源平布引滝 海老蔵の義賢・実盛 2008.9.12 W226 | ||||||||||||||||||||||
7日新橋演舞場で新秋九月大歌舞伎昼の部をみてきました。
「源平布引滝」(げんぺいぬのびきのたき)のあらすじ 義賢から葵御前に渡してほしいと白旗を託された小万は、あやうく忠太に捕らえられそうになり、湖に飛び込む。そのころ湖に浮かぶ御座船には竹生島参詣を終えた平宗盛の一行が酒をのみかわしていた。そこへ斎藤別当実盛が到着する。 実盛がすすめられた酒を飲もうとしたとき、小万がおぼれそうになっているのを発見し助けあげる。だが小万が源氏の白旗をもっていることが知れると、周囲の者たちはよってたかってこれを取り上げようとする。 実は実盛はひそかに源氏に心を寄せていて、白旗が平家に奪われてしまうと源氏の再興は難しくなると考え、小万に白旗を自分に渡すように説得する。しかし小万があくまで拒むので、実盛はしかたなく小万が白旗を持つ腕を切り落とす。
猿之助が15年前に演じていらい、見どりでしか上演されていない「義賢最期」と「実盛物語」ですが、今回「源平布引滝」として通しで上演されたことで、「実盛物語」だけだとわかりにくい白旗をにぎりしめた片腕の由来が鮮明になりました。実盛は物語でその模様を語っているわけですが、それがちょっと前に目の前で起こったことの描写なので面白さも倍増です。 海老蔵は義賢と竹生島の実盛を初役で演じました。義賢が娘・待宵姫がさった後を花道つけねで見送るところは、目に涙を浮かべ今生の別れの悲嘆が感じられましたが、その前に門をはさんで「どうしてもいかないのならここで切腹しようか」と姫に追いやるところは、姫がそれに答えている間そむけた顔が素になってしまっていて残念でした。海老蔵を見ていると、何も言っていないときのたたずまいに少々疑問を感じることがありますが、そういうときこそ大事なのではないかと思います。 義賢の襖倒れは豪快かつ立派でしたが、仏倒れは階段のだいぶ手前に倒れてお腹で段をすべりおちるという具合に慎重に行きすぎたのが面白さを欠きました。しかし昼夜重い役をかかえている身体で、絶対に怪我がないようにするためにはこれもいたしかたのないことでしょう。 待宵姫の梅枝は、古風な趣が得難い若女形。葵御前の松也は現代的な美貌でこれからが楽しみな二人です。百姓の九郎助が孫の太郎吉を背負って戦うところで、なんだか今時のおんぶひものようなものを使っていたのは艶消しで、薪を背負うような道具に乗せた方が良かったのにと思います。 上演されるのは77年ぶりという「竹生島遊覧」は小万の腕を切り落とす場面が難しいと感じました。実盛は白旗が平家の手に渡るのをなんとか防ぎたいと思っているのを小万に伝えたいと目がおで知らせようとするのですが、何かもたついていたように思います。この場では実盛のハラは見せないほうが「実盛物語」が面白くなるのではないかと思いました。 小万の門之助は父や子と一緒に出てきた時ののんびりとしたひなびた雰囲気も、義賢に白旗を預けられてからの勇ましい男勝りの女武道もそれらしくて良かったです。 海老蔵の実盛は5年前の初演時より台詞廻しが落ち着いてきていて、ずっと安心してみていられましたし、太郎吉へのやさしさが自然に出ていたところも、好感がもてました。市蔵は襲名の時にも演じた瀬尾で今回も見事な平馬返りを披露しました。ただ重みという点で少したりないのを台詞廻しでカバーしているようにも見えました。 ともかく今回の通し上演は、めったに見られないことでもあり、観客に親切で面白い企画だと思いました。海老蔵が二役に挑戦したのも評価でき、将来さらに素晴らしくなるだろうと期待しています。 昼の部の最後は時蔵の「枕獅子」。「鏡獅子」の原曲として知られる女形の踊る獅子物で、傾城姿の時蔵は優雅で美しく、後シテになってからはなかなか見事な毛振りをみせました。禿は梅枝と松也ので最後に胡蝶の姿になっていました。 |
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この日の大向こう | ||||||||||||||||||||||
会の方は最初からおひとりいらして、控えめにかけていらっしゃり、一般の方も数人おかけになっていました。 「義賢最期」の仏倒れにかかる前、笛がピー、太鼓がテンとなったところで、「成田屋」、再びピー・テンで「十一代目」、最後に柝がチョンと入って「成田屋」と、三連発の掛け声がきまっていました。 |
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9月演舞場昼の部演目メモ | ||||||||||||||||||||||
「源平布引滝」―海老蔵、市蔵、松也、梅枝、右之助、門之助、猿弥、権十郎、友右衛門 ●義賢最期 ●竹生島遊覧 ●実盛物語 ●「枕獅子」―時蔵、松也、梅枝 |
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