鳴神 荒事の魅力 2003.4.13

6日、こんぴら歌舞伎昼の部を見てきました。

主な配役
鳴神上人 團十郎
雲の絶間姫 時蔵
黒雲坊 右之助
白雲坊 家橘

 

鳴神(なるかみ)のあらすじ
平安時代、陽成帝(ようぜいてい)の御世のころ、帝は鳴神上人に祈祷をしてもらいそのお陰で皇子を授かった。にもかかわらず約束の戒壇建立が許されなかったので、怒った鳴神上人は三千世界の竜神を北山の滝壷へとじこめてしまい、そのため三ヶ月もの間雨が降らず民は苦しんでいた。

ここは北山の鳴神上人の庵。一人の美しい女が滝へとやってくる。不信をいだいた鳴神は女に事情を尋ねる。女は夫をなくしたばかりの未亡人だが日照りで水がないため、水の枯れないこの山の滝へその衣を洗濯にきたと話す。

鳴神に問われるままに亡き夫との馴れ初めを、女が面白おかしく話していると、話に聞き入っていた鳴神が壇上から転げ落ちて気絶してしまう。すると女は滝の水をくんで口移しに鳴神に飲ませ、胸をさすって介抱する。

気がついた鳴神は一角仙人が通力を失った故事を思い出し、女の意図をうたがい怪しむ。疑われたと知った女は滝壷に飛び込んで死のうとするが、すぐに疑いを晴らした鳴神は弟子たちに女が飛び込むのをとめさる。そして剃髪して尼になって自分の弟子になるようにいう。そして二人の弟子にふもとまで剃髪用の剃刀を買いにいかせる。

ふたりだけになるとおんなは待っていたように突然癪で苦しみだす。鳴神は「自分の手には病気を治す力がある」と言って女の懐に手を入れる。女の胸に初めて手を触れた鳴神上人は、徐々に本能にめざめ「自分は教えを捨て還俗しても構わないから妻になれ」と女を脅しにかかる。

初めのうち怯えていた女は急に手のひらを返したように、妻になることを承知する。そして祝言の杯ごとをしようと鳴神に酒を飲ませる。鳴神が酒を飲んだ瞬間、祭壇の掛け軸が焼け落ちる。

生まれて初めて酒を飲んだ鳴神上人は、見る見るうちに酔いつぶれてしまう。その時、女が滝壷に掛かっている注連縄の由来を尋ねる。鳴神上人は竜神を閉じ込めている事を話し、他言はするなと約束させる。そうしているうち、鳴神はぐっすりと寝込んでしまう。

すると女は、自分は帝の命令で滝壷の竜神を解き放ちにきた雲の絶間姫であること、鳴神を心ならずも騙さなければいけなかったことをわび、滝壷の注連縄を切る。

すると竜神は飛び去り、雷鳴がとどろき雨が車軸のように降ってくる。そして絶間姫はふもとへと逃げ去る。

そこへ駆けつけた鳴神の弟子の坊主達が、さっきの女が宮廷一の美女の雲の絶間姫であり、帝の命令で鳴神上人の行法を破りに来たのだと告げる。すると怒りの為に恐ろしい姿になった鳴神は、とめる弟子達を投げ飛ばして大暴れしたあと、雷となって雲の絶間姫の後を追っていく。

歌舞伎十八番のうち「鳴神」はセリフのやりとりも面白く、最後の荒事も見ごたえがあって好きな演目ですが、他のものも同じでしょうけれど、誰がやっても面白いと言うわけには行かない演目でもあります。

今回團十郎の鳴神を初めて見ましたが、さすがに素晴らしいと思いました。まず第一に上人としての品格と生真面目さがあります。

それから絶間姫の懐に手を入れ、だんだん「破戒しても良いからこの女を妻にしたい」と思うところが実に自然で、必然性がありました。いかにもうぶな男がたどりそうな心理を上手く表現していると思いました。

最後の荒事ではあのものすごい「百日の毬栗」という鬘がぴったりと似合い、ぶっかえった火炎模様の衣装が非常に立派に見えました。

荒事はへたをすると間が抜けて見えたりすることがありますが、全くそういうところがなくて最後に飛び六方で引っ込んでいくまで太い筆で一気に大きな紙に書を書いたような感じで、荒事の面白さを堪能させてくれました。

火炎の緋色が鮮やかでまさに燃え上がらんばかりに見えたのは、金丸座ならではの光景でしょう。

この演目は時蔵の希望で実現したものだとか、そのせいでしょうか時蔵が大熱演でした。いつも時蔵はさっぱりしているというか、味が薄いように思っていましたが、今回はそんな事は感じさせず花道を引っ込んでいくまで緊張に満ちた良い舞台だったと思います。

この日の大向う

この日、男性が声を掛けられたのは絶間姫の花道の引っ込み、七三でたった一回だけ! 「萬屋!」と二人の方が前から5列目位で掛けられました。

その他は全て女性が声を掛けられました。後ろの方にいらした一人の方がずっと成田屋に掛けられていましたが、少し回数が多かったような気がしました。

同じような感じで頻繁にかけるよりは、掛けたい気持ちを溜め込んで一番いいところで爆発させると言うような掛け方の方がご自分でも気分が良いし、また効果的なのではないかと私は思います。

でも女性が掛けるというだけでもとても勇気のいる事ですから、ぜひ頑張っていただきたいと思います。

三津五郎さんの「奴道成寺」では、きっと熱烈な女性ファンなのでしょう、前の方で「十代目!」と最初から掛けている方がいらっしゃいました。三津五郎さんは「十代目!」といわれるのがとっても好きだと言う事を知っていらっしゃるんですね。

私は鳴神が荒れになって壇上から降りてきて初めての見得で、「成田屋!」花道の引っ込み、七三の見得で「十二代目!」と掛けました。

トップページ 目次 掲示板

壁紙:「まなざしの工房」 ライン:「和風素材&歌舞伎It's just so so」