歌舞伎座最終公演 スター勢揃い 2010.4.21 W271

歌舞伎座さよなら公演「御名残四月大歌舞伎」、6日に第二部、9日に第一部、11日に第三部、そして20日に再度第一部を見てきました。

3年間を要する建て替えのためついに今月で今の歌舞伎座も見おさめとなり、開演前の玄関は記念写真を撮ろうとする人で大混雑です。

今月は第一部が「御名残木挽闇争」「熊谷陣屋」「連獅子」、第二部が「寺子屋」「三人吉三」「藤娘」、第三部が「実録先代萩」「助六」とほとんどが最もポピュラーな演目で、有終の美を飾るにふさわしい豪華な配役で演じられ、役者さんたちもいつにもましてで熱のこもった演技を見せてくれました。

まずは6日第二部の「寺子屋」。松王が幸四郎、千代が玉三郎、源蔵が仁左衛門、戸浪が勘三郎という充実した配役。仁左衛門は松王も演じますが、今の声の状態だと源蔵の方がぴったり。きちんとワキの立場を守りながら充分に芝居をしていました。思い悩みながら揚げ幕を静かにでてくるところから、ピンととぎすまされた空気をただよわせ、所作にも余計なものがなく、仁左衛門は今回の源蔵に、いつにもまして魂を打ちこんでいる様子でした。

菅秀才の身替わりに、今日寺入りした小太郎を殺そうと夫婦で決めるところでは「せまじきものは宮仕え」という義太夫で仁左衛門はあふれる涙で頬をぬらしていました。源蔵役者がここで本当に泣くのを初めてみましたが、お主のためとはいえ罪もない子供を殺さなくてはならない源蔵の人間としての苦悩が感じられました。戸浪の勘三郎も控えめながら夫源蔵の心中をおもんぱかる良い女房ぶりでしたが、最近踊り以外女形をあまり演じていないためか、声がややかすれ気味でした。

松王の幸四郎は、終始おさえた渋い演技でした。「桜丸が不憫でござる。桜丸、桜丸、源蔵殿、ごめんくだされ!」と大落としになるところでは、早くから既に涙声になっていたのは幸四郎らしいと思えました。

千代の玉三郎は不安げに花道を出てくるところから美しさが観客の目を引きつけました。源蔵に切りつけられ、小太郎が身替わりに殺されたことを悟るところもきっぱりとしていて、覚悟をきめた気丈さがよく出ていましたし、最愛の一人息子を犠牲に差し出した母親の悲しみが痛いほど伝わってきて、あちこちから鼻をすする音が聞こえていました。菅秀才は金太郎が演じました。ところでこの芝居で不思議だったのは下手の窓の障子がずっと開けっぱなしだったことでした。

次は「三人吉三」の大川端の場。お嬢吉三の菊五郎は、盗人の本性を現してからが胸のすくようなかっこよさ。お嬢吉三とお坊吉三の吉右衛門との掛け合いがなんとも素敵で、この場の魅力を心行くまで堪能させてくれました。おとせの梅枝のたおやかさも印象に残っています。

遅れて出てきた和尚吉三の團十郎には、二人の兄貴分としていかにも自然な大きさと暖かさが感じられ、このお芝居を近いうちにぜひまた通しで見てみたいものだと思いました。第一部の最後は藤十郎の「藤娘」。いつ見てもそのふっくらとした若々しさに驚かされる藤十郎の藤の精です。

9日、第一部の最初は「御名残木挽闇争」(おなごりこびきのだんまり)。今月の舞台のために新しく作られたもので、歌舞伎座建て替えにひっかけて劇中で新しい舞台の柱だてをするという趣向。最初は曽我の対面をもとに展開し、途中から背景が荒海に変わって下手に景清、上手に典侍の局が登場し、だんまりになります。

中では海老蔵の五郎が役にぴったりで目を引き、この五郎を新しく出来る歌舞伎座でまた見たいものだと思いました。しかしだんまりで暗闇でぶつかりそうになる相手の顔をまともに見るのだけは、おかしいと思いました。舞鶴の時蔵が女だてらに荒事で「やっとことっちゃうんとこな」と柱だてをするのが御愛嬌です。

景清の三津五郎は出てきたところ、頬被りした百日の垂れという大きな鬘に丈の短い厚司が似合わず小さく見えて損だなぁと思いましたが、花道に一人残って飛び六方で引っ込むところでは迫力十分で、観客を魅了したのはさすがでした。

二幕目は吉右衛門の「熊谷陣屋」。相模に向かって「敦盛卿の首討って比類なき功名」といかにも誇らしげに言うのだけは、どうにも違和感がありますが、感情の豊かさ、人間としての大きさを感じさせる当代一と思える熊谷でした。藤十郎の相模は9年ぶり。9日に見た時は息継ぎの音が気になってしかたありませんでしたが、20日に3階から見た時は性根をしっかりとつかんだ素晴らしい相模だと感じました。^^;やり方としては普通で、三段に登って首を受け取るというようなこともありませんでした。

弥陀六実は平宗清を足の具合が悪い富十郎は、鎧びつを台の上に乗せ、自身は中あい引に腰かけるというやり方ではあったものの、毅然として演じていました。濃いグレーの石持ちに縞のたっ付け袴、襦袢は源氏に討たれた平家の武将の名前や梵字が書いてあるものではなく、薄いグレーの紗綾形模様の綸子でした。富十郎の主張の現れでしょうが、お芝居としては武将の名前が書いてある方が印象に残るように思います。藤の方の魁春は後白河院の想い人だったという優雅な品の良さが、出てきただけで感じられる得難い役者です。

義経は梅玉で、役にぴったりの存在感。役者が揃ったこの「熊谷陣屋」はとても見ごたえがあり、印象に残る舞台でした。

最後が勘三郎親子三人による変形の「連獅子」。3人ぴたりと揃って毛を振るところはいつもながらすごいの一言。子獅子の勘太郎、七之助は若者らしい軽快な動きで気持ちの良い踊りでした。後ジテの親獅子になった勘三郎は歌舞伎座に名残を惜しんでか、赤い涙を流していました。20日はなぜか3人の動きに若干乱れが見られましたが、最後の毛振りは気持ちが揃い、つい数えてしまったところ(^^ゞどんどんテンポが早くなって57回に達していました。間狂言は橋之助と扇雀で面白く演じていました。

11日第三部はまず「実録先代萩」。「伽羅先代萩」の世界を借りた「恋女房染分手綱」の重の井子別れのような話で、上演は13年ぶり。浅岡=政岡を芝翫、千代松=千松を宜生、亀千代=鶴千代を千之助が演じました。浅岡の芝翫の心ならずもわが子を突き放さなくてはならない母親も良かったですが、子供たち二人がちゃんと芝居の間を心得ていて、しっかりと演じていたのを末頼もしく思いました。

第二幕が「助六」。揚巻の玉三郎の美しさはまさに咲き誇る牡丹の花のようでしたが、玉三郎にしては珍しいことに声の具合がおかしく、花道の台詞や、悪態の初音で高い音を多用するのが聞き苦しく思えました。それでも「アア、おいとしやなあ。 あのお袋様は、助六さんゆえに子故の闇。 わしはまた恋路の闇。 何かにつけて、女子程はかないものはないわいなあ。」のあたりにただようしっとりとした雰囲気はとても素敵で、助六が惚れるのも無理ないと思わせました。意休の左團次はすっかり手に入っていて余裕しゃくしゃくに見えました。

助六の團十郎は声はだみ声ですが、ユーモラスな持ち味が助六のナンセンスな台詞を楽しくて魅力あるものにしています。白酒売り実は兄十郎の菊五郎との掛け合いも絶妙でした。

かんぺら門兵衛は仁左衛門。意休の間抜けな子分というにはきりっとしすぎているところもありましたが、福山のかつぎとの件では上手さが光りました。福山のかつぎの三津五郎は、歩き方からしていかにも江戸時代からやってきた鯔背な若者で、どんな役でもすっと演じられる役者の面目躍如という感じでした。

通人の勘三郎は水を得た魚のように、生き生きと楽しげな台詞に客席は大笑い。居並ぶ傾城たちも今月は将来が楽しみな若手たちでまさに一座総出演。歌舞伎座最終公演にかける意気込みがビンビン伝わってくる助六でした。

この日の大向こう

6日「寺子屋」の幕が開くと涎くりの高麗蔵さんにどっと10人位の声が掛かるのを聞いて、早くも完全にご祝儀モードだと感じました。^^;

6日「寺子屋」の源蔵戻りで、9日「熊谷陣屋」には熊谷の出で、それぞれ揚げ幕を音がしないようにそっとあけて出てくるにもかかわらず、すぐに同じ大きな声が掛かかり、どうして役者さんの努力を無にするようなことをするんだろうととても悲しくなりました。後日、この方とはこの二つの場面では七三でのくぎりまで声を掛けないという取り決めが出来たと伺い、本当に良かったと思います。

9日は熊谷の最後の台詞「十六年は一昔。夢だ。ああ夢だ」は終わるまで、誰一人声を掛けなかったのでほっとしましたが、20日は、「一昔」でもう声が掛かってしまい、もうちょっと辛抱していただきたかったです。

6日第二部、9日第一部ともに会の方は5人見えていて一般の方もまじって賑やかでしたが、11日第三部だけはどなたもいらっしゃらなくて、一般の方だけが3~4人で声をかけていらっしゃいました。20日の第一部には少なくとも8人の大向こうさんが勢揃いし、「熊谷陣屋」では要所要所で声を掛けていらっしゃいました。

熊谷が藤の方に「物語らんと座をかまえ」とするところでは2人ばかり「まってました」と声がかかっていました。ツケ入りの平山の見得に掛かった声が少なかったように思いましたが、憎い平山を演じているわけなので考えてみれば当然かなと思います。(^^ゞ

20日の「木挽闇争」の三津五郎さんの幕外の引っ込みで、さかんに「十代目」と声がかかっていました。幕外の引っ込みにこそ「~代目」と掛けるものだと伺っていますが、同じ方が何度も掛けるのはわずらわしいだけと思います。

20日の「連獅子」には「歌舞伎座の最後の思い出に」というように、たくさんの方が声を掛けられていました。

歌舞伎座4月演目メモ

第一部
「御名残木挽闇争」―三津五郎、時蔵、芝雀、海老蔵、菊之助、染五郎、獅童、勘太郎、七之助、松緑、孝太郎、團蔵
「熊谷陣屋」―吉右衛門、藤十郎、魁春、歌昇、梅玉、富十郎、由次郎、友右衛門、松江、錦之助、桂三
「連獅子」―勘三郎、勘太郎、七之助、橋之助、扇雀
第二部
「寺子屋」―幸四郎、仁左衛門、玉三郎、勘三郎、高麗蔵、彦三郎、金太郎、時蔵
「三人吉三」―菊五郎、吉右衛門、團十郎
「藤娘」―藤十郎
第三部
「実録先代萩」―芝翫、幸四郎、橋之助、千之助、宜生
「助六由縁江戸桜」―團十郎、菊五郎、玉三郎、左團次、福助、東蔵、松也、梅枝、巳之助、新悟、亀蔵、市蔵、秀太郎、仁左衛門、海老蔵、三津五郎、勘三郎、権十郎、松江、男女蔵、亀三郎、亀寿、歌江

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