性同一性障害の人のための、ホルモン療法の基礎知識
 

優形 愛



はじめに、
 
 これは医学的知識があまりない人でもわかるように書いてあります。難しい言葉や専門用語はなるべく使わず、わかりやすい表現に置き換えてあります。そのため、専門的な目で厳密に言えば必ずしも適当とはいえない記載をしているところがあります。
 いままで何も知らずホルモンを服用してきた方や、これからホルモンの服用を始める方は、これを読むことで、少しでもホルモンや薬の正しい知識を身につけください。そして、そのことを、あなたの治療や健康のために役立ててください。

1、ホルモンとは何か
 ホルモンとは「特定の組織又は臓器で産生され、血液によってほかの部位に運ばれ、目的とする標的器官の機能を支配する生理的物質である」(Selye,1945)と、定義されています。簡単に言い換えると、「ホルモンはある器官から、神経を通らないで他の器官へ命令を伝える物質」となります。
 
 ホルモンは、身体の中の色々な細胞や臓器が、仲良く働くための情報みたいなものです。例えば、「人間はご飯を食べなくても、身体に貯め込んだ栄養素を自ら分解して糖分を作り、血糖値を一定に保っています。ご飯を食べると糖分が吸収されて血糖値が上がります。血糖値がある程度上がってきたら、膵臓はインシュリンをだします。インシュリンは、身体に貯め込んだ栄養素の分解を止め、余った糖分を栄養素に作り替えさせる命令を、各細胞に伝えます。」このインシュリンが、血糖値を調節するホルモンなのです。
 
 ホルモンには更に3つの条件があります。
 
1) とてもわずかな量(1千〜100万分の1グラムくらいで)で効果を示すこと、また細胞の働きを活発にさせるとき、それ自身はエネルギー源となることはなく、活発化させる引き金として作用を発現すること。
 一般の薬が、1グラムから1ミリグラムぐらいで作用するのに比べて、卵胞ホルモンでは50マイクログラムと極めて少ない量で効果をしめします。ビタミンは、体の中で起こる化学反応に、直接作用しますが、ホルモンは、反応をすすめる命令を伝えるだけで、反応には直接関与しません。
 
2) 明らかな欠乏症、過剰症を生じること。
 例えば、性ホルモンが欠乏していると、第二次性徴が起こりません。また、幼いうちに性ホルモンが過剰に分泌されると、性早熟という現象がおこり、生理が早く来たり、骨の成長が止まり、低身長になってしまいます。大人で性ホルモンが欠乏すると、更年期障害になったり、骨粗鬆症になったりします。大人での性ホルモンの過剰症は、通常はありません。しかし、ある種の癌では、性ホルモンの過剰がみられることがあります。
 
3) 生体内で産生され、補給の必要がないこと。
 性ホルモンはコレステロールを原料にして、睾丸、卵巣、副腎などでつくられます。性ホルモンの原料であるコレステロールの殆どは体の中で作られます。通常は、性ホルモンもコレステロールも外から補給する必要はありません。

2、ホルモンの種類
 ホルモンというと、皆さんは男性ホルモンとか、女性ホルモンの様なものを初めに想像します。しかし、ホルモンには、実にたくさんの種類があるのです。さらに、ホルモンの分類の仕方にも3つの方法があり、その理解を難しくしています。そのため、皆さんが普段使っている、男性ホルモンとか、女性ホルモンという呼び名も、分け方によっては、まったく変わってしまうことがあります。
 
1) 内分泌する組織あるいは器官による分類
卵胞ホルモン、黄体ホルモン、甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモンなど・・・
 
2) 化学構造による分類
  (1) ステロイドホルモン:コレステロールを原料に作られているホルモン。
 性ホルモンはこれにあたります。通常は、ステロイドと言った場合には、副腎皮質ホルモンを指します。
 
  (2) タンパク・ペプチドホルモン:蛋白質でできたホルモン。
 体の中にある、ほとんどのホルモンはこれにあたります。性ホルモンの分泌を調整している、性腺刺激ホルモンや性腺刺激ホルモン分泌ホルモンもタンパクホルモンの一つです。この他に、タンパクホルモンには、体の成長を調節している成長ホルモン、血糖値を下げるインシュリン、脳内麻薬物質と呼ばれているエンドルフィンなど、様々なものがあります。
 
  (3) 生体アミンホルモン:アミンという化学基を持った、極めて簡単な構造のホルモン。
神経ホルモンであるドーパミンや、昼夜のリズムを調節するメラトニン、エネルギー代謝を調節する甲状腺ホルモンなどが、これにあたります。
 
3) 生理作用による分類
 性ホルモン(男性ホルモン、女性ホルモン)、神経ホルモン、成長ホルモンなど、ホルモンの役目ごとの総称があります。
 
 上記の分類に性ホルモンを当てはめますと、次のようになります。
 性ホルモンはステロイドホルモンの一種です。性ホルモンには、男性ホルモンと、女性ホルモンがあります。女性ホルモンには、卵胞ホルモンと、黄体ホルモンがあります。(普通、女性ホルモンといった場合には卵胞ホルモンのことを指すことが多いようです)
 
 さらに、男性ホルモンには、天然型と合成型があります。天然型の男性ホルモンには、テストステロン(真の男性ホルモン)、ジヒドロテストステロン(活性型)、エチオコラノロン(代謝型)、アドレノステロン(副腎由来男性ホルモン)があります。合成型の男性ホルモンには、メチルテストステロン(飲み薬・エナルモン)、フルオキシメステロン(飲み薬・ハロテスチン)、エナント酸テストステロンなどがあります(持続性注射薬・エナルモンデポー)。
 
 卵胞ホルモンにも、天然型と合成型があります。天然型の卵胞ホルモンには、エストロン(E1)、エストラジオール(E2・一番強力な卵胞ホルモン)、エストリオール(E3)、エクイレニン(代謝型)、エクイリン(代謝型)があります。合成型の卵胞ホルモンには、エチニルエストラジオール(飲み薬・プロセキソール)、メストラノール(飲み薬・デボシン)、吉草酸エストラジオール(持続性注射薬・ペラニンデポー)、ジエチルスチルベストロール(人工型)などがあります。
 
 黄体ホルモンにも天然型と合成型があります。天然型の黄体ホルモンには、プロゲステロン(活性型)、プレグナンジオール(代謝型)があります。合成型の黄体ホルモンには、酢酸ヒドロキシプロゲステロン(飲み薬・ヒスロン)、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン(持続性注射薬・プロゲデポー)、酢酸クロルマジノン(飲み薬・ルトラール)、ノルエチステロン(飲み薬・ノアルテン)などがあります。
 
 
(Fig.1)
ホルモンの化学式図

3、性ホルモンと、その分泌を調節するホルモンの働き
 性ホルモンには、前に書いたように、男性ホルモン、卵胞ホルモン、黄体ホルモンがあります。これらの性ホルモンは、卵胞刺激ホルモン(FSH)や、黄体形成ホルモン(LH)という、性ホルモンの分泌を調節するホルモンによって分泌の調節を受けています。更に、卵胞刺激ホルモン(FSH)や、黄体形成ホルモン(LH)は、性腺刺激ホルモン(Gn−RH)というホルモンによって調節を受けています。以下に、女性から男性に向かう性同一性障害の人のホルモン治療の様子を図化しました。
 
ホルモン治療の様式図(FTM)
(Fig.2)
 
1A. 視床下部は、規則正しいリズム(パルス)で性腺刺激ホルモン分泌ホルモン(ゴナドトロピン)を分泌し、脳下垂体にホルモン産生の手配をするよう指令を送っています。
 
1B. 視床下部は、自分の分泌した性腺刺激ホルモン分泌ホルモンの量をチェックし、自らその分泌量の調節をしています。
 
2A. 脳下垂体は性腺刺激ホルモン分泌ホルモンを受け取ると、その量に応じて卵胞刺激ホルモン(排卵ホルモン)や、黄体形成ホルモン(妊娠維持ホルモン)を分泌します。
 
2B. 性腺刺激ホルモンの量は、視床下部でチェックをされ、その分泌量を、性腺刺激ホルモン分泌ホルモンを通じて調節されます。
 
3A. 性腺(卵巣)で作られた卵胞ホルモンは、血液中に分泌され全身に行き渡ります。
 
3B. 飲み薬や注射の形で男性ホルモンを投与しても、血液中に入り全身に行き渡ります。
 
4A. 血液中に分泌された卵胞ホルモンは、標的組織に作用し、その組織の働きを活発化させます。
 
4B. 飲み薬や注射の形で投与された男性ホルモンも、血液を通じて標的組織に作用し、その組織の働きを活発化させます。
 
4C. 血液中の性ホルモンの量は、視床下部と脳下垂体でチェックされ、性ホルモンを一定の量に保つように、性腺刺激ホルモン分泌ホルモンや、性腺刺激ホルモンの分泌を通じて調節されます。このことは、卵胞ホルモン、黄体ホルモン、男性ホルモンのいずれかが増えても、ホルモン産生臓器への指令を少なくすることを意味します。
 
4D. 健常な女性の場合は、排卵のために起こる卵胞ホルモンの急激な増加に対し、一過性に性腺刺激ホルモンを増加させ、妊娠の準備をします。
 
注)黄体形成ホルモンや、卵胞刺激ホルモンは、女性から発見されため、このような名前が付いています。男性の場合は、黄体形成ホルモンが男性ホルモンの分泌を卵胞刺激ホルモンが精子形成を促進します。
 
 この図をもとに、性ホルモンの基礎的な働きをもう少し説明します。
 本社(視床下部)は、自分の出した伝票(性腺刺激ホルモン分泌ホルモン)や、支店(脳下垂体)の伝票(卵胞刺激ホルモン・黄体形成ホルモン)、そして血液中の性ホルモンの量を確認しながら、支店(脳下垂体)に伝票を送っています。
 
 支店(脳下垂体)は、本社(視床下部)の命令と、血液中の性ホルモンの量を確認しながら、工場(卵巣・睾丸)に発注伝票(卵胞刺激ホルモン・黄体形成ホルモン)を送っています。
 
 工場(卵巣・睾丸)は、支店(脳下垂体)からの発注を受け、それに応じた量の性ホルモンを作ります。性ホルモンはそれに応じた細胞に運ばれ、細胞の働きを活発化させます。
 
 外から性ホルモンを取り込むと、本社(視床下部)や支店(脳下垂体)は、市場に性ホルモンがあふれていると判断し、工場(卵巣・睾丸)への伝票を差し止めます。
 
 工場(卵巣・睾丸)は、突然伝票(卵胞刺激ホルモン・黄体形成ホルモン)が来なくなっても、急には性ホルモンの生産を止めません。しかし、工場(卵巣・睾丸)は、しばらく注文が来ないと、性ホルモンを作るラインを少しずつ止めていきます。
 
 長期に渡って注文が来ないと、工場(卵巣・睾丸)は、性ホルモンを作るラインを全て止めてしまいます。こうなると、工場(卵巣・睾丸)の機能を元に戻すには時間がかかります。長期にわたって、性ホルモンを外から取り入れていると、一部の機能は元に戻らないかも知れません。男性の場合は、半年から1年以上女性ホルモンをとり続けると、永久に不妊になるといわれています。女性の場合は、男性ホルモンの卵巣への不可逆的な影響は少ないといわれています。しかし、生理を1年以上止めると、元通りに回復するまでには、時間がかかるといわれています。
 
 性ホルモンには、お互いの作用を抑制する面と増強する面があります。上記において説明したのは、男性ホルモンと、女性ホルモンが間接的に相手を抑制する作用です。
 
 男性ホルモン、卵胞ホルモン、黄体ホルモンは、お互いに反対の作用を持っている部分があります。
 例えば、男性ホルモンは血液中の脂肪を増加させるのに対し、卵胞ホルモンは血液中の脂肪を減少させます。このため、両者は、お互いの作用を妨げあいます。これも、間接的な抑制と言えるでしょう。
 
 その他に、女性ホルモンは男性ホルモンが活性型になるのを妨害します。これは直接的な抑制です。
 
 性ホルモンの作用の大部分は、間接的にお互いの働きを抑制するものだと考えてください。

4、性ホルモン剤の作用のメカニズム(基礎)
1) ホルモンと受容体
 性ホルモンは、目的の細胞の受容体という受け皿にとりついて、初めて作用します。この受け皿を生まれつき持っていない人では、たとえホルモンが分泌されていても、それが作用することはありません。このようなことは、一部の半陰陽の人にみられます。
 
 性ホルモンと受容体は、鍵と鍵穴みたいな関係です。鍵があわなければ、性ホルモンは作用することができません。このことを利用して、鍵穴には入るが鍵を回せない、本来の性ホルモンが入る鍵穴をふさいでしまう偽鍵の働きをする、抗男性ホルモンや、抗女性ホルモンも作られています。
 
 同じ性ホルモンの受容体でも、幾つかの種類があります。この性質を利用して、男性ホルモンの作用のうち、筋肉増強の命令を受け取る受容体に、よりくっつきやすくした合成ホルモン剤が、ドーピングで使われる筋肉増強剤です。
 
 
(Fig.3)
 
ホルモンと受容体を鍵と鍵穴に見立てた詳細模式図  
(Fig.4)
 
2) 飲み薬と、注射と、貼り薬の違い
 もともと、性ホルモンはすぐに、肝臓で分解される性質を持っています。なぜならば、一度使った命令が、体の中をいつまでもまわっていたら、細かい命令を伝えるのに不都合だからです。そのため、性ホルモンを外から取り込む場合には、少し工夫が必要です。
 内服の場合、性ホルモンは胃や腸から吸収されます。胃や腸の血管は、門脈と呼ばれる血管で、肝臓に直結しています。そのため、天然型の性ホルモンを内服しても、体中にめぐる前に、肝臓で無力化されてしまいます。この現象を、初回通過効果といいます。
 注射の場合でも、天然型の性ホルモンは、肝臓ですばやく分解されてしまいます。この場合、効果はありますが、毎日注射を打つ必要があります。これらの問題を克服したのが、合成型の性ホルモン剤です。
 
 最近では、天然型の性ホルモンを皮膚から吸収させる、パッチ剤(貼り薬)もできました。パッチ剤は、安定した量の性ホルモンを3日間出しつづける、大変優れた製品です。しかし、値段が高く、まだ、卵胞ホルモン製剤しかありません。欧米では、すでに男性ホルモンのパッチ剤が売られています。残念ながら、この製品は、日本ではまだ治験の段階です。パッチ剤の欠点は、皮膚に貼るため、貼ったところがかぶれやすくなることです。ですが、この問題も改善されてきています。
 
 合成型の性ホルモン剤は、天然型の性ホルモンの構造を、少しだけ変化させたものです。
 内服で作用するように、肝臓で無力化をされ難い構造にしたものや、注射で長く効くように、油(脂肪酸)を化学的にくっつけて、体の中で、徐々に天然型の性ホルモンに分解していくものがあります(デポー剤)。
 内服のホルモン剤は、薬が全身にまわる前に、肝臓を1回余分に通るため、肝臓への負担が大きいといわれています、肝臓で無力化され難くしてあっても、肝臓での無力化を完全に免れるわけではありません。そのため、同じ薬剤を内服薬とした場合は、注射と同じ効果を期待するには、それより多くの薬の量が必要となります。
 
 持続性の注射剤は、筋肉に注射するため、繰り返し注射している場所が固くなってきます。注射液は、持続性の合成ホルモンをゴマ油に溶かしたものです。この注射液で弱いアレルギーを起こす人がまれにいます。
 持続性の注射剤といっても、作用の上がり下がりはかなりあります。2倍注射すれば持続期間も確かにのびます。しかし、単純に2倍にはなりません。2倍注射しても作用も2倍にはなりません。むしろ、副作用の危険性が倍増します。持続性の注射剤といえども作用の持続期間は人によってことなります。一本で1週間とか言われているのは、あくまで薬の効能書きに書かれた目安に過ぎません。これらのことは、飲み薬にも当てはまります。
 
性ホルモンの代謝経路図
(Fig.5)
 
   構造を変えた合成ホルモンは、天然型の性ホルモンと作用が異なることがあります。この現象は、合成型の黄体ホルモンにおいて顕著にみられます。性ホルモンの鍵穴は、どれもよく似ているので、構造を変えることで、他の性ホルモンの性質を持ったり、他の性ホルモンの鍵穴を塞ぎやすくなったりします。また、合成型の性ホルモンは、天然型の性ホルモンとは構造が異なるため、通常の検査では、それの血液中の濃度を調べることができません。
 
3) 服用量と服用間隔
 性ホルモンの作用は、作用を縦軸、用量の対数を横軸にとった場合、S字曲線を描きます。このことはどういうことかというと、服用量が余り少なすぎてもあまり効かなく、多すぎても作用が頭打ちになってしまうということを表しています。
 
薬の服用量と作用グラフ、適量投与時と倍量投与時の薬の血中濃度グラフ  
(Fig.6)
 
    このことをグラフを例にとって説明しますと、100Dくらいが最適な服用量で、80%くらいの作用を示しています。もし倍の量を服用しても、作用は倍になりません。逆に半分の量しか服用しなくても、効果は半減しません。(横軸は対数で書かれていることに注意してみてください)
 100%の作用を求めるのなら、適量の10倍以上の量を服用しなければなりません。しかし、適量の10倍もの性ホルモンを服用したら、副作用が心配です。
 このS字曲線の右肩の部分の量で薬を使うことが、安全で一番効率がよいのです。
 
 服薬量と作用時間の変化は、薬の濃度を縦軸、時間を横軸においてみるとわかります。
 性ホルモンは、濃度が高いほど早く代謝され、少なくなると代謝が遅くなります。濃度が半分になる速度は、常に時間に一定なのです。グラフでは吸収の時間も入れてあるので、初めの濃度は0です。一番濃度が高い値を10とします。濃度が10から5になるのに2時間かかったとします。すると、4時間後には、濃度は2.5になり、6時間後には1.25となり、2時間置きに前の半分になっていきます。この半分づつになるになる時間を、半減期といいます。
 もし、服用量を倍にしても、2時間後には、普通に服用したのと同じ濃度になってしまいます。この場合、適量を服用したときの作用時間が4時間だとすると、倍量服用では6時間の効果しかないことを示しています。服用量を倍にしても、作用時間は1.5倍にしかなっていないのです。
 
 次に、正しい間隔で服用した場合と、間隔をあけて服用した場合を説明します。
 正しい間隔で薬を服用すると、薬の濃度が有効領域から下がることなく、薬がいつも効いていることになります。前の薬が残っている間に次の薬を服用すると、薬の血液中の濃度は、前の薬の残りに加算されて徐々に増えていきます。けれども、前に説明したように、薬の濃度が高くなると、薬の代謝も早くなります。そのため、いつかは頭打ちになります。この頭打ちの状態を定常状態といい、薬の濃度が安定していることをあらわします。
 間隔をあけて薬を服用すると、前の薬が切れてから、次の薬が入ることになります。この場合では、薬が効いたり効かなかったりして、体調が安定しません。また、薬の濃度も安定しないので、大変効率が悪くなります。
 
正しく服用したときの薬の血中濃度グラフ、間隔をあけて服用したときの薬の血中濃度グラフ  
(Fig.7)
 
   これらのことは、来週は都合が悪いから1本追加とか、早く効かせたいから1本追加などという考えが、好ましいことではないことを説明しています。性ホルモン剤の作用には、あまり自覚できる作用がありません。何も感じないからといって、自分勝手に服用量を増やすのはやめてください。性ホルモンの作用は自覚症状が少ないのが普通です。むしろ、服用量を増やして感じられるのは、副作用かもしれません。
 
4) 性ホルモンに対する耐性と、効果の個人差
 血液中では、性ホルモンの大部分は、性ホルモン結合グロブリンというタンパク質にくっついています。性ホルモンが、目的の細胞に作用するには、このタンパク質から離れた状態でなければなりません。
 このタンパク質は、ある種の薬、性ホルモンの使用により、次第に増えていきます。実際、妊娠した女性では、女性ホルモンの値が、妊娠前に何十倍にもなります。しかし、性ホルモン結合グロブリンも増加するので、異常はおこらないのです。
 長く性ホルモンを使っている人の中には、標準的な量の何倍もの性ホルモンを服用しても何ともない人がいます。これは、性ホルモン結合グロブリンが増えているのか、もしくは、肝臓でのホルモンの不活化が強くなったのかもしれません。
 
 性ホルモンの大部分は、肝臓で不活化されます。長期にわたって、性ホルモンを使用していると、これを不活化する酵素も増加すると考えられます。このことも、性ホルモン剤の作用の個人差の一因となっていると考えられます。 
 性ホルモンは、油に溶けやすい物質です。そのため、性ホルモンの一部は、体脂肪に取り込まれて不活化することも考えられます。特に、男性ホルモンは、その一部が脂肪細胞の中で、女性ホルモンに変化します。太り過ぎの女性に生理不順が多いのは、このせいだと考えられています。同じ理由で、太り過ぎの人には、男性ホルモンが効きにくいのではないかともいわれています。
 
 性ホルモンの一部は、代謝の過程で、胆汁として腸に分泌されます。さらに、この一部が、腸から再び吸収され、血液中に戻ります。このため、性ホルモンの代謝は、より複雑なものとなり、効果や作用時間の個人差をますます大きくします。
 
 このほか、性ホルモンの効果には、受容体なども関係し、大変複雑なものとなっています。
 
 性ホルモンの使用に当たっては、標準的な目安はあるものの、絶対的なものではありません。お酒にもたくさん飲める人と、あまり飲めない人がいるように、どの薬にも同じ様なことがあるのです。医師の指導のもとに、正しく使用しているのならば、使用量が人と違うからといって、心配することはありません。

5、性ホルモンの作用(薬理)
 性ホルモンは互いに抑制しあったり、協力したりする性質があります。そのため、「男性ホルモンは、女性ホルモンの反対の作用を持つ」などと、一概にはいえません。
 実際、体の中では男女とも、男性ホルモン、卵胞ホルモン、黄体ホルモンを持っています。体の中では、この3つの性ホルモンが、微妙なバランスで働いているのです。男女の性ホルモンの差は、分泌される性ホルモンの違いではなく、分泌されるホルモンのバランスの違いなのです。性同一性障害のホルモン療法では、外から性ホルモンを与えることで、このホルモンのバランスを目的の性別にあわせることなのです。実際、更年期障害の女性に、男性ホルモンと女性ホルモンを組み合わせた薬が、ホルモンのバランスを調節するために用いられています。
 
 「睾丸(卵巣)があると、いつまでも男性(女性)ホルモンが出続けるから、早く取ったほうがいい」などという、迷信に惑わされることなく、ホルモン療法を正しく理解してください。睾丸や卵巣を取ったところで、元の性ホルモンが完全に無くなることはありません。副腎や、他の臓器からも、少しながら性ホルモンは作られています。睾丸や卵巣を取らなくても、正しくホルモン療法を受ければ、その機能を十分に押さえることができます。
 
1) 男性ホルモン
 男性ホルモンは、その名の通り、男性の第二次性徴に関与しています。男性ホルモンを、女性から男性へ移行を望む人に用いた場合には、次のようなことがおこります。
 
  (1) 性腺刺激ホルモンの分泌を抑制するため、月経が停止します。月経の停止は比較的すぐに見られるようです。長期にわたって男性ホルモンを使用し、内性器がかなり萎縮している人でも、体調を崩したり、不定期なホルモン投与により、しばしば、不正出血がおこるようです。
 
  (2) 長期使用により、内性器の萎縮がおこります。
 
  (3) 咽頭の軟骨(甲状軟骨)の肥大化による、声の低音化。いわゆる、声変わりがおこります。声変わりが落ちつくまでには、半年から2年くらいかかります。その間は声が出しづらかったり、歌が歌いづらくなります。
 
  (4) あごひげ、体毛の発生、陰毛の増加がおこります。これらの発生には、個人差が大きいようです。すね毛はけっこう生えやすいようです。しかし、髭の発生は、長期に男性ホルモンを使用している方でも、まばらにしか生えない人もいます。
 
  (5) 陰核(クリトリス)、男性ホルモンの使用により大きくなってきます。クリトリスは、発生学的にペニスと同じものです。これを利用した、ペニスの再建手術も外国では行われています。人によっては、親指の半分ほどの大きさになり、極短小のペニスのようになります。クリトリスの増大に伴い、「パンツにあたって痛い」とか、「正面に突き出てきた」などという話もきかれます。
 
  (6) 体格の男性化、筋肉量の増加がおこります。男性ホルモンには、骨格の成長作用があるため、手足が大きくなったり、わずかながら身長の増加も見られる場合もあります。年齢が若く、骨の成長が止まっていなければ、肩幅が広くなるなどの、骨格の男性化もおこるでしょう。筋肉量は、骨の成長に関わらず増加します。体を鍛えれば、ボディービルダーのような体つきになることも可能です。筋肉量が増加するので、痛風持ちの方は気を付けなければなりません。筋肉量の増加に伴い、基礎代謝も亢進するので、暑がりになるかもしれません。体脂肪は、皮下脂肪型から、内蔵脂肪型に変化します。太った場合には、女性のようにぽっちゃりするのではなく、男性のようにどっしりとした感じになるでしょう。
 
  (7) 皮脂分泌の増加。いわゆる脂性(あぶらしょう)になります。このためニキビができやすくなり、ひどい場合には、背中からお尻までニキビができることがあります。あまりにひどい場合には、皮膚科に相談してください。
 皮脂腺が活発になるため、肌のきめが粗くなり、毛穴が目立つようになります。肌自体は、以前よりも強くなります。
 
  (8) 頭髪の脱毛、いわゆる、はげがおこります。はげの起こりやすさは、体質にもよるでしょう。男性ホルモンの過剰投与により、著しい脱毛が起こるともいわれています。このような場合は、投与量を減らすとある程度回復するともいわれています。
 はげの原因の一つには、皮脂腺の活発化が関係しているといわれています。はげ予防のため、まめに洗髪して、皮脂をよく洗い流し、頭皮のマッサージを行いましょう。
 
  (9) 性欲の亢進。男性ホルモンには、両性の性欲を亢進させる作用があります。しかし、性欲の亢進は、個人差が大きいようです。男性ホルモンを使う前から、性欲が強い人もいますし、男性ホルモンを使っても、性欲が亢進しない人もいます。これは人間の性欲が、動物的な本能以外に、精神的な欲求によって支配されているためだと考えられています。
 
  (10) 多幸症や、他の精神症状。多幸症とは、何もかも幸せな感じがする状態です。男性ホルモンで見られる、他の精神症状としては、「ぼーっとして物忘れがはげしくなる」とか、「やる気が出てばりばり仕事したくなる」ということがいわれています。特に、持続性注射剤を使っている人では、注射してから2・3日の間に、精神症状が出やすいようです。また、投与量や間隔を変えたときにも、現れる場合があります。この場合は、過剰投与の可能性があるので、投与量を減らしてください。
 ホルモンを規則正しく投与していない場合にも、精神症状や、身体症状が出ることがあります。この場合は、ホルモンが一時的に切れるためおこることで、男性ホルモンの副作用とは違います。
 
  (11) 皮膚色調の変化。男性ホルモンを使うと、肌の色が黒っぽくなることがあります。これはメラニン色素の増加と、肌の表面があらっぽくなるためにおこると考えられます。
 
  (12) 肝機能検査値の異常。男性ホルモンは、胆管を細くし血中ビリルビンなどの値を高くすることがあります。また、全ての性ホルモンは、肝臓で分解されるため、肝臓自体を痛めることがあります。この場合にはGOT、GPTなどの値が高くなります。どちらの場合でも、異常値が見られたら医師と相談してください。
 
#ビリルビン:胆汁色素のこと。黄疸や肝障害の指標に用いられる。
#GOT、GPT:細胞内酵素の一種。特に、肝細胞が壊れたときに血液中に放出されるので、肝障害の診断に用いられる。
 
  (13) 血中コレステロール値や、中性脂肪の増加。いわゆる動脈硬化の原因です。男性ホルモンには、血中コレステロール値や、中性脂肪の増加作用があります。その反対に、卵胞ホルモンには、血中コレステロール値や、中性脂肪の減少作用があります。更年期移行の女性に、高脂血症が多いのも、卵胞ホルモンが出なくなるためです。
 血液検査の結果。総コレステロールや、中性脂肪の値が高い場合には、高脂肪の食事を避け、適度な運動を行いましょう。
 
  (14) ナトリウム、カリウム、水、カルシウム、硫酸基、リン基などの体内貯留の増加。いわゆる、塩分や、それに伴う水分が増加します。男性ホルモンを投与すると、急速に体重が増加することがあります。この場合は、体の水分が増えたのだと考えてください。高血圧になりやすくなるので、血圧の高い人や、心臓に持病のある方は注意してください。もちろん、男性ホルモンの作用により、筋肉がつきやすくなるので、徐々に水分以外の体重も増加します。
 参考までに、同じ体積の場合、筋肉の重さは、脂肪の約2倍です。体形があまり変わらなくても、脂肪が減り、筋肉が増えれば、体重は増加します。
 
  (15) 膣の機能低下。男性ホルモンを、長期にわたって使用すると、膣が萎縮し、内膜が減少し、自己浄化作用が低下します。そのため、単純細菌による、膣感染症を起こしやすくなります。抗生物質の使用で簡単に治りますが、恥ずかしさのあまり、病院に行けないので、悪化させる可能性があります。粘りけがあり、白や黄色っぽいおりものが何日も続くようでしたら注意してください。
 
2) 卵胞ホルモン
 卵胞ホルモンは女性の第二次性徴に関与しています。卵胞ホルモンを、男性から女性に移行を望む人に用いた場合には、次のようなことがおこります。
 
  (1) 性腺刺激ホルモンの分泌を抑制するため、睾丸での、男性ホルモンや、精子の産生の抑制をします。卵胞ホルモンの投与量によって異なりますが、男性ホルモンや、精子の産生が停止するまでには、3ヶ月位はかかるでしょう。精子形成はダメージを受けやすく、半年から1年の女性ホルモン投与で、永久不妊になるといわれています。このため、一過性の女性化願望の方や、性別違和感の伴なうが、他の方法で精神のバランスをとれる方、男性の生殖機能を失いたくない方には、女性ホルモンの使用は絶対に勧められません。長期にわたって卵胞ホルモンを使用すると、睾丸は萎縮してしまい、かなり小さくなってしまいます。睾丸の機能が低下するにつれ、精液の量が減少したり、色や質が変わってきたりします。
 
  (2) 男性ホルモンへの拮抗作用。卵胞ホルモンや黄体ホルモンには、大量に使用した場合、男性ホルモンが活性型に変わるのを直接妨げます。この作用を応用して、前立腺癌などの、男性ホルモンに反応して大きくなる癌の治療薬として、卵胞ホルモンや黄体ホルモンが使われることがあります。
 
  (3) 体格の女性化、体脂肪の増加、筋肉量の減少。第二次性徴前に、卵胞ホルモンを使用すると、骨の成長が止まり低身長になります。これは、卵胞ホルモンの骨の成長点を止めてしまう作用のためです。
 骨の成長が止まる前での、卵胞ホルモンの使用は、骨盤を広くするなどの骨格の変化も考えられます。しかし、第二次性徴を終え、骨の成長が止まったあとでは、卵胞ホルモンによる骨格の女性化はおこりません。
 卵胞ホルモンの使用でおこる、主立った変化は体脂肪の増加でしょう。卵胞ホルモンの使用により、皮下脂肪が増え、痩せた人であっても、腕や腿の脂肪が摘めるようになるでしょう。下腹や大腿も皮下脂肪のつきやすい部分です。かがんだときに、お腹の肉がたわむようになるでしょう。普段、使用している筋肉は、それ程落ちることはありません。でも、普段、使わない筋肉は、かなり落ちてしまうようです。
 
  (4) 乳房、乳首の発達。卵胞ホルモンは、乳腺の発達を促します。乳腺の発達は、卵胞ホルモンを初めてすぐに、乳腺の痛みや、緊迫感として自覚することができます。乳腺は、卵胞ホルモン以外に、黄体ホルモンや、副腎皮質ホルモン、成長ホルモンなどの影響を受けて発達します。したがって、男性から女性に移行を望む人が、卵胞ホルモンや、黄体ホルモンの投与で、立派な乳房になることは希のようです。
 卵胞ホルモンを大量に投与した場合には、偽妊娠状態となり、ある程度、乳腺の発育がみられます。けれども、これは一過性の状態であり、投与量を減らせば、大抵は元通りになってしまいます。
 乳腺が発達することで、人によっては乳汁がでることがあります。特に、大量に卵胞ホルモンを投与したのち、突然ホルモンの投与を止めると、かなりの量の乳汁がでることがあります。また、卵胞ホルモンと、ある種の薬を服用している場合でも、乳汁がでることがあります。
 
 乳腺が発達することで、特に気を付けなければいけないのは、乳ガンです。卵胞ホルモンの使用により、乳ガンの発生の危険性も、生まれついての女性並になるのです。親族に乳ガンになった人がいる場合には、特に注意すべきです。
 
  (5) 赤血球の比重の減少。女性ホルモンは、赤血球の比重を減少させる作用があるようです。月経があるわけではないので、鉄分が不足しているわけではありません。この原因は、蛋白質量の減少が関係しているようです。貧血気味になったり、検査時に異常値がでたら、蛋白質の多い食事をとるように心がけましょう。
 
  (6) 血液凝固因子の増加。卵胞ホルモンは、血液を固まらせるための物質を増加させます。この性質を使い、一部の卵胞ホルモンは血液凝固剤としても使われています。この性質ため、健常人に卵胞ホルモンを使った場合、血栓症の危険性が増加します。血栓症は、あまりみられない病気なので、それ程気にする必要性はありません。しかし、タバコとの因果関係も指摘されているので、禁煙をした方がいいでしょう。また、手術などを受ける場合には、3週間前から使用を止めるように勧められています。
 
 血液凝固系は、とても複雑です。卵胞ホルモンが増加させる血液凝固因子は複数あり、それらだけを適切に下げるのは困難です。もし、血栓症の予防を考えるなら、アスピリンの服用が効果を表わすかもしれません。
 
  (7) 皮膚、毛髪の女性化。卵胞ホルモンは、皮膚や毛髪を女性的なものにします。皮膚は皮脂腺の分泌が低下し、水分量が増え、きめが細かくなります。しかし、男性の皮膚に比べ、薄く弱いものになります。皮脂の分泌が低下するので、乾燥肌になりやすくなるでしょう。皮膚が薄くなる分、皮膚感覚は鋭敏になるでしょう。
 毛髪は細くしなやかなものになります。毛髪の寿命も延びるため長髪にしやすくなるでしょう。
 
  (8) 性欲の低下。男性ホルモンにより支配されていた、本能的な性欲は低下します。起床時の自発勃起はおこらなくなることもあります。射精も起こり難くなり、人によってはオルガスムス感覚にも変化が起こり、頂点に到達し難くなるでしょう。
 
  (9) 精神症状。卵胞ホルモンを使用すると、人によっては感傷的になったりすることがあるようです。うつ状態にも関係しており、卵胞ホルモンの量が増えるとうつ病の発病率が高くなるともいわれています。イライラ感もおこりやすくなりますが、これは卵胞ホルモンの、ナトリウムと水分の貯留作用のためだと考えられています。
 
  (10) ナトリウムと水分の貯留。卵胞ホルモンは、塩分と水分の貯留を増加させます。このためむくみやすくなったり、下肢に静脈瘤ができやすくなったりします。水分量の変化に伴い眼圧も変化するので、ハードコンタクトレンズを使用している方は、レンズがあわなくなることがあります。偏頭痛も、水分量の増加のためおこりやすくなるといわれています。鼻粘膜も充血し、鼻づまりになりやすくなる人もいるようです。腸の水分も増加させるため、腹部膨満感もあらわれるでしょう。
 
  (11) 糖尿病の悪化。卵胞ホルモンは、糖尿病を悪化させることがあります。糖尿病の方は、医師と十分に相談してください。このような方は、決められた以上の量の卵胞ホルモンの服用は絶対に行ってはいけません。
 
  (12) 吐き気、つわり様症状。卵胞ホルモンは、朝の吐き気や、食欲不振をもたらすことがあります。特に、内服薬の方がこの副作用を起こしやすいです。
 
  (13) 卵胞ホルモンには、肝斑といった、しみを顔に作ることがあります。日焼けが好きな方は、特に注意した方がいいでしょう。
 
3) 黄体ホルモン
黄体ホルモンは、主に妊娠の維持に関与しています。黄体ホルモンは、男性から女性へ移行を望む人に用いても、標的臓器が少ないため、意味がないとおもわれます。黄体ホルモンを、男性から女性へ移行を望む人に用いた場合には、次のようなことがおこります。
 
  (1) 卵胞ホルモンと同じく、性腺刺激ホルモンの分泌を抑制するため、睾丸での、男性ホルモンや精子の産生の抑制をします。女性化作用が少ないため、黄体ホルモンは、現在でも、男性の前立腺肥大症や前立腺癌の治療に用いられています。
 
  (2) 乳腺分泌腺の発育促進作用。卵胞ホルモンの使用により、ある程度乳腺が発達したならば、黄体ホルモンは、それを更に発達させるように働きます。しかし、卵胞ホルモンの項でも説明したように、乳腺の発達には他の因子も多く関係しています。ですから、黄体ホルモンを併用したからといって、乳房がより大きくなるとは限りません。
 
  (3) 体温上昇作用。これは排卵時に、基礎体温が上がる原因です。体温が上昇するといっても、せいぜい0.5℃程度です。敏感な人なら、熱っぽいと感じることができるでしょう。
 
  (4) 麻酔作用。黄体ホルモンには、非常に弱い麻酔作用があります。過去には、黄体ホルモンの誘導体から、麻酔薬が作られたこともありました。この作用のため、黄体ホルモンの使用により、眠気を感じる人もいるでしょう。
 
  (5) 抗アルドステロン作用。黄体ホルモンは、アルドステロン(アンドロゲンではない!!)という、水分や塩分を貯留させるホルモンの働きを阻害します。
 
  (6) タンパク異化作用。タンパク質を分解し、エネルギーなどへの変換を増加させます。この作用は、筋肉などを減少させ、体格を女性的なものに変えやすくするかも知れません。
 
  (7) 精神症状。黄体ホルモンは、倦怠感や易疲労感をおこりやすくします。

6、実際に治療で使われる性ホルモン
 性ホルモン製剤は数多くありますが、ここでは、主に性同一性障害の治療に用いられるものだけ書き出します。
 
1) 男性ホルモン製剤
  飲み薬: エナルモン(メチルテストステロン25mg/1T)、ハロテスチン(フルオキシメステロン2mg/1T、5mg/1T)
  注射薬: エナルモンデポー・テスチノンデポー・テストビロンデポー(エナント酸テストステロン125mg/1A、250mg/1A)
 
2) 卵胞ホルモン製剤
  飲み薬: プレマリン(結合型エストロゲン0.625mg/1T、1.25mg/1T)、デボシン(メストラノール0.02mg/1T、0.04mg/1T)、プロセキソール(エチニルエストラジオール0.5mg/1T)
  注射薬: ペラニンデポー・プロギノンデポー(吉草酸エストラジオール5mg/1A、10mg/1A)
 
3) 黄体ホルモン製剤
  飲み薬: プロベラ(酢酸ヒドロキシプロゲステロン2.5mg/1T)、ヒスロン(酢酸ヒドロキシプロゲステロン5mg/1T)
  注射薬: プロゲデポー・プロルトンデポー・オオホルミンルテウムデポー(カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン65mg/1A、125mg/1A)
 
 #、A:アンプル、T:錠剤

7、実際の性ホルモンによる性同一性障害の治療
 性同一性障害のホルモン治療を行うにあたっては、その効果を調べるため、性ホルモンや、性腺刺激ホルモンの血中濃度をみて、効果を判断するのがよいでしょう。
 ホルモン治療で問題となることは「遊離の性ホルモンとグロブリン結合の性ホルモンをどうみるか」、「持効性注射剤の場合、血液検査はいつ行うべきか」、「検査で直接測れない合成ホルモン剤はどうするか」の3点でしょう。
 
 臨床の場では、持効性注射剤が、一番多く使われているようです。しかし、持効性注射剤といえども、安定した薬物血中濃度が得られるわけではありません。初めは、少ない量を長い間隔で使い、効果が充分でなければ投与間隔を狭めてゆき、逆に効果が充分であれば、投与間隔を長くしてゆけばよいと考えられます。
 持効性注射剤の場合、効果の判定は、両性の性ホルモンの血中濃度を測ることで、調べることができます。(しかし現実には、FTM・MTF両者についても、血中テストステロン濃度を測定することで判断が可能なようです。)
 注射剤と経口剤を併用している方もみられますが、この場合、病院に行けない期間を経口剤で補うのは問題ないでしょう。しかし、注射剤と経口剤を同時に服用するのは、必要量をかなり逸脱していると思われます。
 
1) 女性から男性へ移行を望む人の場合
 注射の場合には、エナント酸テストステロン125mg(エナルモンデポー)/1Aを、7日から10日、もしくは、250mg/1Aを、14日から21日程度の間隔で投与されるのが一般的のようです。経口剤の場合には、メチルテストステロン(エナルモン)25〜50mg/日で使用するのが一般的なようです。
 
2) 男性から女性へ移行を望む人の場合
 注射の場合には、吉草酸エストラジオール(ペラニンデポー)10mg/1Aを、7日から14日、もしくは、10mg/2Aを14日から21日程度の間隔で投与されるのが一般的のようです。
 
 経口剤の場合には、結合型エストロゲン(プレマリン)0.625〜3.75mg/日、もしくは、エチニルエストラジオール(プロセキソール)0.05〜0.25mg/日、メストラノール(デボシン)0.08〜0.24mg/日で使用するのが一般的なようです。
 
 通常、黄体ホルモンの投与は、注射剤の場合には、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン(プロゲデポー)125mg/1〜2週、経口剤の場合には、酢酸メドロキシプロゲステロン(プロベラ)2.5mg/日の間隔でおこなわれます。
 
 黄体ホルモンをあわせて使う場合は、月経に合わせた周期性を作る必要はありません。むしろ、体調維持のためには、周期性は作らない方がいいでしょう。しかし、女性特有の周期を体感したければ、1ヶ月のうち、酢酸メドロキシプロゲステロン(プロベラ)5.0mg/日を続けて10日間服用すればよいでしょう。
 
 天然型の黄体ホルモンは、卵胞ホルモンの水分、塩分の貯留などに拮抗的に働きます。しかし、合成黄体ホルモンは、必ずしも天然型黄体ホルモンと同じになりません。どちらにしても、黄体ホルモンの使用は、ステロイドの摂取量を増やし、肝臓への負担が大きくなる危険性をはらんでいます。
 黄体ホルモンの使用は、卵胞ホルモンだけでは、性腺刺激ホルモンや、男性ホルモンの抑制が思わしくない場合、もしくは、黄体ホルモンを併用した方が、体調や身体バランスがよいと感じられる場合にのみ検討すべきであって、それ以外の理由で、むやみに使用すべきではないと考えられます。
 
 外国では、治療初期の患者において、坑アンドロゲン薬などを併用する場合があります。しかし、坑アンドロゲン剤は非常に高価で、なおかつ、副作用を増大させる危険性があります。他の治療法で、エストロゲンの治療効果があがらない場合、すなわち、血中の男性ホルモン濃度が下がらない場合に限り、使用の検討をすべきでしょう。
 
 男性から女性へ移行を望む人の場合、除睾後、脱力感やうつ状態、著しい性欲の低下がみられることがあります。このときには、卵胞ホルモン・男性ホルモン合剤である、プリジアモンデポーなどの使用も検討されるべきでしょう。この場合、定期的な使用というよりも、状態の悪いときにアクセントとして使うことが望ましいでしょう。

8、性ホルモンと一緒に服用する場合注意すべき薬
 何らかの病気により、以下に該当する薬を服薬している場合には、必ず、医師と相談の上、ホルモン療法を行ってください。
 
 血液凝固抑制薬(ワーファリン)、糖尿病治療薬(インシュリン、スルフォニルウレア系製剤)、抗けいれん剤(アレビアチン)、三環系抗うつ剤(アナフラニール、トフラニール、トリプタノール)、抗精神病薬(フェノチアジン系製剤)、血圧降下剤(βブロッカー系製剤)、血圧降下剤(アルドメット)、抗不安薬(ベンゾジアゼピン系製剤、バルビタール系製剤)、テオフィリン製剤(テオドール、テオロング、ネオフィリン)など。
 
 男性ホルモンの場合、重度の高脂血症、動脈硬化症、心筋梗塞、重い肝機能障害、重い精神障害の方は服用してはいけません。
 卵胞ホルモンの場合、血栓症、重度の糖尿病、過度の高血圧症、重い肝機能障害、重度のてんかん、重い精神障害の方は服用してはいけません。

9、性ホルモンによる性同一性障害の治療経費(平成11年4月1日、現在)
 性同一性障害のホルモン療法は、通常自費診療で扱われます。良心的な病院は診察料は保険扱いで、注射手技料と薬代は実費で計算しているようです。また、自費診療の場合は、保険での請求額に1.5〜2.0をかけた値段を提示するのが一般的です。
 
 保険点数では、以下のように決められています。(平成11年4月1日、現在)
 初診料:2500円(病院において)、再診料:1010円、筋注手技料:160円
 薬価:男性ホルモン、エナント酸テストステロン125mg/1管・797円、もしくは、エナント酸テストステロン250mg/1管・1434円
 薬価:女性ホルモン、吉草酸エストラジオール10mg/1管・251円(ペラニン・デポー)
 
 例えば、男性から女性へ移行を望む人のホルモン療法の場合で、診察料が保険、注射が自費で扱われた場合は、
 初診で{2500円×個人負担率(2割、もしくは3割)}+{(160円+330円)×(各病院で決められた、掛け率、1.5〜2.0)}
 再診で{700円×個人負担率(2割、もしくは3割)}+{(160円+330円)×(各病院で決められた、掛け率、1.5〜2.0)}
となります。
 
 診察も注射も、全て自費で扱われた場合は、
 初診で(2500円+160円+330円)×(各病院で決められた、掛け率、 1.5〜2.0)
 再診で(700円+160円+330円)×(各病院で決められた、掛け率、1.5〜2.0)
となります。
 巷では、一回・約2000円から5000円、投与間隔は1ヶ月に2〜4回と聞いていますが、どのような量でいくらなのかは、ばらつきが大きく定かではありません。
 
 同様に、女性から男性へ移行を望む人でのホルモン療法は、保険と折半で、1回・約2000円(250mg/1管)、完全自費で一回・約2000円から5000円くらいときいております。
 埼玉医科大が連絡している病院では、エナント酸テストステロン250mg/1管を3週の間隔で投与しています。それ以外のところに治療にいっている方は、エナント酸テストステロン125mg/1管を1〜2週間、250mg/1管を2〜4週間間隔で投与されているようです。 
 
 飲み薬の場合も、基本的には同じ計算をして、値段を決めているようです。
 飲み薬に関しては、女性から男性へ移行を望む人での使用は、ほとんどみられません。日本で発売されている経口男性ホルモン剤は、肝毒性が高いので、医師が処方したがらないのでしょう。 
 
 診療保険点数はたびたび改定になります。詳しくは、新しい保険点数表をみて、算出してみてください。

10、環境エストロゲンと、植物エストロゲン
 環境エストロゲンとは、ダイオキシン類や、ビスフェノールA、フタル酸エステル、スチレンダイマーなどの、弱いエストロゲン活性を持つ有機物質です。これらの物質の性質は、まだよくわかっていません。構造が、天然のエストロゲンに似ている物質もあれば、全く似ていないものもあります。エストロゲン活性についても、試験管のなかで活性を示すものと、試験管ではそれをみせないが、培養細胞中では活性をみせるものなどがあり、実に様々です。
 これらの物質は、通常、1億〜千億分の1グラムしか、環境中には存在しません。さらには、エストロゲン活性も、天然のエストロゲンに比べ、500〜1000の1程度しかありません。
 問題となるのは、ダイオキシン類の様な塩素をたくさん含んだ有機物質です。塩素を含んだ有機物質は、人間の体で分解することができないうえ、脂肪に蓄積しやすい性質があります。このため、動物などの体の中で、ダイオキシン類が徐々に濃縮されているとも言われています。
 「精子の減少や、子宮内膜症の増加が、環境エストロゲンのせいではないか」と言われていますが、はっきりしたことは、まだ、何もわかっていないのです。今は、「疑わしきものなので、後で反省しないよう、警戒したほうがよい」と言ったところでしょう。
 
 性同一性障害や、同性愛の人達のなかにも、「自分がこうなったのは、環境エストロゲンのせいではないか」と思っている人がいるかもしれません。しかし、それはあり得ないでしょう。なぜならば、性同一性障害や、同性愛と思われる人は、近代工業が発展する以前から見られるからです。
 過去には、人工卵胞ホルモンである、ジエチルスチルベストロールや、男性ホルモン作用を持つ、合成黄体ホルモンを妊婦に使ったため、生まれてきた子供が、レズビアンになったり、男性化したという報告がなされています。しかしこれは、環境エストロゲンとは、比較にならない量のホルモンを使って、起こったことです。
 
 植物エストロゲンとは、植物に含まれるイソフラボン類とかサポニン類のことです。
 実際、メキシコ産の山芋から取れるサポニンから、私達が使っている性ホルモンや副腎皮質ホルモンは作られています。
 お豆腐を作るときに、泡が立つのは大豆サポニンのせいです。せき止めとして使われる、桔梗の成分もサポニンです。精力をつけるので有名な、朝鮮人参の主成分も、サポニンです。イソフラボンは、お茶や、ミカンに含まれています。しかし、これらの全てにエストロゲン活性があるわけではないのです。
 
 身の周りにある植物の、植物エストロゲンの含有量は、ものすごく微量で、女性ホルモンとしての活性は、天然の女性ホルモンであるエストラジオールの、1000分の1とか、5000分の1くらいです。くらいというのは、イソフラボンや、サポニンの種類によって、エストロゲン活性が異なるからです。
 
 今まで、植物エストロゲンが人に影響したことはありません。しかし、 動物では問題になったことがあります。
 妊娠した牛が、次々と流産する事件がありました。その原因を調べていたら、牧草の中に白摘草 、いわゆるクローバーが、たくさん混じっていたことがわかりました。そして、クローバーの中には、比較的エストロゲン作用の強い、イソフラボン類が含まれていたのです。
 これは、草を大量に食べる、草食動物だからこそ、おこった事故でしょう。 しかし、雄牛の雌化がおこったという報告はありません。
 なぜならば、植物エストロゲンは、エストロゲン活性と、エストロゲン拮抗作用の、二つの性質を持っているからです。雌牛が流産したもの、エストロゲン拮抗作用のためでしょう。
 
 どうしても、植物ホルモンで女性化したいと願うなら、クローバーをたくさん食べてみてください。1日500グラムくらいのクローバーを、青汁にでもして、たべれば何とかなるでしょう。きっと、男性ホルモンの抑制効果はでるでしょうが、クローバーの他の薬理作用で、具合が悪くなるかも知れませんよ。外国で売られている、ハーバルエストロゲンというのも、天然のエストロゲンをまぜて作ったものでしょう。
 
 植物エストロゲンは、代謝されやすく、蓄積しにくいのです。だから、普段、食べ物から摂取しても問題にならないのです。これに対し、環境エストロゲンは、代謝され難く、蓄積しやすいので問題になっているのです。
 
 私達の環境には、人間や動物が排泄する女性ホルモンも、たくさんあります。しかし、これらも、代謝されやすく、蓄積しにくいので問題にならないのです。
 
 非公開の報告なので、はっきりしたことはわかりませんが、動物排泄エストロゲンが、他の動物をメス化したことがあるといわれています。
 これは、大規模な動物の飼育場の下流で、魚が雌化したとかいったもです。 汚水処理施設のちゃんとしていない時代のことでしょう。
 
 また、動物排泄エストロゲンは、現在でも薬として使われています。皆さんがよくご存知のプレマリンがそれです。
 もし、植物ホルモンや、動物排泄ホルモンが、動物や人類に影響していたならば、有史以来、人間や動物が女性化しているはずです。しかしながら、そのようなことが起こっていたとは、聞いたこともありません。さらにいえば、最近の、男性の女性化は、文化の問題でしょう。
 それに対し、環境ホルモンが問題となったのは、有機化学工業が発達してからです。日常の生活に、有機合成物質が出回るようになったのも、20世紀に入ってからです。
 
 蓄積や代謝のない、試験管での実験では、環境エストロゲンも、植物エストロゲンも、動物排泄エストロゲンも、みなエストロゲン活性をみせるでしょう。しかし、動物や人体では、蓄積や代謝ということがあるのを知ってください。


 
 
Q&A
 
 
「ホルモン剤について」
 
1. どの様な、望み得る変化・望み得ない変化が起きるのですか?
 性ホルモンは変身の魔法ではありません。そのため、「性ホルモンを使うと、この人がどう変わるか」という、予想はなかなか立てられません。
 
 女性から男性へ移行を望む人ならばならば、女性・中性・男性、男性から女性へ移行を望む人ならば、男性・中性・女性というような経路でゆっくりと変化していきます。
 変化の速度は、女性から男性へ移行を望む人の変化の方が、男性から女性へ移行を望む人のそれに比べて、早くあらわれます。
 
 女性から男性へ移行を望む人のホルモン療法は、不可逆的な要素が多く、人によっては性別再判定手術よりも、性別移行のプロセスに占めるウエイトが高いでしょう。
 中性的になりたい、汚い男になりたくないと考えている方は、ニキビ顔の男性、ビア樽の様なおやじになる可能性もあることは覚悟してください。もちろん生活しだいでは、筋肉隆々になったり、美少年になれる可能性もあります。
 
 男性から女性へ移行を望む人の場合は、女性から男性へ移行を望む人のような、劇的な変化はみられないかもしれません。女性としての適応を望む場合には、美容外科的な治療が必要になるかも知れません。ひげやすね毛などは、毛根がしっかりしているため、女性ホルモンの使用により、それらが生えなくなるなることはありません。それらをなくすには、永久脱毛が必要になるでしょう。
 女性ホルモンの使用により、男性ホルモンが支配している性欲が低下するため、フェティシズム的な欲求から異性装をしたり、性を変えたいと望む人は、その欲求が低下してしまうでしょう。外国において、この作用を利用して、性犯罪者の更生に、抗男性ホルモンが使われることがあります。
 
 詳しくは、前章5、6、7を参照してください。
 
2. ホルモン剤別の、使用によって起こり得る危険性と副作用を教えて下さい。
 前章5、6、7を参照してください。
 
3. ホルモン剤別の種類と使用法(注射、内服、貼、塗布)とその効能の違い・特長を教えて下さい。
 前章5、6、7を参照してください。
 
4. ホルモン剤別の適量(投与間隔・量)を、教えて下さい。
 前章5、6、7を参照してください。
 
5. 新しいタイプの新薬が開発されないのでしょうか。
※海外で乳牛等に長期効果のあるホルモン剤(カプセル剤)を
※使う文献を読んだ事があるそうです。
 このような製剤については、私は聞いたことがありません。あるとしても海外でも治験段階であり、日本で臨床にでるまで10年ほどかかるでしょう。また、海外で発売されたからといって全ての薬が日本に入ってくるとは限りません。欧米では肝毒性の低い経口男性ホルモン剤が発売されていますが、日本での採算が見込まれないので発売の予定はないそうです。
 現在、日本で開発が進んでいるものは、男性ホルモンのパッチ剤とアルコールが含まれていないかぶれにくい卵胞ホルモンのパッチ剤(貼り薬)です。後者については数年内に発売が予定されているようです。どちらも欧米ですでに発売されている製剤です。
 
 過去には、ペレットという、人間用の性ホルモンの、埋め込み剤がありました。しかし、現在は、動物用のものしか発売されていません。この薬は、現在では、雄牛を去勢して、雌牛のように育てるために使われます。なぜならば、雌牛の肉の方が美味しいためです。乳牛に使われる製剤も、この一種だと思われます。
 最近では、犬や猫の避妊用の埋め込み剤も発売されています。同様のものが、南米などで、人間にも実験されましたが、実用にはいたっておりません。
 
 特殊なものでは、マイクロカプセル製剤や、リポソーム製剤というものの開発が進んでいます。これらは、注射以外の方法で、投与することが難しい薬を、ものすごく微細な粒子にして、それをマイクロカプセルなどで包み、経口投与できるように工夫したものです。この製剤は、薬の吸収効率は悪いのですが、インシュリンや成長ホルモンなどの、注射以外に投与方法のない薬に応用されつつあります。また、外国では、天然型の性ホルモンへの応用も研究されています。
 
6. ホルモン剤の中で、使用してはいけない薬はありますか。
 前章5、6、7を参照してください。
 
7. ホルモン剤と併用で、相乗効果を表す物ってありますか?
また、危険性を増す物もあるのですか?
(ビタミン・食品・運動・美容法・etc...。)
 ビタミン剤の併用は、性ホルモン剤に対し、特別な影響はありません。
 性ホルモンを使用したからといって、特に、食事に気を付ける必要もありません。
 筋肉を付けたい、痩せたいというなら話は別でしょうが、この場合は運動や美容法を心がける方が効果的です。
 
 美容の問題でいえば、男性ホルモンを使用すると、肌が脂ぎってきます。女の子にもてたいなら、こまめな洗顔と鼻パックくらいはした方がいいかも知れません。
 女性ホルモンを使用すると、肌が弱くなるので日焼けには注意した方がいいようです。
 
どちらにしても常識の範囲で行ってください。
 
8. 性腺除去をしてから投与を受けた方がよいのですか?
 ホルモン療法に際して、性腺除去を行う必要はありません。また、長期にわたって性ホルモンを使用すれば、性腺は萎縮してしまい、性腺の除去を行ったのと同じ状態になります。
 
 女性から男性へ移行を望む人の場合、アメリカでは、男性ホルモンの投与を開始したら、2年以内に性腺を除去するように勧められるようです。しかし、卵巣や子宮には、男性ホルモンの直接の作用点が少ないので、あまり気にすることはないでしょう。
 多嚢胞性卵胞と男性ホルモンの因果関係もうたわれていますが、多嚢胞性卵胞は、卵巣が男性ホルモンを盛んに出す病気であって、外来性の男性ホルモンが、多嚢胞性卵胞を引き起こすことはないでしょう。
 
 男性から女性へ移行を望む人の場合、性腺除去は容易に行えます。性腺除去は、もう後戻りしたくないと、自分に踏ん切りをつけることには役立つでしょう。しかし、長期にわたって性ホルモンを使用しているのなら、男性ホルモンの産生もかなり低下しているので、急いで性腺を除去する必要はないでしょう。
 
 性腺除去をしたあと、性ホルモンの使用がなされていないと、更年期障害様の症状を引き起こすことが多いでしょう。また、性腺除去をしてから性ホルモンの投与をした場合でも、急激にホルモン環境が変わるため、色々な症状がでると予想されます。このことからも、性ホルモンの使用前に性腺除去をしない方がいいと考えられます。
 
9. ホルモン剤を使用するにあたって、心得ておかなければならない事はありますか?
 女性から男性へ移行を望む人でも、男性から女性へ移行を望む人でも、ホルモン療法を行ったら、何らかの後戻りできない変化があることを、知っておかなければなりません。
 
 女性から男性へ移行を望む人の、ホルモン療法での不可逆的な変化は、ヒゲやすね毛のなどの発毛、声の低音化です。
 
 男性から女性へ移行を望む人の、ホルモン療法の不可逆的な変化は、永久不妊です。乳房が十分に発達した場合には、元のような平らな胸には戻らないかも知れません。
 
 ホルモン療法により、外観が変化していくので、周囲対応の変化や、自分の意識の変化がおこることも考えられます。保守的な場で働いている人や、社会的地位の高い人であれば、仕事を失う可能性もあります。パートナーや家族であっても、ホルモン治療による変化を受けいれてくれるとは限りません。
 
 ホルモン療法により、外観が変化することと、望みの性別の行動様式が身に付くこととは違います。つまり、外観が変わったからといって、望みの性別のように振る舞えるようになるわけではありません。
 性同一性障害は、Gender Identity Disorderという名前の通り、自己の性別認識において、何らかの違和感や不快感を感じることをいいます。しかし、自分が心地よいと感じる性別、望みの性別に移行するには、その性別としてのアイデンティティーを、新たに形成しなければならないのです。
 アイデンティティーというものは、自分一人では形成することができません。他者から、自分がどのように扱われているかを、自分にフィードバックして、初めてアイデンティティーが形成されるのです。
 精神科で性同一性障害と認められたから、ホルモン療法を開始したから、性別再判定手術を終えたから、といって、突然、自分が望む性別のアイデンティティーを獲得することはできないのです。
 ホルモン療法は、自己の否定したい性別の特徴を消し去り、望む性別の適応をしやすくさせるためにおこなわれます。このことは、望みの性別としての実生活経験を進めやすくし、望みの性別としてのアイデンティティーや振る舞いを、獲得することにつながります。
 
「生理的な問題について」
 
10. 望み得る変化別で、その効果が現れるのに必要な期間(時間)はどの程度なのですか?
 外観の変化だけでいえば、女性から男性へ移行を望む人では、半年から1年半位かかります。男性から女性へ移行を望む人の場合では、1年から3年程度だと思われます。
 
 行動様式の変化は、望みの性別として受け入れてもらえるか、もらえないかの差が大きく、学生のように社会的に柔軟な立場であれば早いでしょう。しかし、社会的に動きづらい立場であれば、たとえ見た目が変わっても周囲が受け入れてくれず、行動様式の変化に、より多くの時間がかかるでしょう。
 また、年齢が増すほど、変化にかかる時間は長くかかり、ホルモン療法の効果も現れにくくなります。
 
11. 一生使用し続ける必要はありますか?
 少なくとも、更年期にあたる、55〜60才くらいまでは使い続ける必要があります。
 最近では、更年期障害は、ホルモン補充療法によって治療されています。このことから言えば、生活の質の向上を望むかぎり、一生使用した方が良いのかも知れません。
 
12. 使用を停止した後に、どの様な事がおきますか?
 性ホルモンの使用を突然停止しても、ホルモン療法を始めたばかりであれば、何も起こらないでしょう。
 長期にわたって、性ホルモンを使用していた場合には、性ホルモンの使用を突然停止すると、性腺が萎縮してしまっているため、更年期障害様症状がみられるでしょう。
 
 性腺を除去してしまっている人の場合には骨粗鬆症が心配されます。
 
13. 年齢による限界や効果の違いを教えて下さい。
 ホルモン療法の年齢による効果の限界や、違いはありません。
 第二次性徴期前にホルモン療法を開始すれば、外観は望みの性別として完璧なものになります。年齢が上がれば上がるほど、生来の性別の変化が進むので、その部分を引きずった形での変化になるだけです。また、年齢が増せば、アイデンティティーの再形成にも時間がかかることはいうまでもありません。
 
14. 効く効かない体質(個人差)の違いは何なのですか?
 ホルモンの感受性は、人によって、それぞれ異なります。それが遺伝によるものか、受容体によるものか、性ホルモン結合タンパクの量によるものかはわかりません。
 
 詳しくは、前章4を参照してください。
 
「肉体面について」
 
15. 髭は、ホルモン投与どのぐらいの期間で生えてくるの?その程度はどれぐらい。
 人によりけりです。半年くらいで産毛が濃くなる人もいれば、5年たっても鼻の下のヒゲがそろわない人もいます。ヒゲは薄いのにすね毛がいっぱい生えている人もいます。
 生来的な男性でもヒゲが濃い人と薄い人がいるように、女性から男性へ移行を望む人でもそのことは同じです。
 
16. 髭が生えてこなくなるの?、伸びるのが遅くなるの?
 ヒゲは、毛根がしっかりしているため、女性ホルモンの使用により、生えなくなることはありません。伸びるのが遅くなったり、細くなるということはある程度みられるようですが、電気分解なり、レーザーなりで永久脱毛をしないかぎりなくなることはありません。
 
17. 筋肉が、つきますか?
 女性から男性へ移行を望む人の場合は、男性ホルモンの使用により、筋肉はつきやすくなります。しかし、勝手に筋肉がつくことはありません。がっちりした体を望むなら、ある程度のウエイトトレーニングは必要でしょう。
 
18. 筋肉は、落ちますか?
 男性から女性へ移行を望む人の場合、あまり使用しない筋肉は、ホルモン療法開始とともに、次第に落ちてゆきます。しかし、非常にゆっくりとした変化で、急速に筋肉が落ちるということはありません。胸などのあまり使わない筋肉は、比較的早く落ちてしまうようですが、腕などのよく使う筋肉は、なかなか落ちにくいようです。
 
「精神面について」
 
19. 男性ホルモン剤を使うと攻撃的になりますか?
 人によっては、男性ホルモンにより活動的になることがあります。もともと攻撃的な性格ならば、さらに攻撃的なることもありえるでしょう。しかし、もともと大人しい人が、男性ホルモンの作用で攻撃的になるということはあり得ないでしょう。
 今まで、男性的な部分を押さえてきた人や、自分に自信を持てなかった人は、男らしさを取り戻すことで、攻撃的になるかも知れません。
 また、一部の女性から男性へ移行を望む人がみせる過度の攻撃性は、自分を受け入れない社会に対する反発や、過度な男性的アピールに基づいた行動だと推察されます。
 
20. 女性ホルモン剤を使うと、うつになるって聞いたのですが本当ですか?
 女性ホルモンの使用により、うつ状態になる人もいますが、全ての人がうつ状態になることはあり得ません。うつ病と、うつ状態とは異なりますが、うつ病歴のある人は、特に注意した方がいいでしょう。精神状態が安定していない人は、ホルモン治療は行うべきではないでしょう。
 
 女性ホルモンの作用よりも、むしろ、身体面の変化により、周囲の人から奇異な目で見られたり、自分の性別の移行が、周囲から受け入れられなかったり、期待通りに変化できなかったり、という社会的な原因から、うつになる可能性の方が大きいでしょう。また、精神科医は、これらの問題を回避する手助けをしてくれるでしょう。

 うつとは異なりますが、女性ホルモンの使用により、男性から女性へ移行を望む人は感傷的になる傾向があります。これは、自分の不快な性別の呪縛から解き放たれたためなのか、女性ホルモンの薬理作用なのかはわかりません。多分、その両方が作用しているのでしょう。

 
「ホルモン治療中について」
 
21. 使用中の健康チェックの方法と、その目安はありますか?
 ホルモン療法を受けているならば、できれば、3ヶ月に一回、少なくとも、半年に一度位は、血液検査をした方がよいでしょう。
 検査項目は、一般生化学項目と、性ホルモンの血中濃度、プロラクチンなどでしょう。また、男性から女性へ移行を望む人の場合は、血液凝固系を調べる病院もあります。
 特に、男性から女性へ移行を望む人の場合は乳ガンの危険性が高まりますので、自己検診をした方がようでしょう。家族に乳ガン歴のある人がいる場合には特に気をつけるべきです。
 
 参考までに、一般生化学項目とは、総タンパク、アルブミン、アルブミン/グロブリン比、総コレステロール、中性脂肪、尿中窒素、尿酸、総ビリルビン、直接ビリルビン、LDH、γ-GTP、GOT、GPT、血糖、ナトリウム、クロール、カリウムなどです。
 
22. 注射を毎週打つのと、2週間毎に打つのとで違いがありますか。
※投与間隔による、効果や体の負担の違い。
 前章、4を参照してください。
 
23. 献血をしてはいけないって聞いたのですが、何故ですか?
 日赤の献血規約では、「現在薬を服用している人は献血してはいけない」とされているからです。
 もう少し詳しいことを言えば、献血で使われる血液が妊婦や子供に使われる可能性があるからです。
 性ホルモンは、妊婦や子供に大きく作用します。万が一のことを考えて、少しでも危険性のある血液は使わないことにされています。
 多分、異性装をした方や、ニューハーフとして振る舞っている方の血液は、採取されることがあっても、使われることなく廃棄されてしまうでしょう。
 善意の気持ちはわかりますが、献血は国民の義務ではないのであきらめてください。
 
24. 血中ホルモン濃度の適量って、どのぐらいなのですか?
 女性から男性へ移行を望む人の場合、ホルモン治療が安定したと思われる時点での、男性ホルモン血中濃度が、注射前の採血で、1,000ng/dl以上になっていないようにすることが必要です。むしろ、男性ホルモンの血中濃度が1,000ng/dl以上ある時点で、次の注射をすることは危険であると考えられています。
 
 男性から女性へ移行を望む人の場合、女性ホルモンの投与により、血中の男性ホルモン濃度が、75ng/dl以下にすることが望ましく、通常、血中の男性ホルモン濃度を35-60ng/dl以下にすることが良いといわれています。
 
 詳しくは、付録を参照にしてください。
 
「社会的・経済的問題について」
 
25. 適正な料金ってあるのですか? 弱みに付け込まれてボッタクリされるって聞いたのですが。
 前項、9を参照にしてください。
 
26. 何故、公式に行ってくれないのですか? 過去にホルモン治療に係わる、裁判判決などがあるのですか?
 自費診療も、公式な診療の一つです。保険診療ではないだけです。さらには、性同一性障害のホルモン療法は、現時点では保険適応がなされていません。
 ここで言われている「公式」というのは、性同一性障害の治療としてのホルモン療法のことですね。なぜ公式に行われないかには、いくつかの理由が考えれます。
 
 医療者側の問題としては、「性同一性障害が、日本の医療で認められて日が浅いこと」、「医療者が、まだ、性同一性障害に関する知識を持っていないこと」、そして「性同一性障害に対する偏見があること」などが考えられます。
 
 当事者側の問題としては、「偏見や差別を乗り越え、大きな病院などで、性同一性障害の治療ためのホルモン療法を受ける努力をしている人が少ないこと」、「名前や戸籍の変更や、性別再判定手術を望まない人の場合、すでにホルモン投与だけを行ってくれる病院で、満足できること」などが考えられます。
 
 患者としては、すぐにホルモン投与を行ってくれる病院に行ってしまう気持ちも、わからないでもありません。しかし、公の治療を望むのであれば、一人ひとりが大きな病院に出向かなければ、性同一性障害の患者はいない、見たことない、といっていつまでも治療の範囲は広がらないでしょう。
 
 やむを得ず、信用のおけない医療機関で仕方がなく治療を受ける場合には、トラブルを回避するために、診察のたびに記録をつけておくことをお勧めいたします。万が一、事故にあった場合でも、記録があればたとえ自費診療であっても相手側の医療ミスを訴えることができます。
 たとえば、あやしげな病院の医師に、大量のホルモン投与を無理に進められて、体調を崩した場合などには、記録さえ残しておけば、訴えることもできるでしょう。この時には、医師に何もいわず、まず弁護士と相談してください。でないと、カルテを改ざんされる恐れがあります。また、医師がまともにカルテを取っていないこともあるので、自分で明確な記録を残すことが重要になります。一番良い方法は、診察時の会話を録音しておくことです。
 ただ、自由診療の場合は、治療を受けた人の自己責任も問われます。良心的な判断をしている医師に、医師の言いつけを守らず、トラブルに陥った場合には、「こんなはずじゃなかった」と訴えても無駄なことです。
 
27. どこで、どうすればホルモン治療の処方をしてもらえるのですか?
 ホルモン療法を行っていることを、明らかにしている病院は非常に少ないです。もし、あなたが精神科に行かれているのならば、その病院から紹介してもらうか、診断書や紹介状を書いてもらい、良心的な病院を探すのがよいでしょう。
 性の問題を特集した雑誌や、本の後ろに性の問題を扱っている病院のリストが載っていることがあります。その中の病院を尋ねるのもいいでしょう。電話や受付で断られる可能性もありますが、本気でホルモン療法を望むのならば、その気持ちを医者に伝えてください。
 大きい病院では、担当医に権限がないところもあります。一概には言えませんが、年配の医師より、若い人の方が理解があるようです。
 
 やむを得ず、良心的な病院を選ぶことが難しければ、電話帳で美容外科、産婦人科、泌尿器科の病院に片っ端から電話をかけて探してください。この場合、あなたの受けている医療行為には自己責任が伴います。そして、そのことは性同一性障害の治療を受けているという評価にはならないかも知れません。
 
 参考までに、
 通常、女性ホルモンは婦人科、男性ホルモンは泌尿器科の病院にしかおいてありません。
 精神療法を受けず、ホルモン療法のみを受けている場合には、医療ではあなたを性同一性障害と認めていません。今後、性別再判定手術を受けたり、名前や戸籍の変更望むのであれば、必ず精神科にかかってください。たとえ、精神療法とホルモン療法の順序が逆になっても、現段階では仕方がないこともあるでしょう。しかし、精神科の診断なしにホルモン療法を受けることは、趣味でホルモン療法を受けていると考えられても仕方がありません。あなたが性同一性障害を医療にもっと認めて欲しいと願うならば、多少嫌な思いがあっても精神科に行くことをお進めします。精神科医は、ホルモン療法で起こる様々な不安を解消することに手を貸してくれるでしょう。
 
 自分が性同一性障害であるかどうかは、自己決定するものと、医師が必要により判断するものとがあります。現時点では、医師の作った診断と治療の指針にあわない人も大勢いると思います。それらの人は、自己決定で自分を判断し、治療を進めてください。そのことが、今後の医療にとって利益にも、不利益にもなるかも知れません。しかし、治療を望む人は、今苦しんでいるのですから、それを回避する権利はあるでしょう。
 
28. 「性同一性障害」を知らない専門医が多いのは何故ですか?
 性、そのものが医療の対象とされていなかったこと、性同一性障害が、何万人に1人という希な病気であるため、取り上げられることがなかったことが原因です。
 実際、性科学を勉強している医療関係者達でさえ、埼玉医科大学の答申の後に、性同一性障害を知ったわけです。それまで、性同一性障害は、日本の医学書にはほとんど載っていませんでした。
 
 精神科医なら、性同一性障害の患者が来たら、そのことを勉強をするでしょう。しかし、初めから性同一性障害のことを、詳しく理解している精神科医は、ほとんどいないでしょう。
 精神科以外の医者は、精神的問題を抱えている患者と聞いただけで、嫌がる傾向にあります。そのため、これらの医師に、性同一性障害を理解してもらうのはかなり難しいです。
 
29. ホルモン治療についてのアドバイスや、精神面でのカウンセリングをしてくださる人はおられるのですか?
 ホルモン治療のアドバイスについては、大変少ないのが現状です。最近では、性同一性障害のピア(当事者)カウンセリングが各地で行われています。その中には、カウンセリングの勉強をなさった方や、医療関係者もおり、医療のアドバイスや精神面でのケアを行っています。また、ジェンダークリニックの精神科医の治療経験も増えてきましたので、ホルモン治療の際におこる、精神面のケアも行われています。
 
30. ホルモン剤を使用していると、生命保険等の加入を断られるって本当ですか?
 保険の種類にもよるでしょう。
 障害保険なら問題ないと思いますが、疾病保険の場合、各社の規約を読まない限りにはわかりません。性同一性障害は致死性の病ではないので、ホルモン療法を受けたところで問題ないと思います。いざというときに下りないのが保険ですから契約書をよく読んでみてください。
 考えられる問題として。
 ホルモン療法を受けている、男性から女性へ移行を望む人が乳がんにかかった場合は、ホルモン療法と発病の因果関係から、保険適応がなされるかの判断が難しいでしょう。(乳がん患者の3%は男性患者です)
 
31. ホルモン治療に、健康保険等の適用ができるのですか?
 診察には保険適応は可能です。注射の手技料と薬代は自費になります。同じ診察のときに、何らかの薬を保険で筋肉注射していれば、注射の手技料も保険扱いになります。
 血液検査は、ホルモン療法により「肝障害の疑い」があれば、肝機能検査項目についても保険請求は可能です。
 大きな書店や図書館に行けば「保険診療請求点数表」というものがおいてあります。それを参考にすれば、行われる手技が、大体わかっている場合、性別再判定手術の値段さえ推察することができるでしょう。
 
 自費診療であっても、診療請求明細の発行を求めることはできます。大きな病院であれば、必ず明細を発行しています。どのような治療が幾らかかっているのか、尋ねてみるのもいいでしょう。
 
 詳しくは前章9を参照してください。
 
32. 埼玉医大のジェンダークリニックに産婦人科の先生は、おられるのですか?
 埼玉医科大学のジェンダークリニックでは、精神科医、形成外科医、泌尿器科医、産婦人科医が協力して活動しています。
 産婦人科医は、女性から男性へ移行を望む人の内性器の問題、男性から女性へ移行を望む人のホルモン療法に深く関与しています。
 
33. 性別再判定手術(性転換手術)に関して、どの様な法的制限があるのですか?
 性腺を除去することが、母体保護法の「正当な理由なく生殖を不能とする処置を行ってはいけない」という、条文に抵触します。
 
 性同一性障害が疾患として認められ、治療のガイドラインが作られたので、精神科医の診断に基づき、性別再判定手術が行われた場合には、正当な理由があると見なされます。
 もちろん、ガイドラインはあくまでも指針であり、これに外れるからといっても、違法になるかは検察の判断次第です。
 例えば、電話1本で手術を行った場合には、正当な理由がないとされ、カウンセラーや精神科の紹介があったり、充分な面接が行われた上で手術が行われた場合には、正当な理由を見いだしたとも考えられるわけです。
 ただ、過去に違法とされた手術ですし、社会倫理にも触れる恐れのある手術ですから誰もやりたがらないのです。
 
34. 手術までも見据えた場合の手順はどうなっているのでしょうか?
受付ているのは、埼玉医大だけなのですか?
海外と同じ様に日本でも、カウンセリング・ホルモン剤投与・手術の段階を経るのですか?
 埼玉医科大学では、精神科医の面接、他の疾患(半陰陽、精神分裂病など)の除外診断、リアルライフテスト、確定診断、ホルモン療法、手術の必要性の判断、性別再判定手術という順序で行うようです。
 ただこれは、今まで何の治療もしてこなかった人のための治療基準であり、何らかの治療を受けてきた人は、これに柔軟に組み込むようにしているようです。
 
 公式に手術を受け付けているのは、日本では埼玉医科大学だけですが、幾つかの大学病院も、「患者が来たら検討したい」と言っているようです。地方の方は、ぜひ地元の大学病院の精神科を尋ねてみてください。
 
 海外でも、性同一性障害の診断と治療基準は作られております。ハリー・ベンジャミン・スタンダードなどが有名です。
 
「専門家の方から」
 
35. 薬理学的な作用・副作用の解説をお願いします。
 前項6、7、8を参照してください。
 
36. 実際に投与する時に、法的な制限がありますでしょうか。
 性同一性障害のホルモン療法で、法的に問題になったケースは報告されていません。
 説明と同意がなされていない場合、事故が起こったときは、説明義務違反で訴えられる可能性は考えられます。
 ホルモン療法により永久不妊になる可能性もありますので、これに起因するトラブルを回避するためにも説明と同意を書面で交わす必要があるでしょう。
 
 精神科医やカウンセラーからの紹介があれば、まず問題はないでしょう。ホルモンに関する情報を与えた上で、同意を取り、それから治療を開始するのが、一番問題が少ないと考えられます。
 
 問題となるのは未成年に対しての治療です。
 日本精神神経科学会の「性同一性障害の診断と治療基準」では、未成年のホルモン療法は、今の所認めていません。外国では、成人年齢が日本とはことなるので、ホルモン療法を18才で認めている国もあります。オランダではそれ以下の年齢でも認めているようです。
 
 未成年の場合、親の同意書を求めるか、Gn−RHアナログ(スプレキュア)などで性腺の活動を押さえるだけにするか、性ホルモンの投与を行うか判断に迷うところです。
 たとえ治療を断っても、ホルモン療法を切望している患者ならば、ひそかに行ってくれる病院を探すだけです。精神科医と相談の上、柔軟な判断をしたほうが、患者を救うことにつながると思われます。
 今までも、20才前から、性ホルモンの使用をしている性同一性障害の人もいますから、未成年に対するホルモン療法は、ケースごと、個別に判断するしかないようです。
 
37. ホルモン治療に関する勉強をするにあったってのよい学習方法(資料・専門家間のネットワーク)をお教え願います。
※ホルモン治療のみに限らず、「性同一性障害」についての
※学習も含んでいる事と思います。
 
 ホルモンのことを学びたいのなら最低限、生化学、生理学の勉強をする必要性があります。参考書としては、看護学生向けの本が、わかりやすいと思います。
 性同一性障害についての専門図書は、日本にはまだありません。ルポライターの松尾寿子さんが書いた「トランスジェンダリズム・性別の彼岸」などはよくできている本だと思います。この分野も日進月歩なのであまり古い本はお勧めできません。
 
 英語が堪能ならば、外国には沢山の性同一性障害についての本があります。論文も山のように報告されています。海外留学をお考えなら、スタンフォード大、ミシガン州立大、テキサス州立大、オランダ自由大学などで盛んに研究されてます。
 
 性同一性障害の報告もなされていますから、一度、日本性教育協会、日本性科学会などを尋ねてみたらいかがでしょうか。
 推薦図書を後に記しましたので参照してください。


 
終わりに、
 
 これからホルモン療法を受けようと思っている方へ。
 もし、あなたが十分に若い、または、受けるべきか悩んでいるのであったら、まず先に、精神科を受診してください。性ホルモンを始めるに当たって、性ホルモンを使用して起こる様々な社会的な問題に対し、適切なアドバイスが受けられるでしょう。
 精神科の診察が十分に済んだ所で、ホルモン療法に進むことが、日本精神神経学会が取り決めた、性同一性障害の診断と治療のガイドラインで決められています。
 このガイドラインは、まだ作られたばかりです。あなたの行動は、これをより優れたものにしていくことにも役立つでしょう。また、あなたの行動は、多くの医師達の治療経験として残り、これからの人のために役立つこととなるでしょう。
 
 すでにホルモン療法を行っている方へ。
 今からでも遅くはありません、できるだけガイドラインにしたがい、あなたの経験を今後の人のために役立ててあげてください。
 
 いままで、多くの人が性同一性障害の治療を認めてもらおうと努力してきました。日本での、性同一性障害の治療が開始されたといえ、まだ十分ではありません。
 今度は、あなたの番です。「なぜ、性同一性障害を治療してくれる病院が少ないのか」ではなく、「どこであっても、性同一性障害の治療をしてもらえるようにしよう」という気持ちで頑張ってください。
 
 勇気をもって、TSとTGを支える会で、ホルモンの体験を話された方に感謝いたします。
 
 これからも、多くの人の意見を集め、より充実したものへ発展させて行きたいと思います。
 


 
付録、1)性ホルモン剤の薬価(平成14年4月1日施行)
 
A.錠剤
  1. 卵胞ホルモンおよび黄体ホルモン
  スチルベン系  
  (ホストフェロール)  
    ホンバン100 100mg/T 91.40
 
  エチニルエストラジオール系  
  (エチニルエストラジオール)  
    プロセキソール 0.5mg/T 47.20
 
  エストリオール系  
  (エストリオール)  
    エストリオール100γ 0.1mg/T 9.70
    エストリオール0.5 0.5mg/T 16.30
    エストリオール錠1mg 1mg/T 19.50
    エストリール1 1mg/T 19.50
    オバポーズ1 1mg/T 19.50
    ホーリン1 1mg/T 19.50
    メリストラーク 1mg/T 19.50
 
  合成黄体ホルモン系  
  (酢酸クロルマジノン)  
    ルトラール 2mg/T 30.90
    プロスタール25 25mg/T 138.40
    プロスタット 25mg/T 116.00
    ロンステロン 25mg/T 63.20
 
  (酢酸クロルマジノン−25mg)  
    ヴェロニカ 25mg/T 44.30
    アプタコール 25mg/T 44.30
    エフミン 25mg/T 44.30
    キシリノン「25」 25mg/T 44.30
    クロキナン 25mg/T 44.30
    ゲシン 25mg/T 44.30
    プロコサイド 25mg/T 44.30
    サキオジール 25mg/T 44.30
    プロターゲンS 25mg/T 44.30
    パパコール25 25mg/T 44.30
    メドンサン25 25mg/T 44.30
    プラクサン 25mg/T 44.30
    プレストロン 25mg/T 44.30
    プレニバール 25mg/T 44.30
    レコルク 25mg/T 44.30
    酢酸クロルマジノン25「EMEC」 25mg/T 44.30
 
  (酢酸クロルマジノン徐放)  
    プロスタールL 50mg/T 300.00
    プレストロンL 50mg/T 133.60
    ゲシンL 50mg/T 111.20
    アプタユールL 50mg/T 100.00
    ジルスタンL 50mg/T 100.00
    クロキナンL 50mg/T 77.40
    ナロットL 50mg/T 77.40
    プロエスL 50mg/T 77.40
 
  (酢酸メドロキシプロゲステロン)  
    プロベラ 2.5mg/T 32.10
    プロゲストン 2.5mg/T 23.10
    ネルフィン 2.5mg/T 14.40
    メドキロン2.5 2.5mg/T 14.40
    ヒスロン5 5mg/T 44.10
    プロゲストン5 5mg/T 23.30
    ヒスロンH200 200mg/T 386.20
    プロゲストン200 200mg/T 286.80
 
  (ジドロゲステロン)  
    デュファストン 5mg/T 43.10
 
  その他  
  (アリルエストレノール)  
    パーセリン25 25mg/T 149.00
    ペリアス25 25mg/T 75.00
    アペゼール25 25mg/T 51.00
    アリルエストレノール25 25mg/T 51.00
    コバレノール25 25mg/T 51.00
    アランダール25 25mg/T 51.00
    アロセリン25 25mg/T 51.00
    デカセリン25 25mg/T 51.00
    メイエストン25 25mg/T 51.00
    プロスコ 25mg/T 51.00
    サルミコール25 25mg/T 51.00
    エルモラン25 25mg/T 51.00
 
  (結合型エストロゲン)  
    プレマリン0.625 0.625mg/T 12.20
 
  (ノルエチスロン)  
    ノアルテン5 5mg/T 40.20
    プリモルトN 5mg/T 40.20
 
  (プレグナンジオール)  
    ジオール 2μg/T 6.40
 
  2. 混合ホルモン剤(卵胞・横体):成分は1錠中
  エデュレン   16.00
  (酢酸エチノジオール) 1mg  
  (エチニルエストラジオール) 0.05mg  
  ルテジオン   30.60
  (酢酸クロルマジノン) 2mg  
  (メストラノール) 0.05mg  
  ソフィアC   14.40
  (ノルエチステロン) 2mg  
  (メストラノール) 0.1mg  
  ソフィアA   8.60
  (ノルエチステロン) 1mg  
  (メストラノール) 0.05mg  
  ビホープA   8.60
  (ノルエチステロン) 1mg  
  (メストラノール) 0.05mg  
  ノアルテンD   43.40
  (ノルエチステロン) 5mg  
  (メストラノール) 0.05mg  
  ドオルトン   14.80
  (ノルゲストレル) 0.5mg  
  (エチニルエストラジオール) 0.05mg  
  プラノバール   14.80
  (ノルゲストレル) 0.5mg  
  (エチニルエストラジオール) 0.05mg  
  ロ・リンデオール   10.60
  (リネストレノール) 1.6mg  
  (メストラノール) 0.048mg  
  メサルモンF   14.30
  (プレグネノロン) 1mg  
  (アンドロステンジオン) 1mg  
  (アンドロステンジオール) 0.5mg  
  (テストステロン) 0.1mg  
  (エストロン) 5μg  
  (乾燥甲状腺) 7.5mg  
 
  3. 抗ホルモン剤等
  (酢酸シプロテロン)  
    アンドロクール 50mg/T 505.00
 
  4. 男性ホルモン剤
  (メチルテストステロン)  
    エネルファ10 10mg/T 26.40
    エナルモン 25mg/T 59.90
    テスチノン50 50mg/T 111.00
 
  (フルオキシメステロン)  
    ハロテスチン 2mg/T 21.40
    ハロテスチン5 5mg/T 47.40
 
B.注射剤
  1. 卵胞ホルモンおよび横体ホルモン
  スチルベン系  
  (ホストフェロール)  
    ホンバン 250mg/1A・5ml 328.00
 
  エストラジオール系  
  (安息香酸エストラジオール)  
    ペラニンベンツォアート 1mg/1A 172.00
 
  (安息香酸エストラジオール水性懸濁液)  
    オバホルモン水懸注0.2 0.2mg/1A 97.00
    オバホルモン水懸濁注1 1mg/1A 172.00
 
  (吉草酸エストラジオール)  
    ペラニン・デポー5 5mg/1A 154.00
    プロギノンデポー 10mg/1A 323.00
    ペラニン・デポー10 10mg/1A 234.00
 
  (ジプロピオン酸エストラジオール)  
    オバホルモンデポー5 5mg/1A 191.00
    エストルモンデポー 10mg/1A 189.00
 
  エストリオール系  
  (安息香酸エストリオール)  
    ホーリンデポー 5mg/1A 192.00
 
  (エストリオール水性懸濁注射液)  
    エストリール注射液 1mg/1ml 92.00
    エストリール水性懸濁注射液 10mg/1A・1ml 160.00
    ホーリン注射液 10mg/1A・1ml 160.00
    エストリール水性懸濁注射液 20mg/1A・2ml 236.00
 
  (プロピオン酸エストリオール)  
    エストリール・デポー10 10mg/1A・1ml 342.00
    エストリオールデポー 10mg/1A・1ml 223.00
 
  プロゲステロン系  
  (カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン)  
    プロゲデポー65 65mg/1A 178.00
    オオホルミンルテウムデポー 125mg/1A 264.00
    プロゲデポー125 125mg/1A 194.00
    プロゲストンデポーS 125mg/1A 143.00
 
  (プロゲステロン注射液)  
    ルテウム注10 10mg/1A 109.00
    プロゲホルモン10 10mg/1A 109.00
    プロゲストン注25 25mg/1A 165.00
    プロゲホルモン25 25mg/1A 165.00
    ルテウム注25 25mg/1A 165.00
    プロゲストン注50 50mg/1A 230.00
 
  2. 混合ホルモン剤
  ルテスデポー注   339.00
  (カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン) 250mg  
  (安息香酸エストラジオール) 10mg  
  E・P・ホルモンデポー   205.00
  (カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン) 50mg  
  (プロピオン酸エストラジオール) 1mg  
  E・Pホルモン   81.00
  (プロゲステロン) 10mg  
  (安息香酸エストラジオール) 1mg  
  ルテス注   64.00
  (プロゲステロン) 10mg  
  (安息香酸エストラジオール) 1mg  
 
  3. 男性ホルモン
  テストステロン系  
  (エナント酸テストステロン)  
    エナルモンデポー125 125mg/1A・1ml 734.00
    テスチノンデポー125 125mg/1A・1ml 734.00
    テストビロン・デポー125 125mg/1A・1ml 734.00
    エナルモンデポー250 250mg/1A・1ml 1,333.00
    エナント酸テストステロン注250「イセイ」 250mg/1A・1ml 1,333.00
    テスチノンデポー250 250mg/1A・1ml 1,333.00
    テストビロン・デポー250 250mg/1A・1ml 1,333.00
    テストロンデポーS 250mg/1A・1ml 1,333.00
 
  (プロピオン酸テストステロン注射液)  
    エナルモン注10 10mg/1A 225.00
    テスチノン10 10mg/1A 225.00
    エナルモン注25 25mg/1A 294.00
    テスチノン25 25mg/1A 294.00
 
C.膏薬
  エストラジオール系  
  (エストラジオール貼付剤)  
    エストラダームTTS 2mg/5cm2 150.10
    エストラダームM 0.72mg/9cm2 150.10
    エストラーナ 0.72mg/9cm2 150.10
    フェミエスト 2.17 2.17mg/7.25cm2 156.70
    フェミエスト 4.33 4.33mg/14.5cm2 215.30
 
 
  この一覧表では、
  括弧で囲まれている名前は成分を、名前のみは薬剤名を、
  単位のついている数値は含量を、数値のみは薬価を示しています。
 
  薬価の単位は「円」です。
  錠剤は1錠、注射薬は1瓶(バイアル)、膏薬は1枚の値段を示しています。
  成分含有量は、錠剤においては、mg/T…1錠あたりの含量を
  注射薬においては、1アンプルまたは1バイアルあたりの含量を示しています。
 


 
付録、2)成人における性ホルモンの血中濃度
 
 
  プロゲステロン
(ng/ml)
テストステロン
(ng/dl)
遊離テストステロン
(pg/ml)
男性 0.1〜0.6 277〜1111 14〜40(成人)
女性(非妊婦)
卵胞期(前)
卵胞期(後)
排卵期
黄体期
    
0.1〜1.4
0.1〜1.5
0.1〜12.5
2.3〜19.7
16〜86
3以下
女性(妊婦)
01〜16週
17〜28週
29〜40週
     
4.4〜49.6
11.3〜143.1
30.4〜250.7
 
 
 
  血清 尿中(24時間蓄尿)
E1
(pg/ml)
E2
(pg/ml)
E3
(pg/ml)
E1
(μg/24h)
E2
(μg/24h)
E3
(μg/24h)
男性 30以下 16〜71 5以下 15.0以下 0.2〜2.1 1.8〜11.0
女性(非妊婦)
卵胞期(前)
卵胞期(後)
排卵期
黄体期
   
15〜66
21〜120
33〜170
17〜129
   
16〜136
21〜331
   
22〜290
   
16以下
18以下
19以下
16以下
     
7.5〜20.0
5.0〜35.0
16.0〜55.0
12.0〜40.0
     
3.6〜11.0
3.5〜19.0
11.0〜29.0
7.0〜26.0
     
3.0〜25.0
3.7〜41.0
5.6〜74.0
7.8〜57.0
女性(妊婦)
10〜15週
16〜20週
21〜25週
26〜30週
31〜35週
36〜42週
01〜16週
17〜28週
29〜40週
     
150〜1400
280〜1900
370〜2400
880〜2600
670〜4300
1200〜4500
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
134〜4220
2412〜11504
3733〜24585
     
1200以下
400〜2800
1100〜5700
3700〜11000
3700〜18000
5600〜29000
     
     
     
 
 
  黄体形成ホルモン
(LH)  (mlU/ml)
卵胞刺激ホルモン
(FSH)  (mlU/ml)
男性 1.8〜9.1
1.6〜10.6
女性(非妊婦)
卵胞期
排卵期
黄体期
閉経期
    
2.4〜12.3
2.3〜53.2
0.7〜17.0
7.5〜56.2
     
2.7〜9.8 
2.0〜19.3
1.0〜8.4 
9.2〜124.7
 
E1:エストロン E2:エストラジオール E3:エストリオール
 
 合成エストロゲンであるエチニルエストラジオール(プロセキソール)、メストラノール(デボシン)などは通常の検査で調べることはできない。(研究所の報告による)
 
 
保健科学研究所検査案内より
 


 
参考資料
 
赤須文男 編集、ホルモン療法 -その基礎と実際-、メジカルビュー社、1974年
越浦良三、北川晴雄 編集、最新薬理学 -第3改稿版-、廣川書店、1987年
廣井正彦、青野敏博、鈴木秋悦 編集、Pill 経口避妊法のすべて、南山堂、1989年
産婦人科治療、第64巻、5号、永井書店、1992年
L. C. Schefer, Ed.D. C. C. Wheeleer, W.Futterweit, Treatment of Pyschiatric Disorders, Second Edition
Vol. 2, 73 Gender Identity Disorder, pp2035-2042
現代医療、第29巻、10号、現代医療社、1997年
ANALYSIS '97-'98、保健科学グループ、1997年
 
 
推薦図書
Ben Greenstein、麻生芳郎 訳、一目でわかる内分泌学、メディカル・サイエンス・インターナショナル、1995年
 
 
   1999年 10月 27日  改訂版 発行  
 
   2002年 4月 1日  薬価改訂  
 
著者、優形 愛
 
改訂協力、YUKI先生
 
編集、Q&A作成協力、G-FRONT 関西
 
複写および無断転載を禁ずる。