極付幡随長兵衛 当たり役長兵衛 2006.2.17

11日、歌舞伎座昼の部を見てきました。

主な配役
幡随院長兵衛 吉右衛門
女房・お時 玉三郎
倅・長松 宗生
唐犬権兵衛 段四郎
近藤登之助 歌六
水野十郎左衛門 菊五郎

「極付幡随長兵衛」(きわめつきばんずいちょうべえ)のあらすじ
序幕
村山座舞台の場
江戸の芝居小屋・村山座では「公平法問諍」を上演している真っ最中。その舞台へ旗本奴の白柄組の頭・水野十郎左衛門の中間が酔っぱらって乱入する。それを舞台番が打ち据えて追い払い、ようやく芝居は再開するが、今度はその奴の仕返しに、水野家の侍が現れ、難癖をつけて舞台番を腰掛がわりにし、花道に居座る。

皆が困り果てていると、客席から日ごろ旗本奴と対立している町奴の親分、幡随院長兵衛が出てきて、この侍をやりこめ事態を収拾する。しかしこの様子を水野と渡辺綱九郎が桟敷から見ていた。長兵衛を呼びとめ「今日の遺恨を覚えておけ」と言う綱九郎を水野はいさめる。

様子を聞いて駆けつけた長兵衛の子分たちも、水野に喧嘩を売ろうといきり立つが、長兵衛は制止して幕を引かせる。

二幕目
花川戸長兵衛内の場
三社祭で華やいでいる長兵衛の家。女房・お時が、出尻清兵衛におぶわれた息子・長松を伴って楽しげな様子で帰ってくる。

長松が子分たちとにぎやかに遊んでいるところへ、水野の屋敷から長兵衛に「酒宴に招きたい」と使いが来る。長兵衛は快く承知して使いを帰す。

長兵衛には今日の招きが、先日の仕返しに長兵衛を亡き者にしようという企みだということがよく判っていて、自分が死ねば町奴と白柄組の間で争いが激しくなるだろうと暗澹たる思いがする。

ここに一番の子分、唐犬権兵衛が帰ってきて、自分を身替りに水野の屋敷へやってくれと申し出る。しかし長兵衛は、もしここで自分が行かなければ自分はもとより、町奴の仲間に面目がたたないと皆に言い聞かせる。

そしてお時には「長松にはけっしてこんな女房子供を泣かせるような商売は継がせるな」と言い置いて、新しい羽織袴を着て出かけていく。

三幕目
水野邸座敷の場
同 湯殿の場
水野の屋敷についた長兵衛は、和やかに水野や白柄組の近藤と酒をくみかわす。近藤が剣の腕を見たいと望むので、長兵衛は困惑するが、掛かってきた相手をあざやかに討ち取る。そこへ用人が酒をつぎにきて、長兵衛の着物に酒をぼし、衣服が乾くまで風呂へ入るようにと勧める。

長兵衛は辞退するが、拒みきれず湯殿へ行く。長兵衛が風呂へ入ろうとすると、水野の家来たちが襲い掛かる。これを撃退すると、水野が槍をもって現れる。

もとよりこの事態を覚悟していた長兵衛は柄杓で応戦するが、とうとう後ろから近藤に切られ、水野にも槍でつかれ倒れる。

そこへ早桶をもって長兵衛の子分が迎えにきたという知らせが来て、これを聞いた水野たちは敵ながら天晴れ、殺すには惜しい奴だと感心する。長兵衛は水野の槍で止めをさされて、最期を迎える。

河竹黙阿弥作「極付幡随長兵衛」は1881年に初演されました。その後三世河竹新七が「公平法問諍」を書き加え、今の形で上演されたのは1891年ということです。

昼の部の菊吉の顔合わせ「極付幡随長兵衛」はとても見ごたえがあって楽しめる舞台でした。

芝居の邪魔をする水野の家来に皆が困り果てている時、客席の中から吉右衛門の長兵衛が登場するのですが、この演出は九代目團十郎が初めて取り入れたものだとか。たまたま私はこの日、吉右衛門が通る一階の25と26の通路際に座っていたので、いつどこから現れるかと注目していました。

通路奥の扉から吉右衛門がさっと登場し、その顔が大親分としての貫録、自信に満ちて輝いていたので、すぐそばを通りすぎた後に、思わず心臓がドキドキしてしまったほどでした。

夜とは別人のような吉右衛門の堂々たる長兵衛は、黙阿弥の科白を胸がすくほど気持ちよく聞かせてくれ、大満足でした。玉三郎が演じた女房のお時は、いかにも男伊達の女房らしい着物の粋な着こなしが絶品で、夫婦の別れもしっとりと情感があり、あの場面に見事に溶け込んでいました。

水野の菊五郎は顔も青く凄みのあるつくりで、敵役に徹していたのが良かったと思います。まさに菊吉の顔合わせとしてふさわしい立派な舞台でした。

昼の部の最初は芝雀、橋之助、歌昇の「春調娘七種」。たまたま先月同じ演目を大阪で見たのですが、今月の方がさすがに落ち着いた雰囲気を感じました。ちょっとずれはしたものの、このような季節感のある演目が見られるのは大歓迎です。

次が幸四郎の熊谷、福助の小次郎&敦盛で「陣門・組打」。熊谷が我が子小次郎を平家の陣から連れ出す時、花道でわざわざ小次郎の兜を取って顔をみせ、別人だということを判らせていましたが、この場では種を明かさない約束ではないのかしらと疑問に感じてしまいました。この花道の敦盛を芝のぶが演じていました。

なんといってもがっかりしたのは、組打に遠見の子役が出なかったことで、上手に一度はいった敦盛が乗る白馬と熊谷の鹿毛が、波間にまた姿を現しちょっと組み合っただけで、幕が振りかぶされ、もうセリで上ってくるというのは、歌舞伎の一番面白いところがすっぽりと抜け落ちてしまったようで、わびしく感じました。

ホニホロをつけた子役の熊谷と敦盛が刀を交える場面には、紙芝居のような得もいわれない面白さがあり、その拙さ、小ささゆえに後にせり上がって来る本物の二人の迫力が一段と増すのに、どうしてカットしてしまったのか全く理解できません。

とはいえこのお芝居で登場する二頭の馬の凛々しさは、あたかも当時へタイムスリップしたかのようで、母衣のなびく様子には浜風が吹いているような臨場感がありました。

それから「お染久松浮塒鴎」。先月お休みしていた芝翫が元気な姿で大好きだという女猿曳きを踊りました。菊之助のお染はちょっと元気がないように見えました。久松は橋之助で、今月二役とも、いつもとはちょっと違う柔らかい役を演じていました。

この日の大向こう

会の方は4人いらしていたとか、一般の方も掛けられ、劇中劇「公平法問諍」でベテランの役者さんが慢容上人が踊りを踊る時、「又蔵」とかかり、花道に坂田金左衛門が出てきた時、「菊十郎」という声が掛かったのが印象に残りました。

長兵衛の思いを込めた大事な科白の間に、ごく普通の声と調子で「播磨屋」と掛かったのは、科白の雰囲気と合っていないなと残念に思いました。

長兵衛が水野の屋敷へと出かけるところ、花道七三で柝の頭になりここで掛かるかと思いましたら、そこでは掛からずゆっくりと一歩踏み出したところで「播磨屋」と声が掛かっていました。ちなみに吉右衛門さんは「二代目」と掛かるより「播磨屋」と掛かる方がお好みだとか。

2月歌舞伎座昼の部の演目メモ
●「春調娘七種」 芝雀、橋之助、歌昇
●「一谷嫩軍記」より「陣門・組打」 幸四郎、福助
●「浮塒鴎」 芝翫、橋之助、菊之助
●「極付幡隋長兵衛」 吉右衛門、菊五郎、玉三郎、段四郎、

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