黙っていると 唇までも氷つきそうだ。
この微かな 温もりを 自分はなんとしても護りぬかなければ!
ジョ−は 改めて掌の中の手を 握り締めた。


「 ・・・・ もっと・・・・ さむかった・・わね? 」
冷えて強張った手が 一生懸命ジョ−の手をさする。
そのぎこちない動きに ジョ−ははっと気を取り直した。

 − フランソワ−ズ、きみって人は。 自分の方が よほど凍えているだろうに・・・。

「 いつのこと? そんな北国に行ったかなあ・・・・? 」
やあだ、と笑ってみせる彼女の声が また少し低くなった気がする。
ジョ−は 今できる唯一のこと、その小さな手をしっかりと握り返した。
「 あの朝、よ。 ねえ、おぼえてる・・・? 」
「 ・・・・ なにを? 」
「 いちばん暖かかった、いちばんさむ〜い冬の朝。 」
「 クイズかい ?  う〜ん・・・? 」 
冷え切った手が じれったそうに動いた。
「 あなたと、・・・ふたりで・・・・迎えた朝。 いちばん初めの・・・ 」
「 ・・・・ うん。 忘れない。 」

寒くなんか無い。 きみが あなたが いれば。
きみの あなたの 温もりは どんな炎よりも 暖かく、優しい・・・・。
はじめて むすばれた 次の朝。
はじめて 迎えた ひとりじゃない朝。


お ・ は ・ よ ・ う ・ !


あんな素適な朝は 初めてだったよ
誰かの 温もりで目覚めるシアワセを僕は 初めて知ったんだ。
「 これからも ずっとずっと あったかい朝を迎えたいの。 」
「 きみがいれば、 どこでもぽかぽかだよ。 」
「 そう、ね・・・・・ あのお家で。 ああ・・・・ 波のおと・・・ 帰ってきたの・・? 」

すう・・・・っと意識が 引き込まれてゆく・・・・

「 ・・・でもね。 波は、海は、ほんとうは時々 きらい・・・ 」
「 フラン・・? 」
「 一番辛い時を あの時を 思い出すから。 ・・・泣きながら見てた海は
 ちっともキレイじゃなかったの ・・・・ 」
「 泣いてた? いつのこと?」
「 ・・・・ あなたが ・・・ いってしまった ・・・とき。 」

ほとんど吐息に近い呟きが 切れ切れに伝わってくる。
それを聞いているジョ−も 意識を保っているだけで精一杯だ。

「 ・・・ううん・・・ きらい、なんて嘘。 やっぱり 大好き・・・・
 あなたが 還ってきたのも  この海・・・だったから・・・・ ああ ・・・ いい気持ち・・・ 」

すとん、と握っている手が力を失ったような気がした。 

「 ・・・・フラン? フランソワ−ズ!! 起きて! 寝ちゃダメだ! 」
「 ・・・・ ジョ ・・・ − ・・・・ 」
「 いつも 一緒にいるって・・・言っただろ・・・ 」
懸命にフランソワ−ズを起こそうとしながらも、ジョ−自身も疲労の極致だった。
ふう・・・っと 黒い闇に呑み込まれそうになる・・・・


・・・・ああ・・・・ このまま・・・・彼女と一緒なら・・・ いい・・や・・・・
もう・・・頑張らなくても・・・いいんだ・・・ みんな・・・忘れ・・・られ・・る・・・


疲れ果て 自棄になって来たジョ−に 夢魔は甘美な誘いを続けるが・・・
ふいに その誘惑を退ける光が 瞬いた。



                back  /  index  /  next