)・male to female(MTF/男性から女性へ)というように使う。
たとえば生まれたときの身体の性別は女性だけれども、男性としての自覚(ジェンダー・アイデンティティ)を持っている人はFTM・TGとなる。

MtF・レズビアン/FtM・ゲイ/
MtF・バイセクシュアル/FtM・バイセクシュアル
性自認と性的指向は、一体物ではなく、それぞれが別々に独立して存在しています。
ですから、全てのMTF/FTMが、自認している性別のヘテロセクシュアル指向であるという訳ではありません。

MtX/FtX
狭義のMtF/FtMが反対性への移行を示す意味合いが強いために、既存の男性・女性に当てはまらない、あるいは、わからない人の呼称・総称に使われています。

SRS(sex reassignment surgery)
日本語訳すれば性別再判定(性別再適合)手術となるでしょうか、いわゆる性転換手術の略称。
海外では、厳密には生物学的性別の変更ではないために、GRS(gender reassignment surgery)が使われることもある。

アウティング
他人のセクシュアリティーなどをバラすこと。

インターセクシュアル/インターセックス/IS
「半陰陽」「ふたなり」と呼ばれてきた。
様々なタイプがあり、性染色体・性腺・外性器など身体の性別(SEX)が明瞭でない人々を総称する。

おかま
「男らしくない男」に対して広く投げかけられてきた蔑称。
男の格好をしない人(例えばトランスベスタイト)や、女のような言葉遣いをする人(例えばオネエ)や、ナヨナヨした男性、男性同士で性行為をする人(例えばバイセクシュアル男性やゲイ)、性転換手術をした人など、実際には多種多様な人たちが「おかま」という言葉によって一緒くたにされて、非難されてきた。

おなべ
何をもって「おなべ」の定義とするかには諸説がある。
ホスト的接客をして、だいたいスーツ姿であるような、主に「おなべバー」における水商売上の職業的名前と考える人もいる。
また「おかま」の反対語として「おなべ」を使い、女らしくない女、ボーイッシュな男のような女性のことを指すという考え方もある。

改名
平成10年には、静岡の家庭裁判所で、性同一性障害を事由としての改名も認められました。
ですが、性同一性障害を事由としての申立が、必ず認められる訳ではないことや、却下された場合は、原告が同じ内容で同じ家庭裁判所に申立をすることができない事にも注意が必要です。

改名手続
改名するには、居住している地域を管轄している家庭裁判所に「名の変更許可申立」をして審判を受け、許可が下りたら「名の変更届」を本籍地、または居住地の役所(場)に届け出るという手続きをふみます。
性同一性障害を事由とする場合には、性同一性障害の診断書や、資料を用意することも、申立時に必要だそうです。

カミングアウト(カムアウト)
自分自身で自分のセクシュアリティーなどを認識することから始まり、周囲や社会にそれを明らかにすることを指す。
「coming out of the closet=クローゼット(押入れ)から出る」という英語から。

クローゼット
自分のセクシュアリティーなどを公にしていない、またはできないこと。
またその状況。

ゲイ(gay)
日本では男性同性愛者を指すことが多いが、合州国では男女の同性愛者を指す言葉。
60年代に合州国で、差別的なニュアンスを持ってしまった「ホモセクシュアル」などの言葉に代えて、同性愛者たちが自ら名乗った。本来の意味は「陽気な、楽しい」。
言葉を使う文脈によってバイセクシュアル男性を含む場合と含まない場合がある。

コミュニティー
例えば、自助グループ、女装クラブ、パソコン通信、インターネット上でのHPや掲示板・ML、サークル、パーティー、ミニコミなどの、広義のトランスジェンダー(あるいは、セクシュアリティー)に関連するネットワーク、人脈、場所などのこと。
コミュニティーのことを「ギョーカイ」と言うこともある。

ジェンダー(gender)
SEX(身体の性別)と対比した心理的・社会的な性別。
以前は、例えば身体の性別(SEX)が男に生まれれば、必ず男としての性自認(gender identity)を持ち、男らしい性役割(gender role)が自然に身につく、あるいは、そうなることが自然であると思われていた。

ジェンダー・アイデンティティ/GI
「性自認」を参照。

ジェンダー・ベンダー
ジェンダーを曲げる人。
「男でも女でもなく、男でも女でもある」というニュアンスで、「ザ・サード」「バイ・ジェンダー」「ジェンダー・ブレンダー」などの言い方も。

ジェンダー・ロール
「性役割」を参照。

職業的異性装者
一般的には、(性同一性障害とは直接関係がなく)仕事の為に異性装をして働いている職業者とされている。しかし、就業者には、多数の性同一性障害の当事者が含まれている事は広知のこと。
呼称名としては、おなべ、ゲイ・ボーイ、ニューハーフ、ボーイッシュ、ミスター・レディー、ミス・ダンディーなどや、古くは、ブルー・ボーイ、シスター・ボーイなどもある。

ストレート
異性愛者を指す合州国の俗語。
日本では「その気(け)のない人=ノンケ」ともいう。

性指向(性的指向・セクシュアル オリエンテーション・sexual orientation)
性的な興味の方向性。
人によってそれは特定の性別だったり、特定のしぐさだったり特定の体格だったり特定のものだったり特定のシチュエーションだったり様々である。
性別以外の要因がより重要である人もいるので、男女のどちらの性別に関心が向かうか、というわけでは必ずしもない。

性自認(gender identity)
自己の性別についての自己の認識。
自分がどのジェンダーに属しているかという認識。
「女」「男」以外の性自認を持つ人ももちろんいる。

性的指向
「性指向」を参照。

性同一性障害/GID(Gender Identity Disorder)
身体の性(sex)と性自認(gender identity)との間になんらかのギャップがあること。

「性同一性障害に関する答申と提言」
日本精神神経学会の性同一性障害に関する特別委員会が他の国の施行状況やベンジャミン基準などを参考に平成9年5月28日に掲げた日本国内における性同一性障害の診断と治療のガイドライン。
広義のTGコミュニティ内では「答申と提言」と略されることもある。

性別違和症候補群(Gender Dysphoria)
専門家の方の中から、広く自己の性別に関してなんらかの違和感を持っている方々を含む概念として提唱された用語。
この概念では、性別違和症候補群の中核群として性同一性障害が内包され、性同一性障害の中核に性転換症が含まれていると考えられているそうです。

性別二元論
体の性別(セックス)・性役割・性自認・性指向のいずれにおいても、性別を「女」と「男」という二つしか想定しないで、その認識を前提に物事を考えてしまうこと。

性役割(gender role)
男性/女性に、ふさわしいと考えられている、仕種、言葉使い、服装、態度、職業など。 〜らしさ。

セクシュアリティー(sexuality)
日本ではウーマンリブ運動の中で初めてにこの言葉が使われた。
現在では、生物学的性別(sex)、社会的文化的性別(gender)、性的指向(sexual orientaion)などに関わる性的なあり方に関わること全般を指す。
「性指向がどちらの性別に向かうか」という意味でセクシュアリティーという言葉を使うことも多いが、ジェンダーやセックスの問題を見逃してしまわないように注意。

セックス(sex)
性染色体・性腺・外性器など身体の性別。

セリバシー
禁欲主義。
性的なことに興味がないのではなく、あえてしない。

T−GEN/T's/T*
コンピュータネットワークを中心とした日本のコミュニティーにおいて、TV/TG/TSを含めた広義のトランスジェンダー当事者の人達を差す総称。

トランス
広義のTGのコミュニティの中で使われる、反対性への移行のこと。
トランスする(した)等のように使われる。

トランスヴェスタイト/TV
主に外見やファッションを身体の性別とは別の性にしようとする人たち。
たとえばMTF・TVの場合、男性としての自覚を持ちながら、女性の衣服を身につける人々。
自分の性別に疑問を持たない(性同一性障害を持たない)ので、フェティシズムと見られる事もあるが、当てはまる人も、そうでない人も、始めはそうであっても性同一性障害を持つようになる人もいる。
「病気」ととられたくないなどの理由で「クロスドレッサー」を自称する人が増えている。

トランスジェンダー/TG
(1).狭義のTGは、TSとTVの中間的な人をさす。
TVと違って身体とは別の性自認をもつが、TSのように手術を必要としない。
(2).広義のTGは、TS/TG(狭義)/TVおよび、このどれにもあてはまらない人々のすべて。
性同一性障害を持っていてもTSでもTG(狭義)でもない人がいる。
自分が男でも女でもないと感じたり、男でも女でもありたいと感じる人、性自認が時によって変化する人もいる。
TG(広義)はTSやTVも含めて、ジェンダーに混乱やギャップを持つすべての人々の総称である。
TS/TV/TG(狭義)という分類法は、こういう分類のできない人たちを排斥したり、不可能な選択を押しつけてしまったりすることがあるので注意が必要。

トランスセクシュアル/TS
身体の性別に違和感(性同一性障害)を持っていて、性器形成手術をしなければそれを解消できない人たち。
「性転換症」「変性症」などの訳語があるが、多くの人は「病気」のレッテルを拒否している。
TSの多くは性器不快感をもっていて、自分の体を見たり触れたりすることにさえ嫌悪感を感じ、なかには灯りを消して真っ暗にしなければ入浴すらできない人もいる。
また多くが手術を完了してからが本当の人生だと感じ、手術しないくらいなら死んだ方がましだとさえ考える人がいる。

ナベシャツ
胸を押さえる為に着用するベスト型の下着。
丈夫な布地(麻など)で出来ていて、両胸部には乳首を隠す為のポケットがあり、前部のジッパーで絞り上げるものがある。

ノンセクシュアル
性的指向がはっきりしない、またはない人。

バイセクシュアル
人を性的な対象としたり好きになったり愛したりする時に、相手の性別が関係ないか重要ではない人。
または、人を性的な対象としたり好きになったり愛したりする時に、相手の性別が男でも女でもいい人。
または、そういう指向の在り方。
日本語では「両性愛(者)」と訳しますが、あまりこの訳語は使われていない。

パス、リード
トランス(自覚する性別にふさわしい姿をしていること)が見破られないで、その性別で通用することを「パス(パッシング)」といい、逆に通用しないで見破られることを「リード(リーディング)」という。

バリバリ
胸を偏平にするためのマジックテープ式体型補正下着の俗称。
はがす時にバリバリと音がするらしい。スポーツショップで手に入る。

ブルーボーイ事件
昭和39年に、ブルーボーイに対して行った性転換手術(睾丸全摘出手術)が、優生保護法(第28条)の「何人も、この法律の規定による場合の外、故なく、生殖を不能にすることを目的として手術又はレントゲン照射を行ってはならない」について違反を問われ、44年(一審)・45年(二審)で有罪判決を受けた事件。不幸な事に、一定の条件を満たせば違法に問えない事を示唆した裁判長の判断よりも、性転換手術は非合法という認識だけが広まってしまった。
公的な性転換手術も行われた現在では、性同一性障害の診断と治療の条件として求められるものは、旧優生保護法(母体保護法)の「故なく」にあたらないと考えられている。

ヘテロセクシュアル
異性愛者。性的指向が異性に向いている人。
ギリシャ語の「異なる」という語からきている。

ベンジャミン基準(Standards of Care)
Harry Benjamin International Gender Dysphoria Association's The Standards of Care for Gender Identity Disorders (Fifth version)/ハリーベンジャミン国際性同一性障害学会の治療の基準(第5版)。
性同一性障害患者への、(DSM-IV、またはICD-10の基準による)診断、精神療法、実生活経験、ホルモン療法、外科的治療(性転換手術、または付帯手術)等の治療の基準。

ホモセクシュアル
日本では男性同性愛者のことを指すことが多いが、女性も含めた同性愛(者)のこと。
ホモはギリシャ語で「同じ」の意味。

ホモフォビア
同性同士であると思われる者たちの間の、親密なもしくは性的な、関係や行為に対する嫌悪観や攻撃、恐怖観、無関心を装った無視。および同性愛に対する嫌悪観や攻撃、恐怖観、無関心を装った無視。

マイノリティー(少数派)
実際の数の多い少ないもあるが、それよりも、その場における力関係、ヘゲモニー(覇権)が弱いものを指す言葉。
例えば、一般社会の中のトランスジェンダー、男性社会の中の女性、等々。

マネーの双子
「性の署名」(SEXUAL SIGNATURES - ON BEING A MAN OR A WOMAN - John Money & Patricia Tucker, Little, Brown & Co, 1975)の書中で、割礼の失敗によりペニスを失い(生後7月)、性別再判定手術(生後21月)を受け女児として養育された、ある家庭の男の双子の一人が、当人は女性として適応していると紹介された事例。
当初この事例は、性自認は環境により決定される傍証とされたが、後年の追調査により、当人が女性として必ずしも適応している訳ではないことが確認され、そして現在では、男性としての性別再判定手術を受け父親として生活していることから、性自認は環境のみによらない事を示唆する事例となった。

薬事法/薬剤師法
薬事法(第24条)では、薬局開設者か医薬品の販売業の許可を受けた人でなければ、一般の人に販売・授与の目的で薬剤を貯蔵してはならず、薬剤師法(第22条/第23条)では、厚生省令で別段の定めをしたり処方箋が無い限り、薬局以外で販売・授与目的の調剤をしてはならないとあるそうです。
薬剤の入手を願う(助ける)には、法律にも注意しましょう。

優生思想
悪質の遺伝形質を排除し、優良なものを保存しようという考え。

リアルライフテスト(real life test)
性同一性障害治療のガイドラインにおいて性転換手術の前に、望む性で一定期間を生活してみて適応すること。
日本では原則として(フルタイムで)1年以上とされている。
本事項はSRSを受けるための試験では無く、本人と医師の両者に今後の治療の判断を助けるものであり、始めから全てを24時間中実行するものでもない。
また、リアルライフエクスペリエンス(real life experience)と呼ばれる場合もあるそうである。

レインボウ
多様な性的マイノリティのプライドを表現するシンボル。
1978年に作られたときは8色だったが、現在は6色。
レインボウ・フラッグ(旗)やバッヂ、リング、ピアスなどのグッズがある。

レズビアン(lesbian)
女性同性愛者。古代ギリシャの女性詩人サッフォーが女性たちを集めて暮らしたレスポス島に由来する。
「レズ」という略語の侮蔑的なニュアンスを嫌って、自主的に「ビアン」と略す人も多い。

レッドリボン
AIDS/HIVを理解し、サポートします、という印の赤いリボン。


【備考】
「各種資料中での性同一性障害」
a) 「性同一性障害に関する答申と提言」
性同一性障害について、以下の様に定義されています。
「生物学的には完全に正常であり、しかも自分の肉体がどちらの性に属しているかはっきりと認識していながら、その反面で、人格的には自分が別の性に属していると確信している状態」
b) ICD−10
F64 性同一性障害(Gender Identity Disorders)についてを、
F64.0 性転換症(Transsexualism)、
F64.1 両性役割服装倒錯症(Dual-role Transvestism)、
F64.2 小児性同一性障害(Gender Identity Disorder of childhood)、
F64.8 他の性同一性障害(Other Gender Identity Disorders)、
F64.9 性同一性障害特定不能型(Gender Identity Disorder,Unspecified)
の5つに分類しています。



用語解説について...
用語における概念というものは、限定された情報の前提条件内で、ある視点(重み付け)に立った時に導き出される判断(評価)結果と言えるものでしょう。
これは、前提となる情報の種類が不足していたり、あるいは、情報の内容が不正確であったり、視点が異なれば別の見えかたもしてしまう事を示しています。

ですから、自分や他人に、単純に用語概念を当てはめてしまう事は、様々な属性を持っている個人を判断するには適当ではなく、不足の生じた結果を出してしまう事になるでしょう。
用語概念だけを用いて思考実験をする事は、実態から離れた結果を導いても気づかなくしてしまう事なのかもしれません。

また、用語の同じ事物に違和を感じる点では同じでも、各人が求めている方向性(前提条件と、各要素の重み付け)は、自ずと異なりますので、お互いの主観とは異なる評価(主観の相違)が出てきます。
それらは、視点や前提が異なる物なのですから、同じ物を扱っている様に見えても、別々に独立して存在している物なのです。
ですから、それらは、各人に同意や実践を要求する物でも、他の評価者の人格を全否定する物でもありません。

ここに上げました用語や概念は、「参考程度に考えて欲しい物」として戴けますよう、切に願います。
判りきったことを長々と書き綴ってしまいまして、誠に申し訳ありませんでした。


用語解説のあとがき
用語解説では、なるべくTGコミュニティー内で見聞きする、性同一性障害に関わると思われる言葉を中心にした幅広い用語の編纂を心掛けたつもりでした。
ですが、私たちの調査が至らなかった為に、項目に上っていなかった用語(概念・話題)や、事実誤認の為に正しくない記述をしてしまいました箇所が在るのではないかと思います。

そのような項目・記述が御座いましたら、どうか、私たちの調査不備をお許し下さい。

用語の選択や解説の内容に事実誤認や異論を感じられた方や、違和感を感じさせてしまいました方に、私たちの調査・編集の努力の至らなさを、あらかじめ、深く、お詫び申し上げます。


参考と謝辞:
この用語解説は、下記の用語解説を参考にさせていただきました。

「Transsexual Menace」上映時添付書類(QFF)
「用語解説」            (ANiS)
「性教育パンフレット」用語解説 (G-FRONT関西)

各参考文献の編者・作者の方々に、感謝いたします。

この他にも、沢山の人から教えて戴いた話や、様々な書籍・文献から得ました知識なども、用語解説の作成に活用させて戴きました。

お世話になりました方々や、書籍・文献の、御名前や書名をこの場に記載できなかった事をどうか、お許し下さい。

文責:G-FRONT関西/TGブランチ