鳴神 浅草歌舞伎 2006.1.25 W137 

18日、新春浅草歌舞伎を昼の部と夜の部、通しで見てきました。

主な配役
鳴神上人 獅童
雲の絶間姫 亀治郎

「鳴神」のあらすじはこちらをご覧下さい。

今年の浅草歌舞伎は、獅童が初役で「鳴神」を演じるのと、勘太郎、七之助の兄弟が昼夜で「仮名手本忠臣蔵」の五段目六段目のおかると勘平をダブルキャストで演じるのが楽しみでした。

獅童の鳴神は白く塗った顔がきりっとしていて良く、声も昨年の五郎蔵に比べて深く、よく響いているように思いました。しかし序盤でだれないようにするためか、黒雲白雲との会話で間を詰めるのは、高僧のはずの鳴神が普通の人に見えてしまったり、深山幽谷をあらわすはずの合いの手の鼓がせわしなく聞こえたりで、本末転倒なのではと思いました。

花道を出てきた亀治郎の絶間姫は歩く姿に雰囲気があって鉦のたたき方も心地よい大きさでした。そのあと鳴神を篭絡するための仕方噺の途中で世話になりかかったり、「比丘尼になれ」と言われて「エ〜ッ」と言ったりする声が尻尾が出そうな地声っぽい声になったりするのには少々疑問を感じました。

「ならぬか〜!ならぬか〜!」と鳴神に迫られて、「なるわいな」とコロッと態度を変え世話にくだけるところまでやはり我慢したようが全体が締まるし、品があるように思います。

獅童は色っぽい場面も程よく上品に演じていて、好感が持てました。このあたり三津五郎に似ているなと思ったらやはり三津五郎に教えを請うたということで、なるほどと思いました。そういえば最初の間を詰めるところも同じで、成田屋はもうちょっとゆったりと演じていたように思います。

絶間姫が、気を失った鳴神に飲ませる水をいったんは袖にためて運ぼうとしながら、つまづいてこぼしてしまうのでもう一度水を口に含んで運ぶというのは初めて見ました。酔いつぶれた鳴神をおいて蓮台から一人で出てきた絶間姫は、まず身づくろいしてから「もったいなや、お上人様」と言っていましたが、そのためかこの科白がそらぞらしく聞こえてました。

荒れになった獅童の鳴神は、成田屋とはちょっと違う隈取をしていて、眉間に小さな炎のような筋が2つあり、写真をみたら三津五郎と同じでした。柱巻きの見得などにどっしりとした重みがあればさらに良いのにと思いましたが、飛び六方の引っ込みはかっこうもよく豪快でした。

昼の部と夜の部の「忠臣蔵五段目・六段目」は昼が七之助の勘平、勘太郎のおかる、亀鶴の定九郎、夜が勘太郎の勘平、七之助のおかる、獅童の定九郎というダブルキャストで演じられました。

浅草新春歌舞伎では毎年なんらかの形でダブルキャストでの競演が見られるのが楽しみで、両方の組とも本当に一生懸命、いかにも若者らしい力一杯の熱演で、昼夜通して見たのはいささか疲れました。

5段目の「二つ玉」は、花道七三に出てきた勘平がここでもう一発撃っていました。これについて関容子著「芸づくし忠臣蔵」に菊五郎談として「七三でもう一度撃つのは、すでにやったことを再現してみせているのだ」とという話が出ていますが、これはとても面白い考え方だと思います。

昼の部の亀鶴の定九郎は少々優しげでしたが、夜の部の獅童の定九郎は見た目にも凄みがありぴったりだと思いました。「五十両」というのは本当はどんなイントネーションなんだろうと思うくらい二人の言い方には違いがあり、たった一言でも難しい科白なのだと感じました。

定九郎が稲村から財布に手を出すのが早すぎるのか、または与市兵衛の四郎五郎の財布をささげ持つ手が低すぎるのか、獅童の方はとうとう与市兵衛のまげに財布の紐がひっかかってしまい、四つあるというこの縞の財布(織田紘二著「歌舞伎モノがたり」より)のうち二つが同時に見えてしまうハプニングが起こりました。

六段目で、勘平が与市兵衛の家へ二人侍を招きいれる時の「いざまずあれへお通り下され」という科白が思いっきり大声で言われ、ここに拍手がくるくらい力が入っていたのにはちょっと驚きでした。

二人侍が来たときの勘平の格好も、魚屋宗五郎のようにすそがはだけたままで、鏡代わりに刀をわざわざ抜いて見たって直しようもないくらいヨレヨレでしたが、なんとしても加わりたかった仇討の相談なのですから、もうちょっとシャンとする方が本当のような気がします。

七之助はもともと声が高く、その点から言っても七之助がおかる、勘太郎が勘平を演じた夜の組の方が収まりが良かったようです。

勘平を演じた兄弟のやり方はほとんど変わりがなかったように思いましたが、二人侍が来る前に自分で塗るらしい青たいを勘太郎の方がたっぷりとぬっていて、既に死人のようにあおざめて見えました。「魂魄この土に留まって・・」という仇討への執念は二人ともとてもよく出ていたと思います。

夜の部の最後は亀治郎六変化「蜘蛛絲梓弦」(くものいとあずさのはりゆみ)。重いお芝居を続けてみた後、次々と童や按摩、傾城などに早替わりして狐忠信のように階段の中や、山台の下などから登場し、蜘蛛の糸を投げかける亀治郎の華やかで軽快な踊りは、気分をすっかり晴れやかにしてくれました。

この日の大向こう

昼の部はお一人良い声の方が掛けていらっしゃいました。ところがこの方は澤瀉屋のファンでいらしたのか、亀治郎さんの絶間姫が花道七三から本舞台へ掛かる時にはスパッと良い声が掛かったのに、獅童さんの鳴神がこちらを振り向いたときには掛からず、おやっと思いました。

黒雲と白雲が花道の引っ込みで「ズボンボエ」と踊り始める前に「御両人」と声が掛かったのにも、ちょっと驚きました。

次に声が掛かったのは鳴神と絶間姫が蓮台にあがり、御簾が降りるときで、ようやく「萬屋」と掛かりほっとしました。

夜の部ではお若い方がまめに声を掛けていらっしゃいましたが、勘太郎さんにさかんに「二代目」とお掛けになるのはかなり気になりました。亀治郎さんの華やかな踊りにはたくさん声が掛かっていました。

浅草公会堂1月の演目メモ

昼の部
●鳴神 獅童、亀治郎
●五・六段目 七之助、勘太郎、亀鶴、亀治郎、男女蔵、四郎五郎、芝喜松、
 源左衛門、門之助

夜の部
●五・六段目 勘太郎、七之助、獅童 、亀鶴、男女蔵、四郎五郎、芝喜松、
 源左衛門、門之助
●蜘蛛絲梓弦 亀治郎、勘太郎、七之助、獅童


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